電子自治体における「プラットフォーム」概念について
−「創発型地域自治」の制度デザイン−
河井孝仁
名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程/静岡県企画部情報政策室
The concept of the "Platform" at the E-local government
- The Designing for the Emergence of the Local Governance -
Takayoshi Kawai
Graduate School of Information science , Nagoya University/
Information Policy Office ,Shizuoka Prefectural Office
1. はじめに
本論では、電子自治体を「創発型地域自治」にとっての重要な「制度」(1)としてデザインするための、基礎となる考察を行う。
「創発型地域自治」については、本論での議論により徐々に定義していくところであるが、とりあえず約言すれば、市民及びそのエージェントであるNPOや企業等が、「公共」におけるプレーヤーとして、地域課題の発見及び課題解決の束である政策の提言、形成及び実施について、行政庁の限られた視野を超えて、創造的、自発的に生成していくことによって成立する自治であると把握する。
もちろん、いわゆる市民参加にもとづく「参加型自治」との重複もあると考えるが、市民参加が、あらかじめ地方政府あるいは行政によりデザインされた枠組みへの参加という含意を持つのに対し、創発型地域自治は後に述べる政策協働等を基礎に、行政の、いわば”arm’s−length”を超えて地域の自治を目指すことに特徴がある。
では、創発型地域自治と電子自治体は、どのようにリンクするのであろうか。
高度情報化が電子自治体を産んだことについて贅言は必要ない。その(高度)「情報社会」を山内康英に従い「より多くの社会的な集団(NPO/NGO、企業、研究機関など)が、情報や知識の生産と流通に参加する社会」(2)と定義すれば、創発型地域自治の存在は「情報社会」の成立に極めて多くを負っている。つまり、ICTが実現した多様かつ広汎なネットワークと知識集積がなかったならば、創発型地域自治は、その有効性を極めて小さくしたはずである。これらの点は、今後の議論により明らかになる。
しかし、とりあえずは創発型地域自治を要求する思考について確認し、その後に電子自治体の、とりわけICTを活用したプラットフォーム機能の構築という側面が、創発型地域自治に重要な意義を持つことに言及したい。
創発型地域自治を要求する思考とは何か。それは「公共」概念への見直しに基づくものと考える。
まず、従来ややもすれば陥りがちであった「行政を公共と捉え、それ以外のプレーヤーによる動きを「私」とする思考」に疑問符を付ける。
その疑問符は以下に挙げる先行研究の確認に由るものでもあり、情報化の進展もその一因である地域課題への行政の解決能力の不全という現実にも後押しされている。
「公共」概念については、J.ハーバーマスの「公共圏」の考え方 (3)など重要な論考が多様にある。
本論ではハーバーマスを参照しつつ、吉原直樹及び「21世紀日本の構想」懇談会を導き手として「地域のガバナンス構造」を「公共」と位置づける。
吉原直樹は、ガバナンスを「共治」と表現している(4)。
「共治」とは、多様な組織の間にある非統制的で相互連関的な連結・調整によって(地域を)治めること。具体的には、地方自治体を中心にして、それと各種の行政機関、民間企業、ボランティア組織による協力連携をガバナンスの例としている。
河合隼雄を座長とする「21世紀日本の構想」懇談会報告書は、ガバナンスを多元的なアクターが責任を持って参加し責任を共有する仕組みであると位置づけ、地方政府、専門職集団、NPO等を、その担い手としている(5)。
この定義は「参加し、公を担う」と名づけられた節の一部として現れている。このことは、「公共」を「地域のガバナンス構造」として考えることへの強い支持となると考える。
ハーバーマスの言う議論の場としての「公共圏」の考え方及び上記のガバナンスについての先行定義を受けて、「公共経営システム」という考え方が提示できる(6)。
(図1 公共経営システム 略)
「公共経営システム」は、図1に見るように、市民が直接に、あるいは行政・企業・NPOをエージェントとし、相互に評価・介入するエージェントへの負託・委任・評価を通じて「新しい公共」の経営に加わるという概念である。
以上を前提とすれば、「市民及びNPO・企業等が、地域課題について、行政と並ぶ公共プレーヤーとして多様に協働し、創造的、自発的に解決を図ることによって成立する自治」である創発型地域自治が必要とされることは、十分に理解可能な解であると考える。
ここまでの議論を踏まえたうえで、電子自治体の把握を行い、その制度デザインについて検討していく。
電子自治体は、情報インフラの整備、バックヤードのIT化、インターフェースのICT化、ICTを活用したプラットフォームの構築を特徴とすると考える。
それぞれについて章を分けての考察を行うが、なかでも、今まで必ずしも十分な概念規定が行われていなかったと考える、電子自治体における「プラットフォーム」機能について演繹的、帰納的に考察を行い、創発型地域自治の成立に資するものとなることを説明する。
2. 情報インフラの整備
情報インフラの整備は、電子自治体を含めた高度情報社会の基盤を為すものとして必須である。あらためて述べるまでもないが政府の「e−Japan戦略」においては超高速ネットワークインフラの整備が重要な目標として掲げられていた(7)。
この情報インフラの整備については、府県レベルでは「情報ハイウェイ」として行政主導の整備が進められている。
早くからの取り組みとして知られる岡山県(8)をはじめとして岩手県、兵庫県、鳥取県、宮崎県などの他、情報ハイウェイを「超高速(光)回線を利用した自治体の敷設する県域幹線系ネットワークとすれば、情報ハイウェイとは呼ばなくてもその他の多くの県で施策化や計画策定が行われ、これらが「情報先進県」として紹介されることも少なくない。
岡山県を例として、この情報ハイウェイ敷設の目的を確認する(9)。
岡山県のウェブサイトによれば、@インターネット接続コストの大幅な低減による情報コストの優位性の確保、A高速インターネット網の拡大による高速アクセス環境の優位性の確保、B中四国情報ネットワークのハブ整備による拠点としての優位性保持、C上記3点に基づく岡山情報ハイウェイの活用と波及効果によるソフト展開の優位性の確保が挙げられている。
