国際テロ


 第2章

<難民の流出> 人口2300万人の内3年に及ぶ旱魃で食糧の不足から国内外で600万人が生まれ育った村を捨て避難民となっていると伝えられる中で、新たに米国の軍事作戦による直接的な被害を免れるためにアフガニスタンから国境を越えて逃れようとする難民の数は150万に達し併せて750万人に及ぶだろうと国連の難民高等弁務官事務局は発表した。最終的に今回のテロによる米国の行方不明者は5000人を超えるといわれるが、これはその1000倍を超える大変な数である。まだ米国による報復の軍事行動はこれからだし、いつ終焉するか見当がつかない。国連は難民のために国境を閉鎖しないこと、食糧援助の基金を世界に求めるなどを呼びかけているが更には居住地の問題も出るだろう。今まで国内で食糧給付をしていた国連職員は戦火を避けて国外に退去してしまった。
 米国はビン・ラデインをかくまうタリバンを標的に定めたようだが、これを駆逐するのにどれほどの歳月を要するのか、更にはその後にどのような政権を樹立するのか明確なヴィジョンを有していないようだ。藪をつついて蛇を出すというが、難民の扱い一つとっても容易でない難問を抱え込むことになりはしないか。元々長期的な砂漠化した環境の中での絶望的な心境がバーミヤンの石仏破壊から今回のテロに繋がったと言えなくもない。

<宗教と文明> 早い時期にブッシュ大統領は報復の軍事活動をウッカリ"十字軍"と呼び、この言葉はまずいと早々に引っ込めた。今度はイタリアのベルルスコーニ首相が「西欧文明はイスラム文明にまさる」と発言し、批判を浴びて失言を陳謝した。インドネシアでは早々と新大統領が米国支持を表明したにもかかわらず、国中で澎湃としてイスラムの敵として反米デモが巻き起こっている。タリバン勢力と親しくしていた隣国パキスタンでも政府の対米協力姿勢に反撥するデモが激しいようだ。まだ序盤戦だが米大統領や小泉首相が敵はイスラム教ではなくテロ集団だといくら強調しても、またサウデイアラビア・イラン・スーダンをはじめとするイスラム諸国政府が表向き米国支持を表明しても、底流にある宗教の対立と文明の対立は時間の経過に伴って不気味にかま首をもたげてくるだろう。今はまだ建前が本音を抑えている。

<山岳戦> 大規模な空爆をやめて米軍はレンジャーやグリーン・ベレーなど特殊部隊によるアフガン山中の陸上活動を開始したようだ。英軍特殊部隊の参加している模様。真偽は定かでないが既に数名の偵察要員がタリバンに捕捉されたというニュースが報道された。地理も定かでない敵地深く潜入して毎日居所を変えていると云われるウサマ・ビン・ラデインを探し出すというのは想像するだけでも困難極まりない作業である。しかし盲目的な空爆などまず効果は少ないし、たちまち国際世論が反対に廻るだろう。20年以前に敗退したロシア軍の述懐を聞いてもやむを得ぬとはいえ大変な戦争を始めたものだ。やがてやってくる冬は確実に状況をより厳しいものにする。世界に誇る近代技術が如何にスマートな戦法を生み出すか詳しい報道は差し控えられるだろうし、暫くは応援する側も待つしかない。

<証拠の提示> 10月2日N.A.T.O.理事会では米国務省からビン・ラデイン氏の事件関与を示す証拠が開示されたのを受けて、同時多発テロを同氏の率いるテロ組織「アルカイダ」によるものと断定、条約第5条による「集団的自衛権」の発動条件を満たしたことを確認した。これは事件を加盟国全体に対する攻撃と見なすもので、要請を受ければN.A.T.O.設立以来初の集団自衛権発動となる。まだ公開されていないが証拠の一つはビン・ラデイン氏が事件2日前に母親宛に事件の予告と事後の連絡断絶を告げたメールと見られる。日本政府もほぼ同時にその証拠に関する情報提示を受けて十分納得できる証拠である旨声明を発した。ほぼ1週遅れでパキスタンのムシャラフ大統領は証拠は米国の報復の正当性を証するものだと言明、明確にタリバンと一線を画した。

<タリバンの反応> パキスタン政府からの再度にわたるビン・ラデイン氏身柄引渡し要求に対し、タリバンを代表するオマル師は同氏の引き渡しを拒絶し、米国に対して断固戦う旨の意思表示を行った。パキスタン政府はこれ以上の説得を当面断念した模様である。米英両国は戦闘の準備完了に合わせ同氏の引渡しを要求する最後通告を発したが、タリバンにこれに応ずる気配はない。伝聞するところではオマル師の妻はビン・ラデイン氏の娘であるという。U.A.E.とサウデイ・アラビアが国交を断絶し今や唯一の国交を保つ国となったパキスタンに対してタリバンは仲介の労を謝する意思表示を一切していない。一貫した態度で今や信条による完全な国際的な孤立化の道を選んだ。

<国務長官> 米政府部内でこの際世界のテロ関連組織を徹底的に叩くべきだとしてイラク攻撃を強く主張する一派があったが、パウエル国務長官がこれを抑え当面の目標をビン・ラデイン一派にしぼることにしたという。更に最近の動きとして、戦火を避けて難民化しているアフガンの一般市民は側杖を食っている米国の友だとして食糧支援と難民救済を積極的に開始したが、これもパウエル国務長官の策だと伝えられる。この人は91年イラク攻撃で米軍戦略の要を務めた人だが、黒人として米国最高の地位に登りつめただけあって、危機への対応を誤りそうになる米国政府の中で最も信頼に足る政策立案者と考えられる。ブッシュ大統領は父と2代に仕えるまことによいブレインを得た。

