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電子自治体化への志向と課題

−静岡県を題材として−

河井孝仁

はじめに

 本論において筆者に求められた課題は、政府の定めた『e-Japan戦略』のもと、静岡県を題材に「都道府県」という広域・中間自治体が進める「電子自治体」化の特徴を描出し、その課題を展望することであろう。

 なお、本論では狭義の「電子自治体」化に向けての施策に限定せず、連携して進められる「地域情報化」にも関わりながら議論を進めていきたい。

 地域の多様性のなかで「都道府県」が進める「情報化」のテーマは一概ではない。もちろん地域における情報格差の是正やネットワークの拡大という目標には共通する部分も多いと思われるが、手法や最も力を注ぐ分野は多岐にわたる。

 こうしたなかで、県域にわたる「情報ハイウェイ」という用語が喧伝され、広域自治体にとっての重要な役割としての言及もある 1)なかで、行政による「情報ハイウェイ」の整備を目標として掲げていない静岡県を素材とすることは、冒頭に述べた課題を十分には満足するものではないとも考えられる。

 そのため、本論が必ずしも広域・中間自治体一般の具体的ありようを示すことにつながるものではないことを予め述べた上で論を進めたい。

 とはいえ、静岡県の電子自治体化・地域情報化への現状及び課題について紹介することが、地方自治体の情報化一般にとって僅かなりとも意義のある議論となるために、本論では、いくつかの前提作業を行う。

 作業は2本の補助線を引くことと、「電子自治体」という用語を簡易に分析しておくことにより構成される。

 前提作業を終えた後、静岡県をとりまく所与としての情報化環境を瞥見し、それらを踏まえて静岡県の電子自治体化、地域情報化施策の現状・課題について紹介、議論を行う。

 なお、本論のうち、意見、考察にわたる部分は筆者個人のものであるのでご了承願いたい

 

1 2本の補助線と1つの確認

 本節では、静岡県の情報化施策の現状・課題の具体的な紹介が、地方自治体の情報化一般についての考察に有意義となることを期待し、議論にかかる2本の補助線を引くことに併せ、「電子自治体」とは何かについてあらためての確認を行う。

 補助線の一本は、議論の基礎を深くし、本論が地方自治体一般に共通する論となることを意図した「公共」概念の確認であり、もう一本は議論の射程を長くし、目まぐるしく変化する情報環境のなかで本論の<賞味期限>を少しでも延ばすことを意図した「ユビキタス・ネットワーク」への言及である。

(1) 公共ガバナンス

 まず「公共」という補助線を引くことからはじめる。ここでは、行政=公共と捉えがちであった議論を転換し、あらためて「公共」とは何かを問うことで、地方自治体の情報化の意味を再確認することにつなげたい。
「公共」概念については、J.ハーバーマスの「公共圏」の考え方 2) など重要な論考が多様にあるが、本論では「地域の"ガバナンス"構造」を「公共」と位置づける。"ガバナンス"については吉原直樹及び「21世紀日本の構想」懇談会を導き手として考察を行う。

 吉原直樹は、"ガバナンス"を「共治」と表現する 3)。「共治」とは、多様な組織の間にある非統制的で相互連関的な連結・調整によって(地域を)治めること。具体的には、地方自治体を中心にして、それと各種の行政機関、民間企業、ボランティア組織による協力連携を"ガバナンス"の例としている。

 小渕総理大臣(当時)のイニシアティブにより設けられた「21世紀日本の構想」懇談会(河合隼雄懇談会座長)は、その報告書において、"ガバナンス"を多元的なアクターが責任を持って参加し責任を共有する仕組みであると位置づけ、地方政府、専門職集団、NPO等を、その担い手としている 4)。 この認識が、「参加し、公を担う」と名づけられた節の一部として現れることは、「公共」を「地域の"ガバナンス"構造」として考えることへの強い支持となるであろう。

 「公共」を「地域の"ガバナンス"構造」として捉えることに関わって、筆者は「公共経営システム」という考え方を提示したことがある5)。(図1)

 「公共経営システム」とは、市民が直接に、あるいは行政・企業・NPOを"エージェント"として、「新しい公共」の経営に参加するという概念である。

このとき各エージェントである行政、企業、NPOは相互に評価、介入を行うことになる。

 この考え方は、市民を行政の顧客とし、顧客への満足度を最大化することをもって行政の目標とする考え方と微妙に、しかし明らかに異なる。

 本論では、こうした「公共(経営システム)」という考え方を視野に置きつつ、静岡県の電子自治体化及び地域情報化の現状について確認し、評価を行うことで、地方自治体の情報化の議論について一助となることを期待したい。

