色気より食い気

 小学校2年生のころ、僕はあるショッピングセンターの地下でE君と遊んでおりました。
 そこにガラス張りのきれいな喫茶店があり、中は薄暗かったんですが、E君と二人のぞきこんでおりました。
 そののぞきこんでいるまん前には一組のカップルがテーブルに向かって腰掛けております。
 中年のおじさんと若い女性のようでした。
 僕等はかまわず中をのぞきこみ、ガラスに顔をおしつけたりして、ふざけて見せておりました。
 なんとなくおじさんの方が笑っているように思ったので、僕等はますますふざけて見せます。
 外からはおじさんが何を言っているのかわかりませんしね。
 しばらくするとそのおじさんが席を立ち、店の外に出てきて、僕等の方へ向かってくるのです。
 僕等はガラス越しのおじさんとの遊びの続きができるのかと思い、にこやかにおじさんを待ちました。
 しかし、おじさんはそんなつもりは全くないようです。
 僕等それぞれに50円玉を手渡すと「どっか向こうにでも行ってくれるか!」と少しむっとした表情で言うのでした。
 僕等は思わぬお小遣いとおじさんの気まずそうな表情に笑い転げてその場を去りました。

 僕は別の喫茶店の前でトーストが50円だと言うのに目が留まったのです。
 こんがりと焼かれたトーストがすごく食べたくなり、その喫茶店でトーストを食べないかとE君に持ち掛けました。
 しかし、E君はその50円玉を大事に握り締めたままトーストを食べることには同意しません。
 でも、僕はどうしても食べたくて、ついにE君を店の前に待たせたまま一人で喫茶店に入るのでした。
 50円ポッキリしか持っていませんから、まさに注文はトーストだけ。
 小学校2年生の男の子がカウンター席で飲み物もなしにトーストだけを黙々と食べる。
 これはすごい奇異な絵柄ですよねえ。
 きっと店の人や居合わせたお客さんにはおかしな光景だったかもしれませんが、本当に食べたいと言う一心でしたから、僕には大変満足な時間だったのです。

 でもね、やっぱり喫茶店には女性と入ってひそひそ話をするのがいいみたいだよ。50円玉も用意してね。(笑)


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