昨夜の雨でまだ路面が湿っているが、天気予報は午後から雨が上がると告げていた。少し考えてからうに色のクルマを連れ出すことにする。前の車があげる細かい霧のような水滴がウインドシールドを埋めていくが、視界の妨げになるほどではなかった。時々ワイパーを動かし、ガラス面の汚れを拭い取る。駐車場にうに色のクルマを停めた。予報を信じることに決め、傘を持たずにロッカールームに向かう。昼頃に一時激しい雨になったが、夕刻には雨が降り止んだようだ。外の天気もわからない事務所から出ると路面はほぼ乾いていた。いつもより遅い時間に帰ると相棒が先に帰っていて晩飯の準備がほぼ整っている。残された仕事は味噌汁に味噌を溶き入れ、ソーセージを茹でるぐらいだ。大きなポテトオムレツが食卓に出た。ケチャップとマスタードを混ぜたソースをつけて食べると卵の香りとイモの味が口いっぱいに広がって、美味い。
メールチェックの為にキーボードを叩いてMacを起動した。しばらくして画面を見ると、起動途中で止まっている。ハードディスクを繰り返しアクセスする断続音が聞こえた。それより先に進まない。ハードディスクを初期化し、保存したファイルを書き戻した。
朝、カーテンを開くと昨日とは打って変わって爽快な秋晴れの空が広がっていた。寒くて薄暗い地下駐車場から暖かな日差しが降り注ぐ地上に、うに色のクルマを連れ出す。幌を降ろすとキャビンはきらきらする光に満たされた。茶色の偏光プラスチックレンズで軽く仕上げられたサングラスを着けて、目を射る余分な日差しを遮る。思わず鼻歌でも歌いたくなるような朝だ。カーラジオからは聞き慣れた声が流れ、時折、今朝の天気に合わせたかのようなご機嫌な曲が掛けられる。さんさんと光を浴びながらのドライブは、それが例え走り飽きた通勤路でも関係なく気持ち良かった。髪をなぶる風はやや冷たい。昼には気温が上がり、東の空には夏のような入道雲さえ見ることが出来た。あの素晴らしい夏が帰ってきたような錯覚に陥る。徒歩で移動するときは少しだけ遠回りして、束の間の”戻り夏”を楽しんだ。
早めに仕事にけりをつけて事務所を出る。明るい月がこうこうと辺りを照らしていた。ほぼ真円に近く美しい姿で輝く月は夜の女王の称号がふさわしい。直接見ると眩しいほどの白い光だが、冴え冴えと冷たく神秘的だ。幌を降ろして月明かりをキャビン一杯に満たし、夜の中を走り出す。
今日も空が高い。抜けるような青空を天井に変えたうに色のクルマで、いつもの田舎道を走った。軽快で歯切れの良い排気音が穏やかな秋の空気を振るわせる。心地よい音が風と共にキャビンの中を通り抜けた。定時に外に出る。まだ明るい秋晴れの空が迎えてくれた。心が浮き立つ。急いで着替え、駐車場へ歩いた。うに色のクルマの幌を降ろし、走り始める。10分ほどのドライブで到着した壁打ちコートには誰もいなかった。ラケットを取り出すと、まだ使えそうなボールを選び、壁に向かって打ち始める。最初はゆっくりと、徐々にペースを上げていった。ストローク、ボレー、スマッシュと一通り練習した頃に、常連の男が現れる。しばらく続けていると、辺りは急速に暗くなってきた。秋の夕暮れは短い。話し掛けてきた男と少し雑談し、最後にサービス練習をボールが見え難くなるまで繰り返すと、クルマに戻った。
ナイター照明が周りの闇からコートを浮き立たせている。ラリーをしてもさほど汗ばむこともなくなった。バボラのザイロン・コントロールを試打する。がっちりしていて頼もしい打球感だ。重さも適度でこれも悪くない。最後はゲームをして終わった。今夜も月が明るい。