図1 公共経営システム

(2) ユビキタス・ネットワーク

 ユビキタス・ネットワークについて言及することで2本目の補助線を引くこととする。

 既に周知のようにユビキタスとは、ラテン語で「遍在する」を意味する言葉である。野村総合研究所によれば「ユビキタス・ネットワーク」とは、「ブロードバンドに加え、モバイル、常時接続、バリヤフリー・インターフェース、そしてIPV6」を構成要素としている。6)

 技術の急速な進展のもと、今後の「情報化」を考えるにあたって、この「遍在するネットワーク」を念頭に置かず議論することは困難であろう。

 例えば「モバイル」について平成13年「通信利用動向調査」(総務省、調査時期:平成13年11月1日)によれば、4,890万人のパソコンからのインターネット利用に対し、2,504万人が携帯電話・PHS・携帯端末(以下「モバイル端末」という)からインターネットを利用し、うち657万人はモバイル端末からのみのインターネット利用となっている。

 市民からの負託・委任・評価を媒介に、他の"エージェント"とともに「公共経営」に携わる自治体の情報化が、より幅広い市民のネットワークを保障する動機を持つとすれば、モバイルに限らず、豊かな情報量のコンテンツを提供するという意味でのブロードバンド、障害の有無や生活する状況の違いに関わらず情報保障を行うことにつながるユニバーサルデザインの考え方等につながる「ユビキタス・ネットワーク」は、地方自治体の情報化を考えるにあたり明確な補助線となるであろう。

(3) 電子自治体をどう捉えるか

 補助線を引きおわり、具体的な静岡県の状況について見る前に、もう一つの前提作業を行う。「電子自治体」をどう捉えるのかという確認である。これについては、日経BP社のウェブサイト 7) を参照する。

 上記を参考にするなら、電子自治体とは「バックヤードの電子化による行政の生産性の向上」と「ポータルとしての電子化窓口による行政サービスの向上」が組み合わされたものになる。

 以上に加え、先に見た「公共」概念をあわせ考えるのであれば、行政への市民の負託・委任・評価及び他の公共エージェントである企業、NPOによる評価・介入を電子化により簡易に可能とする「場」の設定も「電子自治体」の重要な条件であろう。

 これは、単なる行政サービスの向上にとどまらない「プラットフォーム」に係る「電子自治体」化と言うことができる。

 

2 静岡県の情報化環境

 本節では、静岡県の情報化施策を規定する所与の環境について述べる。

 本論の冒頭で「静岡県は『情報ハイウェイ』の整備を目標として掲げていない。」と書いた。情報ハイウェイについては岡山県をはじめとして岩手県、兵庫県、鳥取県、宮崎県などでの取り組みが行われている。情報ハイウェイを「超高速(光)回線を利用した自治体の敷設する県域幹線系ネットワーク」とすれば、情報ハイウェイとは呼ばなくてもその他の多くの県で施策化や計画策定が行われ、「情報先進県」として紹介されることも少なくない。一方で静岡県はインフラとしての回線整備についての大規模な施策は存在しない。

 静岡県での、こうしたインフラ施策の「弱さ」は、仮に「情報化環境」とでも表現できる状況によっても説明できる。

 静岡県は東京−名古屋−大阪という巨大な情報流通の中間に位置することにより、主に東西を結ぶ超高速回線網が既に民間により敷設されている。県内すべての市町村に整備済であるNTTグループによる光ファイバーネットワークはもとより、非NTT系通信企業による2.4Gbps超高速回線、さらに国土交通省情報ボックスも活用して県土を横断する同じく2.4GbpsのCATV系回線が伸びている。また電力系ネットワークは県の南北方向を結ぶ高速回線ともなっている。これらを背景とした加入者系ネットワークについてはADSL、CATV、FTTHが74市町村中66市町村で利用可能となり、ADSL世帯加入率は2002年4月現在で全国4位と高い水準にある。

 静岡県にとって、税を投入することにより敷設する「情報ハイウェイ」は必要だろうか?ハードとしての情報インフラ整備に係る公共投資の多寡をもって、公共経営エージェントの一つである自治体の情報化を問うことは困難である。

 しかし一方で、少なくとも現時点では、すべての県民が比較的低廉な負担でブロードバンドを利用できる環境にないことも事実であり、情報保障に関わる課題として意識する必要がある。

