スナザメ狩り
すやまたけし
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男が村に向かって、勢いよく走ってくる。息を切らせながら、何度も転びながら、そして彼は叫んだ。
「おーい、スナザメが出たぞ。また、スナザメがやってきたぞ」
まわりを石の壁に囲まれた村の家々からばらばらと村人たちが出てきて、男を迎えに行く。男は村人たちが出てきたので安心したのか、村の門の一歩手前で力尽き膝をついた。
村人たちが倒れた彼を囲み、矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「どっちの砂漠だ?」
「誰がやられたんだ?」
「また、前の奴か?」
「今度のスナザメは大きいか?」
男は苦しそうに大きく息をしながら、何とかそれらに答えようとする。
「西の砂漠だ。羊を放牧していたら、砂漠をスナザメの奴がやってきて……突然、砂の中から躍り出ると……羊が一頭やられた……あっという間に。羊の群れは驚いて走りだすし、逃げ遅れた一頭がまたスナザメに砂の中に引きずりこまれた。一緒にいたクールドと羊の群れを安全な岩場に集めて、私がこうして急いで知らせに来たんだ。あのスナザメは凄い大きさだった」
それを聞いた村の若者たちは、武器を取りにそれぞれの家へ急いだ。残った村人たちは疲れ切った男を励ましながら、村へ運び入れる。
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少年のサティは、叔父のグレンの家に走っていき、ドアを叩くと飛び込んだ。
「叔父さん、スナザメが出ました。凄く大きい奴です」
彫刻をしていたグレンはサティの方を向くと、うなずいて言った。
「そうか、来たか。さっきから、村が騒がしいと思ったが。アイツだったら、ただじゃおかない」
グレンは自分の足を悔やしそうに見おろした。椅子に坐っている彼の左足は膝から下がなかった。グレンは四年前に、仲間を助けようとしてスナザメに左足を食いちぎられたのだ。
砂漠の下を泳ぐスナザメの背に、グレンのモリは確かに突き刺さった。しかし、巨大なスナザメがその尾びれで砂を一打ちして空中に飛び上がるとグレンは簡単にはね飛ばされた。
砂が嵐のようにまわりに飛び散り、灰色の巨体は宙を舞うと再び砂漠に沈みこんだ。砂の波がもの凄い音を立てて盛り上がり、渦を巻く。
次の瞬間、グレンの左足に熱い激痛が走った。スナザメの凶暴な口が彼の足をくわえたのだ。その鋭い牙の並びに、グレンはもう駄目だと思った。
ぐいぐいと彼の身体は砂の中に引き込まれていく。彼は砂に沈み、息ができなくなり意識も薄れていった。その後、どうなったのかは覚えていない。彼が意識を取り戻すと、砂の上に倒れていてすでに左足はなかった。
グレンはその時以来、自分の足を奪ったスナザメに復讐をしてやろうと心に誓った。彼はスナザメが砂漠に現われるたびに、狩猟隊に加わった。しかし、しとめられたスナザメはどれも小物ばかりだった。あの巨大な彼の足を奪った憎いスナザメはなかなか現われなかった。しかし、今度の奴は大きさからいって、その可能性は大いにありそうだった。
サティは、義足を一人でつけ始めたグレンに聞いた。
「今日こそは、ぼくも連れていってくれますよね。ぼくも大きくなったし、馬も得意だし、モリを打つ練習も積んだし、叔父さんの注意もちゃんと守りますから」
グレンは何も答えず、黙々と自分の準備を続けるだけなので、サティは不安になった。
しかし、壁にかかっているモリを取り、その点検をしている時にグレンは小さい声で言った。
「よし、ついておいで」
サティは信じられないで、もう一度聞いた。
「本当ですか? 本当にいいんですね」
グレンは今度は笑いながら言った。
「ああ、いいとも。実はこの前、サティのお父さんとも話をしたんだが、その時、そろそろサティを狩りに連れていってくれと頼まれたんだよ」
「そうなら、すぐにそう言ってくださいよ。こんなに心配することなかったのに。わざとじらすんですから」
「それより、支度をしておいで。急いで」
「はい、わかりました」サティはグレンの家を飛び出し、砂ぼこりの道を走っていった。
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十数頭の馬の一隊が、黄色い砂を巻き上げながら砂漠を進んでいく。村の若者たちとグレンと、そして、もちろんサティの姿もあった。若者たちは初め、馬に乗ったサティが隊列に加わった時、おやという表情を見せた。あからさまに彼をからかう者もいた。しかし、みんなの尊敬するグレンが許可したことを知ると、一様に納得し、またサティがそれだけの勇気と力をいつの間にか身につけていたことに感心した。ある物はサティのその緊張した顔を見て、自分が初めて狩猟隊に加わった時の胸のときめきを思い出した。それは不安と期待のいりまじった複雑な思いだった。弱虫、腰抜けと思われないように虚勢を張り、必要以上に胸をそらして口元を引きしめる。しかし、手綱を握る手のひらは、緊張と興奮による汗でびっしょりと濡れていた。
やがて一隊は、岩場の羊の群れと共に避難しているクールドに出会い、スナザメの去っていった方向を教えてもらった。彼らは馬の足なみを速め、砂丘を越えた。若者たちもサティも顔をこわばらせ、次に起こる事態にそなえた。
スナザメの三角形の背びれが砂漠を通っていった筋がとだえた。そこでスナザメは、砂の中に深くもぐりこんだのだろう。どこに消えたのか、見当もつかない。彼らは次にどちらの方角を向いたものか迷った。
その時、低い振動と地鳴りの音が彼らを襲った。馬はおびえていななき、前足を高く上げるものもいた。グレンはみんなに、落ち着くように、そして、モリの用意を、と命じた。
砂が波を打ちだし、大きく大地が揺れた。馬が暴れ、数人が転落した。それぞれがモリをかざし、スナザメの出現にそなえた。鈍い地響きとともに突然、砂が盛り上がり、スナザメがその灰色の巨体を現わした。
「こいつだ。私の足を奪ったのは」
グレンはモリで狙いをつけながら、叫んだ。サティも興奮に震える手でしっかりとモリをつかんだ。スナザメが再び砂の波に消える。そして、また宙に躍った。狂暴な口が大きく開いた。モリが次々と打ち込まれたが、スナザメはまた砂の中に沈んだ。サティは馬からおり、グレンから習ったとおり、目と目の間の急所を狙おうと次の機会を待った。
次にスナザメが出てきた時にも、モリが何本も打ち込まれたが、致命傷にはいたらず、いっそう暴れ狂う。サティも砂ではね飛ばされた。だが、その時うまいことにスナザメの頭が目の前にきた。彼は鋭い牙の並びを見て、闘志と勇気が湧き起こってくるのを感じた。
思い切って、両手でモリを急所に向かって突き立てた。手ごたえがあり、スナザメは断末魔の叫び声をあげる。サティはそれでもモリを放さず、暴れまわるスナザメの頭にまたがったままだった。砂の渦と波がサティを包む。
死闘の末、ついにスナザメは力尽き、その巨大な体を砂の上に横たえた。砂まみれのサティが誇らしげに頭を上げ、村を出てから初めての笑顔を見せた。彼のまわりに若者たちが集まってくる。そのうしろには、グレンの満足そうな顔も見えた。
[ おわり ]
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