星界の戦旗IV



緊急特集 星界の戦旗IV 〜軋む宇宙〜

「tejinasi引田の戦旗IV 徒然草」
その4


星界の戦記IV
〜軋む時空〜
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030774-1
定価:本体520円(税別)


 


 ●戦争のこと。●


 冒頭でも述べたように、今回はひたすら戦争しています。
 あとがきで森岡先生自身も述べているように、「主役は戦争」。
 「戦闘」ではなく、「戦争」。ですから、今回の物語の魅力的な部分は「戦っている現場」ではなくて、「後方」にあったりします。
 ハニアと帝国のかけひき。皇帝陛下の思惑。
 そして、今回最大のテーマとも言えるのが、

 「アーヴ皇帝もウソをつくことがある、と認めるか」
 
 “ハニア連邦を併合し、三カ国連合と戦争しながら、彼らの星も、帝国星界軍が守る。”

 無理だワナ、そりゃ。仮にも、銀河で三番目の国家なんだもの。
 そんな約束を完全に履行することは不可能。
 とっとと戦争を終わらせて、「結果オーライ」であることを期待する、というのは、誠実な態度とは言えない。
 それでもその約定を結ぶということは、「無理な約束をする」こと。つまり、端から「ウソ」であるという約束をすること。

 アーヴが商業種族であり、契約を最も重んじる以上、「信用を失う」ことは、最も大きな損失なわけです。

 ラマージュ陛下は、とりあえずハニア武装解除の検討を命じます。
 そしてその検討が終わらず、準備も整わぬうちにハニア連邦が、(よりによって)クリューブ王国へ侵入する。
 はかったように。

 情報がどこから漏れたか、は大体見当が付きます。
 ハニア大使から、ハニア本国へ。そして本国の「帝国派」のどこかから、反帝国派へ。

 ハイド伯国の例を見るまでもなく、「売国よりは名誉」と考える人々は常に存在するわけで、帝国ほどの情報管理がされているとはあまり思えない状況の、動乱のハニア連邦で、反帝国派が独自判断で開戦に踏み切るなんてのは、ありそうな話。
 最近のアラブ方面の動乱の構造にも似ているような気がします。

 ハイド伯国とハニアの事情には、大きな差異があります。
 ハイドは「仕方なく」帝国領となった。
 領主となったロック・リンは、結果はとにかく、星系の利権を、国家として守るために、苦渋の選択をしたわけで、アーヴが来なければどうでも良かったわけです。

 一方、ハニア連邦の「領主拝命希望者」たる人物たちは、どうも「私的な権益の保持のために、絶対君主的地位に就こうとしている」というニオイがプンプン……(^^;
 あの、歴史浅く、それだけに民主的な国家としてはマトモに機能していたらしいハイドですら、あの騒ぎ。
 アプティックのように、領民政府が体制を維持し、事実上の支配体型が変わらないのとは違い、「領主」を封じるということは、「絶対君主制」になる、という理解のされかたをしても仕方がない。
 アーヴ的には、多少もめても、「せいぜい数十年」ですが、地上出身者にしてみれば、自ら生涯の大半を動乱する社会の中で生き、しかもそれを変更する手段がほぼ無いに等しい、ということが確定してしまう。
 そういう社会体制になるということですから、重大な閉塞感を抱くのは当然。反発も当然。しかも、支配種族は、今現在、庶民の反感も買っているであろう現支配者と、その末裔だし。

 もし仮に、彼らが帝国に組みこまれたとして、自分の後継者を青髪にすることを良しとするかどうか……それすらも危ういと、思わなくもない。

 「アーヴである以前にスーメイ(ハニア)人である」

 というアイデンティティのアーヴが現われる可能性は全く否定できず、そして、その数はおそらくバカにできないものになる。
 ……まぁ、実際そうなったら、帝国はその国をぶったたくでしょうけどね。
 それでも、ハニア系の「諸侯」(諸侯になってしまうわけですよ。可住惑星の領主ですから)からの反発は必至でしょう。
 
 ……と、いうことを、どこまで認知し、危機感を持っていたのか。
 特に、ハニア併合を強力にプッシュした“外交官出身の新宰相”ブラーシュ殿は。

 「地上に対する認識の低さ」

 帝国の最大の弱点は、実にここに尽きるわけで、理念よりも感情に流されたり、本値と建前を使い分けたり、既成事実を作ってゴリオシしたりする、という発想がないアーヴ、「全ては時間が解決する」というアーヴの流儀は、今回ばかりは裏目に出てしまったようです。

 多分。今回帝国にケンカを売ったのは、彼のアンガスンのように、「信念のためには死をも恐れない」ような人々であることでしょう。
 そういう輩との戦は……しんどいよな。間違いなく。
 しかも、戦争が集結しても、地上世界の混乱は、うんと長引くでしょうから。

 結局、ハニア併合への動きが、「死者を減らす」ための判断として正しい方向だったのか。「アーヴの信用」を賭けるだけの価値があったのか。

 物語は、この問いの答えを求めて、その流れを急激に速めて行くようです。


●おまけ。「伴奏壇」に関する考察。●


 伴奏壇。

 カラオケですね。(笑)
 カラオケ自体は、小生も大好きですが、これが「野外」となると、ちょっとアレです。
 しかも、酒席で。
 酔っ払いのダミ歌くらい、酒を不味くするものもない。

 「一次会にはカラオケを入れるな」

 宴会幹事の鉄則を、ジントはつい、破ってしまいましたね。
 かわいそうなグノムボシュ君。
 複数の工場の工員さんたちも含めた大宴会のカラオケ順を、本社の新人総務部員が仕切らされているようなもんで。(笑)

 いかん。なんか「星界の戦旗」が、どんどんサラリーマン物のトレンディドラマに見えて来た(爆)。

 そうそう。アトスリュアさん、多分、カラオケはお上手だと思われ。
 こういう「開けた場で歌う」、ということは、認識の外だったというだけではないかと。

 それにしても、そうだよなぁ。
 ガーデンパーティで、カラオケは無粋だよなぁ……。
 生楽器にしようよ。せめて。


●終わりに●


 今回、戦争の戦略、戦術については、細かく語ってません。
 小生の専門分野ではないし、まだ、そこまで読みこんでないものですから。
 とりあえず、キャラクターたちを中心に、いろいろと書いてみましたが……まぁ、アレだ。

 「長き物語の新章・第1節」

 であることは、間違いないわけで。
 戦旗Vでは、IVに登場しなかった方々、スポール閣下や、ドゥサーニュ殿下。ケネーシュさんやら、トライフ元帥やら、ビボビボ兄弟やら。
 彼らが再登場する時、おそらく物語は煌々しい火線の飛び交う、灼熱の光景に彩られていることでしょう。

 それから、他にも登場しそうでしなかった方々、いますね。
 ジント……というか、サムソンの下で働いているであろう、セールナイ商会の三人娘とか。

 将来的にですが、もし、帝国が敗北し、アーヴが「地上に降りてゲリラ戦をする」ことになったりした時、彼らとの「個人的な信頼」こそが、状況を打開する助けになったりするんじゃないか? と思っていたりします。
 ドゥリンや、エントリュアや、“反帝国クラスビュール戦線”の連中が再登場する時、それが、長い物語の転換点になる。
 今回の戦旗4を読んで、そんな思いをさら強くした。 と、ここに記しておこうと思います。

 さて。
 願わくば、2005年中には、戦旗5が読めますように(笑)。
 できれば、夏コミ前に新刊が出ることを深くきぼんぬ。

 ということで。今回はこのへんで。

 2004/12/28 21:23  

 tejinasi 引田  

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