国土交通省広報誌2006年11月No.71「お天気こぼれ話」一部修正

 "桶屋が儲かる"風って?!

 今年も日本列島は台風や発達した低気圧がもたらした雨、風、波などによって多大な被害を受けた。
 なかでも台風第13号は、風による被害が際立った。台風は9月16日に南西諸島を通過し、沖縄県の西表島では、観測開始以来最も強い最大瞬間風速69.9m/sを記録した。
 台風の直撃を受けた先島諸島では、家屋や電信柱の倒壊に加え農水産物も9億円以上の被害になった。
 台風は東シナ海を北上し、17日には強い勢力を保ったまま長崎県佐世保市付近に上陸し、九州各地で被害を続出させた。
 台風の中心から離れた宮崎県でも、JR日豊線の南延岡駅付近で、特急が脱線し、前の2両が横転した(写真1)。横転した「特急にちりん」の乗客の一人は、「車両の窓ガラスに屋根瓦や木が飛んできた。その後、列車がレールの外側にゆっくりと倒れ込んだ」と話していた。横倒し現場では材木が散乱し、民家の窓ガラスの多くも割れ、屋根瓦も飛ばされ、電柱は根元からなぎ倒されたと、マスコミで報道された。
 また、延岡市内ではホームセンターの入り口付近で、倒れた商品の陳列棚の一部が刺さるなどして男性が死亡した。台風は台風自身の勢力に加え、台風の中心から離れた地点でも、積乱雲の発達などの気象条件が加わると、強い上昇流を伴う積乱雲で竜巻やダウンバーストなどが発生し、被害を増大させる。また、風による被害は、風により飛散したものが凶器となって、被害を増大させる。
 写真1 「特急にちりん」転覆現場 (asahi.com提供)


風力12は、Hurricane・「颶風」


 ところで、風の強さによって、地表の地物の様子や海面の波の状態はどのように変化するのか。古くから用いられているのは1805年にイギリスのフランシス・ビューフォートが考案した『ビューフォートの風力階級』が有名である。
ビューフォートは海軍提督まで勤めた人で、海上の風速観測のために風力を0から12までの13段階で表し、それに対応した海上の様相についての表を作成した。
その後、陸上用として使えるように世界気象機関で改良を重ね、1947年に世界気象機関の風力の標準的な表現法として採択された。現在、『ビューフォート風力階級』といえばこの世界気象機関で採択された風力階級表を指している。
気象庁で採用している気象庁風力階級はこのビューフォート風力階級を翻訳したもので、内容は同一のものである。表1に風力階級と相当風速(開けた平らな地面または海面上から10mの高さにおける相当風速)の関係を示す。

 因みに、風力0の説明では、陸上では「静穏、煙はまっすぐに昇る」、海上では「鏡のような海面」となっている。そして、風力11では、陸上では「めったに起こらない。広い範囲の破壊を伴う。」、
海上では「山のように高い大波。海面は、風下に拭き流された長い白いあわのかたまりで完全におおわれる。‥‥」となっている。
強い台風(33m/s以上44m/s未満)(表2)の風速に相当する風力12では、陸上についての説明はなくなり、海上のみとなり「大気は、あわとしぶきが充満する。海面は、吹き飛ぶしぶきのために完全に白くなる。‥‥‥」となっている。

 さて、表1には、風力階級に対応した英名と明治、大正時代に用いられた和名も掲載した。
 ここでは「颶風」(ぐふう)が、英語のHurricane(ハリケーン)に対応している。「颶風」は、昭和初期まで「熱帯の暴風」すなわち現在の台風の呼び名である。最も強い階級に、しかもハリケーンのところに台風を置いたのは、風力12とはハリケーンでも来なければ起こらないような強い風、言い換えれば、大西洋のハリケーン、西太平洋の台風、インド洋のサイクロンなど熱帯低気圧に伴う暴風によってのみもたらされる風ということができよう。
 なお、英名は現在でも使用されているが、和名は、「静穏」、「強風」、「暴風」以外はすでに使われなくなっている。
例えば、「大辞林」には「疾強風」、「大強風」、「全強風」の用語は記載されておらず、「颶風」は「強く激しく吹く風。もと気象用語で、風速32.7メートル以上の強風をさした。」と『元』気象用語となっている。
明治の気象学の先人達が、工夫しながら作った和名であるが、名称からでは風の強さをイメージできず、時代の変遷とともに死語にならざるを得なかったのかもしれない。
なお、台風は古くは「野分」(のわき,のわけ)といわれ、明治時代から昭和初期は「颶風」、その後「颱風」となった。「台風」という用語が常用されるようになったのは、1956年の漢字熟語の当用漢字への書き換えが制定された以後のことである。

風力

相当風速(m/s)

