結婚騒動 前編
















  頭が痛い、という表現が世の中にはあるらしい。

  けれど、いまだかつて私はそれを実感する事が出来なかった。





  無痛症。





  私、浅上藤乃は人生の大半を視覚のみの世界で生きてきた。




    それは生きていたとは言いがたい生。




  唯見るだけの、幽霊じみた存在。

  それが私だった。

  そう、去年の夏。ある事件までは。

  その時の記憶の大半は今では朦朧としていて思い出す事が出来ない。けれど、私は私の内にある“能力”を使って六人もの人を殺

 してしまったことは覚えている。それを止めるためか、単に殺し合いをしたいだけか、私の前に現れた蒼い眼をした死神のような女

 性の事も、無論覚えている。けれど彼女には最後の最後で愛想を尽かされてしまった。その氷よりなお冷たい死の瞳で殺されたのは

 私の中の病魔だけ。

  救急車で運ばれた私は適切な治療を受けて一月後に退院した。

  その時の女性が友人、黒桐鮮生さんの知り合いである事を知るまでにまた少々の時間を過ごし、私は彼女に頼んでその女性と会わ

 せてもらうことにした。隣の県にある、『伽藍の堂』という廃墟のような事務所へつれられ、そこで私は彼女の師だと言う魔術師に

 出会う。

  青崎橙子女史は私の訪問を快く承諾してくれた。眼鏡をかけた優しそうな女性。なぜか黒桐さんガ疲れたような表情を浮かべてい

 るのをすこし疑問に思ったが、数週間後に眼鏡をかけていない橙子氏に出会ってすぐに納得した。曰く性格のスイッチを切り替えて

 いるだけだそうだが性格も人格も似たようなものだと思う。

  けれど、私は彼女にしてもし足りないほど感謝している。








  よければ、無痛症の治療をしてやろうか。







  その申し出にはまるで打算が無かった。いや、少なくとも私にとって有害になりうるものは無かったはずだ。私の力の制御する方

 法も教わり、いまでは普通の、本当に普通の『人間』として生きることが出来るようになった。それは、どんなに願っても叶うはず

 が無いと思っていた、私の願い。

  けれど、もし今そのための代価を支払わされているのであれば、これはあまりに高いのではないだろうか?

 「どうしたの藤乃?ため息なんかついて。なにか悩み事?」

  今年からルームメイトになった鮮花さんが読んでいた本を閉じて心配そうに尋ねてくれる。辞書みたいに分厚くて何の本なのだろ

 うと思ったけれど見たこともない文字で記されていてまるで読めなかった。知らないうちにため息までついていたらしい。けれど、

 こんなことを相談したものかと一瞬悩んでから、結局は笑って誤魔化す事にした。

 「ううん。大丈夫。ちょっと、父様からの手紙でね」

  言葉を濁したつもりだったけれど鮮花さんはそれだけでなにか感づいたみたい。見る見る険悪そうな目をして、

 「あの人。まだ藤乃に処置をすること諦めていなかったの」

  苛烈とも取れそうな鋭い目をしてポツリと呟く。彼女は私の力を抑えるために薬物を使って後天的に私を無痛症にした義父に対し

 て真剣に怒ってくれている。義父は事件の後、私の無痛症が完治したことを知ると、幾度も手紙をよこして再度無痛症の処置をする

 ように言って来ていた。その手紙をもらうたびに少なからず気分が陰鬱になる私を鮮花さんはよく励ましてもくれた。

  それだけに私も彼女には出来る限り隠し事をせずにいるが、今回の事まで相談は出来ないだろう。

 「そういうのではないんですけれど………」

  丁度いい言い訳が見つからなくて困ってしまう。

 「まあ、話せないことなら無理には聞かないけれど」

  私のことを察してくれたのか、鮮花さんもおとなしく引き下がってくれた。再び分厚い本を開き、なにかを書き写し始める。その

 横顔を見つめながら、私は溜め息をついた。鮮花さんは時折宝塚の役者のように凛々しく見える。ピシッと伸ばされた姿勢に真摯な

 眼差し。永く艶やかな黒髪が艶やかでもあるが、先ほども言った苛烈な意思の篭った瞳は清楚で可憐な外見を凛々しく気高いモノに

 している。

  女学院という事もあってか、鮮花さんは学院内ではかなり人気者だった。

 (いっそ、鮮花さんに男性だったら………)

