タカの渡りを見に @愛知県伊良湖岬  (97.10.10〜11)


 10月の初めというと何かそわそわと落ち着かない。それは、タカの渡りの季節だからだ。
 一般的には、タカが渡るということを知らない人がほとんどで、そのことを教えると必ずと言っていいほど「へえ、タカって渡るんですか。」と返事が返ってくる。
 タカの中でも渡りの主となるのは、サシバというタカである。春になると谷戸や里山などに渡来し、蛇や蛙を好んで食べ、日本で繁殖する。そして、秋になると再び東南アジアへと旅立っていくのである。そして、そのルートは、現在でも研究が進んでいるところだが、主な中継地点は、決まっている。その代表的なところが、愛知県の伊良湖岬であり、鹿児島県の佐田岬である。
 そういう場所に行くと、何千というサシバが集まり、群となっているのを見ることができる。そんな風景に魅せられてしまった人の一人が私である。
 今回で、伊良湖行きは、6回目だ。今年は、私の所属する全国愛鳥教育研究会の秋期研修会も兼ねている。
 
 10日(金)
 朝、7時町田発。東名浜松ICで降り、ウナギを食う。やはり、ここへ来たらこれを食べなきゃね。
 午後1時15分。伊良湖着。会員が集まり、フェリーターミナル内にある何とか博物館を見学した後、付近の自然観察をする。
 メンバーの中には、野鳥だけでなく植物や虫に詳しい人も多く、いろいろと教えてもらう。
 ピンクの花が美しいハマナデシコ。
 蝶のくせに(勝手な偏見)、沖縄まで渡るというタフなヤツ、アサギマダラ。伊良湖の名物だ。
 クズのような葉っぱで、でっかい豆をつけるハマナタマメ。
 ツクシの頭に似た形の茶色い穂に白やピンクの小さい小さい花を咲かせているイワダレソウ。
 初めて知る植物に、フィールドノートへ記録するのが忙しい。そんな中、上を見上げれば、サシバがぱらぱらと飛んでいる。ハチクマも混じる。もう、午後3時半になろうとしている。午前がピークの渡りがまだ続いているのか。おおっと、ハヤブサも白い羽根を輝かせながら飛んでいる。立て続けに猛禽類の登場だ。血が騒ぐ。
 今回のメンバーは、やたら社交的な人も多かった。特に、大学4年生のM氏(女性)は、
「どうですか、この花きれいですよ、見ませんか。」
「あそこにいるのがイソヒヨドリです。のぞいてみませんか。」
などと、通りがかりの人に片っ端から声をかけるのだ。恋路が浜のある場所だけに、若いカップルも多い。そんな、自然観察の似合わない人たちへもかまわず誘いかける。すると、どうだろう。とても関心のある人と思えない人たちが
「えっ、いいんですか。」とか「見せてもらおう」とか言いながら、フィールドスコープをすっとのぞき込むのだ。そして、きまって、「わあ、きれい。」「すごくきれいに見えるぞ」と感嘆の声を上げて過ぎていく。
いきなり街頭自然観察会的雰囲気になってきた。なんだか、とても楽しいひとときを過ごした。
 そんなことを楽しんでいたらあっという間に夕方。夕日が静かに山の影へと消えていくのだった。
 と、今度は月の出番である。M氏は、すかさずフィールドスコープを月に合わせ、
「みなさん、月を見ませんか。きれいですよ。」
とことん明るい人だ。
 次々と人が集まる。
「わあ、よく見える。」
「こうやって月を見るのなんて初めて。」
 こういう形の何気ない自然観察会って明るい雰囲気でいいなあ。通りすがりの人にちょっとでもこんな形で自然に触れてもらうのって、結構グーだ。
 結局、木星や金星まで観察するに至り、たかだか歩いて10分くらいのところを2時間以上もかけて歩いてしまった。あたりは真っ暗。6時に近い。
 こんなホークウオッチャーはあまりいないだろうなあ。

 宿泊先のホテルでの夕食後、懇親会を行った。
 そこで聞いた話で、特に私が関心を持ったのは、ハヤブサについてのことだ。
 2年前、三ヶ根でハヤブサが繁殖した。愛知県では初めてのことらしい。そのハヤブサは、特に付近のドバトを捕っていたので、近くの商店街からドバトが消え、フン害に悩まされていた人たちからハヤブサは感謝されているのだそうだ。
  他にも、ハヤブサが、石切場の騒音やサーチライトを苦にしないどころか、夜、そのサーチライトに集まるカブトムシを追いかけているという話も教えてもらった。まるで都会のツバメのようだ。そんな図太い性質を見て、「ハヤブサは人間とうまくつきあっていける」という確信を得たという。
 そして、保護を秘密主義でなく、公開主義とした点についてもその経緯を詳しく聞けた。

 11日(土)
 今日は、たくさんのサシバを見られるだろう、という期待はむなしく裏切られた。今年の渡りのピークは少し早かったようだ。また、天候がいまいちで、冷たい風も吹き出していた。そんな関係だろうか。サシバは、時折数羽が飛ぶくらいであった。
 しかし、まるでタカのショーかのように、1羽ずつ違うものが飛ぶのだ。ハイタカ、ツミ、オオタカ、ノスリ、サシバ、ハチクマ、ミサゴ、トビ。
 種類だけは伊良湖らしさがでた。
 そして、伊良湖名物のハヤブサも存分にその姿を見せてくれた。松の木に止まり、餌を食う。上空を風を切って飛ぶ。美しい羽の形だ。
 チゴハヤブサもかっこいい。スマートな細い羽で素速く空を駆ける。思わず「おおー」と声を出してしまう。


数年ぶりの伊良湖は、その力をすべて見せてくれたわけではなかった。しかし、やはりその底力はすごい。絶対に訪れる人をがっかりさせない。飽きさせることもない。鳥だけでなく、浜の植物もよく見るととても多く、多様である。
 是非、再び訪れたいものだ。


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