今朝の空には雲が多かった。それでも雲間からは穏やかな秋の日差しが柔らかく地表を照らしている。夕方から雨と天気予報は告げていたが、うに色のクルマで出掛けることにした。ミッションマウントを交換してからパワープラントの揺れが少なくなり、スムーズで快適な走行が楽しめる。自分のシフトワークに若干癖があることに最近気付いたので、修正するように意識しながら操作をする。クラッチを踏み込むタイミングを少しずつずらしながら最適なポイントを探る。まだ若干のばらつきは出るが、ほぼ満足の行く修正が出来た。さらに微妙なアクセルワークとステアリング操作で時々刻々変わっていくクルマのバランスを感じながら走っていると、時間の経過を忘れた。片道25km程度の通勤路が短く感じられる。会議で帰宅が遅くなった。晩飯は久しぶりにうどんを茹でることにする。つゆは市販の濃縮タイプのつゆを薄めて作る。つけうどんに決めて、ごま味噌味としょうゆ味の2種類のつゆを用意した。薬味はオクラをみじん切りにして添えてみた。おかずには牛肉と大蒜の芽の炒め物を作る。塩コショウの単純な味付けにしておいた。最後に香り付けに醤油をたらす。たまには悪くない。
灰色の車に乗って家を出た。灰色の空からは雨粒が間断なく降り注ぎ、フロントガラスを濡らしていく。どこもかしこも薄暗く鬱陶しい景色がワイパーの動きに合わせて、歪んでは現れ、歪んでは現れをくり返した。定時を待切れないように事務所を飛び出す。空にはところどころ青空ものぞいている。雨はとうの昔にあがっていた。いつもの壁打ちコートに行くと、誰もいない。ラケットバッグから愛用の黄色いラケットを取り出し、暗くなるまでの30分間ほど肩慣らし程度に壁と戯れた。
週末の遠出に備えて灰色の車の45L入りガソリンタンクを一杯に満たしてやる。トリップメータをリセットした。自宅に戻るとトランクに積みっぱなしのアウトドアテーブルと折畳式のディレクターズチェアを駐車場に降ろす。車の準備はこれで完了した。
目覚ましの音で起きると、外はまだ暗い。ロールパンに真中から切れ目を入れて半分に開き、4個ずつトースターで焼いた。最初の4個は中にジャムとマーガリンを塗って元通り閉じる。次の4個はナチュラルチーズを乗せて焼いてから元通りに閉じた。簡単な携帯用朝食の出来あがりだ。準備を終えた頃、旅の道連れが到着した。灰色の車に3人分の荷物を積み込んで、出発する。近くのインターチェンジから高速に乗り、南に向かった。用意したロールパンをかじりながら、朝の光の中、車を走らせていく。
さしたる滞りもなく夏は避暑客や観光客でにぎわう高原の避暑地に入った。道路に設置された気温表示機は12℃を示している。窓を開けると冷たい風が肌を刺した。すでに街路樹の紅葉が始まっている。
集合時間の30分ほど前に到着したが、いつもなら先にいて出迎えてくれる主催者の姿が見えない。到着が遅れているようだ。結局一時間遅れで初日のテニスが始まった。仲間内でのアップから始める。日が高くなると気温も徐々に上昇し、すごし易い良い気候になった。午前中は男ダブ・女ダブに分かれて、色々な地域から集まった人たちとの交流ゲームで楽しむ。
短い時間であわただしく昼飯を取った後、相棒の司会でオリエンテーションが行われ、正式に3日間の合宿が始まった。男女に別れて、男性はミニトーナメント、女性はレッスンというカリキュラムだ。適当に空いている人とペアを組んでもらい試合を始める。まだ高原テニスに体が慣れていないのでボールが良く飛んでオーバーが多かった。2時間半ほど経過した後、今度は女性がミニトーナメント、男性がレッスンに変わる。ボレーを中心とした実践的な練習が組まれた。スマッシュやサービス&リターンなど普段不足しがちな練習も十分に時間を取って行われる。夕方になって気温が下がり始めたが動いている分には寒くなかった。最後にまだ物足りなそうな男を一人見つけて乱打でしめる。