  お付き合いしている殿方がいると断れるのに。

  そんな益体もないことを考えながら父からの手紙を読み返した。























 「お見合いぃ〜〜〜〜?」

  有彦は本気で呆れたような表情でオウム返しに言ってきた。俺は掛蕎麦を啜りながらこくんと頷く。

  ここは学校の食堂。時間は昼休み。俺たちと同じく食事を摂りに来た学生たちで今は満杯になっているが、どういうわけか俺たち

 の周りに人はいない。原因として考えられるとしたら進学校で知られるうちで最も反社会的な格好をしたオレンジ頭がいるせいだと

 思われる。

  向かいに座るオレンジ頭の悪友は豪奢なカツ丼を食いながら喋り続けた。

 「お見合いって、一体誰が誰とするんだよ」

 「俺が。相手は・・・なんとか建設の社長令嬢だとかなんとか聞いたけど」

  投げやりな口調で答えると、有彦は呆れた表情を浮かべる。

 「なんだそりゃ。ちみね、いくらなんでもお見合いする相手のことくらいしっかり覚えておきなさいよ」

 「そんなこといったって昨日いきなり聞かされたんだぞ?頭の中パニクってそれどころじゃなかったんだからな」

  ぶすっとしながら蕎麦の汁を飲み干す。

  そう、昨日の夜。夕食を終えて秋葉たちと一緒に紅茶を飲みながら寛いでいたところにいきなり久我峰斗波さんが来て今回の件を

 一方的に言ってきたのだ。無論秋葉が大激怒したが、既に親戚会議で決定したとか何とかで、秋葉も何も言えずじまいだった。残さ

 れた俺たちの手には見合いの日時と先方のお嬢さんの写真だけだった。

  何故いきなりこんな事になったのかは今琥珀さんが調べてくれているので帰ったら分かるだろう。けれどいくらなんでも急すぎて

 パニックになっているところを運悪く有彦に見つかり、こうして事情聴取されているのだ。

 「にしても急だね〜。その歳で見合いなんかするなんてな、お前もこれでようやくお金持ちの御坊ちゃまの仲間入りだな」

 「どういう定義だよそれ」

  半眼で睨みながら食事を終える。

  と、視界に見覚えのある文字が横切った。

 「ああ、有彦。これだよこれ。ここの社長のお嬢さんと見合いする事になってるみたい」

  テーブルの脇に供えられた棚から今日の新聞を引き抜いて目当ての見出しを見せる。

 「え〜っと、なになに。『大人気SSサイト七夜の隠れ里!!設定の魔術師・礼王氏の『七ツニ夜ヲモタラス者』、死徒使い・桜木

 氏の『死と夢の交わり』、神速の書き手・キクロウ氏の『夢シリーズ』そして彼らを纏め上げるIFモノの巨匠にして隠れ里の長、

 黒の魔法使い・七夜の守護者氏の『七夜志貴の紅の追憶』!!その他総勢二十人以上のSS作家たちにより創られる物語は必読!!

 これを見なければ時代に取り残されるぞ!!』へぇ〜凄いうたい文句だな〜」

 「ああ。俺は行ったことがあるけど凄く面白いぞ。約一匹、UKIMEとか言うのだけは駄目だったけれど。って、違うだろう!!

 ついでに人様のネタをパクるな!!下手すりゃ怒られるぞ!?」

 「確信犯のくせに・・・・・・・・・まぁいい。んで、本当はこっちか」

  有彦がSSサイトの広告の下にある企業の広告欄に目を向ける。その中でもひときわ大きい企業の名前を指さしてやった。そこに

 は大きく『浅上建設』という文字が書かれ、業務内容などが書かれている。

 「へぇ〜こりゃこの間橋をぶっ潰されちまったところじゃないか」

  新聞を読みながらカツを食べるという大変お行儀の悪い事をしながら、有彦は驚いたように呟く。

 「橋をぶっ潰された?」

  怪訝な表情で問い返すと、有彦は飯をかき込みながら口を開いた。
                                        ココ
 「なんだしらないのか?去年の夏にあっただろう。テロかなんか原因は不明だけど浅上建設で工事していたブロードブリッジとかい

