初めての金縛り

 初めて金縛りに遭ったのは、僕が大阪で一人暮らしをしていた時のことです。
 僕は四畳半ほどの狭いアパートの一室に住んでおりました。
 部屋には台所と押入れがあるだけで、気のきいたものはなく、テレビも電話もない生活をしておりました。
 でも、ラジオだけはないとさみしいので、ラジカセを部屋の隅に置き、寝るぎりぎりまで聞いてたりしました。
 その日もいつものように布団に入り、ラジオを聞いておりました。いつの間にやらうとうとと寝入ってました。
 そして、ふと気がつくとやけに寒気がしてくるのです。
 特に首から頭にかけてしびれた感覚があり、頭の中にまで炭酸水がしみ込んできたような感じでした。
 この時の金縛り以降、金縛りに遭う時はほとんど同じようなしびれが襲ってくるのでした。
 もうこの瞬間から身体が動かなくなっています。
 「あっ、金縛りだ!」と心の中で叫んではいますが、声も出ず、恐怖心が増すばかりです。
 すると、仰向けに寝ている僕の右側で、女の人の悲鳴のような、でも、緊迫感がなく歌声にも聞こえる甲高い声が僕の足元の方向から耳元に滑るように駆け抜けて聞こえてきます。
 その声にはエコーがかかったような響きがあり、とても幻想的な空間にいる印象です。
 僕自身の聴力も鋭くなっている感じでしたね。
 僕は目で見ているのではありませんでしたが、部屋の中にぼんやりと光が窓から差し込んでいる映像が頭に浮かんでいます。
 人の姿はないようです。ただ意識はそこそこはっきりしているのに、身体が重くて首がわずかにしか動かせないという状況にとても怖い思いをしていました。
 それでも、わずかに動かせる首を糸口として上半身をのけぞらせ、少しずつ動かしていったのです。あと一息というところで思いっ切り何かを振り切るように身体の向きを換えることができ、金縛りから開放されたのでした。
 ラジオからはまだ声がしていて、さっき聞こえた女の人の声と同じ声でまったく普通な放送がされているだけでした。
 「この声を聞き違えていただけなのか?」とばかばかしい気さえしましたが、その最中はとても怖かったですね。
 金縛りっていうのは、身体が疲れ切っていて、身体が眠っているのに、脳だけが目を覚ました状態で意識がはっきりしているからこういう現象になるんだと聞いたことがありました。
 確かにその当時は職業訓練を受けるために大阪で一人暮らしをしていましたから、心身ともに疲れていたとは思います。
 でも、決して新しいアパートではありませんでしたから、それまでにどんな人がそこに住んでいたんだろうと考える時、背筋に寒いものを感じてしまうのです。
 訓練所を卒業し、神戸の実家に戻ってからも幾度か金縛りに遭いました。大阪で一人暮らしをするまではなかったことなのに。


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