幸運

 あれだけの大きな地震の中、けがひとつなくすんだということでは私たち家族や親戚は幸運だったと思います。
 地震直後は気づかなかったことですが、自分の家族にも「これがもしこうだったら、えらいことになってたなあ!」というぞ〜っとさせられるようなことに後になってからいくつか気づかされました。

 まず、僕はそのころ、ベッドに寝ていたのですが、寝ている頭の方向にある棚に大きなラジカセを置いていたのです。
 それが数日前、掃除をしていた時に数十センチほど横にずらせていたんです。
 そして震災の時、そのラジカセは寝ているベッドの方へ落ちてきました。
 でも、ずらせてあったおかげで、僕の身体にはいっさい当たらず、僕の肩口の辺りに落下していただけに留まりました。
 ラジカセとは言っても、ミニコンポを少し小さくしたようなスピーカーが独立したもので、本体自体は3kgほどはある重量感のあるものですから、もしずらせていなければ、顔の上に落ちていて、どれほどのけがになっていたかわかりません。

 また、地震の際の家族の寝ている場所でもそんなきわどいことがひとつありました。
 大方揺れは南北方向だったのですが、大きな本棚や食器棚も南北方向に長くなる方向で置かれていたので、それらは倒れることがなかったのです。
 もし地震の揺れが東西方向だったら、これらのうちいくつかはばたんっ!と倒れこんでいたに違いありません。
 1階で寝ていた両親のごくそばには大きい重量感のあるタンスが置いてありましたが、それも南北方向に長くなるように置かれていたので、倒れてはいませんでした。
 しかしそれが倒れるようなことがあれば、両親のうちのどちらかが下敷きになっていたかもしれません。
 僕が妹と児童公園に逃げた時、母の声を一度も聞かないままだったので、僕はそういう忌まわしい想像が浮かび、妹と二人で家に引き返したくらいでした。
 僕の部屋にあった本棚のうち、東西に横長に置いた本棚はやはり倒れていました。
 それはベッドから遠い位置にあったので、問題はありませんでした。
 また、妹のベッドの脇にも大きな本棚がありましたが、これも南北方向だったので、倒れることはありませんでした。
 地震の揺れがどの方向になるかなんて予想はつきません。
 ですから、せめて重いものは身体に当たらない位置に置くというくらいのことは注意が必要だと思いましたね。

 それから、もうひとつ幸運だったと思えたことは、父の経営する店でのことです。
 建物自体は30年以上立つ古いもので、しかも小さい商売ですから、立て方もそんなに頑丈にはしていません。
 この地震により店舗の柱は折れ、天井は落ちてきておりました。
 しかしながら、天井まで届くような大きな陳列台が柱代わりとなり、落ち込んできていた天井を支えていたそうです。
 それにより2階部分がごっそり落ち込むということがなく、後の修理でも少しの手入れで復旧ができたのです。

 我が家のこういう幸運と似た話を他の人の口からよく耳にしました。
 そんな人の中には「我々は生きさせてもらっているんだ。」と話す人がいました。
 少しの違いで自分や家族も命を落としてたかもしれないと実感した僕には、それがとても重く心に響くのでした。


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