市民共同発電書フォーラム2006・予稿


飯田市「南信州おひさまファンド」・備前市「備前みどりのエネルギーファンド」と、グリーン電力証書「ENERGY GREEN」

1. 地域社会の問題
 失われた15年の間に起きたことというのは、地方を切り捨てる政策の推進だった。経済構造からいけば、高い生産性を保っていたのが都市部であり、その所得が「公共事業」という名目で地方に再配分されてきたということになる。これは必ずしも正しくはない。しかし、現実には、バブル経済崩壊以降、地方への投資を抑制し、都市部に投資を集中させることにより、生産性の高い経済構造をつくろうとしてきた。その結果、地方が切り捨てられることになる。まさに地方が負け組みになるという構造だった。
 しかし、実際には、地方にも必要なものはすべてそろっている。実は、地方の生産力や資源は地方で豊かに暮らしていけるだけのものがあるのではないか。そうした生産力・資源が流出することにより、貧しい経済になってきたと考えられる(例えば、合併しない宣言をした福島県矢祭町、根本町長など)。
 地域の生産力を地域で使うための一つの方法が、例えば「地域通貨」という試みであった。そして、地産地消というスローガンであった。

2. 環境問題にコミットする市民
 一方、環境問題は重要さを増す一方である。環境問題はローカルなものからグローバル化し、地球温暖化問題をはじめとする地球温暖化問題が深刻化してくる。このことを反映し、市民の環境問題への関心が高まってくる。
 例えば、消費者として見たときに、再生紙の需要の増加、空き缶リサイクル率の増加、ごみ分別の市民の抵抗ない受け入れ、無農薬有機食品の増加といったことがこれを示している。
 グリーン電力もまた、こうした流れの中にある。欧米では電力自由化によって、一部の国や地域で、一般家庭レベルでも電力会社を選べるようになった。このとき、およそ1%の需要家がグリーン電力を選択したという(ちなみに、現在、有機食品のシェアはおおよそ3%程度)。
 こうした動きは、単に消費者が環境にいい商品を選ぶということではなく、消費者自身が市場を通じて環境にコミットしているということである。
 市民は消費者として市場を通じてコミットするだけではなく、当然、市民運動などを通じてもコミットを行う人々がいる。そして、出資という形でコミットするものが、市民出資だといえる。自らの資金を提供することで、より環境負荷の小さい持続可能な社会を実現しようというものである。

3. 持続可能な社会へ
 地方の社会が自立し、発展していくためには、地元の生産力や資源をいかに活用していくのかは、一つのカギとなる。しかし、どの自治体でも、自力ですべてできるとは限らない。地元の合意や当初の資金、アイデアなど、現実にはすべての条件が揃うわけではない。そこで、ある部分については、外に求めていくことになる。
 一方、市民レベルにおいて、全国一斉に持続可能な社会が実現するというわけではない。むしろ、地方の取り組みに対して、コミットメントすることで、モデルとなる事業・社会を築いていくことになる。そのコミットメントの方法の一つとして、「市民出資」がある。
 最初のケースとなったのが、北海道浜頓別町に建設された市民風車第1号だが、このときは、生活クラブ生協札幌の、グリーン電力の取り組みに対し、地元を中心とする多くの市民が出資し、風車を実現させている。この事業モデルの延長において、合計10基の市民風車が実現している。

4. 平成のまほろばまちづくり事業へ
 市民風力発電が、自然エネルギーを開発する事業であることに対し、飯田市、および備前市の事業は、持続可能な社会のモデルの形成ということになる。
 モデルとなる地域社会を作っていくためには、前提がいくつか必要となる。環境にやさしい社会をつくるための地元の合意と、活用できる資源の存在である。この点について、飯田市は「環境文化都市」を表明し、地域版環境ISO事業やエコツアー事業などを行ってきた。こうしたコンテクストの延長として、太陽光による初の市民ファンドによる市民共同発電所である「おひさま発電所」と、環境にやさしい商店街づくりという事業が成立している。
 備前市の場合、旧吉永町(昨年、旧備前市・日生町と合併)の産業廃棄物処分場への反対運動の歴史がある。また、資源として、瀬戸内特有の長い日照時間と備前焼の薪を供給してきた美しい里山がある。この二つを背景として、備前特有のエネルギー資源を有効に活用し、持続可能な備前をつくっていくための環境協議会が成立し、「太陽と森のエネルギー事業」に結びついている。