宿の風呂につかり、腕と足のストレッチをしておく。一日テニスで遊び、風呂で汗と疲れを流した後のビールは最高の味だ。夕食の後、引き続き宴会が始まる。ビールと酎ハイの酔いが疲れた体に心地よくまわった。布団に潜り込むと夢を見るまもなく眠りの世界に引きずり込まれた。
誰かが起き出す音で目がさめた。外はまだ暗い。ゆっくりと身支度を整え、外に出た。気温は低いが寒くて耐えられないほどではない。二日目のテニスは早朝から始まった。シングルスにエントリーする。一回戦はシーソーゲームになるが1ブレイクの差で4−6で破れた。時間が空いたので負けた同士でもう一ゲーム遊ぶ。こちらもシーソーゲームになるが、結局5−6で破れた。さらにしばらく遊んだ後に朝食の為に宿に戻る。一仕事終えた後のビールが美味い。今日は一日掛けてチーム対抗戦を行う予定になっている。8チームを4チームずつ二つのブロックに分けてリーグ戦を行い、その後でリーグの1位、2位が上位トーナメントに進み、3位、4位は下位トーナメントに進むことになる。チームは5名から6名で構成されていて、男ダブ、女ダブ、ミックスの3試合で対戦した。北関東から一緒に来た3名にコーチ級の一人と初級者を一人加え総勢5名となったチームは、強豪ばかりの中で良く戦い、2−1、2−1、1−2の2勝1敗でリーグ1位となった。しかし上位トーナメントでは、3連覇を達成した優勝チームに0−3で破れ、チーム対抗戦は3位タイに終わる。
時間が余ったので、適当にペアを組んで交流試合に入る。男ダブとミックスを2試合ほど楽しんだ後、最後は練習コートに向かい、コーチの指導の元、ボレー練習を始めた。右サイドはセンターの球を右のアレイに沈め、左サイドはバックに来た球をやはり右のアレイに沈める。出来るだけ直線的な軌道でアレイコートを狙った。その後は4人でボレーボレーだ。コーチと共に受け役に回り、攻めて来るボレーをさばく。しばらく辺りが暗くなるまで繰り返した。
宿の風呂で一日の汗と疲れを流す。湯船の中で入念に手足のストレッチを行う。合宿の二日目ともなると背中や肩の筋肉が張り、腿やふくらはぎに疲労が蓄積されているのを感じた。心地よい疲労感に包まれながら、風呂上りのビールを楽しむ。堪えられない美味さだ。
宿の食堂に全員が集まり夕食が始まる。ビールを飲みながらおかずをつついていると胃が満たされていくに連れて眠気が襲ってきた。食事に引き続き、今夜も宴会が始まる。軽妙な司会役のコントやビンゴゲームやじゃんけん大会などを皆が楽しんだ。一次会が終わると、もう眠気に勝てそうもない。暖かい布団に潜り込むなり吸い込まれるように眠りの世界に落ちていった。
早く眠りに着いたせいか、深夜に出入りする人の気配で何度も目覚めた。今朝も外が明るくなるのに合わせてコートに出ていく。昨夜の雨でクレーのコートはしっとりと濡れていた。男ダブとシングルスを一試合ずつ楽しむと、もう朝食の時間になった。今朝は2勝と好調だ。一汗かいた後のビールが美味い。午前中は男女別れてダブルスのトーナメントを行う。うまい具合にフリーになっている人を見つけて組むことが出来た。10組のペアを5ペアずつ二つのリーグに分けて総当りで対戦する。パートナーは強力なサービスと正確なリターンとキレの良いボレーを併せ持つかなりの凄腕だった。パートナーの確実なサービスキープに引っ張られて他の4組を全て破る。リーグ優勝だ。今日はまだ負けていない。充実した気分だ。昼食の為に宿に戻る。ビールが美味い。
午後は両リーグの優勝ペアで決勝になる。相手は強力だ。二人とも良いサービスを持っている。最初からパートナーの攻撃が紙一重でネットやアウトになりポイントが取れず、あっという間に0−6と屈辱的なスコアで敗れてしまった。レベルの揃ったペアに対してレベル差のあるペアでは勝負にならない。悔しさの中で再起を誓った。