これらの目的は達成されたのか、達成されようとしているのか。少なくとも@及びAの実現は明白である。平成15年度情報通信白書によれば、今や、日本のブロードバンド接続コストは世界でも極めて低廉なものとなり、急激な利用者の増加が見られる(10)。
ただ、この成果が地方行政が主導した情報ハイウェイの寄与に基づくものであるのか。その点は俄に肯んじ得ない。それは静岡県を対照群として比較することでも明らかになる。
静岡県は全県的な情報インフラ整備の具体的計画を持たない。一方で高速回線であるDSLサービス提供数は全国4位の水準にあり、世帯利用率は極めて高い(11)。
もちろんDSLは、光ファイバーを想定した超高速ネットワークとは考えられていない。しかしベストエフォートとはいえ20Mbps以上の回線速度の可能性を持つこととなったネットワークは、従来の高速回線の枠を超えはじめているとも考えられる。
ネットワークインフラという言葉からは「道路」がただちに連想される。従来、民間による幹線道路の敷設が考えられなかったことからも、行政が情報ハイウェイを敷設することに疑問はないかのように思われる。
経済学における公共財の考え方からも、道路は公共によって担われることが適切な解であるとされるだろう。
しかし、現在、正否についての議論はあるものの、高速道路について、小さくはない民営化の意見がある。さらに、PFI(Private Finance Initiative)による道路建設についても否定されていない。
ふりかえれば、公共が行政とは同値ではないことは既述した。インフラが公共財であるとしても、そのことが行政による保有をただちに唯一の解とするわけではない。
情報インフラについては、急速な技術進歩による多様な選択肢の可能性や、既設のインフラの利用率が必ずしも高くないことなど、道路とは異なる事象もある。
一方で、営利事業の経済効率からは過疎地等でのラストワンマイルについては十分な整備が期待できない状況もある。
問題は誰が作るかではなく公共的な利用が可能となる制度をどのようにデザインするかであるという言葉はここでも当てはまる。ハードとしての情報インフラ整備に係る公共投資の多寡をもって、電子自治体のデザインの適否を問うことはできない。
つまり、情報インフラが整備されることは電子自治体の基盤ではあるが、行政が自ら情報インフラを整備することが電子自治体を作り出すこととは異なるという、当然の思考の確認に至る。
3. バックヤードのIT化
つぎに電子自治体における「バックヤードのIT化」について確認を行う。バックヤードのIT化は、職員管理に関わる旅費・給与・職員厚生事務、事務管理に関わる稟議、事務決裁等内部事務の目的合理化のために行われる。ここでの「目的」とは、省力化、経常経費の削減及び意思決定システムの迅速化であるが、いずれも「行政経営」の視点から行われることが必要となる。
このことは、バックヤードのIT化を図る際に、導入するシステムを既存のプロセスに合わせてカスタマイズすることを優先するのではなく、高度情報化が情報共有や知識蓄積に極めて有効であるという特徴に応じて、行政の内部フローを改めるBPR(Business Process Re−engineering)が重要であることを示している。
静岡県を例として状況を示す。
静岡県では、昨年度までに教育委員会及び企業局の出先機関も含めて計 7,354台の端末を整備し、「しずおかデジタル・オフィス(SDO)」と呼ぶLAN構築による全職員パソコン一人一台体制を整えている。
現在、稼働データベース 1,100、電子メール利用数55,000件/日、掲示板アクセス数12,200件/日の運用状況となっている。主なデータベースとしては議会答弁録、会議室予約、公用車予約、電子給与明細、時間外勤務管理、電子決裁、電子職員録、旅行命令及び旅費計算などがある。
では、これらのバックヤードのIT化は、どのようなプロセス改革に結びついているのか。
紙媒体の縮減や単なる情報連絡のための会議の減少に伴う事務コスト削減は3億8000万円程度と見積もられている。
また、以前は各課に配属された庶務担当職員が10〜20名程度の課員の給与事務、旅費事務及び福利厚生事務を担当していたが、バックヤードのIT化に伴う充実したデータベースの支援は職員が個々に自らの当該事務を相当程度処理することを可能にし、1000人単位の職員に対し一括した対応を可能とした。これらの定型化は総務事務の民間委託も可能とするなど、プロセスへの大きな変化を生み出している。
しかし、それ以上に注目すべきは組織マネジメントの改革である。それは表面的には組織の改編として表れる。
従来の部長=次長=課長=課長補佐=係長=係員というピラミッド型組織を、部長=総室長=室長=室員と簡素化し、決定権も相当部分を室長に委ねた文鎮型とでも言うべきものになっている。これは、バックヤードのIT化により可能となったメール及びデータベースによる簡易な情報共有や、電子決裁システムを背景としている。
これにより迅速な組織意思の決定が進められるとともに、決定権を持った組織及びその長への事業評価も行いやすくなると考える。つまりアカウンタビリティ及びマネジメント等の視点から行政評価の必要が言われるなかで、評価の必要性及び実効性を抽象的なものにとどめず、具体的な組織パフォーマンスとして評価することが可能になる。
このことは、公共におけるプリンシパルとしての市民に対する、いわばコミュニケーションとしての政策評価を、個別の具体的施策により裏打ちしていくうえで有効である。
静岡県の進める行政評価システムである業務棚卸表においても、総合計画に示された数値目標を施策の管理指標によって個別具体化する作業が行われている(12)。
この管理指標が各室ごとに定めるものとなっていることは、バックヤードのIT化に基づく組織及びその長への評価の容易化と結びつくと考える。
静岡県のバックヤードのIT化に係る「県庁情報化戦略」(13)では、”ナレッジマネジメントシステム”の導入についても述べている。
また、浜松市では「市民の声システム」を構築し、CRM(Customer Relation Management)の視点に立ったナレッジマネジメントが動きだしている(14)。
今後、単に行政職員の手順ノウハウをマネジメントすべきナレッジとするのか、あるいは市民との関係のなかで産まれる知恵をナレッジとするのかにより、バックヤードのIT化が「行政生産性の向上」のツールにとどまるのか、市民とのインターフェースの多様化、充実化につながる道具となるのかに関わり、注目していく必要があるだろう。
これらは、先に政策評価を市民とのコミュニケーションと表現した点も併せ、バックヤードのIT化と次章のインターフェースのICT化とを架橋する議論である。
4. インターフェースのICT化
