代表  小此木エツ子 
 私が神宮の式年造営庁神宝装束部をお訪ね致しました折、『この度の第62回神宮式年遷宮においても「青纐纈綿御衣」の御料帛を奉製なさいますか』というお話が采野課長様よりございました。私には前回の御遷宮の時、京都の21世紀の絹を考える会の名で活動していた皆さんが御神宝「青纐纈綿御衣」の御料帛を奉製するという大役を戴いた御縁がございましたので、この度も御奉仕すべきだという使命感にも似た気持ちが自然に湧いて参りました。
 多摩シルクライフ21研究会で実際にこの大役に取組み始めたのは平成17年夏からでしたが、世話人会を開いて皆様のご意見を聞きました処、「御神宝奉製の素材となる生糸づくりは、当研究会がその役にあたる」という事に、満場一致で即決されました。
 その後、蚕品種の選定や、養蚕、製糸の方法等についての検討が加えられ、僅かな期間でしたが、蚕種交配を財団法人大日本蚕糸会蚕業技術研究所に依頼し、試験的に生糸を繰糸するなど、制作準備が開始されました。
 翌平成18年1月の初子の11日を、吉日と選んで、東京八王子市の小谷田昌弘様の蚕室に関係者一同が参列し、御料帛奉製御事始め祭事を主人が斎主となり斎行致しました
 このようにして、平成18年から御料帛奉製のための諸事がスタートしたのでございますがその年の5月、春蚕期から奉製のための繭づくり、糸づくりがいよいよ本格的にスタートしたのです。
 そこで、先ず御神宝の御料帛が完成するまでの経過を、概略ご紹介させて頂きます。

1)蚕品種の選定 「青熟×支21」を選びました。
2)養 蚕    人工飼料による稚蚕飼育は行なわず、小谷田昌弘様ご夫妻が中心となって、全齢すべてを桑飼育とし、研究会会員と地域住民の方たち等多数の方の手によって行ないました。
3)製 糸    長野県岡谷市の宮坂製糸所で諏訪式座繰繰糸機による生繰り製糸法で製糸を行ないました。
 以上が繭づくり、糸づくりの概要でございますが、この度、御神宝の御料帛奉製にたずさわるに際して考えました事は、出来るだけ古式にのっとった手法で取り組みたいとこだわった事でございます。
 そのために、蚕品種を選定するに当たっては江戸時代から伝わる日本の在来種を基に改良した蚕種「青熟×支21」を選びましたし、養蚕も、現在は通常三齢迄を人工飼料で飼育していますが、それを全齢桑飼育と致しました。
 又、糸づくりも明治初期から伝わる諏訪式座繰繰糸機を用いて、生繭のまま繰糸する生繰り繰糸法を採用致しました。
 その結果、繰り上がった生糸は、細太があったり、節も多く出たりして、外見上は、糸長の長い、太さの揃った繭糸を自動繰糸機で製糸したような太さの揃ったきれいなものとはなりませんでした。これはある程度予想された事でしたが、この度出来上がった糸は、染色性のきわめてすぐれたもので、御料糸としては最適であり、更には、光沢、手触り等、内容的には今つくられている生糸よりもはるかに質の良い生糸に仕上げる事が出来ました。
 その反面で、前述のように糸に細太があったり、節が出たりしましたので、製織を担当された山口豊様は、不揃いの糸を揃えたり、節を除いたり、それはそれは織る上で大変なご苦労をなさったとの事、お伺い致しております。
 こうした事から、山口様が製織作業に入ってから出来上がる迄のおよそ2年間は、只々無事織り上がるのを蔭で祈る日々がつづきました。
 しかし、蚕種選びから「帛」の製織に至る迄御料帛奉製の全工程に皆様が心をこめてたずさわって下さいましたお蔭で、この8月27日に、山口様から心待ちしていた御料帛が五巻程届きました。その時、こみ上げるような喜びは言葉にはなりませんでした。
 私は身を清めて、早速拝見させて頂きましたが、「帛」はすべて純白で、やわらかく、輝くばかりの美しい光沢を放っておりました。又、そのとき私は、「帛」から何か不思議な感動が伝わってくるのを覚えました。
 9月1日、月次祭の折に、多摩講社では、無事、御料帛が完成した事を奉告する御料帛奉製完了奉告祭を行ない、奉告祭後、献上品として直ちに御神前にお納め致しました。
