火事の夢

 平成7年1月、僕は正月早々いやな夢を見てしまいました。
 場所は僕が昔通っていた大学のキャンパス内。校舎に向かう長いスロープが大きく広がった辺りでした。
 なんとなく登ってきたスロープを振り返って見下ろしたのでした。
 すると、スロープの脇の樹木の植わった辺り一面に炎が広がり、黒々とした煙が空高く舞い上がっています。そして、空の青を覆い隠し、黒いやみが辺りを包み、その下で赤々と炎が揺れているのです。
 炎は意外とくすぶった感じで、それ以上は広がらないだろうと変な安心感をもってそれをしばらくの間見つめていました。
 ただそれだけの夢だったんですが、めったに火事の夢は見たことがありませんでしたし、何かを暗示しているのだろうかとわずかな不安を覚えて、いつまでも忘れられない夢になったのです。でも、中には火事の夢は縁起がいいんだという人もあり、なるべく気にはしないようにしていました。

 僕は当時、マッサージや鍼灸の勉強をするため盲学校に所属していましたが、冬休みもさほどすることもないので、個人的に調理の勉強をさせてもらおうと盲学校に出かけて行ったのです。
 ところが、家を出てまもなく全盲の僕は道に止まっていたトラックの後ろにぶつかり、額を軽く切って出血させてしまいました。
 大したけがではありませんでしたから、家に戻り、傷の処置をして、学校に向かいました。
 その道中、正月早々起きたアクシデントに対して、「あの夢はこれおを暗示していたのかなあ」などと思ったりしていました。

 そして、冬休みが開けて始業式。
 学校内ではあることが話題になっていたのです。
 この正月に衛生学を担当されているH先生のご自宅が隣からの類焼で焼き出されたとのこと。
 僕はこれを聞いて、「あっ、あの火事の夢はこの間のけがじゃなく、これを暗示してたんや!」と蒼ざめてしまいました。
 幸いにもH先生もご家族もご無事だったようです。

 そして、その火事の知らせを聞いてから十日ほど立った1月17日にこれらの暗示を覆すことが起きたのでした。阪神淡路大震災です。
 我が家は家の中はめちゃくちゃに物が散乱したり、屋根の瓦が落ちたり、壁にひびが入ったりはしましたが、犬も含めて家族はまったく無事でした。
 当初は電気も来ていましたから、テレビをつけて阪神各地の様子を呆然と家族皆で見つめていました。
 親戚のいる長田区辺りが燃えている様子が映し出されています。でも、実感がなく、我が家では静かにそれを見つめ続けていました。
 そして、ほどなくして、その親戚の娘から我が家に電話が入りました。
 電話に出たのは父だったと思いますが、緊迫感が伝わってきます。その親戚の店と家が全焼してしまったという知らせでした。
 父が電話口で驚いている様子でその内容がすぐにわかり、僕は愕然として、入っていたこたつの布団に顔をうずめて泣いてしまいました。
 親戚の家族は皆無事でしたが、昔よく遊びに行った親戚の店屋家がなくなってしまったということや焼き出された親戚のショックを思う時、何かがはじけてしまったようになりました。
 僕が泣いてしまったのは、そういうショックに「あの夢はこの大惨事を暗示していたのか!」と思い知らされた恐怖心が混じっていたからなんです。


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