バックヤードのIT化についての議論からの架橋を受け、電子自治体における「インターフェースのICT化」について述べる。ここでは、特にコミュニケーションの重要性に留意して「IT」ではなく「ICT=Infomation & Communication Technology」という用語を用いる。
電子自治体における「インターフェース」機能を確認するなかで、先に述べた「バックヤードのIT化」では指摘されなかった「住民」(15)の確認が必要となる。
インターフェースとはまさに行政と住民との「接触・交渉面」である。どのような存在と「接触・交渉」するのかにより、インターフェース機能も異なるのは当然であり、「住民」とは何であるのかを定める必要がある。
参考になる議論を見る。
北川憲司は「札幌市IT経営戦略」について「行政と市民の関係性を変えていく顧客志向の経営を目指す自治体CRMの考え方を中心に据えた」と述べている(16)。ここには住民を行政サービスの顧客と捉える見方がある。
別の議論を確認しよう。藤沢市地域IT基本計画(2001年3月策定)は、その基本理念において「市民をサービスの受益者としてのみとらえるのではなく、それぞれが積極的にさまざまな取り組みに参加し、自律的に責任を持って行動するような社会をめざした自律・分散・協調的な取り組みによる情報化を進めます」と述べる。
ここでは、行政サービスの受益者としての住民に加え、主権者である存在としての市民(17)の両面においての把握が為されている。この二つの区分の境はそれほどに截然としているわけではない(18)。しかし、重複した部分においても、受益者あるいは主権者、どちらへの接触、交渉面なのかの把握によって、その制度デザインに明らかな違いは生まれる。
近年、顧客志向の行政が強調されている。先の北川の議論以外にも、多くの論及がある。行政を「お上」とする悪弊に比較すれば積極的な意見であり、顧客満足のための行政経営を考慮することは重要である。ただ、「創発型地域自治」の確立を図るためには、住民をサービスの顧客として捉えるだけでは展望は開かれない。市民のもつ主権者性を正しく認識する必要があると考える。
電子自治体のインターフェースのICT化についても、この二様の住民の捉え方を確認しつつ議論を行っていきたい。
まず、サービスの顧客としての住民とのインターフェースについていくつかの具体例を挙げ、検討する。
行政サービスの顧客とのインターフェースのICT化としては、電子申請(19)やウェブページからの公共施設予約(20)が特徴的なものとして挙げられる。住民基本台帳ネットワークについても当面はこのカテゴリでの運用となると考える。
ここで重要なことは、ICT化によって利便性を「高める」ことである。ICT化すれば自動的に利便性が「高まる」わけではない。そのためには、心身に障害のある者からのアクセスはもとより、外国語利用者や子どもからのアクセス等多様な利用者を考慮するユニバーサルデザインの発想が必要である。、また多様な経路を用意するために、携帯電話等パソコン以外の情報端末の利用も積極的に考慮されることが望ましい。
さらに、インターフェースのICT化が、従来のサービスを単にデジタルネットワーク経由にしたことにとどまるのでは積極的な評価は行えない。例えば検索機能の強化など、インターフェースのICT化によりサービスの品質を上げることを常に検討することも、広義でのデザイン設計につながる。
次に、主権者(プリンシパル)としての市民とのインターフェースについて事例を確認し、考察を行う。
プリンシパルとしての市民とのインターフェースについても、そのICT化によって、利便性を高める必要については共通する。
そのうえで、この範疇ではインターフェースのICT化により、市民の主権者性がエンパワメントされるデザインが考慮される必要がある。
ICTによるネットワークの緊密化及び高速化、集積された情報への接近容易性は、市民及び行政以外のエージェントが、行政が独占的に利用していた情報を、極めて効率的な形で入手できる可能性を増大させた。
このことは、公共経営システムにおけるエージェントとしての行政への評価に大きな意義を持つ。あわせて、次章で本格的に考察する創発型地域自治にとって重要な要素となることを指摘したうえで、具体的な事例について検討する。
プリンシパルとしての市民とのインターフェースのICT化において必須の内容が、インターネットを利用した情報公開制度の充実化であると考える。
情報公開については、ICTを活用することにより、大量の情報蓄積を利用可能となり、あわせて情報検索が容易になるとともに、庁舎等へ出向くことなく居宅や出先からの情報入手あるいは開示請求が可能となるなどの利便性の増大がある。これらに注目して多くの自治体の取り組みがある。
情報公開制度には「公文書開示請求」及び「情報提供」の二つの区分が考えられる。
まず公文書開示請求を見る。公文書開示請求は、1982年に山形県金山町ではじめて制度化されて以来、現在ではすべての都道府県で導入され、市区町村でも7割近くが実施されている。
しかし、ウェブページからの開示請求については、多様な対応が見られる。都道府県ウェブページについての2003年8月調査において、ウェブページからの開示請求が可能な都道府県は11都道府県と、ほぼ四分の一にとどまる(21)。このなかには、埼玉県、高知県及び長崎県のように開示請求の流れを説明するページから公文書の件名検索が可能となっている県がある。これらの自治体の対応には、単に請求手段を用意したということにとどまらない、インターフェースのICT化を市民のエンパワメントにつなげようとする積極性が見られる。具体的にも高知県では「みなさま、日頃、県政に関して知っておきたいこと、疑問に感じていることはありませんか。そんなとき公文書の開示請求をしてみるのも一つの方法です。この公文書開示システムは必要事項を記入するだけで、どなたでも簡単に請求できます。高知県は、県民のみなさまの参加による公正で開かれた県政を目指しています。お気軽に請求して下さい」とのコメントが見られる。一方で、県ウェブサイトのトップページに「情報公開」の語句さえない自治体も存在する。
公文書開示請求についての興味深いICT化の例に奈良県橿原市の取り組みがある(22)。橿原市ではウェブページから開示請求ができることにとどまらず、文書開示も窓口ではなくメールによる文書添付で受けることが可能となっている。セキュリティ面の課題なども指摘されているが、画期的なものと考えられる。
情報公開制度のうち情報提供施策について見る。ここで取り上げる情報提供は行政サービスのユーザーへの情報提供とは異なった視点からの、プリンシパルとしての市民へのそれである。特に行政評価及び政策形成過程についての情報提供が注目される。
いずれも紙媒体等での公開も可能であり、実際にも行われているところであるが、インターフェースのICT化は、より効率的な公開を可能とすると考える。
