黒須田守
「競輪についての展望と放談」
7月22日・記 「松本整の引退について」
〜日本自転車振興会にはうんざり……でも松本自身も無駄死にでは?〜
 
 
 まず誤解のないよう言っておくと、この件に関しては、松本整全面支持、である。
 この件とは、GT高松宮記念杯優勝後に松本整が引退を発表したこと。松本は、昨年受けた5度の失格により1カ月の斡旋停止処分を課されており、さらに日本競輪選手会より1カ月の自粛欠場を申し渡されて、それを二重制裁だと拒否。自粛期間となるはずのGT競輪祭に強行出場し、地位保全の仮処分申請を東京地裁に申し出ていた。これにより、選手会は松本の除名処分を検討し、最後は松本が引く形で自粛を受け入れた。さらに、5度の失格による事故点により、来期のA級降格が決まっていた。それらを受け、松本は復帰戦となった高松宮記念杯を優勝し、レース後の会見で引退を発表した、というわけだ。
 まず、僕はアホな平等主義は大嫌いだから、松本であろうとも自粛はやむなしとか、松本であろうとも引退届(登録消除届)が出されたから引きとめもせずに受理、などという考え方を徹底して否定する。バカタレ、松本は競輪界の宝だ。その宝を優遇するのは当たり前ではないか。松本はただ宝になれたわけではない。幼稚な言い方をするが、ものすごく頑張ったから宝になれたのだ。その頑張りに報う姿勢のない業界など、クソである。失格5度というレース態度をくさす人もいるだろうが、それがどうした。詳しく書き始めるとキリがないので、あえて簡単に済ませるが、そもそも失格という判定を僕は信用していない。
 だから、松本に対して強硬な姿勢を取った選手会に立腹しているし、慰留もせず松本の引退を許した日本自転車振興会にはうんざりしている。輪界隆盛のキーマンの一人であったはずの男に対する態度じゃねえだろ。松本の怒りは、全面的に正しいと思う。
 
 さて、そのうえで、である。不謹慎な表現で申し訳ないが、これはようするに、松本整という競輪選手の自殺、である。今となってはいろんな裏読みもできなくはないのだけれども、松本整という競輪選手が自ら競輪選手としての命を絶った、というのがもっともしっくりくる解釈であろう。しかも、イジメに対する抗議としての自殺、だ。これもまた不謹慎極まりない言い方であるが、不当な弾圧を加えた輪界に波風立てるために、半ば嫌がらせの仕返しを果たした、ということではないかと思う。
 のんきーは「ノンキーの大冒険」のなかで自殺者の心理について書いていたが、たとえばこういった方法での自己表現はありうるだろう。よく、いじめられるほうにも原因がある、なんて言い方をするヤツもいるが、人を死に追いやるほどのイジメに肯定的な理由など存在しない。絶対に存在しない。するはずがない。そのひとつの現象に限って言うなら、イジメたほうが全面的に悪い。過程はともかく、結果としてはそれ以上の真理などない。その意味でも、松本は全面的に正しい。輪界が間違っている。もはや、この構図は覆しようがないのだ。
 しかし、である。だからこそ、松本はひたすら自分の主張を叫ぶだけでいいと思うのだ。何も「輪界の発展のために」とか「今後、このような問題が起こらないために」とか、そんな綺麗事を言う必要は何もない。引退に、美しい理由など必要ない。徹底的に輪界を否定してしまえばいいのである。
 過日行なわれた、松本整の引退記者会見に出席した。松本はそこで、本来は核心であるはずの今回の騒動について、具体的に触れるのを避けた。ようするに、日自振や選手会への不満をほとんど言わなかった。ハッキリと、詭弁である。
 そもそも、この記者会見自体、何やら不思議なものだった。主催はJPANという団体で、プロスポーツ選手の地位向上を目指す任意団体とのこと。初耳の組織だったのだが、この記者会見のために結成された団体なのだという。筆頭幹事である二宮清純氏は「松本ほどの名選手の引退会見が、日自振や選手会主催で行なわれないことがおかしい」と熱弁を振るって、それはたしかにその通りなのだが、その後の松本の発言とはハッキリ矛盾していた。松本曰く「選手会が引退会見を行なおうとしたが、自分は日自振との共同主催で行なうべきだと申し出た。しかし、その日程がなかなか決まらなかった」。この会見は6月17日に行なわれたのだが、翌18日からは松本の地元である向日町で記念レースが開催されることになっており、地元のビッグイベントに影響がないよう、17日までに会見を開きたいと松本は日自振、選手会に申し込んでいたらしい。それがかなわなかったため、JPANによる会見と相成ったわけだが、二宮氏の発言は結局ウソではないか。さらに言えば、会見が向日町記念の後になったからといって、どんな悪影響があるというのか。二宮氏の言に倣うなら、日自振と選手会に働きかけて、会見が行なわれるのを待てばよかったのである。ちなみに、選手会単独で行なう会見を嫌った理由は、「自分の発言に選手会が圧力をかけていると疑われることは本意ではない」とのことだったが、それは日自振との共同会見でも同じこと。圧力うんぬんを問われたくないのなら、その場で言いたい放題ぶちまければいいだけである。そもそも、先述したとおり、松本はこの会見でも綺麗事を言う必要はなかった、と僕は思う。
 質疑応答に移り、スポーツ紙などの記者が質問を飛ばす中、一人のファンが手を挙げた。井上茂徳(?――本人は「井上先生と数十年の付き合い」と言った。井上先生ということは、茂徳だよな)の知己により会見に出席したとのことだったが、どう見てもオッサン競輪ファンのその人が、すべての質問のなかでもっとも正鵠を射る発言をした。
「競輪界に問題提起するのだったら、引退せずにA級で走るべきではなかったか。それが最大の問題提起である」
 おっしゃるとおりである。45歳にして一線級を維持するための努力は、まさにトップを目指すための努力であり、A級で走るということはそのモチベーションを著しく下げる、という松本の言い分はよくわかる。しかし、9連勝でS級特進という制度がある以上、実は説得力に欠ける理由であることも否定はできまい。ファンの勝手な言い分を言わせてもらえば、そこから復活してくる松本が見たいのだ。そして、松本がA級であることの違和感に、ルールを含めた輪界の問題点を見出したいのだ。松本が引退することで投げかけた問題提起とは、「なんか、競輪ってひどい業界だね」というものでしかない。少なくとも、松本の復活ドラマがそぎ落とされているのだから、単に暗澹たる競輪の未来しか見えてこない。松本は、「引退したことにより、今日もこれだけのマスコミが集まってくれた。確実に、注目を向けることができた」と言うが、せいぜいスポーツ紙の競輪面で大きく扱われるくらいの注目にすぎない。結局、競輪に興味のない人は飛ばし読みするのであって、実質的には注目の輪はそれほど広がっていないのだ。
 同業の先輩である二宮氏には申し訳ないが、こんなの、綺麗事という御旗を楯にした、自己顕示行為でしかない。これで競輪界が変わると思ったら、大間違いだ。いや、松本の引退によっても何も変えられない競輪界はアホと言うしかないが、結局は何の問題提起にもならない可能性が大きいのである。
 僕は、松本は無駄死にした、と思う。自らの手によってそうしてしまったというのが残念でならないが、単に一過性の話題でしかなくなったと思う。もちろん、そうならないよう松本及びJPANには頑張ってもらいたい。今後も、どんどんと問いかけをしてもらいたい。ただひとつ言えることは、松本も含めた競輪界は、何か勘違いしている。ファンあっての競輪なんて言いたくないし、言うつもりもないが、あのオッサンファンがあの場ではもっとも“わかっている”人間だったのは間違いない。
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9月22日・記 〜オールスター〜「競輪とは、吉岡なのである」
 