3 静岡県の情報化施策

 本節では、ここまでに述べた前提及び情報化環境を踏まえながら、基本的な計画に触れた後、静岡県の情報化施策の積極面を主に紹介する。

(1) 施策の方向

 静岡県では、2002年4月に「魅力ある"しずおか"2010年戦略プラン−富国有徳、しずおかの挑戦−」と題する新しい静岡県総合計画を発表した。

 この総合計画のなかでは「地域の情報化を先導する高度情報通信体系の整備」について「県民一人ひとりが、快適で利便性の高い暮らしができるネットワーク社会を実現するため、時間、距離を超えて、いつでも、どこでも、誰でもが簡単に情報の受信・発信が可能になる環境の整備をめざします。」と目的を掲げている。

 定量的な目標としては「インターネット利用者数 300万人(現在比2.14倍)」(2010年)を提示する。アウトプットではなくアウトカムを考慮した数値目標であるが、2010年時点での「インターネット利用」の意味合いの変化の可能性ということをおいても、静岡県の情報化に係る方向性が見えると思われる。言い換えれば、「まず、(電子)県庁と県民との関係ありき」というより「まず、県民のネットワーク能力の充実」という志向とも読むことができる。

 これは、県という中間・広域自治体の市民との関係の間接性にも由来する方向性として興味深い。

 「施策の方向」は、『しずおか300万人ネットワーク』の構築、『情報立県しずおか』の構築、『電子県庁しずおか』の実現の3点。

 『しずおか300万人ネットワーク』では、県民のIT学習機会の提供、学校における情報教育の充実、情報インフラの整備、地域情報化リーダーの養成を個別に提示し、『情報立県しずおか』の項では、企業のIT活用による競争力強化への支援、ベンチャーやSOHOを視野に置いた情報通信関連産業への支援、ITの進展に対応した職業訓練の実施を述べ、『電子県庁しずおか』では、県からの情報発信に係る内容の充実、行政手続のオンライン化、CALS/ECの推進、電子化による行政の生産性の向上、職員間・行政間ネットワークの充実及びセキュリティ確保を掲げている。このなかで「ブロードバンド・携帯電話・ユニバーサルデザインに対応したコンテンツ充実」を述べていることは、先に述べた「ユビキタス・ネットワーク」への考慮の萌芽と言えるだろう。

 これらは「静岡県高度情報化基本計画」(1998年3月策定)、「情報化ビジョン2005」(2000年7月策定)、「県庁情報化戦略」(2001年1月策定)により積み上げられてきた施策方向を集約したものでもある。

(2) 静岡県情報化施策の積極面

 本項では、上記の基本方向を踏まえながら具体的に行われている施策について、筆者が主に積極的に評価できるものを中心に紹介していく。その際、「公共ガバナンス」、「公共経営システム」の考え方を評価軸の一つに採ることで、単なる静岡県施策の紹介に止まらず、「電子自治体」一般の課題に近づくことに努力したい。

 あわせて「電子自治体」をバックヤード、ポータル、プラットフォームの総合として理解する先の把握を参考に述べていくこととする。

1) バックヤード

 静岡県では、昨年度までに教育委員会及び企業局の出先機関も含めて計 7,354台の端末を整備し、「しずおかデジタル・オフィス(SDO)」と呼ぶLAN構築による全職員パソコン一人一台体制を整えた。

 現在、稼働データベース 900システム、電子メール利用数36,000件/日、掲示板アクセス数 9,000件/日の運用状況となっている。主な稼働データベースとしては議会答弁録・会議室予約・公用車予約・電子給与明細・時間外勤務管理・電子決裁・電子職員録・旅行命令・旅費計算などがあり、生産性の向上に寄与している。これらを受け、静岡県は総務事務の統合、一元化を進めてもいる。

 「県庁情報化戦略」では、今後の"ナレッジマネジメントシステム"の導入についても述べているが、何をナレッジとして捉えるかにより、単なる「行政生産性の向上」のツールとなるか、市民及びそのエージェントによる「公共」の経営を支える道具となるか、重要な判断となると考える。

2) ポータル

 ポータルとしての電子自治体の基礎は自治体のウェブサイト(ホームページ)にある。

 ここでは2つの点について考察する。一つはユビキタス・ネットワークへの志向であり、もう一つは「公共」の概念に関わって"プリンシパル"である市民へのアカウンタビリティの場としての位置づけである。この点は次に述べるプラットフォーム機能とも関わる。

 まず、ユビキタス・ネットワークへの志向について述べる。ユビキタス・ネットワークの条件でもあるユニバーサルデザインへの取組について代表的なものを挙げる。

 静岡県のホームページは、日経インターネットアワード2000【自治体・教育部門】日本経済新聞社賞、環境goo大賞2000、インターネット博覧会審査員特別賞(2002年)などを受賞しているが、2002年4月に民間専門家の協力によりトップページの構成を大幅にリニューアルした。これにより視覚に障害のある方などが利用する音声読み上げソフトへの適応を従来以上に向上させることができた。その他、5か国語による外国語サイトや子供向けサイトの開設もユニバーサルデザインの観点から有意義である。

