Report .中央アジア乳製品事情(1) 

───チベット東北地方(アムド)を中心に───

 

・牛乳・乳製品の文化というと、私たちは欧米のものと考えてしまいがちです。しかし、中央アジアの遊牧を営む民族にも、独特の豊かな乳文化が今に伝わっています。

  今回は、そのような民族の中からチベット民族を中心にレポートします。

1.チベットとは?

・チベットの位置

 現在の中華人民共和国のチベット自治区・青海省・甘粛省の一部(チベット族自治州)・四川省の一部(カンゼチベット族自治州)・雲南省の一部(デチェンチベット族自治州)にまたがる地域を指します。有史以来独自の文化を築いてきましたが、1959年以降、中国政府の支配下にあります。現在インドのダラムサラに本拠を置くチベット亡命政府との間に民族問題を抱えています。

 インド北部のラダック地方もチベット系王国の一つでした。また、ヒマラヤ山脈の南側にはチベット文化を伝える民族・国家として、ネパールのムスタンやクーンブ地方(登山ガイドとして有名なシェルパ族)、シッキム、ブータンなどがあります。

 民族は異なりますが、モンゴル人も伝統的にチベット仏教に帰依した歴史があり、現在でも深いつながりを保っています。13世紀に東アジアを支配したモンゴル帝国の皇帝は、チベット僧を顧問として重用しました。その伝統は満州族の清王朝に引き継がれ、北京には現在も大きなチベット仏教寺院(雍和宮)があります。

・チベットの生活・文化・・ヤク牛との密接な関わり・・

 チベットは7世紀頃に仏教を受容して以来、独自の高度に発達した仏教文化を築いてきました。おそらく、日本でのチベットに対する知識・情報は「チベット仏教」に関するものが多いのではないでしょうか。

 一方で、平均高度が3000mを越える高地に生活し、空気が薄く雨の少ない厳しい風土に暮らしているために、独特の遊牧文化を持っています。

 人々は「ヤク」と呼ばれる毛の長い牛を大切に飼っています。その乳より数々の乳製品を作り、肉は貴重なタンパク源に、毛や骨・角は生活用品にして無駄なく利用します。草木の乏しい土地なので糞は乾燥させて燃料とします。まさに「高原之寶」です。

 お寺ではヤクのバターを灯明とします。信心深い人々は灯明を寄進することで功徳を得ようとします。ですからチベット寺院の内部はバターの独特な香りに満ちています。また、バターと粉を練って「トルマ」という供えものを作ります。アムド地方のクンブム寺の名物「酥油花」は、顔料などを混ぜ込んだ精巧なバター細工で、様々な物語を巻物絵のように表現したものが冷蔵装置の付いたケースの中で展示され、大変な人気です。

2.アムド地方(チベット東北部)の乳文化

1)青海湖周辺

 青海湖(ココノール)はチベットのみならず、周辺地域(中国・東トルキスタンなど)では最も大きい湖。周辺は草原が広がり、遊牧の風景が広がっています。

 遊牧民はモンゴルのテントハウス「ゲル」に似た円形の天幕(下図)か、屋根型のテント(次ページ)を張って生活しています。

 中央には囲炉裏のようなものがこしらえてあり、屋根型のテントの場合、向かって右が客をもてなす場所、左が台所に相当する場所のようです。正面には仏壇がしつらえてあります。

       屋根型のテント              テント内部

・食事

 主食は「ツァンパ」という麦焦がしです。青[禾果]麦(チンコー:大麦の一種)の粉に、バターやチーズ・砂糖などを混ぜて木の椀の中でよくこねて食べます。もっとも、簡単に茶や水でこねて済ますこともあるようです。火力が無くても簡単に作ることができ、風土に合った携帯性の優れた食べ物です。余談ですが、チベットは世界でただひとつ、大麦を主食とする民族です。([禾果]:のぎ偏に「果」という文字)

 また、お茶を煮出してバターを加えた「バター茶」をとてもたくさん飲みます。乾燥した土地では貴重な栄養源になるそうです。細長い桶状の容器に撹拌棒の付いたバターチャーンは生活の必需品です。

 

    木製のバターチャーン             ツァンパの材料

手前がバター 中がチンコーの粉 奥が砂糖

            

 チーズは乾燥させて保存食にするようです。直径1cmほどのチーズが干してありましたが(次ページ)、残念ながら製造方法を聞くことはできませんでした。

 

 粒状のチーズを乾燥させているところ

2)西寧

 現在は青海省の省都です。現在、アムド地方(現在は青海省と甘粛省の一部)では、チベット族の他に・土族・サラール族(ムスリム)・漢族などが多く住んでおり、全くチベット文化を感じないところも多くなっています。先述の「酥油花」で有名なクンブム寺(塔爾寺)は、近郊の湟中にあります。

 

