レンガ通り

 ’92年11月、笑福亭鶴瓶さん(以下つるべさん)のabcラジオの番組にゲストとして出演された時に、僕のリクエストに応えてくださって、ギター1本の弾き語りで「レンガ通り」を歌ってくださったことがありました。
 番組の前の週の放送の最後にひとことつるべさんが、「来週のゲストは村下孝蔵さんです」の言葉に、これはお便りしなくてはと、すぐに番組あてに手紙を書きました。
 当日の番組では、村下さんへのお便りは僕が書いた手紙1通だったとつるべさんがおっしゃってました。番組自体深夜に放送されているものでしたし、前週の放送の終わりにひとこと紹介があっただけでしたので、仕方がないのですが、僕にとっては当日の放送で読まれると言う幸運に恵まれました。
 その手紙の終わりに電話番号を書いておいたので、深夜の生放送中につるべさんが直接電話をくださいました。
 電話をかけてくださったのは村下さんで、一言ご挨拶をさせていただいた後、鶴瓶さんに受話器は渡されました。
 つるべさんが直接電話口にいてお話させていただいたのですが、つるべさんって普段ラジオなどで聞くよりいっそうガラガラ声なんだなあと感じたことを覚えています。
 村下さんも人を押しのけてお話するようなタイプの方ではないので、残念ながら直接お話すると言うより、つるべさんを経由してお話するような形となりました。それでも、僕が村下さんへの思いをお伝えしたことに対してとても喜んでくださいました。
 また、僕が音楽活動をしていて、村下さんの曲も歌わせてもらっていると僕が送った手紙に書いていたのを読んで、つるべさんが電話口で歌ってみろとおっしゃったのです。緊張するし、村下さんの前で恥ずかしかったのですが、意を決して「初恋」と「踊り子」を楽器なしですが、すこしずつ歌わせてもらいました。
 同じく番組に出演されていたその当時村下さんのバックでギターを弾いていた坂本さんが、「村下さんの歌は意外に難しいのにけっこう上手ですね。」とお褒めの言葉をくださいました。でも、すぐその後に坂本さんは、「小さい声で歌うから上手に聞こえるのかも・・・」などと落ちをつけてくれました。
 そしてついに手紙にも書いておいたのですが、村下さんが僕のリクエストに対して生で歌ってくれることになったのです。
 手紙には、生で歌ってくださいと言うリクエストとして、「踊り子」や「春雨」も書いておいたと思うのですが、アルバムの中に収録された村下さんファンには有名な「レンガ通り」を最終的にリクエストさせてもらいました。
 アーチストの方も自分の曲とは言ってもすぐには歌えないケースもよくあるようですが、「レンガ通り」なら大丈夫ですと、快く引き受けてくださいました。
 フルコーラスで歌ってくださったのですが、僕は感激のあまり村下さんが歌ってくださっている間、受話器を握ったまま瞳を熱くしながら震えていました。
 歌ってくださった後もあれこれお話させていただき、15分ほど電話を繋いでいてくださいました。
 受話器を置いた後、その後の放送を聞いている間もうれしくてうれしくて深夜にもかかわらず、大声で笑いそうになったり、泣きそうになったりと興奮の夜を過ごしました。師匠と崇める村下さんとの距離が最も短くなった瞬間でしたし、忘れえぬ思い出となりました。


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