英名

和名

0.0〜0.3未満 Calm 静穏

0.3〜1.6未満 Light air 至軽風

1.6〜3.4未満 Light breeze 軽風

3.5〜5.5未満 Gentle breeze 軟風

5.5〜8.0未満 Moderate breeze 和風

8.0〜10.8未満 Fresh breeze 疾風

10.8〜13.9未満 Strong breeze 雄風

13.9〜17.2未満 Moderate gale 強風

17.2〜20.8未満 Fresh gale 疾強風

20.8〜24.5未満 Strong gale 大強風

10
24.5〜28.5未満 Whole gale 全強風

11
28.5〜32.7未満 Storm 暴風

12
32.7以上 Hurricane 颶風

表1  ビューフォート風力階級と相当風速等
(お天気日本史:荒川秀俊(文芸春秋)を参考)


風速30m/sは時速90km/h、現代版『風の強さと吹き方』


 ビューフォートの風力階級表では、陸上の説明の欄で煙突や煙が良く出てくる。「風力0」は「煙がまっすぐ昇る」、「1」は「煙がなびくのでわかるが風見には感じない」、「9」は「煙突が倒れ、かわらがはがれる」となっている。
しかし、現代の風物詩として、いわゆるかまどや風呂焚きで立ち上る煙はもう見かけない。風見(鶏)もなく、時代にそぐわない部分がある。
 そこで気象庁では、現代社会にあった「風の強さと吹き方」を示した(表3)。この表の特徴は、風速(m/s)を時速(km/h)や風圧に変換したり、車に乗っているとき受ける感覚、構造物の被害などが掲載されている。

例えば、台風の中心付近や発達した低気圧の前線付近で観測される風速30m/sは時速90km/hで移動する空気塊であり、高速道路を走る車の速さに近い。
空気は目に見えないけれど、とてつもない速さで移動しているのである。
プロ野球のピッチャーの球をスピード眼で計ると松坂のような剛速球投手は150km/sを投げるという。
これを秒速にすると42m/sになる。
台風第13号のとき長崎県の大村では42m/sの最大風速を記録しているので、大村市の人達は松坂の球(ただし空気塊)を受けたことになる。


 また、風圧は1平方mあたりの面積に受ける圧力で示されている。
ここで1平方mあたりの面積とは、小柄な大人の女性の正面向きの表面積に匹敵するといわれている。
このため、体重45kgの女性が、30m/sの風速の中を風に向かって歩こうとすると、自分と同じ体重で押されることになる。
とても歩ける状態ではない。


 さらに構造物の被害では、10m/sを越えると取り付け不完全な看板等が飛び始め、20m/sを超えると風で飛ばされた物で窓ガラスが割れる被害が出始める。
南延岡の列車転覆事故のとき、列車の「窓ガラスに屋根瓦や木が飛んできた」との証言がある、さらに飛散物で亡くなった人があったが、風の被害で特に怖いのは飛散物による被害である。

「風の強さと吹き方」は風に対する防災の啓発に有効な資料である。多くの機会に利用されることを期待したい。


風が吹くと桶屋は儲かる?!


 ところで、表題の話題に戻ろう。「風が吹くと桶屋が儲かる」と古くから言われている。
しかし、なぜそうなるかは意外と知られていない。
一説によると
1)風が吹くと砂埃が舞い、人の目に入る。
2)人の目に入ると目の悪い人が増える。
3)目が不自由な人が増えると三味線を生業にする人が増える。三味線を弾く人が増えると三味線が売れる。
4)三味線が売れると材料の猫が必要になる。
5)猫が減ると、ねずみが増える。
6)ねずみが増えると、桶がかじられる。
7)桶の修理で桶屋が儲かる。
というわけなのだが、残念ながら現代に当てはまる事柄はひとつも無い。
だいたい「桶屋」そのものを知らないし、砂が目に入れば眼科に行って直し、目が不自由になるほど悪化させない。
ことわざ自体は今もいわれているが、もう時代遅れである。
しかし、風に対する災害は昔よりさらに激しくなっている。
気象庁の「風の強さと吹き方」のような、現代社会にあった新しいことわざを待ちたい。

それにしても、さわやかな風は心地よい。そんな風に乗ってみたくなる。
タンポポの種は風に乗る。グライダーは風を切る。飛行機は風に向かって飛び立つ。
そして、私は風に吹かれてビールを飲む。もっとも心地よし!!!!!

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 国土交通省広報誌2006年9月No.69「お天気こぼれ話」一部修正

 「激しい雨」って、どんな雨?

