使役の受身形について

吉川 武時
2004.2.19
改訂増補 2004.2.22〜2.25

使役の受身形の問題から 「読ます yomasu」などの -asu語尾の問題、 自他の対応の問題、さらに可能形が登場して 問題がますます複雑になった。

使役形

使役形の作り方を確認しておこう。 こうして出来上がった受身形は一つの一段動詞として各形に変化する。 「読ませる、読ませない、読ませた、読ませれば、読ませよう」などである。

使役の受身形

その使役形から受身形を作る規則に従って使役の受身形を作ると、 次のようになる。
読ませる読ませられる
食べさせる食べさせられる

使役の受身形・長形と短形

ところが、「読ませられる」と言う代わりに「読まされる」と言うことがある。 また「待つ」では、使役形は「待たせる」、その受身形は「待たせられる」となるが、 その代わりに「待たされる」と言うことが多い。 この「読まされる」「待たされる」という形をどう考えたらよいだろうか。 使役形、受身形と順を追って作られた形は長形、ここに挙げた形は短形である。 この短形は、長形の中の er を取り去ったものである。
使役の受身形・長形 使役の受身形・短形
yomaserareru
読ませられる
yomasareru
読まされる
mataserareru
待たせられる
matasareru
待たされる
なお、長形・短形が問題になるのは五段動詞の場合だけである。
ここまでは『日本語文法入門』に 書いた通りである。
また、すべての五段動詞に長形・短形があるわけではない。 「話す」「押す」など「す」で終わる動詞には短形はないようである。
使役の受身形・長形 使役の受身形・短形
hanasaserareru
話させられる
*hanasasareru
*話さされる
osaserareru
押させられる
*osasareru
*押さされる

-ASU語尾の登場

ところで、研修会などで「読まされる」「待たされる」は「読ます、待たす」 から出来たものではないか、と主張する受講生にたびたび出会った。
yomasu
読ます
yomas-areru
読まされる
matasu
待たす
matas-sareru
待たされる
この「読ます」は「読む」の -u を取って -asu を付けたものである。 「読ます」などは辞書に載っていない。 辞書に載っていない形を基にしてある形を作るのは おかしい、と考えた。

自他の対応のパターン (7)U-ASU との関係

自他の対応のパターンの一つに U-ASU というのがある。 自他の対応のパターンについてはこちら『日本語文法入門』を参照。
自動詞他動詞
her-u
減る
her-asu
減らす
ugok-u
動く
ugok-asu
動かす
kawak-u
乾く
kawak-asu
乾かす
wak-u
沸く
wak-asu
沸かす
これは -u を -asu とすることによって 自動詞を他動詞にするものである。 上に述べた五段動詞語尾の -asu は他動詞(「読む、待つ」) に付いている。 このように -asu の性質が異なるが、 これらのことに関しては さらなる考察が必要であろうと思われる。

2004.2.22 追加

19日にアップしたところ、早速、「歩かす」という形は 使えるのかどうかという質問があった。これを次に考えてみよう。

「歩く 歩かす」も自他の対応か

「動く 動かす」は上に述べた通り自他の対応パターンの一つであり、 「動かす」は正規(?)の他動詞である。 すると、「歩く 歩かす」もこれと同様の自他の対応ではないのか、 という疑問がわく。 しかし、「歩く」には対応の他動詞はない、 というのが一般の認識であろう。 -asu語尾のことを言われて初めて「歩かす」という 言い方もあるのかな、と疑問に思うことだろう。
結論を言うと、「歩く」は対の他動詞のない、 いわゆる無対自動詞である。 -asu語尾を付けると「歩かす」となるが、 「歩く 歩かす」という自他の対応をなしているわけではない。 この「歩かす」はどのように活用(変化)するか、 使役形「歩かせる」の場合と対比して見てみよう。
-asu語尾「歩かす」
五段動詞として変化する
使役形「歩かせる」
一段動詞として変化する
そんなに歩かさないほうがいい。 そんなに歩かせないほうがいい。
もう少し歩かしてください。 もう少し歩かせてください。
子どもをもっと歩かそう 子どもをもっと歩かせよう
この表の左側と右側でどちらの言い方がより一般的だろうか。 左側より右側のほうがより一般的な言い方だろう。

2004.2.23 追加

google で調べる

「泣かす」も「歩かす」と同じ -asu語尾の動詞である。
-asu語尾「泣かす」
五段動詞として変化する
使役形「泣かせる」
一段動詞として変化する
子どもを泣かさないように。 子どもを泣かせないように。
子どもを泣かしてはいけない。 子どもを泣かせてはいけない。
一般的には「歩かせて ください」と言うのが普通だが、 「歩かして」という形もときどき聞く。 「泣かして」はさらによく聞く。そこで、google で調べてみた。
歩かして  297歩かせて  6230
泣かして 9490泣かせて 41900
やはり使役形の方が多い。しかし、-asu語尾の形もかなりある。 傾向はあるものの形がゆれているのだ。 他の活用(変化)形についてもゆれがあるだろう。
こういうのを見ると、素人評論家などは 「日本語には決まった文法がない」などと言うが、 ゆれがあるのは日本語だけではない。 どんな言語も生きているかぎり変化しつつあるのだ。 ある言語が“外国語”として示されるときは 固定した文法規則が示されるので、 その言語には決まった文法がある、と思われるのだ。

2004.2.24 追加

可能形の登場

「動く 動かす」と「歩く 歩かす」は 一見 並行しているように見えるが、実は異なる組み合わせ であることが分かった。
-U-ASU-ASERU
ugokuugokasuugokaseru
arukuarukasuarukaseru
形の上の統一性で表にすると、こうなるが、 これでは意味にずれがある。この表はあまり意味がない。
「動かせる」はどういう意味になるか、と考えると、これは 「動かすことができる」という可能の意味になる。
この大きな石、動かせるか。
可能形は五段動詞語末の -u を取って -eru を付ける ことによって得られるからである。 その目で arukaseru を見ると、 これは「arukasu 歩かす」の可能形でもあるということになる。 しかし、可能の意味で arukaseru を使うことはないだろう。 「arukaseru 歩かせる」は「歩く」の使役形としての 使命があるからである。 「歩かせる」が可能の意味にならないということは 「歩かす」のような中途半端な形からは 可能形が派生されないことを意味する。
それぞれの形とその意味との関係を図示すると、次のようになる。
-U-ASU-ASERU
自動詞他動詞(他動詞)使役形可能形
ugoku
動く
ugokasu
動かす
  ugokaseru
動かせる
aruku
歩く
 arukasu
歩かす
arukaseru
歩かせる
 
「動かす」の使役形、「歩かせる」の可能形をこの表に入れると 複雑になるのでやめた。
  • 「動かす」の使役形は「動かさせる」である。
      初めに述べた規則通り -u を取って -aseru を付ける。
     ugokas-u → ugokas-aseru
     業者にこの石を動かさせよう。
  • 「歩かせる」の可能形は「歩かせられる」である。
      一段動詞の可能形は -ru を取って -rareru を付ける。
     arukase-ru → arukase-rareru これは受身形と同じである。
     子どもを 30キロも歩かせられるか。

2004.2.25 追加

受身の使役形

今まで使役の受身形について述べてきた。 これを逆にした受身の使役形というのはあるのだろうか。
叱られさせる
形としてはあり得るが、実際は使われないだろう。代わりに
叱られるようにする
などと言うだろう。

受身の可能形

一段動詞の可能形は受身形の作り方と同じで eru を取って rareru を付ける。 「叱る」の受身形は「叱られる」、その可能形は 形としては「叱られられる」となるが、こんな言い方はない。