 うでっかい橋が完成間際に一晩でぽっきりと折れたって話だよ。まぁその日は嵐で、しかも夜中だったんで被害者はほとんどいなか

 ったらしいけどな」

  本当に知らないのか?という表情で問いかけてくる。言われてみればそんな事件があったかもしれない。あの頃はまだ自分はちょ

 っとおかしな目を持ってるだけの一般人だと思っていたんだけどな〜。

  別の意味で溜め息をつく。それを面白そうに有彦がニヤニヤとして、

 「にしてもいいねぇ〜お前。浅上建設のご令嬢といえば結構可愛いって評判だぜ?」

 「そうなのか?ってよくそんな話知ってるな」

 「もち。僕チンの情報網は広いからね〜」

  怪しげな笑みを浮かべる有彦にわりと本気で引きながら先を促す。

 「んで、お前他になにか知ってるのかよ?」

 「ああ。そこのお嬢様、礼園ってミッション系の女学院に通っててよ、そこがまた、秋葉ちゃんの通ってる浅女にも負けないくらい

 粒ぞろいって話で有名なんだぜ?くうぅ、いっぺん行ってみてぇ〜」

  なにやら自分の世界に入っている馬鹿は放っておいて、昨日の晩に見せられた写真を思い出す。たしかに絶世の美女、いや美少女

 と呼んでも差し支えないほど美しい少女ではあったが。

 (気乗りしないな〜〜・・・・・・・・・)

  欝になりながら掛蕎麦を啜った。

  その脳裏に、そういえば浅上女学院と浅上建設ってなんか関係があるんだろうか?などと思ってみた。



















 「ただいま〜」

  重い玄関を開けてロビーに入る。結局あの後も見合い話のことが頭からはなれず授業に集中できなかった。

 「お帰りなさいませ。志貴様」

  掃除中らしい、雑巾とバケツを重そうに持って歩く翡翠に出会った。

 「ああ。ただいま。秋葉と琥珀さんは?」

 「姉さんは夕飯の支度をしています。秋葉様はまだお帰りになっておりません」

  もうそろそろ帰っていらっしゃることなのですが、と翡翠が口にしたとき、ちょうど玄関が開き、浅上女学院の制服を着た秋葉が

 帰ってきた。颯爽とした姿は兄の目から見ても凛々しく見える。俺の姿を認めると、秋葉は鋭くとも形容できそうな表情を柔らかく

 して微笑み、

 「あら兄さん。こんなところでどうかしたんですか?」

 「いや、丁度帰ってきて翡翠と話していたところだよ。お帰り秋葉」

 「はい。ただいま帰りました」

 「おかえりなさいませ秋葉様。お荷物をお持ちいたします」

 「そう。ありがとう翡翠。それでは部屋に行って着替えてきますね」

  そういって二階へ上がっていく秋葉を見送ってから俺も自分の部屋へ戻って、鞄と学ランを置き、居間へと向かう。

 「あら志貴さん。いつお帰りになったんですか?」

  居間には観葉植物に水をやっている琥珀さんがいた。エプロンを外しているから夕飯の支度はもう片付いているのかもしれない。

 「いまさっきですよ」

 「そうなんですか。あ、おかえりなさい」

 「ただいま。琥珀さん。それよりちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・・・・・・・」

 「はい。心得ていますよ〜。とりあえず秋葉様が来られてからお話しますね」

  そういって再びキッチンへと姿を消す琥珀さん。お茶の準備でもするのだろう。スプリングの効いたソファーに腰掛けて待ってい

 ると程なくして翡翠をともなって秋葉が来て、琥珀さんもクッキーと紅茶を持ってキッチンから出てきた。

 「これ、久我峰様からの頂き物なんですが食べないのも勿体ないので頂いちゃいましょう」

  特に反対する事もなく、四人でお茶をすることになった。以前は琥珀と翡翠は俺たちとテーブルを囲むのに多少抵抗があったみた

 いだが今ではこれが普通になりつつある。去年の事件は色々と痛い目も見たがこれはこれでそのおかげで俺は自分の知らない過去や

 事実を知り、翡翠、琥珀、秋葉の三人をもっとよく知る事が出来た。それだけは、素直によかったと思える。

 「ところで琥珀。例の件の調べはついたかしら」

  会話が一瞬途切れた時、秋葉苦虫をかむように尋ねた。それに琥珀さんはいつもの笑顔ではいっと答えて、

 「どうにも、今回の一件は遠野の方々が動いたのではなく、浅上の方から持ちかけられたお話のようですね」

  かいつまんで話を総合するとこうだ。
                        レンジュ
  浅上建設を代表にした浅上グループの総帥・浅上廉樹氏には一人娘がいて、彼女も適齢に達したので相応しい婿を探していたのだ

