
手や足、顔面のしびれ感(ジンジンする, 触って感じ方が鈍いなど)を訴えて脳外科を受診される患者さんは、頭痛や手足の麻痺あるいはめまいなどを訴えて受診される患者さんと同じくらい多いのではないかと思います。そうした患者さんを前にして、我々脳外科医が通常考えるのは、まず第一に「しびれ感の原因となる大もとの場所はどこだろうか?」、そして二つ目は「しびれの原因となっている病因はなんだろうか?」という二点になるのでは思います。
実は、この二点について言い当てるのは、症状が典型的な場合には専門医にとってさほど難しいものではありません。しかしながら、症状が非典型的であったり、しびれを起しうる持病を複数お持ちの患者さん(特に高齢者に多い)の場合には、専門医と言えども簡単にはいかないことも多いのです。どういうことかと言いますと、「しびれの原因の大もとの場所はどこか?」という点について考えるだけでも、例えば手のしびれは、脳,
脊髄, 末梢神経の何れの部位でも起こりますし、「しびれの病因は何か?」という問いに対しても、大雑把に分類するだけでも腫瘍・血管障害・感染症・代謝異常(糖尿病・腎機能障害など)・中毒(アルコール中毒・薬物中毒など)・外傷・変性症疾患・心身症と多岐に渡り、この分類に含まれる病気の数はゆうに100種類を超えるでしょう。実際、しびれの専門家であっても約4割の患者さんについては、しびれの原因がはっきりわからないと率直に話される先生もおられるくらいです。
正直言いますと、しびれの原因がよく分からない患者さんに出くわすのは我々も同様で日常的にあります。この様に申しますと、今現在しびれでお困りの患者さんにとっては、とても頼りなく思われるかもしれません。しかし我々は常々、すべてのしびれの原因が分かるわけではないにしても、それなりの適切な対処の仕方があるのでは考えております。
既に述べましたように日常臨床の現場において、しびれの原因がはっきりしない場合が多いのは事実です(当然十分な精密検査がなされているというのが前提です)。しかし、MRI などの最先端の医療機器の出現により、以前にはなかなか分からなかったしびれの原因を早期に特定できることも多くなっています。実は、こうした疾患の中に脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や脳腫瘍などの生命の危険のある病気が紛れ込んでいるのです。ですから、我々がしびれを訴える患者さんを前にしてまず真っ先に考えるのは「そのしびれは危険なしびれなのか?」「緊急を要するしびれではないのか?」という点になるのです。
生命の危険もなく緊急を要することもないという事になれば、時間をかけて経過を観察することで正しい診断にたどり着くことはしばしばあります。また、判断が難しく自分の手に余るということになればより高次の専門家に紹介することも可能でしょう。初診の時点で病因が確定され、正しい診断がつくのが理想的なのは言うまでもありませんが、仮にそれが難しい場合には、まずしびれの原因が生命に関わる危険なしびれなのかどうなのかを迅速に判断するということが最も大切でしょう。
我々脳外科医は軽いしびれといえども時に重大な病気が隠されていることを経験的に知っております。そうした考えにのっとって、我々は当院を受診される患者さんに対して、原則として患者さんが受診された当日にCT,
MRなどの精密検査を行うようにしております。これは、検査の予約日を待っている間に患者さんが急変するなどの過去の苦い経験が実は裏に隠されているからなのです。