『恋風』
原作:吉田基已
監督:大森貴弘
シリーズ構成・脚本:高木登
キャラクターデザイン:岸田隆宏
美術監督:西倉力
音楽:吉森信・宅見将典
アニメーション制作:A・C・G・T
作品公式サイト
放送期間:2004年4月〜6月(テレビ朝日ほか、第8話はキッズステーションのみの放送)
レビュー元:DVD(レンタル)
第1話観た印象ってより、数話観た後の印象なんですが、『恋風』って実は明治以降日本文学の中に脈々と受け継がれてきた“私小説”の正統な嫡子なんだなぁ、と。
内容が崇高とか語り口が格調高いとかそういうところ……、じゃあないんですよ。あのなんていうか、頭でっかちで醒めたふりしながらその実頭の中では妄想爆発で、そのくせ世間体だの常識だのが邪魔して行動には移せないっていう、ダメ主人公のダメダメさを赤裸々に描き出すってところがさ(笑)。これぞ日本文学の自然主義です。
この『恋風』の主人公、耕四郎も相当のダメ人間で、落ち込んだり開き直ったり逆ギレして当たり散らしたりと、もう大変(笑)。というわけで、愛すべきダメ人間アニメとしてなま暖かい目で見守っていきたいなぁと、そう思うわけであります。
え〜、最後に一言。主題歌やエンディング曲の柔らかい感じとか、予告の「千鳥がゆく」の上田耕行プロデューサーらしいお遊びの抜き具合とか、パッケージングとしてもよく考えられてると思いましたよ。この辺はさすがオトナの仕事って感じで。
第1話「初花」
脚本:高木登 絵コンテ:大森貴弘 演出:千葉大輔 作画監督:松本文男・宮田奈保美
結婚相談所に勤める佐伯耕四郎(三宅健太)は、年相応以上に感受性を摩耗させている28歳。付き合っていた彼女(柚木涼香)から「他に好きな人が出来たの」と言われても、ただ「そうか……」と。そんな耕四郎は、ある日定期を落としたひとりの女子高生と出会う。その、まだ汚れを知らない澄んだ瞳と屈託のない笑顔の中に、耕四郎は自分がとうの昔になくしてしまった“大切ななにか”を見て取るのだった。
年甲斐もなく一目惚れしてしまった相手は、ずっと離れて暮らしていた年の離れた実の妹だったって話。しかも、ひとつ屋根の下に同居。
原作は、最初の方だけ読んでます。とくに原作ファンでもなかったし、妹萌えには興味がなかったんでアニメはそれとなく見てないまんまだったんだけど、第1話観てみたら思ってた以上に面白かった。
お話としても、今流行の萌え系というよりも、新聞小説で連載したらウケそうなちょっと古くさい感じさえする“オヤジ・ドリーミン”な話だった。七夏(中村有岐)もいかにも純粋そうだし、制服もスタンダードなセーラー服。しかも、桜とともに現れたりしちゃう。
とはいえ、中年の格好悪さってのが思いっきり出てて、観てて思わす笑っちゃうんだよね。中盤の観覧車の中のシーンも、思い切り恥ずかしい! おじさんだってホントは泣きたいんだ〜!(笑)
オープニングアニメは、ラストの踏切をわたる七夏がイイ感じ。エンディングも、岸田隆宏さんらしいカワイらしくもノスタルジックな小品に仕上がってました。
第2話「春愁」
脚本:高木登 絵コンテ・演出:浅見松雄 作画監督:増谷三郎
七夏との同居生活が始まった。耕四郎は七夏にお兄ちゃんお兄ちゃんとなつかれる。しかし耕四郎は、遊園地でのこともあって今さら兄貴面できない自分にイラつき、ついつい七夏に辛く当たってしまう。
七夏の「お兄ちゃん♪」っぷりはなかなかスゴイものがあるね。天然だろうか? エプロンで朝ご飯支度、ハートのお弁当に、とどめは会社に「来ちゃった♪」ッスよ(笑)。七夏の妹パワー全開攻撃に対して耕四郎の打たれ弱いことったら……。会社でのやり取りも笑える。最初の頃はまだ変態テイストは抑え気味。
「なんだか、すべてが輝いて見える」(by七夏)
今んところ、七夏が勝手に心に描いてた“理想のお兄ちゃん像”を耕四郎に求めてひとり盛り上がってて、耕四郎は耕四郎でどう接していいか判んないみたいな、割とふつうの関係ッスね。
相変わらず夜桜が舞う中、妹を後ろに乗せて自転車を漕いで家路にっていうキレイでドリームな終わり方でした。妹はいつも桜とともにやってくる。
今日のお兄ちゃん語録:
「いいよ……、好きなように(お兄ちゃんって)呼べよ」
第3話「薫風」