決勝の後はミックスダブルスのトーナメントになる。一緒に連れてきた知り合いを今日の男ダブのパートナーに託し、相棒と組んで出ることにした。最初のゲームで簡単に負けてしまう。しかし、コンソレーションでは何とか2勝をあげ、コンソレ優勝を得た。知り合いの方は本戦の決勝に進み、ついに6−5で優勝を得る。今日はそれぞれ、パートナーに恵まれ、良い成績を収めることが出来た。表彰式で皆の笑顔が弾ける。体は疲れているが、心は満足感で一杯だ。
全日程が終わるのを待っていたように細かい雨が降り始めた。宿に戻ると荷物をまとめ、風呂に入る。ゆっくりと汗を流し、浴槽に浸かって腕と足に十分なストレッチを施した。三日間目一杯テニスに打ち込んだ疲労が体の隅々まで染み込むように行き渡って、風呂を使っても回復するには至らない。だが引き換えに得た満足感もまた深かった。相棒と知り合いを待っているといつものことながら宿を出るのがほとんど最後になった。人気が少なくなったロビーで最後に残った友人達に別れを告げると疲れ果てた3名を乗せた灰色の車は小雨の降る中を走り出した。北関東の地方都市まで、渋滞を含む約180kmの帰り道が待っている。
目覚ましの音で布団から起きあがった。三日間の疲労が重くのしかかっている。体の節々が軽く悲鳴を上げていた。TVのニュースを見ながら、ホットミルクを飲み、ヨーグルトを食べた。相棒を起こそうとすると、さすがに疲れ果てたのか、休むという。一瞬考えた後に心は決まった。今日は一日休もう。再び布団に潜り込むと甘い眠りをむさぼった。
朝起きたときには細かい雨だったが、家を出て走るにつれて次第に雨粒が大きくなっていった。日中は強く激しく降り続く。夕方はやや小降りになったが、断続的に強い雨に変わる。壁打ちもナイタースクールもない、雨に降り込められた一日。
いつも通りに家を出て、いつもより遅くに家に戻る。冷蔵庫の中からニンニクと、モヤシと、豆腐と、豚肉を選んで取り出した。ニンニクを薄切りにして、中華鍋に油を熱した中で炒める。香りが出てきたところで、豚肉を放り込んだ。さらに、刻んだ豆腐を加えて炒める。最後にモヤシを加え、オイスターソース、酒、キムチの素、コショウで味をつけた。ご飯のおかずにちょうど良い辛さに仕上がった。
爽やかな北関東の初秋の中を、うに色のクルマが走っていく。刈入れが終わって乾いた田んぼには早くも鮮やかな緑の雑草が生え始めていた。定時で事務所を出ると、空が淡く夕焼けに色づいている。立派なスタジアムを有する運動公園の並木道にうに色のクルマを乗り入れると、サイドミラーに舞い上がる落ち葉が見えた。暗くなるまでの30分ほどをかけて久しぶりの壁打ちを楽しむ。急速に暗くなり、ボールが見えなくなり始めた。一時間たっぷり楽しんでもまだ明るかった夏が、もうすでに遠いことを思い知らされる。すっかり日が落ちた帰り道、週末のための買い物を済ませることにする。まず、日曜日に友人達に振舞う予定の餃子を買い込む。餃子は、さしたる特徴のない北関東の一地方都市である、この街の名物になっている。とはいえ、特別なことはない、ごく普通の餃子だ。しかし、野外でスポーツの間に食べると、一層美味さが感じられるはずだ。行き付けの店で箱入りの冷凍生餃子を購入する。さらに、スーパーを回り、日々の食材を買い込んだ。
冷蔵庫からしなびた胡瓜を見つけ、スライスして塩もみし、ワカメと和えて酢の物にする。キャベツの味噌汁とカルビ焼肉で晩飯にした。
