第4章
<紛争拡大の懸念> アフガン国内のタリバン勢力が急速に追い詰められていく情勢を背景に米大統領はテロを支援する勢力への制裁の前提として、イラクへ国連の査察を受け入れるようにという要請を遂に口に出した。これに対してフセイン大統領は傲慢な米国の要求は断じて受け入れられないと即刻これを拒絶した。テレビで放映される発言時のブッシュ大統領はまさに傲慢の権化のような顔だった。
当初より米政府内で懸念されていた動きで、直ちに軍事行動に移る事は万々ないと思うが、もしそのように踏み切ることがあれば戦争は第2段階に入り米国はイスラム諸国を敵に回すだろうし、同盟国からだけでなく恐らく米国内からも異論が続出するであろう。
<秩序回復へ> 首都カブール市を一歩外へ出るとそこは百鬼夜行の状態で、寒さが迫る中で急がれる救援物資の送出は安全の保障がないため全く軌道に乗っていない。地域ごとに群雄割拠の状態で日時とともに治安の責任者も変わっているという。
こういう状態から1日も早く脱するためにドイツのボンで新政権樹立準備の会議を国連が開催している。まずは半年間の暫定政権造りだが、タリバンに抵抗するという共通の目的だけでの寄せ集めの北部同盟は構成4民族の思惑がばらばらで、また未参加のパシュトウン人への配慮もあってまとめるまでにはかなりの紆余曲折が予想される。

<パレステイナ紛争激化> 1日および2日エルサレム市と地中海沿いのハイファ市で相次いで自爆テロが発生し、合計28人が死亡、約200人が負傷した。イスラム原理主義組織「ハマス」は両都市での事件についての犯行声明を出し、イスラエル軍による軍事部門幹部ハヌード氏暗殺など数々の強硬措置への報復であるとした。事件は同時多発テロの遠因となったイスラエル・パレステイナ両国衝突の収拾を図るための米特使が現地入りするのを見計らったように起き、昨年9月末以来最大規模の広域テロとなった。
西欧諸国の非難は責任者としてアラファト議長に集中し、米ブッシュ大統領は同議長の責任を問う姿勢を明確にしてテロと戦う姿勢を即刻行動で示す要求声明を発表するとともに訪米中のシャロン首相に報復攻撃を容認した模様である。中立の立場にいるとは到底見なされない米国の仲介は火に油を注ぐ効果をもたらすものになり、既に米国がパレステイナ国家独立を認める譲歩のもくろみは吹き飛んでしまった。何という読みの甘さか。
<パレステイナ続報> アラファト議長が米国要請に基づき異例の非常事態宣言を発令、過激派90人を逮捕したと伝えられる一方で、米国から帰国したシャロン首相は委細構わず即座に報復を決意、武装ヘリでガザ市内およびパレステイナ自治政府施設をミサイル攻撃した。またイスラエル政府は緊急閣議でパレステイナ自治政府をテロ支援団体と指定した。
パレステイナ自治政府はイスラエルの新たな攻撃を宣戦布告として激しく非難した。一方でブッシュ大統領は「イスラエルの最もよい友人は米国である」と言明し、自ら公正な調停役ではないことを明らかにした。イスラエル軍の報復攻撃開始を受けて国連総会は米国・イスラエルがすべてに反対・棄権票で抵抗する中、パレステイナ問題の解決を求める六つの決議を圧倒的多数で可決した。
米国の圧力により自治政府がイスラム原理主義組織はハマスの精神的指導者ヤシン師を自宅軟禁し、これに抗議する支持者との間で衝突が起こりアラファト議長は板ばさみになっていると伝えられる。先鋭化したハマスを抑えるのは誰にも困難に思われる。
<釘をさす> 訪米中の中谷防衛庁長官は国防総省でラムズフェルド国防長官と会談、米国がアフガン以外に戦線を拡大するような場合は事前に相談して欲しいと要望、また日本として法律上協力が困難になる事がある旨言明した。暗にイラク攻撃などを念頭においているわけで、うまく米国を牽制した点でタイムリーヒットと評価したい。事実自衛隊艦船にイラク攻撃の米軍支援までやらせる話になれば、国会承認は容易ではないに違いない。こういうのが政治だ。相手の言いなりになるだけでは能がない。