<攻撃開始> 米国時間10月7日米国は首都カブールなど6都市に巡航ミサイルと爆撃機による攻撃を開始した。当面の目的は邀撃設備の破壊による制空権の確保と説明している。事前に予告を受けている欧米諸国は行動を支持する声明を一斉に発表したが、イスラム諸国はアフガンの一般市民が犠牲になる軍事行動への懸念をそれぞれ表明し始めた。なおラムズフェルド国防長官は巡航ミサイルや空爆だけで問題解決にはつながらず、数年かかるだろうと述べた。目標を厳密に軍事施設に絞っているという米軍側の言明に関わらず、地雷除去に携っていたN.G.O.4人が死亡した(イスラマバード国連事務所が確認)のを始めとして民間人にもかなりの被害が出ている模様である。

<声明> タリバンに近いアルジャジーラ・テレビは同時多発テロの後、かつ米軍の攻撃前に収録されたニュースとしてウサマ・ビン・ラデイン氏が登場する画面を紹介した。彼は激することなく冷静な口調で今回の事件は傲慢な米国の仕打ちが招いた必然的な結果であること、米国が軍事作戦に出ればそれはすべてのイスラム国家への攻撃になること、またイスラエルのパレスチナに対する非道な弾圧を米国が許容する限り今後の平和はあり得ないと述べた。犯行に関わったことを否定しなかったのは注目に値する。
 またタリバン政権の最高指導者オマル師はアフガン攻撃を開始した米国と英国に対してジハード(聖戦)をファトワ(宗教布告)として宣告した。布告は聖職者会議の決定に基づくもので、アフガンだけでなく全イスラム教徒の義務として参加を呼びかけている。

<パキスタン状勢> パキスタン政府は7日反米・反政府運動を開始した国内強硬派のイスラム原理主義政党ファズド・ラフマン党首を自宅軟禁処分にした。情報筋はムシャラフ大統領が内乱の危険も予想される危ない賭けに出たと報じた。パキスタンの国境近くでは聖戦の呼びかけに応えんと多数の住民が集まっている。パキスタン国内各地の反米デモは激しさを増している。米国の強力な支援で取りあえずは何とか収まっているが、先行きの予断を許さぬ状況が続く。

<生物化学兵器> 米国フロリダ州で炭疽菌による死者が出たことが報じられた。続いて数人に罹病が確認されて、接触のあった関係者にパニックが生まれている。同時多発テロの後、生物化学兵器によるテロの発生が懸念されていた。ニューヨーク市NBCテレビの女性記者、次いでベストセラー「細菌―生物兵器と米国の秘密戦争」の著者ジュデイス・ミラーNYタイムス中東専門記者にも白い粉末入り封筒が届けられるなどメデイアが狙われだした。F.B.I.は当初テロとの関係を否定したが、その後慎重に犯罪として調査している旨論調を変え、遂に犯人は未特定だが明らかにテロ行為であると言明した。私のところに届けられるNYタイムスのデイリー・メールは意図的にかこのニュースには触れない。被害はマスコミから米議会関係者へと波及しつつあり、連日の報道と対策で少なくとも膨大なマンアワーが米国内で費やされるようになった。

<T.V.報道> 事件発生後、アルジャジーラ・テレビが果然脚光を浴びるようになった。米軍による空爆開始2時間後という絶妙のタイミングでウサマ・ビン・ラデインのパレステイナに平和が来ない限り米国に平和は来ないという声明を映し出し、その後タリバン・スポークスマンの過激な声明を流したし、米軍空爆によってアフガン国内の民間人に多くの死傷者を出したことを報道した。同テレビはカタールにあって衛星放送で西欧・中東諸国に直接映像を届けている。米政府はこの報道を米国内のテレビが流さぬようにけん制し、アルジャジーラに対しても圧力を加えているが、同テレビは我々は報道の中立性を守るために今後も頑張ると主張している。タリバン側のイスラム世界を味方に引きいれようとする戦略に加担し、情報戦が活発になってきた。

<難民対策> テレビ報道を見て再度この問題を取り上げる。避難民は着のみ着のままで戦火を避けて山を越え長い道のりをキャンプ地に辿り着いている。N.H.K.の"クローズアップ現代"でも問題を取り上げた。急激に増加する難民に対してパキスタン政府が認めるのは居住に適した場所ではない。彼らは平地にシートを敷き小さなテントを立ててその僅かなスペースに寝泊りしている。国連難民高等弁務官事務所の日本人職員は状況を視察してこれでは冬がくれば間違いなく全員凍死するという。あと1月の猶予はない。食糧や水も大事だが寒さが一番の大敵だ。前任の緒方貞子さんに聞くと国連は以前から躍起になっていたが、ソ連が敗退すると米国も援助の手を引いて彼らは見捨てられたのだという。
 国会で自衛隊派遣に関する法律が通るようだが、日本は武器弾薬の輸送などに手をつけず、彼等難民支援に専念するのがいい。慣れぬ環境で150万の新規発生難民支援というのは逆立ちしても無理だろうが、智慧と熱意を見せるのは決して無駄ではない。



第3章に続く

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