行政評価については、静岡県の業務棚卸表や青森県の事務事業評価なども注目され、ウェブページでの公開もされているが、三重県の「みえ政策評価システム」のウェブページでの情報提供(23)は、ICT化にあたって、プリンシパルとしての市民の利用を考慮したインターフェースが特記される。
「みえ政策評価システム」のウェブページでの公開にあたっては、単に評価表にとどまらずシステムについての考え方を提示している点や、pdfファイルではなくhtmlファイルの利用を含めたわかりやすいデザイン、さらにフリーワード検索の装備など秀逸である。評価方法そのものについての考察は本論の対象ではないが、事業の位置づけ、目標、自己評価及びマネージャーの方針などプリンシパルを意識したものとなっていると思われる。
政策形成過程のウェブページでの公開もはじまっている。ここでは審議中の計画や方針などが提供される。
政策形成という点では予算編成過程についても確認が必要である。鳥取県では予算査定状況の公開を行っている(24)。予算編成及びその査定は、計画や方針を財政の面から実現していくものであり、短期レベルでは極めて重要な政策形成過程となる。これをウェブページで公開することは、行政評価が結果の評価としての意義をもつのに対し、過程への評価を比較的簡易に可能にするという点で画期的なものである。これに加えて、予算査定状況の公開が、事業課では発案されながら財政担当との交渉等により予算化されなかった施策を明らかにすることで、あり得た施策の選択肢をプリンシパルとしての市民に示すことにも繋がり、創発型地域自治を実現するにあたっての大きな政策リソースとなりうると考える。
また、最近では計画等への市民からの意見提出を保障する制度としてパブリックコメントが取り入れられ、メールやウェブページからの意見提示を可能としている自治体も少なくない。これもまた市民とのインターフェースのICT化である。
パブリックコメントに係るICT活用のうち青森県の事例を挙げる。青森県はこのパブリックコメントの実施に必要な事項を定めた規定を「あおもり県民政策提案実施要綱」と名づけている。政策提案については次章で本格的に議論するが、この事業がパブリックコメントを「政策提案」としていることは、行政が政策の当初設計を行い、市民がコメンテイターとして参加するというデザインがうかがわれる。この点は、公共経営システムにおけるプリンシパル及び各エージェントが政策を協働により構築し、実施する創発型地域自治という考え方とは確実な相違があり、次章との関連からも興味深い。
以上、電子自治体におけるインターフェースのICT化について検討を行ってきた。とりわけ、プリンシパルとしての市民とのインターフェースをどのようにICT化するかは、それぞれの自治体の「公共」の捉え方の一端を示していると考えられ、注目する必要がある。
5. ICTを活用したプラットフォーム構築
(1)プラットフォームとは何か
電子自治体におけるプラットフォームの構築について述べる。プラットフォーム概念を導入することで、市民及びNPO、企業、行政の協働によって行われ得る創発型地域自治の可能性を明確にできる。
まず、プラットフォームを定義する。
國領二郎は「共通の言語や信頼関係、参加する誘因が生まれる仕組みを提供して、参加者の相互作用を活性化させる存在をプラットフォーム」と規定する(25)とともに、「プラットフォーム・ビジネス」を情報集約事業者として定義し(26)、取引相手の探索、信頼仲介、経済価値評価、標準取引手順の提供、及び物流など諸機能の統合の働きをあげる。
あるいは、泉田裕彦は「情報通信技術も活用して知識循環の輪を拡大し、組織を超越して特定の政策形成について共通の問題意識や利害関係を有するものから構成される「場」のことを「政策形成プラットフォーム」」と呼んでいる(27)。
本論では、ICTの活用によって構築されるプラットフォームを「公共経営に関わる様々な情報が出会う場」として捉え、これにより創発型地域自治を支えることが期待されるものとする。
ただし、この定義は事例を確認するなかで、具体的に検証され、発展を深めることとしていきたい。
以下では、既に機能しているプラットフォームとして電子市民会議室を、今後の発展が期待されるプラットフォームとして「政策協働市場」を事例として確認する。
(2)電子市民会議室
ICTを活用して構築されたプラットフォームの事例として、まず電子市民会議室を挙げる。
近年、自治体では、ホームページ上の掲示板等を利用した電子市民会議室を開設する例が増えてきている。
著名なものでも、札幌市「eトークさっぽろ」(28)、大和市「どこでもコミュニティ」(29)、また都道府県としては三重県「eデモ会議室」(30)などがある。
これらは、一定のテーマ(テーマについても行政側からの提示とあわせ、別途募集を行うことが多い)について、登録者が議論、意見交換及び事実の紹介などを行い、ホームページ及びメーリングリストを利用して情報の共有、課題の発見や確認及び行政への意見表明を行うものであり、利用者によるコミュニティの形成を意図している例もある。
これらのなかでも、相応の成果を上げているものに藤沢市市民電子会議室 (31)がある。
藤沢市は「藤沢市地域IT基本計画」における「地域情報化の基本理念」として「受動的な情報化から主体的・能動的な情報化」を述べている。その一環として藤沢市市民電子会議室も構築されている。
具体的な藤沢市市民電子会議室の状況を見る。
運営については、行政が主導するのではなく、市民公募による委員10人による運営委員会により行われる。また、行政がテーマ設定を行う市役所エリアと、市民が会議室設定を行う市民エリアに分かれ、市役所エリアでは運営委員が、市民エリアでは各会議室開設者が進行役を務めている。
経緯については、1996年の実験プロジェクトの設立に始まり、2001年4月には本格稼働に至っている。発足以来のアクセス件数は407,819件、発言登録数は2,399人(2003年8月1日現在)、会議室閲覧数は415件/日、発言数は53件/日(2003年2月1日現在)に上る。
さらに、市役所エリア会議室での意見を基礎とした運営委員から市への提案書も、既に5件の実績がある。
こうした実績は、藤沢市市民電子会議室が「公共経営に関わる様々な情報が出会う場」となっていることを示し、創発型地域自治を支える電子自治体におけるプラットフォームとして一定の機能を果たしていると考えられ、本論にとって重要な意義を持つ。
藤沢市市民電子会議室が、プラットフォームとして相応の成功をおさめている理由は何か、分析を行う。
まず、発足当初の慶應義塾大学等の外部からの支援と藤沢市の努力による継続的な取り組みが挙げられる。これにより藤沢市内外からの認知、評価が行われ、それがフィ−ドバックとなって、さらに制度の充実が図られていると考えられる。