<関係断絶> 再三のイスラエル側の圧力にも関わらず複数の犯人によるバス襲撃テロが新たに発生し、イスラエル政府は閣議決定として12月12日今後アラファト議長に代表されるパレステイナ自治政府との関係を一切断つと声明した。要はシャロンはもう絶対にアラファトを信用しないというわけだ。派遣されている米ジニ特使が調停努力を継続中としている中だったが、事態は更に収拾の困難な方向に進んでしまった。イスラエル軍はガザ地区など各地に大掛りな軍事行動を開始した。
<ABM条約廃棄> 1976年核兵器の廃絶に踏み出す第一歩として米ソ両国間で締結されたABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)を一方的に廃棄する旨ブッシュ大統領が声明を出した。国際テロの脅威が増大する中でこれに対抗して2004年までにミサイル防衛網を構築するためとしている。これに対し米議会は民主党を中心に強い反対の意思表示を行い、ロシアをはじめ西欧各国も世界を再び軍拡に進める行為として非難し少なくとも賛意を表する国はないと伝えられる。同時多発テロ以来国内外でテロ撲滅を掲げる米政府に一致協力するムードが形成されているが、これはそのムードに冷水を浴びせた。
先にも私見を述べたが技術的に同じレベルの攻撃軍が攻め合う場合、一方的にこちらが他方を抑え込める保証など何もない。それが可能なのはこちらが先方に対して技術的にあらゆる面で圧倒している場合に限られるが、敵に予期せぬアイデアなど出るはずがないと云う思い込みが誤っていた事は既に実証されているではないか。ブッシュはゲームというものの本質を全く理解していない。
<ビデオ公開> 米国務省はこのほど9月11日当日のニュースに接して事情を周囲に説明するビン・ラデインの映像を公開した。彼は第1機目の衝突後に2機目の襲撃を予告、また建物全体が崩壊したのは予期以上の成果だったと述べた。米国務省は彼の談話の英訳を画像に添えた。これで彼の犯行関与を疑う声はほぼ消滅するだろう。
それにしても思慮深いように見えるビン・ラデインが逃亡を急いだためか事情は知らぬがこのような証拠を敵の手に渡した事は重大な失策である。得々と訳知り顔に能書きを述べるのを見ると人の本性として利害のない第3者までそれとない反感をもつものだ。大体こんなビデオを取る事を許した事自体が大ミスである。映像の訴求力は恐るべく強く決定的である。

<ハマス> アラファト・パレステイナ自治政府議長は国内向けテレビに出演して民衆に自爆テロの即時停止を求める演説を行い過激派の徹底取締りを宣告したが、これに対しイスラム原理主義「ハマス」は公式に反対声明を発表してイスラエルに対する"抵抗と聖戦を続ける"と宣言した。パレステイナ国内のごく最近の世論調査によると85%が自爆テロを肯定し、実行者を英雄とたたえていると云われる。もうハマスに限らず大衆心理に火がついてしまっている。今やアフガンより中東が焦眉の急を告げる事態となってきた。何故平和共存できないのか。それは宗教だ。またそれを信奉する人間のサガだ。シャロンが首相就任直後にエルサレムの聖地を訪れて以後紛争はエスカレートする一方になった。
<捜索> 「今日もビン・ラデイン氏は見つかりませんでした」と報道を繰り返してきたアフガン・トラボラ山岳地帯の洞窟捜索は地元兵力の司令官が作戦終了を宣言した。真冬に入った山岳地帯の捜索など永い間やっていられるわけがない。米軍によるトラボラ地区洞窟爆撃も終了したという。一時期はビン・ラデインを特定の狭い地域に追い詰めたと言っていた米国はここへきて彼がアフガン国内にとどまっている確証を失い、所在をつかめなくなってしまったようだ。ウオルフビッツ国防副長官は同盟国の理解を得て捜索範囲をアフガン国外に広げる事を考えていると言明した。現地兵力に期待できないし、追い詰めるべきタリバンもいない第3国で爆撃もできまいし、一体どうする積りか。
<靴> パリから米マイアミに向かっていたアメリカン航空機の機内でスリランカ生まれで英国に帰化した28歳の男が自分の靴に仕掛けた爆弾に点火しようとしてスチュワーデスと周囲の乗客に阻まれ逮捕された。調査の結果両足の踵のプラスチック爆弾は通称C4、化学物質ペントリット200gで、対人地雷の威力だが航空機の墜落には至らないだろうと言う。本人も実行したら自分の足が吹き飛ばされるだけで一命に別条ないのでは格好がつかなかった。しかし米国内の衝撃は大きく、以後乗客は搭乗前検査で持ち物だけでなく靴も脱いで調べられることになったと報じられる。私のように立ったままで靴の着脱が困難な身体障害者には海外旅行などの航空機の利用は難しくなった。
事件より1週間経過して連邦捜査局は靴を機体の壁に押し付けて爆発させれば、航空機を大破する威力があったと訂正発表した。詳細は不明だが、前記の情報とかなりの差があるわけで危険な方向への訂正だから混乱を助長する。この際いい加減な情報を流さないでもらいたい。