心理学で斬るスポーツトピックス
卓球メールジャーナル第227号(2008年6月25日配信) ●心理学で斬るスポーツトピックス(37) 村越 真
「競争が友達を作る」
私は、静岡大学の他、静岡県立短大の介護福祉でもリクリエーションの授業をもっています。介護福祉を専攻するだけあって、まじめな学生が多いのですが、運動にはやや消極的な学生も少なくありません。ところが今年は、全般にアクティブな学生が多く、スポーツ系の授業も楽しんでくれています。毎年、グラウンドを1周するスピードを上げながら心拍数を測り、運動の強さと心拍数の関係を実感するという授業をしています。最初は「えー、走るの?」といっていた学生も、最後は心拍数がどこまで上がるかという興味から、一生懸命走ってしまう授業です。例年にもまして、この授業でもがんばって走る学生が多く、見ていて気持ちのいいものでした。
この授業では、僕も自分で走って心拍数の測定をします。最後の全力走が300mで1分1秒。なんと女子学生が1分2秒で走っていました。しかも「先生に負けた」と悔しがっているのです。「じゃあ、もう一回一緒に競走する?」と問うと、「やる!」と答えるではありませんか。結果は、僕がタイムを縮めて圧勝でしたが、学生とこうやって本気で競り合った経験は初めてで、それがとても楽しいものに思えました。またそれ以後、学生との距離がぐっと縮まったように感じました。
先日、東京に出張したときには、久しぶりに皇居を1周走りに出かけました。赤坂御苑のところで先行するランナーを見つけ追ってみると、なかなかいいペースです。彼をターゲットにして走り、皇居前広場でとうとうつかまえました。その後、竹橋からの登りでいっきに突き放したつもりで、最高裁の前で帰路のために信号待ちをしていると、彼が一つ前の信号を渡って、道路の向こう側を走っているではありませんか。次の信号待ちで追いついたとき声を掛けると、向こうも気軽に話しかけてくれました。赤坂御苑までのたった10分でしたが、普段一人でトレーニングする僕にとっては、楽しいトレーニング時間となりました。
どちらのケースも真剣に競走し、そして力がほぼ拮抗していたからこそ、互いに親近感が生まれ、また気持ちが近くなったように思えます。また競走といっても、何か重大な結果がかかった場面でなかったことも影響しているでしょう。最近は何かというと競争を避ける風潮があります。しかし、マラソン大会で頑張れるのも、球技で自分の技を磨こうという強い気持ちが生まれるのも、競争とその相手があればこそです。その意味で、対戦相手は競争相手であるとともに、技量を高めていくための共同作業者でもあるのです。競争を嫌い、避けることによって、ともに技量を高め合う中で仲間意識を感じるというチャンスが失われているのは残念に思います。
非日常的なスポーツの中では、もっと競争の価値が生かされると同時に、そうなるような指導がほしいものです。勝つために最大限の努力をする。しかし試合が終わったら結果にはこだわらない。相手の選手と試合のプロセスについて将棋の感想戦のようなことができたら、なんと素敵でしょう。それは技量を高めるのにも役立つし、仲間を増やすことにもつながるはずです。仲間ができれば、強くなりたいという気持ちはきっとさらに高くなるはずです。
大人の選手ならそんな気持ちを常にもちたいものです。子どもの選手に対しては、指導者がそういう指導をすることで、スポーツの価値をより高めることができるのではないでしょうか。
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