平日よりも早い時間に目覚ましのベルが鳴った。すぐに布団を抜け出し軽い朝食をとる。昨夜の内に用意しておいたヘルメットバッグと小さいクーラーボックスを持って家を出た。地下駐車場のうに色のクルマのトランクキャリアにアウトドア用のテーブルとパラソルを括りつける。幌を降ろして地上に出ると見事な秋晴れの空が迎えてくれた。幹線道路を南に向かって走っていく。途中で東に折れ田舎道を走っていくと急に濃い霧が立ち込めてきた。フォグライトをつけてしばらく走ると再び嘘のように霧が消えて青空が戻ってくる。早朝の不思議な事件だった。すでに通い慣れたサーキットのゲートに辿り着く。やや遅刻だ。スタッフが出迎えてくれた。
駐車場にはすでに沢山のエントラントや観戦者のクルマが集まっている。同じクルマが集まっている辺りの空きスペースに、うに色のクルマを停めた。懐かしい顔が見える。久しぶりの再会に笑顔がこぼれた。受付を済ませると、運んできたテーブルを広げ、パラソルを立てる。居心地の良い陣地が出来た。荷物を降ろすと準備は整う。クーラーボックスから冷たい缶を取り出し、プルトップを引くと喉に送り込んだ。炭酸の刺激が爽快だ。
練習走行を兼ねた予選が始まる。碧色のクルマで参戦する3名のドライバーの中、オーナーが最初に出ていった。10分の周回を終えるとピットに戻ってくる。次にチームのエースドライバーが出ていった。素晴らしい集中力で一番時計を叩き出してくれる。タイムはこれで十分だ。戻ってきた碧色のクルマに乗り込み走り出した。神経を集中させてクルマの感触を探る。悪くない。調子は良さそうだ。練習走行の終わりを告げるチェッカーフラッグが見えた。ゆっくりとピットに戻る。
予選は4位であった。スタートまでの時間を各自が思い思い過ごす。空腹に気付き、持参したサンドイッチと冷たい缶飲料で満たしてやった。出番はスタートしてから約80分後だ。時間はまだたっぷりとある。他の参加者や観戦者と軽く会話をかわしたり、碧色のクルマをチェックしたりして時間を潰した。
クルマがピットロードを出て、ホームストレートの端に並べられる。コースを挟んで反対側にはドライバーがキーを持って立った。ルマン式のスタートが近付いている。グリーンフラッグが振られた。ドライバーがクルマに駆け寄る。次々にエンジン音が響き、クルマ達はコース上に解き放たれていった。
赤い車が2回程スピンをしたかと思うとエンジンルームの下からちょろちょろと赤い炎が見えた。レースは中断され、再スタートとなる。赤い車の炎は大事ではなかった。再びグリーンフラッグが振られる。同じクラブの仲間がスタート良くトップに立つ。しかし、最初の数周でトップの座から引きずり降ろされる。赤い車と白い車がトップを争う。追い上げを焦る赤いクルマがヘアピンでスピンして停まる。再スタートに手こずる。やっと走り出すもまたスピン。大きなハンデを背負うことになった。
碧色のクルマはオーナーの手で順調に周回を重ねていたが、突然計画外のピットイン。直前に交換したホイールボルトが弛んでいた。アクシデントだ。すかさず締め直して再び出ていく。2番手のエースドライバーに交代するとさらにペースを上げた。周回遅れの処理でタイムが上下する。最後のピットイン。乗り込んでハーネスを締めると3分間の規定時間ちょうどで走り出した。二人の手を経た碧色のクルマは快調だ。タイヤも十分グリップしてくれる。しかし、思ったようにタイムは伸びなかった。周回遅れを上手く処理出来ない。後ろから最後の追い上げに入った赤いクルマが迫ってきた。
