2005年6月
うーむ。また更新が滞っている。相変わらず、それなりには弾いているのだ。手が空いて、ふと何かの曲を口ずさんだとき、「あ、ギター、ギター」と手にとっては、数十分のプレイに興ずる。まあ、たいして進歩はしていないが、ちゃーんと弾いているのだ。
そして……。
●6月上旬
とうとう、俺のギター人生における、ひとつのクライマックスが来てしまった。
ある日突然、俺がギターを弾き始めた頃に心に決めていたことが、実現してしまった……。
ここで、2001年10月上旬を見てもらいたい。とりあえず抜粋しよう。
<このページに、俺はギター練習の日々を、余すことなく記してきた。ギターを買った瞬間から、俺のギター生活をありのまま、隠すことなく書いてきた。
……というのはウソで、実はひとつだけ隠していたことがある。俺にはいま、思いを寄せている女がいる。片思いだ、バカヤロー。俺はギターを買って、ご満悦で家へと帰る途中、彼女にメールを入れたのだった。内容を要約すれば、ギターを買いました、1カ月後には君にラブソングを贈ります……。>
そう、俺はついに、この女性にラブソングを贈ることになったのだった。
あれから3年8カ月、長かった……。いやあ、すごい。本当にすごい。何がすごいって、ずっと振り向いてもらえないまま、同じ女を思い続けていた俺がすごい。我ながら、すごい。この点においては、俺はおそらく日本一のギタリストである。
お前がもてないだけだろという声が聞こえてくるような気がするが、空耳だと思う。
とにかく、1カ月後という予定はほんのちょっとだけ狂ったが、俺は彼女の前でギターを弾くことになったのだった。
俺の部屋のソファに座った彼女を前にして、俺はギターを手に取る。まずはポロンとCを弾く。ちょっとばかりチューニングが狂っているようだ。宝物のチューニングメーターを取り出し、音程を合わせる。一世一代の晴れ舞台だ。わずかでも音が狂うことなど許されない。俺は慎重に慎重に、いつもの何倍もの時間をかけてチューニングを施す。
ちょっと待たせることになってしまうが仕方ない。俺は3年8カ月も待ったのだから、ほんの数分くらい待たせても、罰は当たらんだろう。彼女もこうやって待つことで、期待感を膨らませるに違いない。焦らすのも作戦のうちだ。これも感動のスパイスなのだ。
チューニングがピッタリ合った。もういちどCを弾く。完璧だ。さあ、まずは何の曲から弾こうか。よし、コレでいこう。行くぜ!
最初のコードを押さえた。きっと彼女の目は潤んでいるだろう。俺が右手を振り下ろした瞬間に、瞳から涙がこぼれるかもしれない。
ジャ〜〜〜ン。
彼女は言った。
「もう少し小さな音で!」
ふと彼女に目をやると、ソファにゴロリと寝転んでいた。瞳に溜まった涙は確認できないが、まあ一言で言えば、ダラけていた。うーむ……。俺のギターを子守唄にしようということだろうか?
俺はこの女に怒られるとすぐにシュンとしてしまうので、すっかり縮み上がった右手でソロリと音を出し始めた。まあ、いい。とりあえず最初のナンバーです。藤井フミヤ『true love』。ダハハハハハ、完璧な選曲だ。
決まった……。今度こそ、間違いなく彼女の瞳から涙がこぼれ落ちるだろう。曲が終わって、ムクリと起き上がった彼女は言った。
「ああ、それっぽい、それっぽい」
声にまったく感情がこもっていないように聞こえたが、思い過ごしだろう。まあ、まだ1曲目。次はどうしようかなあ、と考えていると、彼女は身を乗り出してリクエストをし始めた。そのリクエストは……俺のまったく知らん曲ばかりだった。知っていても、コードなどさっぱりわからん曲ばかりで、ようするにまったく弾いたことのない曲ばかりだった。それらを次々に繰り出し、「じゃあ●●。できないの? じゃあ●●。これもぉ? じゃあ●●。ちょっとぉ、何が弾けるのぉ?」と俺を責め立てる。
切羽詰った俺は、彼女がもっとも好きなアーティストの曲で、たまたまちょっとだけ練習したことのあるヤツを弾いた。これで形勢逆転だ! どうだ!
「よく私の前で、それを弾けるねぇ(怒)」
………………。仕方ない。最後の切り札だ。俺がもっとも得意で、しかもバリバリのラブソングを歌うしかない。実は、一緒にカラオケに行ったときに歌ったことはあり、少しはその曲を気に入ってくれたようだったから、ここは弾き語りでさらなる感動を引き出せばいい。
風『お前だけが』。そう、俺の初ライブとなった去年3月の花見でも歌い、のんきーを痺れさせた曲だ。
曲を告げた瞬間、彼女は言った。
「小さい音でね」
そして、またソファに寝転んだ。
「もうちょっと離れてやって」
はい、と俺は素直に答えて、イスを後ろに引いた。素直なのが俺のいいところなのだ。
心を込めて弾いた。心を込めた歌った。ああ、この思いよ、2mくらい先で寝転んでる女の心に届け……。
決まった……。完璧だった。間違いない。生涯で最高のデキだった。少なくともこの3年8カ月の間では、最上級の演奏だった。
彼女は言った。
「ああ、アレか」
ただ曲を認識しただけだったようだ。
それでも彼女は起き上がって俺に顔を向けた。そして、満面の笑みを浮かべて、言ったのだ。俺もその笑顔でハッピーになり、言葉を待った。
「ちょっと貸して」
俺からギターを奪い取った彼女は、「Cってどう押さえるの?」と質問し、俺が教えるとその通りに弦を押さえた。そして、アゴで俺を促し、俺は弦を弾いた。
ジャ〜〜ン。
お、お、お、押さえられてる! ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃんと押さえられてる……。素人なのに……。俺の3年8カ月は何だったのか……。
「じゃ、帰るねー」
Cを弾けてご満悦の彼女は、さっさと立ち上がって玄関へと向かった。呆然と見送る俺。
いろんな意味で、ほんっとーにいろんな意味で、ギターをやめようと思った。
。