小学校4年生。僕は純という男の子と同じクラスになりました。
 彼はいつも明るくニコニコとしていて、特に男子の中ですごく人気のある子でした。
 そんな彼でしたが、ひとつ人とは違う影を持っていました。
 本人いわくは赤ん坊の時に扇風機に指を入れて事故をしたと言ってましたが、左手3本の指が間接二つほど落ちて短くなっていました。
 でも、そんなハンディを感じさせない明るさが誰からも好かれていたのです。

 純は阪神タイガースが好きで、特に江夏投手の大ファンでした。
 担任の先生のリクエストで審判のまねをして「ストラ〜イク!!」としゃがれた声で叫び、右手を突き上げるしぐさが思い出されます。

 そんなクラスの人気者の純が、どちらかというとおとなしかった僕ととても仲良くしてくれてました。
 いつ彼を見ても僕に笑顔を向けてくれていました。
 音楽の授業中、純が体調を崩し、保健室に向かうのを気の毒に思った僕は何もしてあげられないもどかしさにせめてもの気持ちで僕が着ていたカーディガンを彼の肩にかけてやると、またいつもの笑顔を僕にくれたのです。
 また、ある図工の授業中、僕は彫刻刀で手にけがをしてしまいましたが、保健室で治療を受けて教室に戻った僕をしきりに気遣ってくれていました。
 それでもなおかつ表情のさえない僕を慰めるつもりだったんでしょう。なんと自分の手にも彫刻刀で傷をつけたのです。
 そして、笑顔で「ほら、馬場君、僕もけがをしてしもた〜。」となんだかうれしそうにしてその手を僕に見せるのでした。
 方法としては無茶でしたが、なんとか慰めてやりたいという彼の思いがうれしくてやっと僕も笑顔を取り戻せたのでした。

 黒目がちな目は少しさびしげで、口元が無邪気さをたたえた優しい顔でした。
 その後、彼は小学校4年生で転校していきましたが、その送別会でも必ず僕を見つめていてくれました。
 転校してからこちらの小学校の運動会に遊びに来た時のこと、彼はたくさんのかつての仲間に囲まれていましたが、首を伸ばすようにしてやはり僕にあの笑顔をくれていました。
 言葉を交わすことはできませんでしたが、何か通じ合うものを感じて僕も笑顔を返しました。
 その時に見たのが彼の最後の笑顔でした。
 僕が中学に上がったころでしょうか、彼が病気のため他界したことを風の噂で聞くことになったのです。
 彼の辛そうな顔、怒った顔、泣いた顔、そんな暗い表情を思い出すことができません。
 今でもどこかで僕を笑顔で見守ってくれているような気がします。


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