次に、会議室のデザインについて、市役所エリアと市民エリアが区分されていることがある。行政によるテーマ設定だけでは、市民からの課題発見には不十分であろう。例えば「バリアフリーを考える」という会議室は市民からのテーマ設定ではじまり、活発な議論が行われている。一方で「グルメふじさわのたび」のような地域課題とは直接に結びつかない「場」も、電子市民会議室の「敷居」を低くし、参加を楽しいものにするために重要である。
会議室の運営にも鍵がある。会議室の運営を行政が直接に行うのではなく、市民公募の運営委員(市役所エリア)または会議室を開設した市民(市民エリア)が担っていることは、規則等での裏打ちを必要とする行政に比べ、柔軟で機敏な対応に結びつきやすい。
運営委員については、彼らが市役所エリアでの電子会議室において、その学識、経験等に基づく知見により、議論の進行が動的に行われるための「編集」(32)作業を行うことに大きな意味がある。また、運営委員が市民エリアでも存在を明らかにし、会議室開設等の「活動」を行うことで、参加者に対する「顔」の認知が図られていることも重視する必要がある。
さらに、デジタルネットワークの”on line”での対応だけでなく”off line”での動きも見逃せない。
一つには、会議室への書き込み方法や会議室開設方法など、電子市民会議室へ参加するための市民向け講習の実施がある。これは従来の「IT講習会」がいわば情報消費者としての学習にとどまる可能性があるのに対し、創発型地域自治へプリンシパルあるいはエージェントとして参画を促すことに繋がる講習であると評価できる。
”off line”での、もう一つの動きにも注目する。それは、会議室参加者が実際に出会う場を設けるとともに、単なる顔合わせではなく、議論やコミュニケーションが成立しやすくなるための運営委員による周到な設定である。単にネットワーク上の参加者が出会う「オフ会」にとどまらない、コミュニケーションへの編集作業が”off line”でも行われている。これは、「インターネット上での顔の見えないコミュニケーションに信頼を『再埋め込み』する」(33)という作業に他ならない。
藤沢市市民電子会議室で利用されているアプリケーションの機能についても看過できない。藤沢市市民電子会議室では、Community Editor「縁」というアプリケーションが利用されている。
Community Editor「縁」は、@ 掲示板とメーリングリストが連動していること A 「拍手」ボタンなど簡易な同意機能があること B 権限者がスレッド(話題の流れを視覚的に示す樹形図)を付け替えるなどの作業が可能であること など多くの特徴を持っている。これは、意見交換における参加の促進に役立つとともに、議論の明確さの保持等に利点を持つと考える。
さらに、導入したアプリケーションについても、参加者が利用していくなかで必要な機能、使いにくい機能などを確認しながら、バージョンアップがされていることにも注目したい。基盤としてのアプリケーションさえも既定ではなく意見交換により変えていくことができる。
こうした複合した条件(34)が、藤沢市民電子会議室を相応の成功に結びつけていると考えられ(35)、今後の電子自治体におけるプラットフォーム構築にとっても有意義な作業基準となると考える。
(3)政策協働市場
電子自治体におけるプラットフォームは電子市民会議室にとどまるものではないと考える。本章では、その重要な展開事例として「政策協働市場」という考え方を提示する。
そのための考察基礎として、静岡県の「NPOアイデア活用協働推進事業」(36)を分析する。
静岡県の行っている「NPOアイデア活用協働推進事業」は、2001年5月28日に施行された事業実施要綱に基づき行われている。
以下に、静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」の概要を、ICTの活用に留意しつつ、事業の流れに沿い確認する。
「NPOアイデア活用協働推進事業」において、静岡県はNPOからの政策提案を通年募集し、希望するNPOはウェブサイトあるいはeメール等を利用して県NPO推進室にアイデアを提案する。
提案にあたっては、事業の名称、事業の必要期間、事業の概要に加え、目的、効果、概算の見積額、事業の公益性、実現可能性、先進性、モデル性等についても記述することとされている。
提案された事業は、NPO推進室長が座長となり、関連部局担当者により構成された「NPO連絡調整会議」において各担当所属に割り振られる。
この間、提案された事業は、ウェブサイトに掲載され、県民から提案事業に関して意見の募集が行われる。
事業の割り振りを受けた各事業担当所属(室)は、提案事業の先駆性、モデル性、実施可能性、予算見積もり等の適正性について検討する。
そのうえで必要なものについては、各部局が財政担当との調整を行い、県全体の中での施策優先順位についての検討を経たうえ、予算化が図られる。
これらの結果について、ウェブサイト上では、検討結果として「実施の必要性を認める」「既に施策化されている」「県施策化の必要を認めない」等の意見を付して掲示される。
予算化された事業について、各部局はNPOの自主性・ 先進性を尊重しながら、NPOへ委託するなどの方法により事業を実施する。
事業実施後には事業成果の検討を行い、検討結果もウェブサイトに掲載される。
このように、静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」では、提案、事業内容の公開、採否結果提示、県民からの意見募集さらに事業評価について、ウェブサイトを中心とした積極的なICTの活用が見られる。
これらは、不十分な点はあるものの、ICTを活用したプラットフォーム構築への志向と考えることができる。この点を、いくつかの自治体で実施されているNPO等からの政策提案事業との対比により示す。
他都道府県が実施している、NPO等からの施策提案を募集する事業として、大阪府の「提案公募型事業」及び岐阜県の「岐阜地域協働型県民活動促進事業」を確認する。
大阪府「提案公募型事業」は平成13年9月に策定された「NPOとの協働を進めるためのガイドライン」に基づき実施されている。府庁内のいくつかの部局が提案テーマを提示し、当該テーマに対する企画案をNPOが応募するものとなっている。
各テーマは部局が政策、施策化を要する課題として認識しているものであるが、当該年度にテーマ設定されなかったものについては、NPO側では課題として認識し、適切な政策化を必要と考えているテーマであっても応募できない。
比較して、静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」は、多様な課題設定を可能としている。このことは、政策に関する多様な情報の出会いが期待されるICTを活用したプラットフォームの可能性に関わって重要である。
