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なぞの転校生 それは、小学校2年生のことでした。僕はかぜで熱を出し、数日休んでしまったのでした。 そして、ようやく回復して登校してみると、教室には、見慣れない男子生徒が一人、ごく当たり前のようにクラスメイトと楽しげにはしゃいでいるのです。 僕は、その白くて優しい顔の彼に一種警戒感があって、しばらくは話しかけることができなかったのです。彼の方も、見慣れない僕に対して警戒感があったのか、話しかけようとはしません。 僕は、クラスメイトの仲のいい連中にそっと「あいつ、だれや?」と、尋ねたりして、教室に突然現れた宇宙人に話しかけられないクセニ、いつまでも心を奪われているのでした。 でも、彼の優しそうな顔がそうさせるのか、翌日には恐る恐る話しかけるようになり、二日もすれば、すっかり仲良しになったのです。 最初は誰より警戒すべき存在だったのが、仲良くなれば、誰よりもいい友達になってしまったのです。ま、彼の方も、慣れない環境に溶け込もうと一生懸命で少しでもたくさんの友達を作りたいとがんばっていたんでしょうね。 そのうち彼の家にまで遊びに行くようになりました。どう見ても金持ちには見えない家で、ギシギシと床が音を立てる古いお家でしたね。 ある日、彼は僕ともう一人のクラスメイトに言うのです。 「怪獣のおもちゃをたくさん隠してるところがあるねん。連れて行ったるわ。好きなのを持って帰ったらええで。」 僕は当時、ウルトラマンや仮面ライダー、ゴジラなど、怪獣やヒーローものに目がなかったので、何の迷いもなく、ワクワクしながら、彼の秘密基地に行くことを決心したのです。 その秘密基地とは、どこか他人さんのお宅の家と家との間の塀を乗り越えたようなひっそりとしたところだったと記憶しています。そこに50センチ四方ほどのダンボール箱が無造作においてありました。 三人でダンボール箱を囲み、品定めにかかりました。 箱の中には、大小10個ほどの怪獣の人形が、ザクザクとほうり込まれていたと思います。僕はその中からキングギドラか何かの人形を選んだのでした。 三人がおもちゃを選ぶと、さっさとその場を離れ、いつもの公園に出かけ、それらを使って遊びました。 親からおもちゃを買ってもらうのはそんな簡単なことではないですから、ほんと夢のような出来事ですよね。でも、そんな夢をまた彼はかなえてくれるのです。 数日過ぎたある日、今度は、ほしい「プラモデルはある?お店に見に行こう!」と、誘ってくれたのです。近くにあったスーパーへと彼は僕を引っ張っていくのです。 いつも買ってはもらえないけど、ほしいなあと指をくわえながらながめていたプラモデルの山を、今度は自分のものになるという前提でながめることになったから、それはますますドキドキするってなもんです。 例えば、文具屋さんで、3千円分好きなだけ買い物をしてもいいよとか言われるとワクワクしませんか? それとか、女性なら、おじさんにブティックなんか連れて行かれて、好きな服を買いなさいって言われたらワクワクしませんか?おっと、これはちょっとニュアンスが違いますねえ。ワッハッハー。 でも、この時は、その場で買ってくれるというのではなくて、「これがええなあ」と、品定めだけをして、帰って行ったのです。 この時点では、さすがにこんなに高価なものをくれるなんて、まず嘘やろなあとあきらめていましたが、とりあえず彼の言うままに品物が届けられるのを待つことにしました。 すると、翌日、学校を終えて家に帰ると、彼が大きな紙袋をさげて僕の家に来たのです。紙袋から出された箱は、まさに昨日僕が指定したプラモデルでした。 もう30年前のことで、しかも僕等は小学校2年生でしたから、500円はしたであろうプラモデルを前にして、信じられない思いでした。なんの理由もなく、無条件でそれをくれるというのです。 前回の怪獣のおもちゃは、隠してあったダンボール箱に詰め込んであったから、誰かのお下がりか、捨てたものだろうと思ってたけど、今度はどう見ても新品で、しかも昨日出かけたスーパーにあったもののように思えたので、さすがに戸惑いましたね。 「ほんまにええんかあ?」と、何度も繰り返し彼に確認しましたが、彼は相変わらずの優しい顔でうなづくだけです。 さらに僕は、「これはお父さんに買ってもらったの?」と質問をしましたが、これには少し曖昧な返事をしていたように思います。 このことがあってからでも、僕にだけじゃなく、他の友達にもプレゼントしているのを見かけたことがありました。 そのプレゼントの効果は有効で、彼はその優しい顔も手伝って、誰からも好かれる存在となっていったのです。 そんな彼の最後のプレゼントは、留守中に僕の家に届けられていた仮面ライダーに出ていたクモ男の小さな人形でした。腰のあたりでクルクルとひねりができるだけの粗末な人形でしたが、なんとなくうれしかったですねえ。 そして、翌日学校でお礼を言わないといけないなあと思っていたら、先生から、彼が急遽転校して行くとの報告があったのです。すでに彼はこの教室には現れず引越して行ったようなことでした。 それはそれはショックなことです。友達であったはずの僕になんの報告もなく、突然に転校の知らせを聞かされるなんて。先生にどこへ越して行ったのかとか、いろいろと質問攻めにしましたが、先生はうっとうしい顔をするばかりで、明快な答えはありませんでした。 釈然としない僕は、学校が終わると、家に帰らずそのまま彼の家の方へと向かいました。彼の家に着くと、トラックが陣取っていて、家の前には行けない状態になっていました。 彼の姿はありませんが、どうやら彼の家族が引越しのために荷物を積み込んでいるところのようです。気の小さな僕はそこに歩み寄って、家族の人に彼のことを尋ねることをようしなかったのでした。 道路をはさんだ辺りから引越しの作業を呆然とながめていました。かなりの時間立ち尽くしていたと思います。彼の姿を見ることもなく、家族の人と言葉を交わすこともなく、トラックが発車するまでそこにいました。 彼の転校のことは、結局、誰からも聞くことはできず、いろんな想像だけが巡るばかりでした。しかし、年数が立つにつれ、それは仕方がないやろなあとこれまでの出来事を振り返って納得してしまうのでした。 突然僕の前に現れた宇宙人が、また突然僕の前から姿を消してしまい、彼のことを話す人も少なくなっていくと、ほんとにそれが現実のことだったのか、あるいは夢だったのかと信じられない不思議な気分になってしまいます。 でも、彼の面影や名前は忘れることができません。いつか突然現れたら何をプレゼントしてくれるのかなあ・・・? ![]() |