前の周回遅れの隙を伺いつつ、後ろからアタックを掛けてくる赤いクルマを押さえる。頻繁にミラーに目をやり位置を確認する。最終コーナーの立ち上がりではこちらがわずかに速い。前を行く周回遅れには世界最高レベルの量産エンジンが積まれている。碧色のクルマにフルスロットルを与えるが直線で前に出るまでには至らなかった。数周膠着状態が続いた。赤いクルマに攻略を任すことにし、ヘアピンの立ち上がりでインを空けた。満を持して紺色の車に襲い掛かる赤いクルマを今度は後ろから眺める。強烈なグリップを持つタイヤを活かして一コーナーで紺色の車のインに飛び込んだ。紺色の車がインを空けた隙を狙って隙間に碧色の車を滑り込ませる。やっと紺色の車をパスした。ペースをあげる。赤いクルマはさらに加速して遠ざかっていった。
チェッカーフラッグが振られた。2時間のレースが終わった。満足してピットに戻る。2名のチームが迎えてくれた。握手を交わす。同じクラブの仲間達とも健闘をたたえあった。長野から応援に来た仲間からの差し入れを味わう。しばらくして結果が発表された。3ラップ差の4位。惜しくも入賞を逃す。素晴らしい1日が幕を閉じた。
朝、目が覚めると外は明るかった。手早く準備を済ませると大量の荷物を抱えて地下駐車場に降りる。うに色のクルマのトランクと助手席一杯に荷物を詰め込んで走り出した。30分程のドライブで河川敷の広い公園の駐車場に着く。荷物を降ろし、少し離れたテニスコートまで2往復して運んだ。ネットを張り準備を整え、他のメンバーを待つ。三々五々人が集まりはじめた。アップから始める。
遠方からの仲間も集まり、ゲームを始めた。コートの外でコンロを準備し餃子を焼きはじめる。熱したフライパンにごま油を少量引き、冷凍された生餃子を並べていく。5人前を一度に並べるとフライパンが一杯になるが、仕方がない。用意しておいた熱湯を餃子が1/3ほど浸かる程度まで注ぎ、蓋をする。後は待つだけだ。しばらくすると餃子の香ばしい匂いが辺りに漂い始めた。ころ合いを見て蓋を開ける。全ての餃子がくっついて一つのお好み焼きのように皿に乗った。しかし、箸を入れると一つずつ外すことが出来る。たれに付けて食べると旨い。すぐに次の5人前に取りかかる。ほどなく皿は空になった。いつの間にかコートに人がいなくなり昼飯になる。餃子にビールが良く合った。
ゆっくりと昼を過ごすと再びコートに戻り、日が暮れるまでゲームを楽しむ。久しぶりの仲間と面白いゲームが出来た。コートを片付けると、心地よい満足感と疲労に包まれる。遠方から訪ねてきてくれた仲間達を連れて近くの温泉に向かった。ゆったりと露天風呂に浸かり、仲間達と語らうのは最高の気分だ。風呂上がりには名物のヨーグルトを飲んだ。濃厚で酸味が強くて実に旨い。
再び街に戻る途中で魚介類が安くて旨い定食屋に寄り、ねぎとろや海老フライやカキフライで腹を満たした。食後のお茶をゆっくりと飲み、1日過ごした仲間達と別れを惜しむ。幹線道路まで先導し、去っていくテールランプを見送った。素晴らしい週末も終わりをつげる。
昨日から引き続き素晴らしい快晴の朝だ。うに色のクルマの屋根を開けて家を出る。行き着く先は、常に人工の照明に照らされて外の天気も判らない事務所だが、その経路は田んぼの中の田舎道を選ぶ。刈り取りの終わった稲の茎が束ねられて乾いた田んぼの中に立ててあった。まだ冬には早い。役目を終えた田にはすでに雑草が青く茂っていた。緑の中をうに色のクルマは走り抜けていく。外から見ているとまるで一幕の絵の様に見えることだろう。爽やかな秋の風が短く切り整えられた髪をかき回していった。帰り道は街灯も少ない闇の中を走る。事務所のある高台から街の方へ降りていくと少し明かりが増え、相対的に背景は闇に沈む。北欧の流れを組むポップな音楽が開け放たれた屋根から夜の闇の中に消えていった。代わりに風が音をかき消しながら車内に舞い込んでくる。幹線道路に出てアクセルを開けると、乾いた排気音がカーステレオの音と混じり合いながら後方へ置き去りにされていった。信号待ちで空を見上げる。暗い空には冬のはじまりを告げるかのように冴えざえとスバルが瞬いていた。