 今年の梅雨期、日本列島は各地で豪雨に見舞われ、その脅威にさらされた。今年の梅雨前線は活発な状態を維持して日本列島を南北に移動し、各地で過去に経験したことがないような豪雨をもたらした。土砂崩れ、河川の氾濫、道路の陥没など、降り続く雨により人身、家屋を脅かされ、犠牲者が多数出た。雨の恐ろしさに身がすくむ思いである。
 気象庁は特に大きな被害を引き起こした7月末の豪雨災害について、「平成18年7月豪雨」と命名した。これは顕著な災害には名前をつけ、災害の教訓等を後世に伝えるために命名するもので、豪雨では2004年の「新潟・福島豪雨」「福井豪雨」以来である。因みに「平成18年7月豪雨」では、7月18日から24日までの7日間の総雨量が宮崎県や、鹿児島県の多いところで1200mmを超え(表1)、23日には24時間雨量が鹿児島県阿久根市などで600mmを超えた。雨量の少ない長野の1年間の平均雨量は約900mmなので、1週間で長野の1年分以上の雨が降ったことになる。

平成18年7月豪雨(7月15日〜24日)の記録(気象庁資料)

総雨量の多い方から10地点

順位 地点名 雨量(mm)
1 宮崎県えびの市えびの 1281
2 鹿児島県薩摩郡さつま町紫尾山 1264
3 鹿児島県大口市大口 1122
4 宮崎県えびの市加久藤 1049
5 熊本県球磨郡球磨村一勝地 912
6 熊本県球磨郡山江村山江 908
7 熊本県水俣市水俣 904
8 鹿児島県阿久根市阿久根 866
9 熊本県球磨郡五木村五木 837
10 長野県木曽郡王滝村御嶽山 817
9 鹿児島県姶良郡蒲生町矢止岳 68

1時間雨量の多い方から10地点

順位 地点名 雨量(mm)
1 宮崎県えびの市えびの 92
2 鹿児島県薩摩郡さつま町さつま柏原 88
3 長崎県雲仙市雲仙岳 86
3 鹿児島県薩摩郡さつま町紫尾山 86
5 石川県輪島市輪島 73
6 神奈川県足柄下郡箱根町箱根 70
7 熊本県阿蘇郡西原村俵山 69
7 熊本県水俣市水俣 69
9 鹿児島県大口市大口 68
9 鹿児島県姶良郡蒲生町矢止岳 68


1200mmは1.2mの深さ


 降水量は、降ったまま流れたりしみこんだりせずにたまった水の量を、mm単位の深さで表している。よって、「平成18年7月豪雨」で降った1200mm雨量はメートルに換算すると1.2mの深さになる。空のプールに水を貯めると1.2mまで水位が上がることになり、小学生では首から顔までもぐってしまう。このような恐ろしい大雨は別としても、地上に降った雨は、低いところ低いところへと流れるため、土地の低いところでは、降った量の数倍もの水がたまり、流れることになる。いつもは10cm、20cmの流れの小川が大雨とともに急激に増水し、3mにも4mにもなって、木をなぎ倒し、土砂も一緒に、荒れ狂ったように流れるのはこのためである。さらに都市部では比較的土地の低い道路に水が集まり、川のようになって流れる。

 さて、人間にとって危険な水位とはどの位なのか。流れのある場合は、水位がひじの高さを超えるとおぼれる人も出てくるといわれている。図1に示したように、一般に人が行動できなくなる水の深さは、子供は水位20cm、大人の女性は水位50〜60cm、大人の男性は水位70cmといわれている。したがって、腰まで水位があるような場合は、水の中を歩くことができない。想像以上に低い水位ではないだろうか。

 このため、浸水や洪水で家の周辺に水が押し寄せ、床上に迫るようなときは、あわてて、避難せずに救援を呼ぶか救援を待たなければならない。特に、洪水のときは水がにごり、汚物、倒木、破損した建物の一部も一緒に流れてくる。さらに、都市部ではマンホールの蓋が開き、危険な落とし穴になる。どうしても水の中を行動しなければならないときは、危険がどこに潜んでいるかわからないので、長い棒などを杖代わりにして水面下の安全を確認しながら進む。

図1 人が行動できなくなる水の深さ(日本損害保険協会HPを参考)