岐阜県「岐阜地域協働型県民活動促進事業」は、事業実施要綱によれば「政策提案」を含む採択事業に情報提供や関係機関との調整にかかる支援が得られることとなっている。また、別途、財団法人「岐阜県広報センター」からの資金支援が行われる。
大阪府「提案公募型事業」及び岐阜県「岐阜地域協働型県民活動促進事業」に係るICTの活用状況について見る。
いずれの事業も、募集の案内や応募方法、さらに事業実施要綱も府県のホームページから閲覧が可能である。
また、応募事業のうち採択された事業について、大阪府では受託団体名、事業名及び数行程度の事業内容がサイト内に記載がある。
岐阜県では事例として、大阪府記載の内容に加え、事業費・交付金額・詳細な事業実績、成果概要、グループからのコメントも記載され、具体的な活動内容が思い浮かぶものとなっている。さらに、動画による活動紹介までも用意され、情報発信の充実が感じられる。
静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」と比較する。
静岡県事業においても、事業の考え方や事業実施要綱についてホームページからの閲覧が可能であり、この点に大きな相違はない。
静岡県事業が他の2事例と大きく異なるのは公開時期である。大阪府及び岐阜県での事業内容の公開が事業採択後であることに比し、静岡県では提案応募の時点から事業内容が掲載される。
結果として採択に至らない事業も、ホームページ利用者に公開されることになる。さらに、県民の意見提示が可能であり、かつ当該意見もまた公開される点にも重要な意味がある。
この点に、静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」に、プラットフォーム構築の可能性を見る。
非採択事業も公開することで、公共経営に関わる多様な情報が出会い、採否の判断を評価する「場」の形成につながる。さらに、行政とは異なった判断基準による、他の公共エージェントによる施策への探索、評価も可能となる。また、県民からの提案事業への意見提示は、さらに多様な情報の出会いを促し、意見交換の「場」をつくる可能性がある。
以上の静岡県「NPOアイデア活用協働推進事業」についての検討を考察材料として、ICTを活用した「政策協働市場」について考察する。
この際、まず、対照群としての意味も込めて「政策市場」という概念についての確認を行い、そのうえで「政策協働市場」について議論を行う。
「政策市場」という語句については、2001年に「政策市場の実現性に関する研究」研究報告書が総合研究開発機構が発刊されている。
また、青森県「政策マーケティングブック」においても「政策市場」の語が用いられている。この「政策マーケティングブック」は、青森県がベンチマーク指標の作成のために、NPO等外部専門家を含めた「政策マーケティング委員会」を設け、その成果として2002年3月に発刊されたものである。ただし、「政策市場」については「いちば」としてのイメージであるとされ、象徴的、寓話的に述べられているが、具体的な「場」としての定義は与えられていない。
一方、既に述べたように、泉田裕彦が「政策形成プラットフォーム」についての考察を行っている(37)。「政策形成プラットフォーム」は、言葉としては「市場」という用語を使っていないが、内容的に「政策市場」と重なるものと考えられる。
ここでは、総合研究開発機構研究報告書を主に参照しながら「政策市場」の定義を確認する。
「政策市場」というタームの必要性を導く課題認識としては、現状の政策形成過程に公開性がなく、形成に関わったプレーヤー及びその調整過程が国民(38)に見えない一方で、国民の政策関与、参加の関心が高まっていることが述べられている。
そのうえで、「政策議論をオープンに行い、各自が持ち寄った政策を意見交換、情報交換し、それぞれの適否の議論を行った後に一つの政策にまとめる」場を理想像とする。さらに、「市場が存在する場についても、具体的なスペースでなくても、…ネット上のサイトでも可能になると思われる。」と本論に関わる言及も行われている(39)。
上記の定義に、本論の「政策協働市場」を対比させる。
「政策市場」と「政策協働市場」の視座は異なる。
その視座の違いは、「政策」の捉え方に依拠する。総合研究開発機構の考える「政策」は最終的には一元的に政府に収束する。それは政策形成の最終段階が「法案作成」に結びつけられることからも明らかであると思われる。
政策市場のプレーヤーは公開のなかで議論を行う。それは政府が行う政策を国民ニーズに的確に対応したものとするためである。
いわば政策市場での「売り手」(=政策提案者)は多様なプレーヤーであるが、「買い手」(=政策実施主体)は政府に独占される。
創発型地域自治を支えるプラットフォームである政策協働市場という概念はどうか。
(図2)
(図2 政策協働市場の概念 略)
ここでの「政策」の買い手=政策実施主体は「(中央・自治体)政府」に限定されない。
「政策」についての定義は、いずれも「一定の(明示・黙示、可塑性の有・無といった属性を持つ)計画の下で実施される課題解決の束」であろう。しかし、既に述べた公共経営システムにおいては、公共=政府・行政ではなく、プリンシパルとしての市民、エージェントしての行政・NPO・企業がともに参画して創りだすものを公共として位置づける。
であれば、「政策」もまた政府・行政の独占物ではないと考えられる。公共エージェントである行政・NPO・企業がセクターとして、あるいは個々に連携して行うものも、上述の定義に基づくものであれば「政策」定義の範疇と考える。これについては、上山信一の政策連携に関わる議論(40)が参考になる。
政策協働市場における「買い手」は、政策市場におけるそれのような政府・行政だけではない。現状の課題認識に応じて、何らかの「政策的解決」を図ろうとするものは、NPOであっても企業であっても「買い手」となりうる。もちろん「売り手」についてもNPOに限定される必要はない。プリンシパルとしての個々の市民、エージェントとしての企業も「売り手」として、また市場に参加しうる。
ここまで「売り手」と「買い手」という名で述べてきた市場への参加者を新しい視角で見直すなら、そこには、多様な課題を抱えた公共をともに担い、「政策」連携による解決を図るために協働の対象を探している市民、公共エージェントとしての行政・NPO・企業が現れる。
そのための政策に関わる信頼形成、発信、探索、評価が行われる場が政策協働市場である。この政策協働市場も一つの基礎として、政策実施及び政策連携により創発型地域自治が支えられると考える。
(4)多様に構築されるプラットフォーム
