U 砂時計工場
すやまたけし
ナーガラ町の南には、青い砂丘が広がっていた。その砂丘は美しい青い砂で満たされ、その青い砂はいろいろなものの原料として使われれていた。
青い砂丘の近くには、その青い砂を利用するセメント工場、染料工場、陶器工場、ガラス工場、肥料工場などがあった。
モーリが勤める砂時計工場も、その青い砂丘の近くにあった。そこでとれる青い砂は、粒子が細かくそろっているために、砂時計の砂として非常に適していた。
それに、その輝きのある青い色は美しく、砂時計の中をこぼれ落ちる砂を見ていると、誰もが時間がたつのを忘れ、心が落ち着くのだった。
砂時計をひっくり返すと、青い砂が流れはじめる。さらさらと青い砂がこぼれ落ちて、砂時計の底に美しい砂の山ができてくる。それを見ていると、心が静まり、時間というものについて深く考えさせられるのだった。
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砂時計工場の中では、多くの人間が働いていた。
青い砂をふるいにかけて、粒をそろえる者、砂時計のガラス容器を作る者、砂時計の木の枠を作る者、また、それに色を塗る者、砂時計のガラス容器に定量の青い砂を入れる者、その容器を封印する者、木の枠と、ガラス容器を組み立てる者、完成した砂時計の時間が正確かどうか、検査する者、そして、箱につめる者など、それぞれの工程で、人々が忙しそうに働いていた。
モーリは、青い砂をガラス容器に入れる工程を受け持っていた。砂時計の大きさによって、青い砂をそれぞれの計量カップで正確に計り、ガラス容器に入れていく。それは、非常に細かく、注意のいる仕事だった。
計量カップに青い砂を山盛りに入れ、細い棒で余計な部分をさっと払う。その仕事のこつを覚えるのには時間がかかった。慣れるまで、不良品を出して検査係に注意されることも多かった。しかし、今ではすっかりその仕事にも慣れ、モーリは次から次へと器用な手つきで、青い砂をガラス容器に入れていった。
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モーリは、この春、故郷のカムラ町から、砂時計工場で働くために一人で出てきたのだった。
モーリは、彫金師のグールトの家に下宿をしていた。グールトの一人息子のヨーマは、モーリを兄のように慕ってくれて、二人はとても仲が良かった。
グールト夫妻も、モーリを自分の子供のようにかわいがってくれた。
モーリは、グールトの家に下宿できたことを感謝していた。それに、彼はこのナーガラ町が好きだった。モルゼ丘の風車の景色も、とても気にいっていた。
故郷のカムラ町や、そこに住む親しい人たちと、遠く離れて暮らすことは寂しくもあった。特に、おさななじみのマリンと別れるのはつらかった。しかし彼は決して弱音を吐かなかった。モーリは、美しい砂時計を完全に自分で作れるようになるまで、ナーガラ町の砂時計工場で頑張ろうと心に決めていた。
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モーリは、少しずつ砂時計の作り方を学んでいた。
また、彼は下宿先のグールトの彫金の仕事を見ているうちに、それを砂時計の装飾に利用できるのではないかと思うようになった。砂時計の枠を木の代わりに金属で作ったり、宝石を飾ったりすれば、もっと美しい砂時計ができるだろうと思った。
それで、彼は時間があると、グールトからも彫金の技術を習っていた。
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モーリは、青い砂を砂時計のガラス容器に入れながら、いつになったら自分一人で砂時計を作れるようになるのだろうと思った。
中でも、ガラスを吹く仕事は難しそうだった。しかも、まだまだ、それをやらせてもらえそうになかった。
モーリは、いつも彼を励ましてくれるガラス吹き職人のボイドを尊敬していて、彼からガラス吹きを習える日を楽しみにしていた。
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工場が終わり、モーリは他の人たちとともに外に出た。空はすっかり薄暗くなり、風は寒かった。
人々は挨拶をかわし、それぞれの家路につく。
モーリは自転車置き場にいき、彼の水色の自転車に乗った。
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モーリが自転車で、ナーガラ町の学校の近くを通りかかった時だった。
上空をエンジンの音が近づいてくるのが聞こえた。彼は自転車をとめて、その音のするほうを見上げた。
暗くなったナーガラ町の空に、銀色の大きな飛行船が浮かび、ゆっくりと進んでいく。
モーリがこの町にくる時も、飛行船に乗ってやってきた。暖かい春の日に、カムラ町の飛行船の発着場で、彼は懐かしい人たちと別れを告げたのだった。
銀色の飛行船は爆音をとどろかせて、空を見あげるモーリから、遠ざかっていく。
モーリは、冬休みになったら、あの飛行船に乗ってカムラ町に帰れるのだと思った。そして、マリンにも会えるのだ。マリンもそれを楽しみにして、故郷でモーリを待ってくれているのだろう。
飛行船は、赤と青の明かりを点滅させながら、夕暮れの空に小さくなっていった。
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モーリは、町の通りの郵便局の前にくると自転車をとめ、中に入っていった。
彼は、バッグから小さな包みと手紙を取りだし、郵便局の窓口に差しだした。
「あのう、これを、カムラ町までお願いします」
「はい」と人の良さそうな郵便局の女性は言って、モーリからそれを受けとった。彼女はそれを秤にかけて、モーリに郵便料金を告げた。モーリは、係の言う郵便料金を払って、たずねた。
「この小包み、クリスマス・イブの日までに、ちゃんと届くでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。年末は郵便がこみますが、飛行船便は速くて確実です」
「よろしく、お願いします」
モーリは安心して、その郵便局を出た。
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モーリはその夜、自分の部屋で、郵便局で送った小包みのことを考えた。
モーリは、クリスマス・イブの日には砂時計工場の仕事があって帰れないので、その日に故郷のマリンに届くように、クリスマス・プレゼントを送ったのだった。
それは、彼が作った美しい青い砂の砂時計だった。まだ、彼は砂時計のすべてを自分一人で作れるわけではなかったが、自分でできるところはできるだけ自分で仕上げた。
その砂時計は、丁寧に時間をかけて、念には念をいれ、作りあげたものだった。
モーリにとって、砂時計のできばえは満足のいくものだった。砂時計は磨きあげられていて、青い砂は美しく流れ落ち、そして、正確に時をきざんだ。
モーリは、あの砂時計ならばきっと、マリンも喜んでくれるだろうと思った。
クリスマス・イブの日に、マリンがそのプレゼントを受けとって驚く様子を想像すると、モーリはその夜、とても安らかに眠りについた。
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クリスマス・イブの日、カムラ町に住むマリンは熱を出して、ベッドに横になっていた。
数日前から彼女は風邪をひいていて、家で休んでいたのだった。
小さくなった太陽は、午後から広がりはじめた薄い雲でおおわれ、弱々しい光をカムラ町に注いでいた。町はすっかり、静まり返っていた。
時々、子供たちが声をあげながら、寒々とした落葉樹の立ちならんだ道を走って通り過ぎるのが見えた。彼らはみな、心をおどらせているようだった。