第6章
<ふりあげた拳> ブッシュ大統領は1月30日の一般教書演説でイランと北朝鮮をイラクと併せて米国にとって危険な「悪の枢軸」と非難、アフガンに次いでテロ支援国としてこの3国を名指しした。米国との雪解けを模索していたイランは直ちにこれに反撥、最高指導者ハメネイ師は大統領を血に飢えた者だと非難、イランとの関係改善の意思のない旨のメッセージと受け取ったと云う。イラクに対しては大量の破壊兵器を保持する国として直ちに国連の査察を受けなければ攻撃を辞さないと言明、いつ戦争にまでエスカレートするか分らない。ふりあげた拳のおろしようがないというところだ。
憂慮すべき事は大統領が付言して「国際社会はこの米国に従うか、敵対するかを選ぶべきだ、中立はありえない」とまで言明した事だ。大国の横暴である。もう日本政府はこんな国に追随するのはぜひやめてくれ。中・ロ両国のみならず西欧諸国も懸念を表明している。
<ハト派の役割> 2月12日パウエル国務長官は米上院予算委で、ブッシュ政権が悪の枢軸(axis of evil)と呼ぶ3国に対する武力行使計画は現段階ではないと言明した。同長官は米国以外のほとんどの国から反論を受けている米大統領の先の発言に対し、ある時は北朝鮮からの第3国へのミサイル輸出を非難し大統領発言の裏付けを行ってサポートするように見せながら、ブッシュ政権のタカ派の意向に対抗してこのように国際社会の緊張の緩和に努めている。
ところがブッシュ大統領自身がフセインを憎くて我慢ができないらしく、上記発言の後で国連査察を早急に受け入れなければイラクへの軍事力行使に踏み切ると改めて言明した。国務長官対大統領の図式になりかかっていて、国際世論の力を借りないと抑えきれなくなってきたようだ。
<テロの経緯> 我々無関係に近い環境で過ごしている者はつい2001-9-11を事の起点のように思ってしまうが、実は米国に対する本格的な国際テロは1984年ベイルートの米大使館爆破の自爆テロで始まっている。米国本土には中々手が付けられなかったが、米国の海外出先機関への攻撃は実はこれまでも間断なく続けられていて1979〜1984年に約100件の攻撃があったという。
1993-2-16に世界貿易センターの地下駐車場へ突っ込んだワゴン車に点火された爆弾は同ビルに甚大な被害をもたらしたし、その後1995年オクラホマ連邦ビル爆破があり、1998年ケニア米大使館の際は同時多発的にタンザニア、ナイロビも襲撃があり多数の死傷者が出た。
海外勤務の外交官はテロの対象になりやすいので、以前からD.S.S.(外交安全保障サービス)の実戦的な訓練を受けた要員は四六時中神経を尖らして警備についている。このような長期的な国際緊張の中で、当事者である米国政府は何故このような事件が終息しないか反省している気配がないのは不思議なことだ。

<嫌悪感> イラクへの軍事行動を含む強硬な姿勢を示すブッシュ政権に対してフランスやドイツなど欧州諸国が嫌悪感を示し、米国の一国中心主義への反撥を強めている。アナン国連事務総長は"現段階でイラク攻撃をすれば、それは愚かなことだ"と述べた。先に日本・韓国・中国をブッシュ大統領が歴訪した際も中国は明確に米国のイラク攻撃を牽制した。
<エスカレーション> アナン国連事務総長はイスラエル軍が侵攻して31人のパレステイナ人を戦車で無差別に殺害した事にからみ、イスラエルは国際的に認知された境界内で平和に治安を保って生きる権利を有するが、それにはパレステイナ領土の不法な占領を止めることが前提であると言明した。これはエスカレートするばかりの両陣営の血なまぐさい紛争に対してサウデイアラビアのアブドラ皇太子が行った和平提案を念頭に置いたもののようだが、具体的な実効策なきまま人々の心は荒廃していく。
<執念> 3月13日米大統領は記者会見でイラクの大量破壊兵器開発問題に深い懸念を表明、あらゆる選択肢が可能だとしてイラク攻撃の場合核使用も排除しない姿勢を示した。またイラクのフセイン大統領を化学兵器を使って自国民を殺す男だと述べ、同政権打倒の決意をにじませた。最近になって"核"という言葉がしばしば出てくるのは恐ろしい事だ。

<ガリレオ計画> EUは衛星測位システムの推進を16日の首脳会議で決定したが、これに対して従来測位技術を独占していた米国は高度軍事技術が拡散してテロ組織に悪用される恐れを訴えてEU各国の国防相宛に計画の中止を求める書簡を送った。宇宙産業の振興に熱心なフランスやイタリアは同技術の米国による独占は許されない"と20個以上の衛星打ち上げを要するこの事業の推進を要求、イギリスは経済的な理由で渋ったがドイツが賛成して決定した経緯がある。テロの脅威を理由にこの種の技術を米国が独占し続けることは測位技術の経済的な価値からして困難になるだろう。
<中国の日和見> "中国はあらゆる国際テロ組織に断固として対抗する"と宣言して北京の指導部は9・11以降米国に協調的になった。米偵察機との接触事故も忘却処理にしかけている。積極行動を控えながらも中国は米国の信用を勝ち取ったようだ。中国は"悪の枢軸"3国と近しい関係を放棄しないままだが、米国もこの際これ以上仮想敵国を増やす事は望まぬようで、大統領訪中によって当面の関係保持を計る事にした。
中国はW.T.O.加盟による近代化のための課題が目下重要で、火をつけられぬ限り台湾問題で挑戦的に振舞う事はしたくないらしい。昨今の米国の過激な政策を内心面白くなく考えてはいても、時期が来るまでは雌伏の姿勢を保つ事にしたようだ。
<携帯電話> アラファト議長は軍事行動を拡大したイスラエル軍に幽閉された議長執務室からパウエル米国務長官、ムバラク・エジプト大統領などに次々に携帯電話でシャロンのテロを中止させるよう訴え続けていると報じられている。シャロン首相はアラファトをイスラエルと自由世界の敵と呼び、ブッシュ大統領はイスラエル軍の作戦を容認してアラファト議長の努力不足を非難しているというが、こういう状態のアラファト氏に何ができるというのか。今やイスラエルも米国もパレステイナ問題に関して狂気の沙汰であり、冷徹な問題解決の見通しは完全に喪失した呆れるべき状況に陥っている。シャロンとブッシュの行き詰まりは世界中のこどもの目からさえも明らかだ。
軍事力で圧倒的に優位なイスラエル軍は米国の中止勧告を無視し自爆テロ予備軍を殲滅すると称してパレステイナ各地に侵攻して破壊と殺戮を繰り返し、被災者の修復困難な憎悪を生み世界各国からの一斉非難を浴びている。