『旅立つまでの旅』−母がいたドイツ
川端春枝 著 御茶ノ水書発行 1996/6/1 A5版 327頁 2800円+税

目次   思いでの最初----ケルン (1901~1906)   ボニィプラッツの家---- 幼い日々と人々 (以下1921年までハノーファでの生活)      さまざまな夏休み---- 森のよろこび   いのちのよろこび---- 兄とともだちと/ ロイターの夕べ   ワンダーフォーゲル---- 若者の世界 丘の家/戦争/夏の旅 (1912~1915、11~14歳頃の体験)   旅立つ予感--- (1915~1921、 第一次大戦から学校教育を終えるまで)   家族の終焉---- (191~1931頃、ケムニッツの両親を中心とした家族の記録)   自分の世界をもとめて----ベルリン 湖岸の村カリンヘンで/ヘラスベルク古書籍商会/自転車の旅/日本へ (1921~1933) ※ ( )の中の年代と説明は私がつけた。

著者の川端春枝さんは京都左京区在住の主婦で国文学者で京都科学読み物研究会 (子供向けの科学図書を
親子で読み、講師を招き野外観察会などをおこなっている。)創設者のひとりでもあります。

この本の「はじめに」 は次のような書き出しになっています。 「これは母の子どもの頃の思い出話です。」
「母は二十世紀の初めの年にドイツに生れ、ワンダーフォーゲルの盛時にその一員となり、 第一次大戦を少
女で体験し、 戦後ベルリンで勤め、一九三三年にドイツ語教師として京都に来て、翌年結婚して日本人にな
りました。」 その方、佐野えんねさんは1995年1月にお亡くなりになられました。

ですがこのワンダーフォーゲルっていったいなんでしょうか。 それに関する記述は、本書の 章42頁があ
てられてます。 またその他の章でも目に留まったところ10か所に書かれています。 ここではその他の章の
ほうから、えんねさんの高等師範時代、18歳頃の回想の一節を引かせていただくにとどめます。

「新しい価値を求め、 新しい生き方を探るワンダーフォーゲルの運動の中から育って青年期に入った者た
ちは、 自由ドイツ青年団に集って戦中も戦後も自分たちの集まりを重ね、討論会や講演会などを続けてい
ました。 私たちもよくそういう集会に出席して、新しい世の中を作ろうとする空気の中で、自分たちも成長
しようとしておりました。」

まず今の日本でこの活動に関係している方、 かって経験されたかた、にはぜひ読んでいただきたいと思い
ます。

ところで、 この本はやさしい美しい日本語で書かれていますが出版まで20年を費やしたといわれるような
大変な労作です。 子供の頃のことをえんねさんは大変な記憶力で覚えておられ、 後にそれらの記憶にひと
つひとつ相応しい言葉をつけ、 意味を考え整理する作業がされているということです。 ここまでは、 主に
えんねさんの自伝としての作業だったようです。

次に娘でもある著者が、 それらを日本語に翻訳しながら、 母親の幼い頃から三十歳までの視点になり替わ
って追体験しつつ書き直していくと云う作業がされています。 本の帯で寿岳章子氏はこの本をすばらしい
自伝文学と紹介されてはいますがこの作業、 仕事の難しさゆえにやはり娘さんの著作としてこの本は相応
しいのだと思われるのです。

子供の時は自分の周りの小さい世界から、 成長するに連れて次第に広い世界へと、 文章もその時々の成長
過程の雰囲気をよく映しています。 その意味ではやはり終章の自転車の旅が爽快である。 日本との出会い
のあったベルリンの古書籍商会に勤めながら長い休みを利用して、自転車を駆っての一人旅である。その領
域は南ドイツのミュンヘン、 南仏のマルセイユ、 イギリス、 ハンガリーにおよんでいる。 そしてあるとき
は旅先で掘り出し物の書籍や絵画の買い付けをしてしまう。ワンダーフォーゲルや教育、苦楽さまざまな経
験がそこに生かされている。 この旅の話は走る自転車程のスピードでさっと書かれているだけですが、 そ
れだけで一冊の本になりそうな気もします。 そしてついにドイツワンダーフォーゲルあこがれの地、 東洋
へ旅だって行くのです。日本へ。

日本にこられてからについては 『日本に住むと日本のくらし』 佐野えんね (樹心社 0425−77−2778)が
あります。