      西寧のバザール           飲料・菓子を売る屋台

 

 市内にはバザールがあり、繁華街の路上には飲料や菓子を売る屋台が何台も出ています。その中で、酸[女乃](女偏に乃の文字。中国語で乳のこと)の屋台がありました。

 

 

        屋台の酸[女乃]各種             陶器の壷入り酸[女乃]

    左は陶器の壷入り 右はドンブリ入り          紙の蓋を破って

    ドンブリの上にカップ入りも見える           ストローを挿す

 酸[女乃]とはヨーグルトのこと。陶器の壷やドンブリにヨーグルトミックスを分注して発酵させた「自家製」のものです。一般の工業製品とおぼしきカップ入りのもありましたが、どのようなものかは確かめることはできませんでした。

 

・陶器の壷入り酸[女乃](写真前ページ)

  :中身1.2元 壷代2元 (1元=\14.7 1997/Aug当時)

バザールでの定食が数元であることを考えると、日本の感覚では\100少々と考えられます。

 内容量は約500ml。通常はその場で飲んで容器は返すもの。酸味は弱く甘味は強い。カードはあまりなめらかではなくあまりおいしいものではありません。この種の酸[女乃]は当たり外れがあり、今回飲んだものはおいしくない部類だとか。成分は表示がなく全くの不明ですが、脂肪はあまり含まれていないような印象でした。

 

 西寧では、酸[女乃]以外に乳製品を見かけることはありませんでした。なお、この地域のヤクの乳脂肪分は1%程度とのことです。

 

3)蘭州

 甘粛省の省都。河西回廊(シルクロード)の入口として知られています。黄河に面し、最近は工業都市として発展する反面、盆地状の地形のために汚染された大気が滞留して問題となっています。

 

 白塔山公園からの蘭州市街俯瞰

 手前は黄河

 

 市内は近代的な街並みで、中心街には「デパート」に相当するの店舗がいくつもありました。いずれも、夜8時頃まで営業しています。

 

・甘粛省天天商城

 売場フロアは3階まであり、食料品を多く扱っています。繁華街に面していますが、駐車場は確認できません。家族連れも来店するようですが、夜8時頃であっため、客数は多くなかったようです。

 扱い品目はベーカリーを除き、すべてドライもの・LLもののみ。この傾向は中国の他都市での百貨店と同傾向です。ショーケースを挟んで店員と対面方式で商品のやりとり、支払いを行います。

・甘粛省糖酒副食商場

 上記「天天商城」の3Fで乳飲料を購入した際、買い物袋に記載されていた名称。「天天商城」のテナント名なのか、別店舗なのかは不明。

  
龍丹壮骨[女乃]粉 中小学生型        龍丹壮骨[女乃]粉 中老年型

 400g 14.1元(甘粛省天天商城)      400g 14.1元(甘粛省天天商城)

 両方とも、栄養成分強化粉乳で、生乳・脱脂乳・ホエイ粉に各種栄養成分を添加して製造したものです。日本の生活レベルに換算すると、\2,000程度のものと推測します。

 飲用方法は、温水に溶かして飲むとのこと。それぞれの年齢に合わせた栄養成分構成となっています。製造は黒竜江省乳品工業技術開発センター(ハルピン市)。中国の栄養事情が垣間みられ、興味深いものがあります。
・「均瑶」(Junyao)ブランド

 LL牛乳(栄養成分記載なし)225ml  3.1元(甘粛省糖酒副食商場)

 6ヶ月常温保存可能商品

 温州均瑶集団無錫有限公司製

 日本の生活レベルに換算すると、\400程度
・「娃哈哈」ブランド いちご牛乳 

 100ml  1.1元(甘粛省糖酒副食商場)

 6ヶ月常温保存可能商品

 抗州娃哈哈集団公司製

 日本の生活レベルに換算すると、\150程度

Protein:1.0%以上

糖分:7.0%以上 全固形分:7.0%以上

原料:水 砂糖 粉乳 果汁 酸味料 香料 等

・前記「天天商城」の出入口付近、および周辺の路上では、ワゴン車による飲料販売と椅子をいくつか置いた形態で多数営業していました。これらが「天天商城」のテナントなのか全く関係ないかは判断がつきません。

 販売している品物はアイスクリームおよび右図のような瓶入りヨーグルトが主でした。繁華街なのだが街灯は意外と暗く、これら簡易店舗の灯が歩道を照らしています。

 仕事帰りなのか、夜9時近くなのにもかかわらずサラリーマン風の人が多数見受けられました。

・チルド流通は別ルート?

 地元の人の話によると、蘭州ではチルド流通の牛乳を扱う専門販売店が別にあるとのことです。しかし、どのような営業形態をとっているのか、また生活者の購入頻度・購入形態はどのようなものなのかは未確認です。

 

Reported by Office Tashi

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