5. 地域社会と全国の市民を結びつける
 ファンド型市民共同発電所の今後の課題は、いかに地域社会と全国の出資者をはじめとする市民を結びつけるかだろう。
 市民ファンドを金融商品として見たときには、配当の点では決して魅力的な商品ではない。しかし、前述のように、市民の環境問題へコミットする意思がそこには盛り込まれている。とはいえ、出資者にとっては、「なぜ、北海道や東北の発電所に出資するのか」という素朴な疑問はある。一方、発電設備を受け入れた地元にとって、これをきちんと地域開発につなげたいという気持ちがある。現在、風車をブランドとした産品の開発や、市民風車の利益を地元に還元する基金の設立などが行われている。一方、飯田市や備前市の事業の場合、事業そのものが地域開発に結びつくよう、方向付けられている。
 今後、市民共同発電所が所在する地域と全国の出資者をはじめとする市民をいかに結び付けていくかが、とても重要になるだろう。人と物の交流がどのように発展していくのか、自然エネルギー開発を軸としたコミュニティ作りをどのように行っていくのか、まだまだやるべきことは多い。

6. グリーン電力による展開
 グリーン電力は、こうした地域開発と無縁ではない。グリーン電力の環境価値とは、二酸化炭素を排出しないということにとどまらない。食品に対してトレーサビリティが求められるように、グリーン電力もまた、どこで発電されたかが明記されるケースが多い。例えば、飯田市の保育園などの公共施設で発電された電気ということであれば、場所のイメージや発電設備そのものの貢献など、さまざまな付加価値があり、グリーン電力を利用する需要家は、こうしたイメージをも受け取ることになる。それは、地元にとっても、その地域の存在を強く印象付けるきっかけとなる。市民共同発電所に限らず、このような地域性を持ったグリーン電力を供給していくことは、地域開発にも貢献していくものである。また、グリーン電力は「風のタオル」や「おひさまの自然食品」といったグリーン電力商品を通じて人々に届けられることから、市民ファンドやさらには後述する社会的責任投資の市場を広げるはたらきも期待される。

7. 市民ファンドのポテンシャル:社会的責任投資として
 市民ファンドを金融商品として見たとき、社会的責任投資の一つということになる。すなわち、同じ投資をするのであれば、より社会に役に立つ投資であることを重視する投資家向けの商品ということになる。社会的責任投資の市場の潜在的な規模は大きく、定義のしかたによるとはいえ、米国では約300兆円と言われている。これに対し、これまで市民ファンドとして提供している分ははるかに小さい。今後とも、市民ファンドへの需要は高まると予想される。市民自身が自身の責任において社会に役立つ投資を行うのであれば、それを満たしていくための持続可能な社会を作り出すための投資案件となる事業をどのように構築していくのか、極めて重要である。これは市民共同発電所のようなエネルギーだけにとどまらない、多様な広がりを持つものである。また、市民ファンドは、投資を通じて、社会を持続可能なものへ変えていく、大きなポテンシャルを持っているともいえる。


「市民ファンド型自然エネルギー事業:長野県飯田市のケーススタディ」

1. 長野県飯田市

 長野県の南部に位置する、人口約10万人の市。
 飯田盆地は古くから商工業の中心地として栄え、総人口の約20%がここに密集している。
 天竜川畔は主として水田、段丘地帯は畑地で、果樹園が散在し、周囲および南部高原地帯は急斜面で水利のよい場所には水田があるが主として山林で中には標高2,000mを超える山々があり大自然の中に美林が繁茂している。
 交通の点からいけば、中心に中央高速道路があり、商工業の拠点としての利点がある一方、鉄道は比較的不便であり、とりわけ東京方面からの移動は高速バスの方が便利。
 観光資源については、長野県のほかの地域に比べると恵まれていない。天竜峡などがある。長野県の観光客のうち、飯田市を訪れるのは3%程度。こうした条件を逆手にとって、エコツアーや農業の体験学習などを行っている。
 こうした中、「環境文化都市」を目指し、環境プラン、環境条例を制定。地域版ISO14001である「南信州いいむす21」をはじめ、積極的な太陽光発電設備導入政策により、住宅用太陽光発電の導入率は全国一となっている。また、天竜峡エコバレー計画など、環境保全型の産業地域をつくる計画も進められている。

