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5円玉の理由 中学1年生に上がったころのことです。 僕の通った中学は主にみっつの小学校の生徒が通ってきたのですが、その中でも僕の出身の小学校は少数派で、クラス40人ほどの中に男女6人しか同じ小学校の生徒はいませんでした。 入学して間もないころ、どういうことからか、僕と右の席にいた同じ小学校出身のMさんとが仲がいいかのように、恋人同士かのようにクラスのみんなから冷やかされるようになりました。 僕は小学校時代に彼女と同じクラスになったこともありませんし、中学に入学してからもそんなに言葉も交わしてなかったと思うので、なぜそうなったのかわかりませんが、クラス中でそういう機運が高まっていったのです。 それが、クラスでいくつかの係を決める際、ついに男女2名の枠の購買委員という係に二人が選挙の形で決められてしまったのです。 これは二人をひとつの係にしてしまってさらに二人を盛り上げようとするのがみえみえで、二人がその係に決定した瞬間、また冷やかしのような歓声がクラス中に上がりました。 でも、そうして選出されたものの、僕はいっこうにその係の仕事はせず、彼女にばかり押し付けていました。 その購買委員の大きな仕事としては、毎朝、昼食の際のパンの注文をクラすの生徒から聞いて、それを購買部に持っていくのです。そして、昼になれば、その注文に従ってパンを生徒に配るのです。 ある日、昼食が終わったころ、Mさんが声をかけてきました。 「今日、パンの注文分のお金がなんでか10円余ったんよ。二人で半分ずつして処分するから5円渡しとくね。」 まったく購買委員の仕事をしない僕に彼女はあきれていたはずだし、余ったお金なら先生に渡すなり、クラスで何かを購入するのに使えばいいのだから、僕がその5円をもらうことがとても理解できませんでした。と言うよりそれをくれたことの意味を深く考えるようになりました。 「5円 = ご縁」 彼女は「ご縁」のつもりだったのだろうか。いやいや、そんなことはあるまい。ただおとなしいだけでなんの取り得もない僕に好意を持ってくれるなど考えられません。 それでも、僕の気持ちが揺さぶられ、ずっと彼女のことを思い浮かべてしまうのでした。 5円玉など貯金箱か財布に入れてしまえば、もうどれがもらった5円か気にすることもなく使ってしまったことでしょう。僕はそうすることがなぜかできなくて、机の本棚の端に置いて、たまにそれを手にしては彼女の気持ちがどうなんだろうと思いを巡らせるのでした。 日に日に彼女を意識してしまうようになり、それが「好き」という気持ちに変わっていったのです。 でも、中学生の僕にはそれがうまく表現できず、ちらっと彼女の姿を視界に入れただけですぐに目をそらしてしまうのでした。 少し日焼けをしたような顔は目が優しくて姉のようでした。中学2年の時の教室の窓際で見た時の彼女の笑顔が1枚の写真のように心に残っています。 無邪気なまでの振る舞いはとてもまぶしくてお日様のようでもありました。僕はそんな彼女の姿を捜すのが好きでした。 やがて中3になるとクラスも分かれてしまい、ますます話すチャンスもなくなりました。 ある時から彼女は学校に来るのに車に乗せられて来るようになっていました。自宅を引っ越したのでしょうか、そんなことも確かめることはできずにいました。 毎朝、学校に近いバス通りに車はいつも止められ、彼女が降りてきました。そんな様子も見たくておよその時間を見計らって家を出たりしたものです。 中学を卒業してからは彼女を見かけることも、彼女の噂を聞くこともまったくなくなってしまいました。いつまでも大切に置いていた5円玉もいつのまにかまぎれてしまい、彼女とのご縁もなくなったのです。 ![]() |