 ユビキタス・ネットワークを「豊富な情報が、いつでも・誰でも・どこでも、提供・交流されるネットワーク」と捉えなおせば、ブロードバンドとモバイルの重要性が明らかである。静岡県は動画映像の豊富かつ多様性をそのまま伝えられる情報力に注目し、「BBスタジオしずおか」というブロードバンド向けコンテンツをホームページ上に設けている。ここでは、県内の身近な話題や県政の最近の出来事を映像情報として積極的に発信する。特徴的であるのは、プロパーの県職員の目ではない、"デジタルレポーター"と呼ぶ市民により取材編集されたコンテンツが活用されていることである。今後、県からの発信にとどまらず、市町村やNPOなど別の公共エージェントによるリッチコンテンツの発信を支援する試みへのきっかけとなることを期待する。

 ユビキタス・ネットワークを意識した静岡県のモバイルへの取り組みは顕著である。県政情報を含めた更新頻度の高い多様な情報がモバイル向けに提供される。その内容は携帯電話・PHS全てのキャリアから評価され、全国の自治体で唯一、各社すべての公式コンテンツとしての採用を受けている。情報内容についても移動体としての特長を生かした取り組みを進め、県及び市町村の公共施設等約2,000箇所について最寄り駅からの歩行経路を地図表示する情報提供も行っている。この歩行経路表示サービスは車椅子やベビーカー等の利用も考慮し、交差点におけるスロープ付き歩道橋などの情報を付加することでユニバーサルデザイン化を進める試みもおこなっている。また民間専門家のノウハウを生かしながら聴覚に障害のある方などに災害情報をメール発信する施策は、常時携帯しているという性格のモバイル端末を強く意識したものでもある。携帯電話向けホームページについては県内市町村による開設への支援も行い、中間・広域自治体として、多様なエージェントから市民への情報発信が可能となる努力も進めている。

 市民へのアカウンタビリティに関わるコンテンツとしていくつかを挙げる。

 「ようこそ知事室へ」では「トーク」のコーナーを中心に、さまざまなテーマについて知事の地域づくりの考え方を明らかにすることで自治体としての静岡県の方向を示している。その他、音声による知事の発言「ラジオdeトーク」、「対談集」、「公開!知事の一日」、記者会見の全文公開など、先に触れた「公共経営システム」に関わりながら述べれば、"エージェント"として経営に携わる方針を不断に明確化することで"プリンシパル"である市民の評価を求める姿と考えられる。

 以下のような情報発信も挙げられる。

 静岡県は全国的にも先進的な行政評価システムとされた「業務棚卸表」を作成している。これは、行政の目的を明確化し、係・スタッフごとに目的を達成するための手段を提示し、かつ目標達成度の評価尺度や実績などを数値等によりまとめたものである。この「業務棚卸表」をホームページで公開し、「何のために」「何を」「どこまで」「どのように」仕事をするのかを簡便に参照できるシステムをつくっている。「業務棚卸表」については、評価尺度や、どこまで細分した事業で個々に目標設定を行うのか、細目の事業については事業内容を明確化するにとどめ、よりアウトカムとしての成果目標が設定しやすい括りの事業での目標設定を行うことが望ましくはないかなどの課題もあると考えるが、それらを含めホームページという閲覧しやすい場所で公開していることは重要である。

 さらに審議会議事録や事業計画の策定状況などの「政策形成過程」情報もホームページでの参照が可能であり、「公文書開示請求」にあたっても文書による請求に加え電子窓口とも言える県のホームページからの請求を可能とすることで簡易かつ一層の公正の確保を図っている。これらは「入札結果のホームページ公開」などとあわせ、市民への説明責任の確保に大きな意味を持っている。

3) プラットフォーム

 次に1の(3)での電子自治体の捉え方のうち3つめとして挙げた、電子自治体のもつプラットフォーム機能について述べる。プラットフォーム機能とは、公共経営に関わる双方向性の誘発を行う「場」に着目した機能である。先にも見たように、従来「電子自治体化」については行政生産性の向上および窓口行政サービスの向上という、市民を顧客とした考え方にとどまる議論が少なくない。