 
 結局のところ、競輪界の盟主は吉岡稔真である、ということだろう。
 吉岡が復活した、それだけで輪界の温度は明らかに上昇している。神山雄一郎がどれだけ無敵の強さを見せても、山田裕仁がどれだけ王者の走りを見せても、こうはならなかった。伏見俊昭が未来を感じさせるスピードで駆け抜けても、松本整が中年の意地を見せつけても、やはりこうはならなかったのだ。
 強い吉岡がそこにいる。
 それだけで、レースに興奮が生まれてくる。レースがデコレイトされたような気がしてくる。そして何より、車券を買おうかな、という気にさせられる。
 強さとは何か。その定義は実に難しい。神山も強い。山田も強い。伏見だって松本だって、村上義弘だって小島敬二だって、たしかに強い。しかし、競輪における強さとは何かと言われたら、それは「吉岡稔真である」と僕は答えたい。少し前なら滝沢正光でもいい。とにかく、吉岡や滝沢に象徴されるようなものこそ、強さであり、そしてカリスマの条件であると僕は思う。もはや実績という点では、神山は吉岡を完全に超えている。山田も超えていると言えるだろう。しかし、本当の意味で、神山も山田も、吉岡を超えることはできていない。まあ、一時期の低迷があったがゆえの、吉岡フィーバーであるのは認めるが、しかし現在不調をかこっている神山がまた調子を取り戻したとしても、吉岡ほどの熱狂を生み出せないのは明白だ。やはり、競輪の魅力は吉岡にこそ凝縮されている。
 その吉岡が、明日、オールスターの決勝で史上4人目のグランドスラムに挑戦する。展開をいろいろと考えてみれば、決して吉岡に有利とは言えない組み合わせだ。逃げるのはおそらく村上。伏見という線もあるにはあるが、番手に地元の光岡を背負っていることを考えれば、もっとも積極的に主導権を取りに行くのは、村上しかいない。その3番手の取り合いがひとつの焦点だが、おそらくは長塚智弘か九州の連係を外れて単騎を表明した小野俊之。長塚の後ろには、怖い怖い小橋正義が控えている。そして、その後ろのラインがおそらく伏見。どう考えても、吉岡は7〜8番手というのが妥当なところだろう。先行日本一の村上、レース勘が冴えている長塚に小野、一昨年の調子が戻ってきている伏見、そして小橋。吉岡の前には、あまりにも多くの敵が揃っているのだ。
 それでも、やはり吉岡を応援しないわけにはいかない。久しぶりの特別制覇、そしてグランドスラム達成で、さらに競輪を熱くしてもらいたいからだ。このメンバーなら程よく人気も割れるだろうから、ガチガチの車券にもならないはず。とにかく、僕は明日、吉岡と心中することにした。最終1センターではおそらく後方の吉岡を見て、ヒヤヒヤと肝を冷やしながら、豪烈なマクリを見届けたい。
 相手は小橋、小野、斉藤。車単で3−7、3−9、3−5。3連単は3−7、3−9から流しで14点買い。絞るなら、光岡、長塚をそれぞれ外して10点買いでいこう。
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