 5巻の御料帛は、後日、一巻ずつ奉書で包み麻でまとめて、神宝装束部より御指定のございました10月10日の伊勢行を待つばかりとなりました。
 10月10日の御神宝御料帛奉献の日は天候に恵まれ、養蚕、製糸、製織等に関わった18名がJR伊勢市駅に全員集合、指定された時刻に神宮に向かいました。
 宇治橋前等での写真は一部を下段にご紹介しましたが、宇治橋で神宝装束部の采野武朗様と宮本史典様のお出迎えを受け、内宮正殿を垣内参拝した後、神楽殿応接室で、少宮司高城治延様御臨席のもと、奉献の儀が厳粛に行なわれました。
 先ず、研究会を代表して私が目録を少宮司様にお渡し申し上げ、つづいて、御神宝「帛」が神宝装束部の御二方の手によって折敷に載せられて、少宮司様にお渡し申し上げました。
 引きつづいて、高城少宮司様より御挨拶と労を労う感謝のお言葉がございましたが、そのお言葉の中で、皇后様のお話が出ました。
 そのお話とは、皇后様が御自ら御親蚕遊ばされた小石丸の生糸を神宮に御下賜下さった事、その生糸がこの度の式年遷宮の御料の中で、もっとも格の高い御神宝に奉製されるとの事でございますが、この事は神宮の長い歴史の中でもかつてない画期的な御事として、深く感銘を受けました。
 奉献の儀が終りますと、神楽殿で太々御神楽が奉納されました。神宮の神楽殿での太々御神楽奉拝は久しぶりでしたので、胸を踊らせてその時をお待ち申し上げておりました。
 御神楽に先立って、修祓があり、お祓いを受けた後、御料帛奉献と太々御神楽奉納の祝詞が奏上されましたが、それは大変丁重な心のこもった祝詞でしたので、もったいない事だと大変感激致しました。
 御神楽は、女舞の「倭舞」と、男舞の「人長舞」「蘭陵王」「納曽利」の四つが奉納されましたが、それはまさに日本の伝統文化の象徴であり、ほんとうに美しく、舞う人も、それを拝観する私たちも、一体となって、しばし、夢の中にいるような一時を過ごさせて頂きました。 この度の伊勢神宮参りでは、奉献の儀をはじめ、内外正宮の垣内参拝、太々御神楽奉納、神宮徴古館の見学等々、神宝装束部の采野武朗先生の御高配で、隅々まで御案内を頂き、大変有意義に全日程を納める事が出来ました。
 翌日、神宮徴古館を御案内して頂きました折には、丁度、神嘗祭を5日後に控えて、特別展示されていた時期と重なり、常設展示されていない御神宝が展示されており、時間の許す限りゆっくりと拝観させて頂きました。中でももっとも位の高い「玉纒御太刀」や「刺車錦御被」「鶴斑毛彫馬」等、数々の御神宝を拝観する事が出来ましたので、誠にありがたく、幸運でございました。
 外宮の参拝を最後に、神宮参りのすべての日程を終えて、勾玉池の休息所で皆さんとお別れしましたが、この度感じました事は、日本の伝統文化の奥深さと、心の豊さでございました。
 この事を日本人として、誇りに思うと共に、この国に生まれ、この国に今生きている幸せに心から感謝申し上げたいと思います。
 式年遷宮という大切な行事によって、古来より受け継がれ、この先、伝承されてゆく日本の文化があるからこそ、今日の日本があるのだと思い、私たちも自分に与えられた使命をもう一度思い起し、たとへささやかな「技」「心」であっても、後世に地道に伝えてゆかなければいけないと、ひそかに心に誓った次第でございます。
 この度の奉献に、種々御高配賜りました高城少宮司様、酒徳部長様をはじめとする神宝装束部の先生方、そして、製織を担当された山口豊様、並びに多摩シルクライフ21研究会の会員の皆々様、この大きな事業を無事納める事が出来ました事を心からお祝い申し上げますと共に、御奉賛を心から感謝し、厚く御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。


神宮に向かう
神宮の鳥居を仰ぐ
御料帛を奉持する
宇治橋前の記念写真
内宮参道を行く
荒祭宮前で説明を聞く
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御神宝「青纐纈綿御衣」の御料帛の奉製と献納を終えて