忘れないで

 小学校卒業を控え、クラスではサイン帳を交換する姿を見かけるようになりました。
 僕も親に頼んでサイン帳を買ってもらい、クラスメイトに廻して、卒業の記念にメッセージを書いてもらうことにしました。
 僕のサイン帳はオレンジがかったような茶色の表紙で、なんだかわからないけど、英文字が刻まれているもので、自分のものながらカッコいいなあと満足してました。
 男子にメッセージをお願いするのはたやすいですが、女子に頼むのは気合が要りましたね。
 僕の小学校からは大体は二つの中学に分かれて入学するので、半分以上の生徒とはお別れとなるのです。
 クラスに一人だけ密かに思いを寄せる女子がいました。
 班が一緒になることが多かったそのOさんにもサイン帳に書いてもらえるよう頼みました。
 女子はたいてい照れてそう言うのか、まじなのか、「私のことは忘れてね。」なんてにくたらしいことを書いてるのがほとんどでした。まあ、こちらからもそんなふうに書くのが通例になってましたけどね。
 でも、そのOさんだけは、「私のことを忘れないで。」と書いてあったのです。もしかして僕の気持ちが見透かされていたのかなあっていう照れくさい思いになったものです。
 その子は僕が入学する中学校とは違う方の学校に進むのです。
 そんな「忘れないで。」と書いてくれたOさんに対して僕はどんなことを書いてしまったんだろうと今でも気になりますね。今から書き換えることができるなら、「忘れません」って書きたいな。

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