 そうだ。適齢といっても彼女は十八歳なのだが、浅上氏の本家である浅神一族は古い家系でもあり『男子女子の別なく成人を迎える

 前に伴侶を持つべし』とかいう下世話な風習があるらしい。

  そこで婿探しをしていたところ、廉樹氏が理事長を勤める浅上女学院の在学生に遠野グループの当主、つまりは秋葉がいた事から

 秋葉の兄である俺のことが廉樹氏の耳に入り、今回の話を持ちかけられたらしい。その話が俺たち自身にではなく、親族会議に話が

 まわされたのは法律上、秋葉の身元引受人になっている斗波さんと俺の身元引受人になっている文臣さんに話しがいったからだそう

 だ。

  斗波さんはすぐに親族会議を開き、会合したがもとより親族によく思われいない俺が期せずして政略結婚の手ごまになったことを

 喜びこそすれ、反対する理由はなかったそうだ。肝心の文臣さんも良縁だと思ったらしく、反対しなかったらしい。

 「なんて勝手な・・・本人の意思も省みずにそんな横暴を通すだなんて・・・・・・・・・」

  話を聞き終えて、予想通り秋葉は怒りをあらわにした。翡翠も、言葉には出さないまでも心なしか目を鋭くしている。唯一人いつ

 もの笑みを浮かべている琥珀さんも少し困惑したような表情だ。

 「ええ。ですが事が事だけにも取りやめると言う事は出来ないですね。お見合いの日は来週ですし、今から断りを入れれば先方の方

 に悪い印象をもたれてしまいます」

  俺の保護者として文臣さんが見合いのことを承諾している以上、俺の都合で断れば文臣さんにも迷惑がかかるかもしれない。それ

 はできる事なら避けたいことだ。

  秋葉もそれを分かっているのか、無理な事は言い出さず、ただカップの中で小さな波を作る紅茶を見下ろしているだけだった。

 「ふぅ〜〜〜・・・まあでも絶対にその相手と付き合わなくちゃいけないってわけじゃないんだし。気楽に考えていいんじゃないか

 な」

  部屋の空気の重さに負けて、体重を椅子の背に預けながら呟く。みんなの視線が集まるのを感じるがあえてそちらを見ないで続け

 る。

 「ようはその見合いで相手を断る・・・・・・・・・というか、断られれば良い訳だしな」

  そお。見合いをしてもそれはあくまで顔合わせ程度のはずだ。その相手とすぐに縁談をまとめなくちゃいけないわけではないし、

 相手が俺を気に入らない可能性はかなり高いはずだ。いや、かえって怒らせてしまわないかと言う事を心配しなくちゃいけないかも

 しれない。いかんせん、女の子の扱いなんてとことん慣れていないのだから。

  そのことを話と、三人はそれぞれ同時に溜め息をつく。

 「はぁ〜兄さんが鈍いのは今に始まったわけではありませんが・・・・・・・・・」

 「朴念仁もここまで来れば立派ですよね〜」

 「志貴様は愚鈍すぎます」

  なんだか散々にいわれまくった。



















  その夜。

 「琥珀。貴女はどう思う?」

 「はぁ。まぁこれまでの志貴さんのことを考えるに志貴さんから断らないといけない状況になるというのはかなり考えられますね〜」

 「そんな・・・・・・・・・」

 「翡翠ちゃんの気持ちも分かるけれどね。志貴さんて、ほら天然の女殺しなわけですし」

  そこで三人とも同時に溜め息をついた。

 「とにかく、相手の女性には志貴さんに嫌われて頂かないと・・・・・・・・・」

 「でも、どうやれば・・・・・・・・・」

 「まぁ、兄さんの地の性格が出ればまだ・・・・・・・・・」

 「それがですね〜。お相手の女性、浅上藤乃様の事も念のため調べたのですがね・・・・・・・・・」

  と一枚の書類を取り出す。

  秋葉は半眼になって個人情報を平気で持ち出した女中を睨みながら、とりあえず書類に目を落す。

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

  それには誕生日からスリーサイズに至るまで全てが書き記されており、いよいよもって割烹着の悪魔に戦慄を主ぼえる二人だが、

 そんな事を忘れてしまいそうなほどのモノが目に入った。それは好みの男性の事が書かれている欄。

 『落ち着いていて、優しくて、柔らかで、包んでくれるような男性で黒縁の眼鏡をかけているのであれば完璧』

 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

  三人に沈黙が訪れる。

