初恋

 人を初めて好きになったというのは、実に早くて小学2年生のことでした。
 その相手というのは当時同じクラスだったNさんでした。彼女はどちらかというとボーイッシュなタイプで話し方も早口だったので、活発な印象でした。
 図工の時間に僕とそのNさん、そしてM君の3人は絵の道具を忘れてしまい、先生の指示で絵のモデルになったことがあったんです。
 彼女は傘を持ってモデルになりました。彼女の姿は傘を持つことでいっそう際立って見えました。
 3年生になって彼女とクラスが分かれてからも遠くからずっと彼女の姿を追っておりました。
 朝礼で全員が整列している時、クラスごとに背の低い者から並んでいたのですが、彼女も僕も背はそんなに高い方ではなかったので、前から5番目くらいに二人ともいました。でも、男の子が、好きな女の子より背が低いというのはカッコ悪いと、変なこだわりがあったので、前から並ぶ順番が彼女より後ろになっていないと不安な思いになっていたのを覚えています。

 4年生のこと。彼女と僕とは帰り道が全く違うのですが、ある日の下校時、僕が一人で家に向かって歩いてると、ふと後ろに彼女が同じ方向に歩いて来るのです。
 僕が歩いても歩いても同じ道をついてくるので、僕はとても不思議で何度も何度も彼女の方に振り向くのでした。ある分かれ道で僕は左に折れたんですが、彼女はそのまま直進していったのです。
 僕はかなり興奮状態で、しばらくはその光景が焼きついて離れませんでした。
 しかし、それは僕にとってとても不幸な出来事の序章に過ぎなかったのです。そう、彼女はその時期に家を引っ越していただけのこと。更に彼女は5年生に上がると同時に隣の小学校に転校していったのです。

 彼女が転校して行ってからのこと。僕はたまに遊びに行っていた児童館に友人と足を運びました。
 何気なく児童館の名簿をながめていると、そのNさんの名前を見つけたのです。つまりその日、Nさんも遊びに来ているのでした。
 そして、その日はたまたま輪投げ大会というのが催され、僕も友人もNさんも参加しました。
 10人ほどが参加したでしょうか。なんとNさんが優勝し、準優勝を僕が獲得したのです。
 折り紙で作られた飾り物を彼女が受け取り、全員での記念写真も撮りました。ちょっと距離をおいて彼女と僕が肩を並べて写りました。こんな運命的な写真だというのに、勇気を持って手に入れることができなかったのです。

 中学になると、彼女が転校した小学校の生徒も一緒になるので、彼女との再会がどれほど楽しみだったことか。しかし、彼女とはまたクラスは別になったのです。
 それが、体育祭のフォークダンスという最大のイベントが訪れたのです。
 僕は最大レベルでドキドキしていました。何人か先に彼女の姿が近づいてくるとクラクラし始めました。
 そしていよいよ彼女との距離がなくなり彼女の手を取ったのです。
 彼女は僕のことなど覚えてもいないのでしょう。すましたままの顔がやや背けた感じです。
 わずかに指だけでつながれた手も思いのほか小さくてやや冷たく感じました。
 でも、僕はあまりの感激に地面が傾いたのかと思うほどクラクラしてしまいました。

 卒業を迎えたころには、彼女への思いも遠いもののように思えていましたが、配られた卒業アルバムで彼女の姿を捜しました。
 ざっと見たところでは彼女の姿は見つけられなかったのです。
 ようやく見つけることができたのですが、そこにはかつての彼女のイメージとは程遠い顔がありました。
 傘に彩られたかつての彼女の丸くて白っぽく見えた顔が、やせて色黒になっていました。表情もおとなびていて見えました。また違う輝きを放ちながら彼女はいっそう遠くなって行ったのでした。

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