低気圧の接近に伴い秋雨前線が関東の上にはり出してきた。南の海上からは台風が大量の暖かく湿った空気を連れてやってきている。昨日まで続いた素晴らしい秋晴れの空とはしばらくお別れだ。でも、構うことはない。1日の大半を過ごすのは外の天気も時刻も判らない程に、いつも同じ明るさに調整された窓のない事務所だ。机を片付けて外に出ると、真っ暗な空には星も見えない。うに色のクルマの屋根を開けて走り出すと容赦なく冷たい風が流れ込んできた。身が引き締まるような冬の空気ではない。まだどこか優しい秋の風だ。1日の仕事で疲れた体の火照りを冷ましてくれるような穏やかな冷たさにくるまれながら走るのも悪くない。家に着く直前にフロントガラスに数えられるほどの水滴が落ち始めた。台風に刺激された秋雨前線が堪え切れずに雨を落とし始めたようだ。地下駐車場の決められた駐車スペースにクルマを滑り込ませ、階段をあがると、降り出した雨が静かに地面を黒い点を描き始めていた。見上げるとまだ小さくまばらな水滴が街灯に光って細い糸のように天と地とを繋ぐのが見える。明日は1日雨になりそうだ。
水曜日の雨は憂鬱だ。壁打ちもナイタースクールも雨に流される。恨めしい思いで空を見上げる。曇って薄暗い空から雨粒が間断なく降り注いでいた。路面は黒く濡れて光っている。幾つもの波紋が水たまりに複雑な模様を描く。傘に当たる雨の音はなぜか郷愁を誘う。雨は静かに、時にやや強く、一日中降り続いていた。雨の水曜日。ラケットの出番はなかった。
昨夜からの雨が降り止まぬまま、なんとなく降り続いていた。あちこちに出来た水たまりに波紋が広がるのが個々に見えるぐらいまばらな雨だが、それでも雨は雨だ。傘をさして家を出て、灰色の車に乗り込む。退屈な通勤の始まりだ。カーラジオから様々な角度から不況対策の案を語る専門家の声が流れる。もう何年前からか深刻な不況がこの国では続いている。まるで、一昨日からだらだらと降り続く雨のような鬱陶しい不況がこの国の全土を覆い尽しているのだ。身近な知り合いが巻き込まれると、危機は途端に対岸の火事ではなくなり、現実味を帯びてくる。不況の波にさらわれ、経営が立ち行かなくなりついに犯罪に手を染めた妻子ある男がいた。そして、その男は共にテニスを楽しんだ仲間だった。初めてそのニュースに触れた時、今まで経験したことのない衝撃が走る。一時期、ほぼ毎週末の様に同じコートに立ち、練習やゲームに、共に興じた仲間だ。それが卑劣な犯罪者と化してニュースの中に登場するなど、想像もしていない。驚天動地とはこのことか。ややピントの甘いその男の顔写真がTVの中からぼんやりとこちらを見ている。彼の苦悩を想い、やり切れない苦い酒を飲んだ。
西南に面した居間のカーテンを開けると、見下ろす町並みは朝日を受けてきらきらと輝いていた。遠い山並みが空との境界線をくっきりと力強く描いている。空は高く、深く天空を覆い、雲は見渡す限り全く見当たらなかった。素晴らしい秋晴れだ。うに色のクルマの屋根を降ろすと、まだ弱々しい日差しの下を走り出す。東に進路を取ると正面から太陽が目を射る。偏光レンズのサングラスで視界を確保した。定時で会社を出ると、西の空がわずかに茜色に染まっている。雲がほとんど無いため、夕焼けとは言えない。うに色のクルマの幌を降ろした。暗くなった道をライトをつけて走り出す。自宅とは逆方向の北へ向かった。車で30分ほど走ったところにある田舎町のコートでナイター練習する予定だ。時間より少し前に到着すると真っ暗な駐車場と真っ暗なコートに迎えられた。やがて、メンバーが到着し、真っ暗な中を慎重に歩いてコートに向かう。やっと照明に火が入った。徐々にコートが明るく照らし出される。久しぶりのナイターテニスだ。すでにウォームアップスーツの上下を着ていても手が冷たくなる。構うことはない。ラケットを握り、ボールを打ち始めればすぐに体が温まる筈だ。