電子自治体におけるプラットフォームとして、部分的に重複しながら存在する電子市民会議室と政策協働市場以外にも、多様なプラットフォームがありうる。
例えば、ICTのなかでもWebGISを利用したプラットフォーム構築がある。
最近、いくつかの自治体でWebGISの利用が行われているが、ここでは静岡県の「地図活用地域プラットフォーム〜どこどこ・ぷらっとふぉーむ」(41)について述べる。
「どこどこ・ぷらっとふぉーむ」は、パソコンはもちろん携帯電話からも閲覧、登録可能な地域開放型WebGISである。静岡県では、このシステムを市町村、NPO及び公共的活動を行う法人、任意団体に無償で貸与する。
希望し、貸与を受けた各団体は、それぞれのミッションに基づき、インターネット上の地図に情報を登録し、利用する。
一方で、それぞれの団体が登録、作成した地図情報は、重畳して閲覧することも可能となっている。これにより、「情報が出会い」、「地域」の再発見の可能性及び新たな地域課題の気づきにもつながることが期待されている。地図に付加された情報は「場」に結びついた「知」を誘発する。
これもまた、創発型地域自治のきっかけをつくるプラットフォームとしての機能を持つ新しい展開である。
また、「地域ポータル」と呼ばれるウェブサイトについても、公共的な情報の出会いを支援するプラットフォームとしての意味を持つものがある。
例えば、「ウェブシティさっぽろ」(42)や静岡県「NPOの森」(43)などのウェブサイトがある。これらは、ICT化により可能となった情報の集積、編集、発信能力により、従来、行政やNPOが各々に発信していた情報を、ひとつの「場」で合理的に提供し、出会いを創っている。行政、NPOや企業が連携して運営される市民メディアがプラットフォームを構築し、行政が単独で提示できる「公共」情報を超える「情報の場」を形成する姿と見ることができる。
今後も電子自治体における様々なプラットフォームが構築されることが期待され、その際に活用可能な情報技術もまた、急速な進展のなかにある。
たとえば、書籍のネット販売を行っているAmazon.com(44)に見られるような嗜好マッチングエンジン(A書籍を購入した人物が、B書籍も購入している比率が高いことを示すアプリケーション)をプラットフォームに導入することで、議論の方向性を示したり、政策探索の支援を行うことができるかもしれない。
また、ブロードバンドの進展を基礎とすれば、ネットワーク上の分身であるアバタを活用することも、参加の敷居を低くすることや、意見交換の視覚化に資すると思われる。
さらに、ユーザと仮想社会としてのプラットフォームをつなぐリンクとして、パーソナルエージェントを導入することも興味深い。パーソナルエージェントについては、仮想社会に参加するユーザーを個別に支援する自立的に稼働可能なアプリケーションプログラムとして実験も行われている(45)。
新しいネットワーク言語であるXMLへの期待もある。タグを利用することでの情報の意味や属性等の自動識別が容易になれば、ICTを活用したプラットフォームの構築にも役立ちうると考える。
6. 結論
あらためて創発型地域自治を支える電子自治体の制度構図を示す。
まず、情報インフラの整備は、他の要素であるバックヤードのIT化、インターフェースのICT化、さらにICTを活用したプラットフォームの構築のために必須である。しかし、整備が行政によって施工、保有されることは必ずしも要求されない。
次に、バックヤードのIT化も必要である。これにより行政経営の合理化が図られ、様々な資源が創発型地域自治を支えるNPOや企業等の他のエージェントに振り向け可能となる。あわせて組織マネジメントの改革により行政のパフォーマンス評価を的確に行える基礎を造り出すことができる。
インターフェースのICT化は、電子自治体を単に狭義の行政経営の合理化の動機あるいは結果にとどめず、創発型地域自治の基盤とするために欠くことができない。
このことは顧客としての住民に対するインターフェースのICT化に終わらず、プリンシパルである市民とのインターフェースのICT化、それによるエンパワメントにまで歩を延ばすことで意味を持つ。
こうして情報インフラの整備により基盤を持ち、バックヤードのIT化に基づく行政経営の合理化により可能性を拡大し、インターフェースのICT化により市民及びNPO、企業等が公共エージェントとしてエンパワメントされた状況の下で、ICTを活用したプラットフォームの構築が、創発型地域自治を支援する制度構図が生成される。
行政に独占された公共から、地域のプレーヤーがそれぞれに楽しく役割を果たすことによって成立する「新しい公共」へ、そのための創発的自治のために、上記制度構図をめざした電子自治体へのデザインが必要とされるとの考察を本論の結論とする。
最後に今後の課題を示す。
本論にとって最も重要な概念の一つである「プラットフォーム」は「電子自治体におけるプラットフォーム」でなくてはならないのか。本論では、電子自治体としての行政が供給する手段及び「場」を中心として、議論を進めた。
しかし、プラットフォームが行政から独占的に供給される必要については、早々に肯定されない。既に地域ポータルに関わって述べたように、また鳥取県ジゲおこしインターネット協議会メーリングリスト(46)が民間による構築にも関わらず十分に創発的地域自治を支援しているように、供給主体が行政ではないプラットフォームの立ち上がりも見られる。
その際、行政が供給主体ではないプラットフォームの成立条件をどのように見るのか、行政のもつ民主主義的正統性による担保とも関わりながら、今後の研究課題となると考える(47)。
注
(1)ここでは「制度」を法規定としてではなく、「ゲームが繰り返しプレイされる仕方の際立った特徴にかんして共有された予想の自己維持的システム」(Aoki,Masahiko:『比較制度分析に向けて』.瀧澤弘和・谷口和弘訳.NTT出版.p14.2001)として理解する。これにより、「制度」を条例や要綱という静的あるいは当為的な枠組みというより、むしろ動的な、あるいは現実の枠組みとして把握可能となる。
(2)山内康英:ポスト開発主義の政策決定と社会的知識マネジメント.野中郁次郎・泉田裕彦・永田晃也編著『知識国家論序説.東洋経済新報社.p98.2003
(3)J.ハーバーマス:『公共性の構造転換−第2版−』.細谷貞雄・山田正行訳.未来社.p13.1994
(4)吉原直樹:地方分権とガバナンス4.日本経済新聞新聞朝刊.2000年11月6日
(5)「21世紀日本の構想」懇談会:『日本のフロンティアは日本の中にあるー自立と協治で築く新世紀』.講談社、p44-46.2000
(6)河井孝仁:NPO評価にかかる「場」概念の明確化について.静岡大学人文科学研究科修士論文.2001