 「琥珀」

 「はい。秋葉様」

 「当日はあの似非神父に連絡なさい。もうヴァチカンから帰ってきているはずだから。事態が事態だけに使えそうな手は全て使いま

 す」

 「分かりました」

 「姉さん。私は・・・・・・・」

 「翡翠ちゃんはそれとなく志貴さんにプレッシャーをかけてくれないかしら?」

 「プレッシャー・・・・・・・ですか」

 「ええ。でも難しく考えなくても大丈夫。ちょっと志貴さんを睨んでくれれば良いだけだから」

 「そんな睨むだなんて・・・」

 「あら。翡翠ちゃんは志貴さんが他の女の人を好いてしまってもいいの?」

 「それは・・・・・・・・・」

 「翡翠も協力して頂戴。兄さんをどこの馬の骨とも知れない相手に取られてたまるものですか」

  やや赤みを帯びた髪をしながら秋葉が見合い相手の写真を睨み殺すようにして見つめた。






















  それから数日はあっという間に過ぎて、見合いの日までもう数日しかない。

  私は日増しに溜め息をつくことが多くなった。

 「藤乃?本当にどうしたの?なんだか最近変よ貴女」

  授業が終わり、部屋に戻ると開口一番黒桐さんは問い詰めてきた。流石にこれ以上黙っていることもできず、私は遠野という富豪

 の家の嫡子とお見合いすることになった事を相談した。話を終えると、黒桐さんは心底呆れた表情をしている。

 「呆れた。いくらなんでもそんな先時代的な因習を引っ張り出すだなんて」

 「そう思うんだけれど、先生も賛成してしまっていてどうしても断れそうにないの」

  私は本当に思い溜め息を吐いた。

  今回の縁談で一番喜んでいるのは意外にも私の唯一の味方と言える私の主治医である北山武法先生だった。相手の遠野さんという

 と言う人の家は相当な名家らしくて、もしも話がうまくまとまった場合は学校を卒業したと同時に籍を入れることになる。しかも、

 そのときは相手の男性が浅上の家に婿に来るらしく、私たちは本家のある田舎に下がる事になっている。

  幾度も私に無痛症の処置を施そうとする父のことを知っている武法先生は父の元から離れるチャンスなのだと今回の縁談をとても

 喜んでいた。

 「なるほどね。けれど藤乃にしてみれば好きな人もいるのにどこの誰とも知れない御坊ちゃまとお見合いなんかしたくないってこと

 ね」

  頷いてみせると、黒桐さんは納得した表情で椅子に座る。もっとも、黒桐さんの言う好きな人、と言うのは正確には憧れている人

 であって『好き』とは若干ニュアンスが違うのだけれど。

 「うん。私、どうしたらいいのか分からなくて」

 「そうねぇ〜・・・・・・・・・」

  難しそうに両腕を組んで考える黒桐さん。

 「そうだわ。あの女に協力してもらえればいいかもしれない」

  なにやら思いついたのか、黒桐さんがぱちんと指を鳴らした。

 「どうしたの?黒桐さん」

 「ふふふ。良い事思いついちゃった。大丈夫。私に任せておいて」

  なんだか不敵そうな笑みを浮かべて言う黒桐さん。まるで眼鏡を外した橙子さんみたいで少しだけ怖い。

 「それじゃあちょっと電話をしてくる。ちょっと待っていてね」

  なんだかすごく機嫌良さそうに部屋を出て行く彼女の背中を見ながら私は一抹の不安を覚えた。

  数十分後、戻ってきた黒桐さんにその“良い事”の内容を聞いて、私はまた頭を抱えたくなった。
  


  

  











どうも、こんにちは。駄目SS作家の憂目です。
何を血迷ったか、なんだか気晴らしで書いていたら乗ってしまったので
ついつい送ってしまいました(汗)ちなみに今回の志貴君は誰ともくっついてません。
強いて言えば琥珀さんよりだけど感応能力の契約を突っぱねて、シエルに魔術的な補助を
施してもらっているとかなんとか。
なんだかいい加減な設定になってしますね(ダラダラ)
すみません七夜様。
そしてネタをパクってしまったキクロウさんと礼王さん(滝)
どうか許してください。
え?だめ?ざ、斬刑だけはご勘弁を〜(汗)青神の蘇生で永久殺害も勘弁してください(滝)
イザナミに追われるのも出来れば辞退したいかと(必死)
ちなみに前編のほうが血を一滴も流さない話に挑戦したもので、後編は
御誕生日祝いと言った色合いを強めたいかと。
とりあえずレンと都古を登場させられるように頑張ります。
では、よければ後編もどうぞ期待せずに見てやってくださいませ(ペコリ)