冠水道路は車で走るな


 さて、現代は車社会、大雨の後、道路に放置された車や冠水した道路で走行不能になった車をしばしば見かける。特に都市部では一時的な強い雨が降ってもガード下等の低い場所は冠水する。冠水道路があるときにはどれ程遠回りになろうとも、冠水道路を避けるか、危険な場合には、車で逃げるのではなく、なるべく高い場所(冠水しづらい場所)に車両を放置するが基本である。冠水道路走行中に走行不能になるのには「エンジン」「電気」系統2つの原因が考えられるが、最近の車は電気系統の水対策がかなり良くなっているので、「エンジン」が原因の場合が多い。車のエンジンは空気を吸ってガソリンと混ぜた上で燃焼させ、排気する。従って水を吸ってしまった場合には動かなくなってしまう。では、水を吸いやすい場所はどこなのか。一つはエンジンルーム(ボンネット内)にある空気取り入れ口。もう一つは車両後方のマフラーである。このうちマフラーの方が圧倒的に低い位置にあるので、このマフラー位置が冠水道路走行の基準となる。水位がマフラー位置を越えてしまっている場合には冠水道路走行は避けた方が無難である。道路冠水時の車と水位の関係を図2に示す。ここでは、車種によって状態が異なるので一般的なセダン型の車を1つの基準にしている。

図2 車と水位の関係(道路冠水時の目安)


バケツをひっくり返したような雨


 ところで、気象庁から発表される注・警報等の防災情報では、「強い雨」とか「激しい雨」とかの表現が出てくる。感覚的な言葉ではあるが、気象庁では雨の強さに量的な目安を設けて使っている。表2は気象庁が示している「雨の強さと降り方」の一覧表である。「強い」「激しい」「猛烈」な雨は気象庁が防災情報で使う「予報用語」として決められている。1時間20〜30mmの「強い」雨は注意報、50mm位の「激しい」雨は警報基準に該当するところが多い(厳密には大雨注意報や警報の発表基準は都道府県によって異なる)。「今日は強い雨だね」「いや、いや、強いを超して激しいよ」などと私達が何気なく使う言葉であるが、きちんと使い分けされているのである。

 この表の特徴は、雨が降っている様子から人が受けるイメージ、車に乗っていて受けるイメージ、そして、災害発生状況などが載っている。雷 雨の中、車に乗っていて水しぶきが激しくなり、ワイパーを早くしても前方が見づらくなり、怖くなった経験を持っている人も多いのではないだろうか。このときの雨が30mm程度で、歩いている人は傘をさしてもぬれて傘が役に立たない状態であり、側溝や、下水から水が溢れて、被害が出始める強さである。近年は温暖化の影響とも言われているが、1時間雨量で80mmや90mm、時には100mmもの猛烈な雨が降る。このような雨の時には、雷を伴うことも多く、雨の音も激しい。幸い筆者はこのような猛烈な雨は経験したことはないが、経験者の話では、恐怖感で鳥肌が立ち、足がすくんで、避難どころではなかったとのことであった。

 衛星デジタル放送を見ていると強い雨のときに、衛星からの電波が弱くなり、電波障害で見えなくなる。この雨は20mm以上のときに起こるといわれている。表には載っていないが、日常生活の中で雨の強さを知る1つの目安となる。

1時間雨量 予報用語 人の受けるイメージ 人への影響 屋 内 屋外の様子 車に乗っていて 災害発生状況
(ミリ) (木造住宅を想定)
10〜20 やや強い雨 ザーザーと降る 地面からの跳ね返りで足元がぬれる 雨の音で話し声が良く聞き取れない 地面一面に水たまりができる この程度の雨でも長く続く時は注意が必要
20〜30 強い雨 どしゃ降り 傘をさしていてもぬれる 寝ている人の半数くらいが雨に気がつく ワイパーを速くしても見づらい 側溝や下水、小さな川があふれ、小規模の崖崩れが始まる
30〜50 激しい雨 バケツをひっくり返したように降る 道路が川のようになる 高速走行時、車輪と路面の間に水膜が生じブレーキが効かなくなる(ハイドロプレーニング現象)

"山崩れ・崖崩れが起きやすくなり危険地帯では避難の準備が必要

都市では下水管から雨水があふれる"

50〜80 非常に激しい雨 滝のように降る(ゴーゴーと降り続く) 傘は全く役に立たなくなる 水しぶきであたり一面が白っぽくなり、視界が悪くなる 車の運転は危険

"都市部では地下室や地下街に雨水が流れ込む場合がある

マンホールから水が噴出する

土石流が起こりやすい

多くの災害が発生する           "

80〜 猛烈な雨 息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる 雨による大規模な災害の発生するおそれが強く、厳重な警戒が必要


自分の身は自分で守る


 一般に激しい雨が降るときは、強風を伴うことが多い。風を伴うことで視界不良になり、物が飛んできたり、体への風圧も加わり、恐怖感はさらに増すことになる。
 この季節は、まだ台風の襲来もある。大雨が予想されるときには、警戒を怠りなく、事前にとれる最善の回避・対応策を考慮したい。不幸にして大雨に遭遇したときは、自分を取り巻く環境をよく見て、可能な場合は避難を、あるいは、身の回りの場所でより安全と思われる場所に移動するなりの判断をしていただきたい。
最後は自分の身は自分で守ることになる。

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