なんてったって王子様

 最近の僕のことを知っている人には信じられないことでしょうかね。ヘヘーン。実は僕、王子様だったんですよ。
 何をバカなことを言ってんだあって感じですかね。いやいや、ほんとの話なんですが、それはそれは遠い昔のことじゃった・・・。
 僕が6才のことです。つまりは、幼稚園時代のお遊戯会での話ですわ。この僕が王子様の役につけていただいたってわけです。
 僕が王子様に選ばれた経緯にも人間ドラマを見てしまったんです。生まれて始めて社会の縮図というか、サバイバルというか、残酷な一面を見せ付けられた瞬間でしたね。
 クラスをふたつに分け、同じ演戯を2回、メンバー違いで演じたような記憶がありますね。もちろん同じ日に同じ演戯はしなくて、2日間にそれぞれ分かれて行われていましたね。僕はそのどちらかの主役だったわけですなあ。ワッハッハー。
 そうそう、その王子様役を選ぶのに、どういうプロセスがあったかは覚えていませんが、どうやら僕ともうひとりの男の子の2名に絞られていました。
 先生が僕とその男の子を教室の片隅に呼びつけました。
 まあ、6歳の幼稚園児にとっては、なんのこっちゃわけがわかってはいませんが、先生の言う通りにしますよね。
 「さあ、二人でじゃんけんをしなさい!勝った方が王子様の役をするのよ。」
 先生の掛け声で1回勝負のじゃんけんが行われました。
 「じゃん・けん・ホイ!!」
 あちゃあって感じで僕は確かにじゃんけんに負けました。
 でも、その直後、先生が二人が出したじゃんけんの手を握り、って言うか、そのじゃんけんの手を隠したというのか、二人の手を覆って、「馬場君の勝ちね!!」と少しあわてた様子で二人に告げたのでした。
 相手の男の子はすかさず、「僕の勝ちやんかあ!!」と叫びました。僕も、今起きた出来事を理解できなくて、ポカーンとしていました。
 でも、先生は、「ね、これで決まりね。」と念を押して、素早くどこかへ去って行きました。
 これが小学生や中学生のことだったら、相手の男の子は黙ってはいられずブツブツ言うだろうし、下手をするとこちらにもつっかかってくるかもしれませんよね。
 でも、大きな混乱は起きることなく、キャスティングは完了したのでした。
 それにしても、その時の男の子の釈然としない表情はとても印象的でしたね。
 顔のことをあれこれ言うのは本意ではありませんが、今から思えば、彼の顔というのが、「ダメおやじ」そっくりで、おでこが広く、左右の目が離れていて、口元にしまりがないって感じでした。
 ま、僕もそんな美形ではないですが、ほんと彼には悪いけど、彼よりは整っているかなあって思いました。だからこそ先生も大逆転をさせたのだと思います。

 おかげさまで僕は王子様に抜擢されたのですが、彼は王子様をお姫様のところへ運ぶ魔法使いの役です。
 彼の衣装は、ある園児が通園する際に来ていたフードのついた黒い大きなマントで、先生が偉く気に入って採用されたものでした。
 僕の方と言えば、衣装というものはこれと言ってなかったですが、金色の王冠をかぶせてもらってました。
 僕は彼と二人でほうきにまたがってお姫様のところへ向かうのです。そして僕はお姫様と手を取り合って舞台の中央で足並みをそろえながら歩くのでした。めでたし、めでたし。

 まあ、この話にはもうひとつおまけがありましてね、こういう演戯の練習の時と、本番とは衣装や舞台周りの様子なんかもずいぶん変わるものですよねえ。
 当日の本番で、僕が魔法使いの彼とほうきにまたがって舞台に向かうまでの間、お姫様役の女の子がすでに演戯に入っていました。
 そのお姫様の演戯を見ていて、僕はとても戸惑いました。練習ではあれだけ息がピッタリだったゆかちゃんとは違う女の子が舞台で「王子様はどこかしら・・・?」なんて感じで演戯に入っているのです。
 二日間演戯があって、僕は日を間違えたのか?そんな不安が駆け巡りましたが、周りではごく当たり前な感じで、僕と魔法使いの彼を舞台の方へ押し出しました。
 そして、お姫様の手を取り、いつものように歩いてみるとすごくスムーズに演じることができるのです。息もピッタリです。
 ごく近くで見て、僕はやっと気がつきました。確かに相手はゆかちゃんだったんですが、お化粧がしてあったんです。いつもの肌よりずいぶん白くてまったく別人に見えていただけなんです。
 最初の心の動揺がきつかったんで、はたしてうまく演じられたのやら、今となっては1枚の写真でしか様子はわかりません。

 幼稚園を卒園して1年後、同窓会みたいなことが催され、お姫様役のゆかちゃんに出会うことができました。
 僕としては、運命的な再会を夢見ていましたが、それはあくまで妄想でして、彼女からの視線はとても冷ややかでしたね。
 テレビドラマで共演した男優と女優さんが本当に結ばれるなんてことがありますが、ゆかちゃんとはお友達にもなれないままそれっきりです。
 「僕のお姫様はどこかしら・・・?」


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