脚本:高木登 絵コンテ:仁賀緑朗 演出:小林智樹 作画監督:松本文男・宮田奈保美
七夏のことが頭から離れない耕四郎。いっそこれ以上ないくらい兄の役割を演じてしまえば、思い悩まずに済むのでは?とも思う。が、実際本人を目の前にするとたじろいでしまう。
母が作ってくれた揃いのクマのぬいぐるみをお兄ちゃんと交換してウレシイって話。
とは言いながら、生理が3ヶ月ぶりとか、ミョーに生々しい話が出てきたりしてだんだん変態度が上昇中! 耕四郎も、「(七夏は)やっぱ子供だよなぁ」とか言いながら物干し台の七夏の下着に視線を(笑)。
夜に手つなぎながら散歩したりわざわざ相合い傘で帰ったり、やっぱり兄妹としてこのふたりおかしいよなぁ。キャラ作画やちょっとした動きの作画なんかは割と良かったけど、話としては全体的にとりとめのない話だったなぁ。
あ〜、あと書くの忘れてたけど、このアニメって作画の前に声を録っちゃうプレスコ方式で作られてるらしいです。実際観ててその辺が具体的にどのあたりに生かされてるかは判んないけど。七夏の演技は、声優ズレしなくてナチュラルでいいですね。耕四郎のタジタジ演技もイイ感じ。
第4話「夕立」
脚本:高木登 絵コンテ:山崎たかし 演出:太田知章 作画監督:石川健介
会社帰りに七夏と映画館に向かう耕四郎は、昔の恋人、宵子(柚木涼香)とすれ違う。思わず宵子のもとへ駆けた耕四郎の口から出たのは、女子高生(七夏)と一緒にいたことの弁明だった。宵子はそれを聞き、「耕四郎らしい」と言って笑う。
と書くと普通の恋愛ドラマの一シーンみたいだけど、我らが耕四郎くんはいちいち考えることが生々しいです。
「そういえば、最後のセックスから3ヶ月経っていた……」(by耕四郎)
淡い期待が破れた後の家でのシーンがもっと生々しかった。脱衣所でふと目に付いてしまった妹のブラジャーをくんくんして、その現場を七夏に見られて、罪悪感やら興奮やらで部屋でオナニーって流れは最強の変態コンボ! もうあなた、瞬殺ですよ(笑)。
その後自己嫌悪に陥って暴れるのもみっともない。こういうのをリアリズム演出で見せられると、観てるこっちに逃げ場がなくて困るね(笑)。
この辺りの話数で、善良なる価値観をもった一般人と、甘いだけの妹萌えを期待してたオタク層がドッと逃げていったんじゃないかと。
第5話「遠雷」
脚本:高木登 絵コンテ・演出:小林幸嗣 作画監督:重国勇二
昨日のこともありギクシャクしてしまう耕四郎。さらに、七夏に勝手に部屋のゴミ箱をかたづけられたことを怒鳴ってしまう。バレているのか、それとも……?
恥ずかしいティッシュかたづけられてキレるなんて、耕四郎、お前は中学生かっ!?(笑)
「なんだよ、当てつけかよ?」(by耕四郎こころの声)
割れた茶碗をゴミ箱に捨てるシーンの緊張感はなかなかのモノでしたよ。あくまで無邪気に接してくる七夏に、威圧的な態度で頑なになることしかできないくせに、部屋に帰ってひとりになると「あぁ〜っ」って悩んじゃったり、耕四郎のダメさ加減が観てていちいち面白い。夜中ひとりで観てて声出して笑っちゃう貴重なアニメ(笑)。
今日のお兄ちゃん語録:
「言ってしまえ、くんくんしてゴメンナサイって、欲情してゴメンナサイって。いや、言ってどうなる。あいつは今だって何も知らずにあのときの下着をつけてるかも知れないのに。あのときの……」
第6話「秋思」
脚本:高木登 絵コンテ:浅見松雄 演出:木村寛 作画監督:増谷三郎
学園祭を前に、実行委員として準備に追われる七夏。準備で遅くなった七夏は、同じ委員の宮内(小林良也)と一緒に帰るのだが、それを見た耕四郎に不用心だと怒鳴られる。
「なんでお兄ちゃんにそんなこと判るの!?」(by七夏)
「お前はカワイイから!」(by耕四郎)
ついつい恥ずかしいセリフ(?)が口をついて出て思わずうろたえる耕四郎が笑える。幼なじみ同士とかだったらエエ感じに小っ恥ずかしいシーンになるんだけど、お兄ちゃんでしかも耕四郎だもんな(笑)。それ聞いて「ポッ」ってなる七夏もおかしい。
今回、七夏のモノローグで語られるシーンもあってちょっと新鮮だったんだけど、一体全体七夏は耕四郎のどの辺に惚れてんのかね? その辺はヘタに語るとリアリティなくなるかな?
