深夜のラーメン騒動

 いつのことだったか忘れてしまったんですが、ある深夜のことでした。
 僕の自宅の向かいには古いアパートがあるのです。そんなに大きな部屋ではないのかお一人暮らしの方がよく入っておられますね。
 その夜、向かいのアパートの2階に住んでおられる奥さんの悲壮なまでの叫び声に目覚めてしまったのです。
 時計で時間を確かめると午前3時。おいおい、頼むよ〜〜って感じです。
 よくよくその様子に耳を傾けていると、その奥さんがどこか他の部屋の扉をたたきながら、その部屋の住人に呼びかけているようです。
 僕は窓際に行き、窓を開けてその様子をうかがっていると、妹も起きてきてその様子を見ていました。
 「Mさ〜ん、Mさ〜ん、起きて〜!!」
 とても深夜とは思えないほどの大声で繰り返し呼びかけています。
 さらにその奥さんが誰かそばにいる人に話している内容を聞いてみると、どうやらその部屋から焦げ臭い臭いがするので、家事ではないのかと心配になったらしいのです。
 奥さんはその部屋の真上くらいに住んでいますから、焦げ臭い臭いに早く気がついたようです。
 でも、いくら呼びかけてもその部屋の住人は出て来ないし、もしも炎が上がっていたら一刻も早く消さなければなりません。
 しかし、部屋は鍵もかけられていますし、ひたすら呼びかけるしかなかったようです。
 そのうち誰かが119番に電話したようで、消防車のサイレンの音が近づいてくるのがわかりました。
 アパートの前の道は狭いので、消防車は取りあえずほど近いところに留められたようでした。
 まもなく一人の消防士さんが、安全靴なんでしょうかねえ、大きい靴音をパッコン、パッコンと鳴らしながらアパートの前に駆け込んできました。
 今度は消防士さんも一緒になってその部屋の住人に呼びかけ始めました。
 消防士さんの声があちらこちらに移動しているのがわかります。裏手にも廻っていったんでしょうか。まもなくその部屋の住人が出てきたようで、安堵の声が上がり事態は終息しました。
 奥さんの嘆くような声もしますが、集まってきた近所の方も安心したのか退散して行きました。
 結局のところ、その部屋の住人Mさんはラーメンをなべで煮ていたんですが、ついつい居眠りをしてしまい、そのままなべが焦げても気がつかず寝入ってしまってたようでした。
 Mさんはお一人暮らしで、その時はテレビもつけっ放しだったので、外からの必死な呼びかけにも気がつかなかったというわけです。

 こういう事態の中、笑ってはいけないんでしょうが、その後の出来事に僕はにやけてしまいました。
 自体が終息し、Mさんに注意を促して帰ろうとアパートの前に出てきた消防士さんが、本部か消防車なのか無線でやりとりを始めました。
 それは結果報告のようです。消防士さんが言ったのは言葉足らずではありますが、
 「ラーメンのなべ焼き、ラーメンのなべ焼き、どうぞ」
 これを連呼するものですから、僕は小さな声でぼそりと言いました。
 「なべ焼きならうどんの方がええなあ。」
 「ラーメンやったら、サイレンよりチャルメラの音色で来てよ〜ん。」


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