(7)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/010122honbun.html
(8)http://www.pref.okayama.jp/kikaku/joho/what.htm
(9)総務省東北総合通信局のウェブサイトによれば、岡山県情報ハイウェイ整備構想の費用は50〜60億円、年間ランニングコストは5億円とされる
http://www.ttb.go.jp/tetuduki/catv/usage/okayama.html。これについてはインフラ整備以外の費用も含まれていると考えられ、(株)岡山広域産業情報システムの資料では整備費用21億円、年間保守費用1億円との数字もある
http://www.key3media.co.jp/event/e-drive/2001/pdf/SS6.pdf
(10)http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/ 第1章第1節
(11)http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/dsl/index2.htm
(12)http://www2.pref.shizuoka.jp/all/gyotana.nsf/
(13)http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-01/elec_pref/index.htm
(14)仲井英之:浜松市における「市民の声システム」の活用について.月刊LASDEC
2003年7月.p19
(15)ここでは以下の議論の都合上、市民という言葉を用いず住民という言葉を使っている。
(16)北川憲司:札幌市における自治体CRMへの挑戦.月刊LASDEC
2003年7月.p6
(17)市民を「自由,平等という共和感覚をもった自発的人間類型」(松下圭一:『市民自治の憲法理論』.岩波新書.xページ.1975)と定義するのであれば、この側面から「住民」を捉えることにより初めて「市民」という語が使用できる
(18)例えば、後に述べる公文書開示請求についても、自らの個人利益動機により開示請求を行う場合も少なからずあり得る。
(19)東京都の事例
http://www.metro.tokyo.jp/ONLINE/denshi.htm
(20)静岡県では「とれるnet」としてサービス提供している。http://yoyaku.pref.shizuoka.jp/
(21)ウェブページからの開示請求が可能であったのは北海道、岩手県、埼玉県、東京都、静岡県、三重県、大阪府、鳥取県、高知県、長崎県、熊本県。宮城県はメールによる請求が可能となっている
(22)http://premium.nikkeibp.co.jp/e-gov/case25a.shtml
(23)http://www.pref.mie.jp/GYOUSEI/plan/jimu02k/index.htm
(24)http://www.pref.tottori.jp/soumubu/zaiseika/yosanhensei/
(25)國領二郎:ITを生かす.日本経済新聞朝刊.2002.3.4付け
(26)國領二郎:『オープン・アーキテクチャ戦略』.ダイヤモンド社.1999
(27)泉田裕彦:政府の機能と情報化による知識創造の場の拡大.野中郁次郎他編『知識国家論序説』.東洋経済新報社.p60.2003
(28)http://www.infommunity.city.sapporo.jp/index.html
(29)http://www2.city.yamato.kanagawa.jp/cgi-bin/top.cgi
(30)http://www.e-demo.pref.mie.jp/
(31)http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/~denshi/
(32)ここでの「編集」は金子郁容、松岡正剛、下河辺淳編『ボランタリー経済の誕生』.p20.1998で述べられている「情報に何らかのかたちではたらきかけること」を意味する
(33)今井賢一:『情報技術と経済文化』.NTT出版.p317.2002
(34)小暮の引用によれば、J.Preeceはオンライン・コミュニティの構成要素として @
主導や司会進行というような特別な役割を遂行して、社会的なインタラクションを行なう人々 A
コミュニティに理由を与える共有目的 B
インタラクションを導く暗黙の仮定、慣習、プロトコル C
支援・仲介し、連帯感を促進する計算機システム を挙げる。これらが藤沢市民電子会議でも大枠で成立していることは確認したとおりである。小暮潔:ネットワーク・コミュニティ.酒井利之他編『高度情報化社会のガバナンス』.p53.2003
(35)藤沢市の地理的位置及びそれに伴う歴史的経路に基づき培われた「社会的資本」を藤沢市民電子会議室の成功の要因とする考え方について本論では検討を行っていない。しかし、青木の「社会的資本は…過去の霧の中に隠された起源を持つものではなく個人による投資及び社会的交換に基づくもの」とする思考は、他の地域での電子市民会議室というプラットフォームの有意義性を保持するものと考える。青木昌彦:前掲書.p277.2001
(36)http://www.npo.pref.shizuoka.jp/info/i-idea.asp
(37)泉田裕彦:前掲論文.p60.2003
(38)総合研究開発機構研究では主に国の政策を対象に考えている。
(39)総合研究開発機構:政策市場の実現性に関する研究.p1.2001 なお、強調は引用者による
(40)上山信一:『政策連携の時代』.日本評論社.
2002
(41)http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-01/doko/
(42)http://web.city.sapporo.jp/
(43)http://www.shizuoka-npo.jp/
(44)http://www.amazon.co.jp/
(45)松田晃一:サイバースペースにおける文化の形成とその課題.遠藤薫編著『環境としての情報空間』.アグネ承風社.p96.2002
(46)http://www.tottori.net/mini.html
(47)この課題に関わって重要な要素となると考える次の文章を紹介しておく。「もっとも重要なコモンズは国の介入に支援されたものだった。国有化という介入ではない。−ここで言っているのはコモンズであって、国有財産ではない。そうではなくて、一部のリソースをオープンで中立的になるよう保護する法体系だ。」(L.レッシング:『コモンズ』.翔泳社.p349.2002)