耕四郎が「罪悪感なくなった」って言ってるけど、妹をオカズにすることに対して罪悪感薄れただけでオカズにすること自体を止めたワケじゃないのね(笑)。
今日のお兄ちゃん語録:
「開き直るワケじゃないが、最近ふと考える。妹で抜くってことは、そんなにおかしいことだろうか?」
おかしいよ! この作品にも笑いの神様が降臨したようです(笑)。
第7話「初嵐」
脚本:高木登 絵コンテ・演出:渡部高志 作画監督:宮田奈保美・松本文男
電車でかばってもらってから耕四郎のことを意識してしまう七夏。そんなある日、七夏は浅野という男子からラブレターをもらってしまう。どうしていいか判らない七夏は、耕四郎に相談する。
渡部高志さんコンテ演出回。
あ〜、なんかようワカランけど、七夏はもう耕四郎にラブラブなのね。耕四郎に相談したのも、実は止めてほしかったり? 浅野くん、惚れた相手がブラコンだったなんてカワイそうに(笑)。
今回は、七夏視点で恋心を抱く少女の乙女ちっく(死語)な心情を割とストレートに描き出してた。季節は秋なんで、舞い散るのは銀杏の葉っぱ。しっとりとした感じで悪くなかったけど、なんか一昔前のの少女マンガみたいだったな。ってワケで、今日は耕四郎(変態)語録は更新されず(笑)。
今日の爆弾発言: 「私……、お兄ちゃんが好き」(by七夏)
今日は岸田隆宏キャラデザ作品2連チャン。
前も書いたように『恋風』はずっと観てなくて、実は『ノエイン』観るにあたっての岸田キャラ&松本憲生原画チェック用に「押さえとくか」ってな感じで観たんですよね。でも、観始めるとこれが思った以上に面白い作品でした。放送当時のネットの評判はどっちかっていうとネガティブなのが多かった気がする。なかなかどうして、隠れた名作とでもいうべき良い作品ですよ。
ちなみに当時の評価は光希桃さんところの終了番組評価参照(2004年夏特別版)。24番組中12位。う〜ん。各サイトさんのコメントはこちら(コメント一覧)。
第8話「露霜」
脚本:高木登 絵コンテ:川島宏 演出:小林考嗣 作画監督:飯飼一幸・重国勇二・今木宏明
自分が結婚相談所に勤めているのは、人が出会って別れる瞬間に立ち会いたかったから……。耕四郎の頭に、七夏が生まれた頃の自分の家族の様子がふと浮かぶ。新しい家族の誕生、そして別離。耕四郎にとって家族とはなんだったのか?
地上波未放送話数だそうです。観てみたら、ちゃんと家族話として普通に、いや、良く出来た切ない感じのエエ話になってました。なんで未放送だったんだろう?
