◎阿武隈川カヌーツーリング(’96.9)


 私にとって9月最大の連休となる14日から16日まで、福島県から宮城県へと注ぐ阿武隈川にツーリングに出かけた。今回は、ファルトボートとかフォールディングカヤックとか言われる折り畳み式のカヌーである。クリーンテックスジャパン社製パジャンカという船が愛艇。

 9月13日(金) 

  まず、白石川に釣りに出かけるという同僚の車で、連休前夜の東北道を北へとヒタ走った。同僚は現行セリカで飛ばす飛ばす。途中パッシングしてきたBMWに怒り、170キロオーバーのスピードでその車を追い回すという、ヒタジェンヌ(私の遊び仲間集団)の伊藤さんばりの運転で、横浜市都筑区の我が職場から、なんと4時間後には福島にいたのだった。 
 その後、高速を降りて、福島駅に向かう途中の大きな橋で車を止めてもらった。
 多分ここが阿武隈川に架かる橋だろう。しかし、近くの看板には「荒川」の文字。けれども俺はこの川を阿武隈川と信じて疑わなかった。多分、本当の名は荒川で、通称が阿武隈川なのだろうと考えた。そういう川があることをいくつか知っていた。例えば、四万十川は渡川という。相模川は馬入川だ。
 しかし、若干の不安も残る。と、前から人が歩いてくる。夜9時をすぎているのでよく見えないがとにかく聞いてみよう。 「すみません、この川は阿武隈川ですか。」 「・・・アブクマ・・・、ソウ、アブクマガワデスネ、タブン・・・」なんと、ジモッピーの外国人に道を聞く日本人がそこにいた。彼は、最後に「イチオウ、アトデ、チズデカクニンシテクダサイ」 といい残して去っていった。外国人だろうが日本人だろうが、とにかく阿武隈川に到着した。安心して、同僚に礼を言ってそこで別れた。 
 その後テントを立て、近くの町にでると本屋があった。そういやあ5万図を買い忘れてきた、と思い尋ねたが、生憎置いてなかった。そして、荒川のことを一応確認しようと地図を見ると、アラ、荒川は阿武隈川の支流じゃあありませんか。しかし、それほど細くもなさそうだし、堰もなく本流へと続いているようで一安心。 その晩は戻って寝る。
 

 9月14日(土) 
 
 夜のうちから雨が降り出していた。昨日の晩、タープも立てておいて大正解だ。9時頃までテントの中でごろごろと寝る。天気予報では1日中雨。停滞決定。 とはいえ、朝飯もないので買い出しに行くことにした。傘は忘れてきたが、荷物になるので買わずにレインスーツで行動することにする。
 まず、駅の観光案内所で大きな本屋の場所を聞いた。5万図を買うためだ。2件回りなんとか最後の1枚を除いて買うことができた。テン場にあった「太平洋まで79キロ」の看板を思い出し、まあ河口まで行けないから・・・と納得した。その後、コンビニで食料を買い出しをして戻る。1時に遅い朝飯を食い、また寝る。
 その後、雨を見つめながら、本を読んだり、ラジオを聴いたり、居眠りをしたりというとてものんびりした時間を過ごした。 天気予報では、明日は晴れ。よし、明日は、朝早くからこぐぞ。


9月15日(日)  