 これに加え、プラットフォーム機能を挙げることで、市民からの評価、他の"エージェント"としての企業、NPOからの評価・介入による公共経営という点を明確化する。

 静岡県は、先に挙げた新たな総合計画の基本構想において、計画推進のための5つの方策の一つに「NPO等との『協働』の推進」を掲げている。

 電子自治体として上記を実現するものの一つが、ホームページ上で行われるNPOからの施策提案であろう。法人格を持つNPOに限らず一定の条件を満たす市民団体は、原則として事業分野に関わらず、県に対し事業アイデアを提案可能である。提案された事業はホームページ上で公開され、県民からの提案事業への意見提示も行われる。その後、提案アイデアは県担当部署での検討を経て、状況に応じて施策化され実施されることとなる。事業実施後には成果検討を行い、結果もまたホームページに公開される

 電子自治体という枠組みのなかで、公共経営をガバナンスする「場」を成立させようとする試み、プラットフォームとしての電子自治体のありようとして興味深い。

 

4 電子自治体に向けての課題

 電子自治体に向けての課題は多いが、ここではプラットフォーム機能の成否について考察する。

 2002年3月4日〜3月12日に行われた自治体職員の意識調査によれば、自治体にとって最も関心が高く、重要であると考えているIT化のテーマとして「地域ポータルサイト」が挙げられている8)。結果についてのコメントでは「掲示板等を活用した地域住民の行政参加」が述べられ、当該調査での「地域ポータルサイト」は本論に言う「プラットフォーム」とも関わると考えられる。

 本調査結果は本論においてここまで述べてきた考察を裏打ちするものでもあり納得に値すると考える。実際にも、神奈川県藤沢市では「市民会議室」を運営し相応の成果をあげている 9)。

 一方で、札幌市では「eトークさっぽろ」について論点の拡散や誹謗中傷の存在による会議室の閉鎖という問題点も生じた 10)。また静岡県でのNPOからの施策アイデア提案についても初年度とはいえ必ずしも大きな成果は見えていない。この点について十分な考察は行えないが、自治体規模の違いに着目できるかもしれない。デジタルネットワーク上であっても、一定規模以上の自治体では、コミュニティ意識の醸成について相対的に課題が大きい可能性も考えられる。

 そうしたなかで、三重県が新たに取り組む「e-デモ会議室」11)への興味は大きい。とくに「e-エディタ」という会議編集人の存在が目を引く。この点について筆者の先行論文 12)を確認する。当該論文では、インターネット上に「NPO評価の『場』」を成り立たせる存在として、いくつかの「立会者」を規定している。

 1.議論への「情報提供者」、 2.発言への注意喚起や会議室の立ち上げや統合にも関わる「管理者」、 3.専門家として議論について"on tap"な意見表示を行う「促進者」、 4.意見に相互性を加える「編集者」である。

 電子自治体のプラットフォームは容器を用意しただけでは機能しない。これらの立会者の存在を重要と考える点からも、「e-デモ会議室」における「e-エディタ」の機能に注目したい。

 もちろん、この他にも地域における情報格差の是正、住民の情報リテラシーの向上、組織内における情報部門と他の事業部門との連携、さらに市町村と県との十分な情報交換など電子自治体や地域情報化をめぐる問題点は少なくない。静岡県においてもこれらの課題を認識しつつ、その克服に向けての方策を図り、地域公共経営システムが十分に機能するための施策展開を行っていくことが求められる。

1)(例えば)吉崎正弘『電子自治体の総合戦略』株式会社ニューメディア、2002、144頁

2)J.ハーバーマス『公共性の構造転換−第2版−』(細谷貞雄・山田正行訳)未来社、1994、p13 ハーバーマスの公共圏についての考察は、後に述べるプラットフォームとしての議論の場との関係でも重要である。

3)吉原直樹「地方分権とガバナンス4」(日本経済新聞新聞朝刊)、2000年11月6日

4)「21世紀日本の構想」懇談会『日本のフロンティアは日本の中にあるー自立と協治で築く新世紀』講談社、2000、p44-46

5)河井孝仁「NPO評価にかかる「場」概念の明確化について」(静岡大学人文科学研究科修士論文)2001

6)『ユビキタス・ネットワークと市場創造』野村総合研究所、2002

7)http://premium.nikkeibp.co.jp/e-gov/gov5.shtml

8)鞄本総合研究所創発戦略センター『自治体のIT化の現状と今後の課題−電子自治体フォーラム参加の自治体職員意識調査(第二回報告)』2002、p8

9)(社)行政情報システム研究所『公共サイバースペースにおける双方向型情報交流手法に関する調査研究報告書』2002、p112

10)同上、p27

11)http://www.e-demo.pref.mie.jp/

12)河井孝仁、前掲論文

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