ちび七夏があの歳の子供らしくて良かったし、耕四郎が母親に会いに行くシーンも良かった。あと、泥のコーヒー牛乳の回想シーンは、耕四郎が家族というものに対して冷めてるワケじゃなく、実は“あるべき家族像”ってものに対して思い入れのあるロマンチストだったってのがが良く描けてた。
ひさびさに会った母が、やっぱり母であり家族以外の何者でもなかったのを確認したように、七夏も耕四郎にとってやっぱり妹であり家族であることが確認されたわけ。“あるべき家族”を切望する耕四郎だからこそ、家族の枠組みを根本から揺るがすような兄妹間の恋愛なんてとうてい許されないわけだ。この辺はなかなか沁みます。
「お兄ちゃんでいい、仲のいい兄妹でいい。それがオレに与えられた役割であるならいくらでもそうしよう」(by耕四郎)
第9話「風花」
脚本:高木登 絵コンテ:若林厚史 演出:園田雅裕 作画監督:宮田奈保美・松本文男
七夏に「好き」と言われ、自分の気持ちを偽りきれなくなった耕四郎は、家を出る決心をする。しかし一方で、些細なことで悩む七夏を見るうちに、その決心は端からぐずぐずと溶けていくのだった。
若林厚史さんコンテ回。全編、七夏視点でお兄ちゃんラブラブ〜な甘さが漂ってましたよ。恋する乙女には何者もかなわない。
七夏が自分を好きなことを知って自分の気持ちを偽れなくなって、そんな自分の気持ちから逃げてるくせに七夏との微温な生活を捨てて家を出るという決断も出来ない、そんな耕四郎のグダグダっぷりがリアル。一方の、耕四郎のベッドでうたた寝してる七夏はもう確信犯ッスね。七夏の気持ちは一直線。小日向七夏、恐ろしい子ッ!(笑) こういう状況になると女の方が圧倒的に強い。
最初の話数で目立った変態度はなりを潜めてきて、話がちゃんと純愛モノとしての面白さにシフトしてきた。
七夏が耕四郎の部屋から駆けて出て行くカットがやたら(動きの)作画が良かった。あと、エンディングアニメが少しカット追加(浜辺で波に消える砂山とプラスチックの熊手)。
第10話「寒月」
脚本:高木登 絵コンテ:舛成孝二 演出:木村寛 作画監督:野口和夫
触れたいと思っていたものが、実際に手で触れたとたんに消えてしまう。仲のいい兄妹という枠をほんの少し越えてしまった振る舞いに後悔するふたり。耕四郎はついに会社の近くのアパートを借りる契約をする。
舛成孝二さんコンテ回。
電話で話をするふたりは、もう恋人同士みたい。細かいところだけど、電話が廊下に置いてあるところとか何気に昭和なノリの作品だなぁと思ったり。原作やってた頃でも携帯(もしくはPHS)は普通に持ってたと思うけど。
「もう二度と会わない」(by耕四郎)とか言ってるけど、想いを振り切ったワケじゃないってのがまた耕四郎らしい中途半端さというか。ラストあんな別れ方だったら、別居しても七夏も想いがつのるばっかりだよね。別居が心的な距離になるところも、携帯無きが故か。
エンディングアニメがさらに追加。浜辺を歩いていたのは昔の耕四郎たち一家。さらにノスタルジー度が高まってイイ感じ。これだけでもう泣けそう。
第11話「余寒」
脚本:高木登 絵コンテ:森田宏幸 演出:小林智樹 作画監督:松本文男
耕四郎が家を出て一月半が経つ。が、ふたりの思いは胸の内で大きくなるばかりだった。七夏は届かない想いをひと針ひと針編み込むように、耕四郎のために手編みのセーターを編む。
着てはもらえぬセーターを〜 寒さこらえて編んでます〜♪
「なんもしてねーよ、俺は!」(by耕四郎)
「なに本気になってんの……?」(by千鳥)
やっぱり逃げてた耕四郎。この千鳥との痛いやりとりのシーン、原画は松本憲生さんッスね。作画がいいのもあって、このシーンは画面から目が離せかなった。
いや、痛いというか情けないというか、耕四郎の堕ちっぷりがこれでもかってほど描かれてた。スバラシイです。千鳥はちゃらんぽらんそうに見えて、このドラマでは“世間の良識”を背負った役なのね。
第12話「春雷」
脚本:高木登 絵コンテ・演出:小林考嗣 作画監督:重国勇二・飯飼一幸・島宏明
耕四郎がドアを開けるとそこには七夏がいた。思わずつんのめって倒れ込む二人。
ふたりが世間に背を向けてしまってお互いの愛を確かめ合うって話。有り体に言えば近親相姦しちゃうわけですが。
純愛話的には二人は結ばれてハッピーな展開のハズなのに、全然そうじゃないところがイイ。とくに手編みの(拙い出来の)セーターを着て浮かれて買い物する耕四郎の気持ち悪さとか、とにかく視点が徹頭徹尾客観的。あと、千鳥の定期をゴミ箱に捨てちゃう七夏が怖い。その後の千鳥とのやり取りも、七夏の異常さを引き立たせてる。
「外れちまったな……。すっかり、外れちまった」(by耕四郎)
禁断の一線を踏み越えてしまう緊迫感と、踏み越えたはいいものの先のない閉塞感ってのがちゃんと出てて良かったです。
それはそうと、夕日の海岸の家族像ってエンディングが、本編の二人の関係が進むほどに逆に「なくしてしまった大切なもの」として輝きを増してきて、本当に切なくなってくる。一見地味なエンディングにこういう計算があったとは。お見事!