 ありゃりゃ。朝5時半に目を覚ますと、まだ雨が降っている。どうしたものだろう。しかし、今日漕がなきゃ、何もしないで帰ることになる。天気予報じゃ、良くなる方向だと言っていることだし、出発しよう。 撤収を始めると、運のいいことに雨がやんだ。よし、その調子だ。 
 そして、7時20分。異例の早い出発となる。普段なら、早くても9時。遅いと11時発なんてのもザラである。
 荒川は、雨で増水したためか、浅いながらも底をすることなく、快調に流れる。途中で釣り師に会う。「何が釣れるんですかあ。」「ハヤだ。」
 しばらくすると本流との合流点に出た。やはり、支流の荒川とは違い、大河の雰囲気が漂う。静かに、しかし速い流れでとうとうと流れている。増水のため、川の色は茶色に濁っている。阿武隈川は、あまり水がきれいでないと言われている。しかし、こんなに濁っては、きれいだか汚いんだか全くわからず、かえってラッキーといった感じだ。 空は、生憎曇り空。後でわかったのだが、この日、伊豆では快晴で暑いくらいだったという。何という不運。久々のソロツーリングというのに。
 「オーイ。カヌー、こっちに来ーい。」という声に、そちらを向くと、数人の女子高生。人を呼んだくせに、なぜか土手の上に逃げ出す。変な奴らだ、と思いながら下っていると、今度は自転車で追いかけてくる。そして、「オーイ。」と、手を振ってくる。女の子に手を振られてうれしくないわけがない。おじさんは、恥ずかしそうにやや下を向きながら、黙って手を振り返した。と、「キャー、カヌーカッコイイー。」などと大騒ぎをし、さらに手を振ってくる。俄然盛り上がってきた。今度は、しっかり「オーイ。」と、声を出して、手を振る。川と土手を手を振りながら併走するカヌーとチャリンコ。なんと美しい図か。
 俺の頭には、この間の5月の連休に下った長良川のことがオーバーラップしていた。 そのときは、こうだった。長良川温泉付近を下っていると、ジェットスキーの軍団がいた。「全く、うるさい奴らだ。」そう思っていると、近くを通った車の窓から子供の怒鳴り声が降ってきた。「ジェットスキー、カッコイイー。カヌー、ダセー。」今まで、カヌーをやってて、珍しがられたり、うらやましがられたりしたことはあったが、ださいとまで言われたのは初めてだった。さすが、カヌーのメッカ、カヌーなんて珍しくもなんともないのか、と変に感心したのを覚えている。
 それが、阿武隈川じゃどうだ。女子高生に「キャー。」とか「カッコイイー。」とか言われるなんて。一発でこの川が気に入ってしまった。しかし、その直後、彼女たちのこういう声で、そんな気分も萎えてしまった。「ねえ、あの人の顔見える?」「全然・・・。」彼女たちも、その一言で急に静かになり、さーっと消え去ってしまったのだった。まあ、そんなもんだ。一瞬でも楽しかったからいいや、と、再びソロの世界へと入っていった。
 しばらくすると、阿武隈急行の鉄橋が見えてきた。そして、近づくにつれゴーッという音が響きわたってきた。瀬だ。最近、カヤックよりカヌーに乗ることが多かったので不安がよぎる。(カヤックとは、リポビタン*やマイルド*のCMでおなじみのやつ。カヌーは、映画「激流」の中で、殺されたガイドが乗ってたやつ。わかんねーだろーなあ。愛艇パジャンカは、カヤックの仲間。)
 しかし、気持ちで負けると絶対だめだと思い、一人で、「ウヒャー」とか「ヒョー」とか大きな声を出しながら大きな瀬を通過。波は高かったが、素直だった。 しかし、その瀬をすぎると再びとてもおだやかな表情で静かに流れるのだった。いつもなら、ここで酒と読書というところだが、今回は、昨日雨だったためとにかく距離を稼ぐことに主眼をおいた。でも、ワインはしっかり飲んでいたが。
 それにしても、これほどまでに穏やかな川も珍しいのではないか。まるで、天塩川のようだ。20キロ以上下って、瀬はたったの一つ。どうなっているのだろう。増水のため瀬がつぶれてしまったのだろうか。
 しかし、兜駅が近づくと、様子が明確に変化してきた。大きな岩が点在し、白波がたち始めた。水深は深く、艇の底は全く擦らない。と、1メートルくらいの落ち込み。元々下見は嫌いな方だし、川地図にも簡単な瀬が混ざる程度とあったので無警戒だったが、なかなか迫力があった。突破。やはり、ただ単にぼーっと10年カヌーをしてないぜ。今度は、長良川の上流部にチャレンジだ、と思った瞬間、バウ(カヌーの先端)がすーっと左に傾いた。えっ、と思うまもなく、体が川の中に吸い込まれていった。激沈。ウソだろー。ここ数年沈をしてないんだ、この俺は。しかし、現実に流されている。レインウエアーの中に水が入り、泳いでも全くコントロールできない。幸いに、パドルはしっかりと持っていた。無意識のうちに、ソロの緊張感がそうさせたのだろう。水深は、かなりあり、岸に手が届きそうなのに背が立たない。
 そうこうするうちに、エディーの中に自然に入り込み、何とか岸にたどり着いた。水出しをし、地図を見る。これから、阿武隈川ライン下りのコースだ。また沈をするかもしれない。そう判断した俺は、着替えをせずに下り続けることにした。
 少し行くと、ライン下りの船が係留してあった。さあ、これからだ。緊張が高まる。
 しかし、予想に反し水面は最初の頃のように穏やかな表情であった。ははあん、最初は静かにしておき、後半激流で盛り上げるコースなんだな。そう考えた。
 が、いつまで立っても変化がない。おかしい。と、ライン下りの船が、エンジン音を立てて遡上してくる。ややや。俺としては、長瀞のように船頭さんが竹竿一本で下るライン下りをイメージしていただけに、なんか拍子抜けしてしまった。
  それ以降も、川は表情を変えず、ライン下りの終点にきてしまった。なんてこたあない。阿武隈川ライン下りというのは、ライン下りと言うよりクルーズに近いのだ。もう、がっくり。もし、観光で来ていたら怒っちゃうぜ。
 近くの河原に上陸。1日で、なんと42キロも漕いでいた。今までの最高記録かもしれない。こういう漕ぎ方は、あんまり好きじゃないけど。 とにかく、ここでテントを張り、飯を食い、たき火をし、ぐっすり寝た。


 9月16日(月)

 朝5時半に起き、撤収開始。6時半発。7時5分の電車で福島へ。その後、新幹線で東京へ。あおばは、福島から東京まで停車しないので、巨大な荷物の管理に気を遣わなくてすみ、とても良かった。しかも、12時前に家に着くことができ、荷物を干すことができたのがまた良かった。


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