2. 飯田市パートナーシップ型環境公益的事業
 2004年度にスタートした、太陽光市民発電所「おひさま発電所」とESCO事業「商店街エスコ」は、市民ファンドによる飯田市の事業の二本の柱である。いずれも、環境省の「環境と経済の好循環まちモデル事業(平成のまほろばまちづくり事業)」である。
 おひさま発電所では、公共施設に太陽光発電設備を設置して電力供給を行う一方、環境価値をグリーン電力証書として販売するという仕組みである。
 「商店街エスコ」は、これまで省エネサービスがあまり提供されてこなかった中小規模の事業所の省エネサービスを行い、サービス料として収益をあげていく仕組みである。
 いずれの事業においても、工事費や設備費などの初期投資は環境省からの補助金と市民出資によってまかなわれており、事業収益から配当を返していく仕組みである。

3. 飯田市におけるグリーン電力の可能性
 グリーン電力とは、風力発電や太陽光発電、バイオマス発電による電気のように、環境価値を持った電気のこと。発電コストは高いが、環境価値も高いため、電力会社から買う電力よりも高い。そこで、この差額分を「環境価値」として認め、「グリーン電力証書」として取引することが認められている。
 飯田市のおひさま発電所の電力についても、環境価値があるため、グリーン電力証書が発行されている。この証書を買った需要家は、おひさま発電所の電気を使ったことになる。
 飯田市内で生産される商品やサービスに使用される電力について、このグリーン電力証書を利用すれば、「この商品は長野県飯田市のおひさま発電所からのグリーン電力を使って作られました」と明記することが可能になる。エネルギーの地産地消であると同時に、飯田市の商品とエネルギーをセットにして消費者に提供することになる。
 グリーン電力を飯田市内の事業者が使うことで、飯田市内での二酸化炭素排出削減となると同時に、飯田市における生産品に付加価値をつけて供給していくことが可能となり、さらに飯田市の地域発展に寄与することとなる。
 また、地元のイベントなどで利用することにより、地元の人々が地元のグリーン電力を実感を持って使うことができれば、グリーン電力をはじめとする自然エネルギーへの理解が深まり、「環境文化都市」にいっそう近づくきっかけとなる。

4. 二つの事業を結びつける試み:さんぽちゃん商店街
 飯田市における事業は、おひさま発電所と商店街エスコの二つの柱がある。この二つを結びつけることが、ひとまとまりの事業として市民からの共感を得るために、重要となってくる。
 結びつける存在の一つが、「さんぽちゃん」というキャラクターである。現在、保育園などにパネルシアターを提供し、園児たちの人気者となっている。このキャラクターを商店街に持ち込もうという発想である。
 合わせて、商店街でグリーン電力の利用をはたらきかけている。キャラクターと同時にグリーン電力が使われることで、環境エネルギー事業としての一体感、価値向上の相乗効果が期待できる。
 一方、商店街から公共施設へは、何らかの寄付を考えている。そのための原資は、事業所が省エネによって節減したコストから出す。事業所としては、新たな経済的負担とはならず、また環境への貢献が自分の事業所のみならず具体的に社会的貢献につながることで、省エネに取り組むインセンティブとなることが期待される。こうした省エネと社会的貢献に取り組む店舗を、さんぽちゃんのお店とし、さんぽちゃんの商店街として、活性化を目指していくことを計画している。

5. ブランド化への挑戦
 誤解を恐れずに言えば、グリーン電力もさんぽちゃんも共通することは、ブランド戦略である。
 ブランドとは、商品に付加されるイメージであり、それは「安心」や「信頼」や「環境」や「共感」といったものである。
 グリーン電力を利用することで付加価値を高めるということは、何よりグリーン電力の価値を消費者と共有することに他ならない。さんぽちゃんについても、飯田市民の間で「環境文化都市」を多少なりとも支えるキャラクターとして共有できれば、これに勝るものはない。すなわち、飯田市の環境ブランドのポートフォリオの一部ということになる。
 さらに、こうした価値を、市民ファンドの出資者と共有することが求められる。出資者は現金として配当を受け取るだけではなく、飯田市そのものを共有することで、さまざまな場面(気持ちの上でだけではなく、旅行や特産品、何より飯田市へのアイデンティティ)で生活を豊かにできる。
 我々は、飯田市の人々だけではなく、出資者もまた誇りを持てる飯田市にしていくために、わずかな力ではあるが、今後も引き続き協力していく。


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