昨夜から準備しておいた一泊分の荷物とラケットバッグを灰色の車に積み込んだ。早朝の柔らかい日差しを受けながら表通りに出ると、片側2車線の国道バイパスを北に向かう。市街地を離れ、大きな橋で川を越えるとすぐに道は片側1車線になった。交通量は多く、流れは良くない。国道を逸れて田舎道に入るが大きな改善はなかった。道路工事があちこちで車の流れを滞らせている。流れに身を任せた。道の両側が田んぼから林に変わり、目的地が近づく。約束の集合時間に数分遅れで、15人も入ると一杯になる小さなペンションの前に到着した。すでに仲間は皆揃っている。懐かしい顔の中に初めて見る顔が混じっていた。早速、挨拶もそこそこに車で数分のテニスコートに移動する。貸しコテージに併設された4面のハードコートの駐車場に車を入れ、エンジンを止めると、鳥の鳴き声と風の音だけが聞こえた。折りたたみの椅子を広げ、シューズを履くと準備が整った。アップからスタートし、ボレー&ストローク、ペアボレー、サーブ&ボレー、ロブ&スマッシュなど基本練習を2面を使って行う。ボールの音が気持ち良く響いた。昼近くに練習を終え、適当にペアを組み、ゲームを始める。
1試合ゲームを終えると急速に空腹が襲ってきた。車で5分程度走ったところに有る地ビールレストランに移動し、昼食にする。広い駐車場には多くの車が停められていた。なかなか盛況のようだ。ランチタイムはバイキング形式になっていて、広い食堂にはイタリアン、中華、エスニック、和食など各種の惣菜が並べられていた。ジョッキの生ビールを確保すると、皿一杯に各種料理を取り、席につく。適当に近くの人と乾杯し、食事を始めた。1杯目は”ヴァイツェン”と名付けらた、酵母で軽く濁った黄金色のビールにする。程よい苦味と生きた酵母の入った地ビール独特の香りが強いどっしりとした味わいだ。2杯目は焙煎した麦芽で作られる黒ビール”スタウト”にした。市販の缶の黒ビールよりは濃く、深いが、本格的な黒ビールよりはあっさりと飲みやすく仕上げてある。ジョッキ2杯と皿4枚分の料理を腹に詰め込むと満腹を通り越して苦しいほどだ。時間を掛けた昼食を終えると、灰色の車のキーを相棒に預け、コートに戻った。
コートに戻ると腹ごなしの乱打を少々楽しんでから、再びゲームに入る。体は重いが、心は晴れ晴れとこの日の空のように高く澄み切っていた。夕暮れが迫る。
太陽が山の陰に沈み、急に暗くなってきた。荷物を片付け、車に積みこみ、宿に戻る。小奇麗に整えられた部屋に荷物を運び込むとベッドに倒れ込み、柔らかい布団の感触をしばし楽しんだ。ロビーに下りると持ちこんだビデオカメラをTVに接続し、今日撮影したビデオをプレイバックする。生ビールサーバーから注いだ冷たい生ビールを飲みながら、集まった数名でビデオ鑑賞会が始まった。各人が自分のプレーを見ながらあれこれ批評を加えていく。2杯目のジョッキを開けた頃、風呂が空いたので素早く汗を流す。風呂から上がると晩飯の用意がすっかり整っていた。
食堂の長いテーブルの上には、宿の庭で作られた燻製が各種並んでいた。冷えた生ビールに、燻製のチーズ、ソーセージ、ちくわ等は最高の組み合わせだ。小さなコンロの携帯燃料に火をつけ、熱っせられた陶板の上で地元の牧場で飼育された牛肉を焼いて食べる趣向も悪くない。昼のバイキングの影響にも関わらず、テーブルの上の料理が次々と胃袋に消えていった。生ビールの軽い酔いも手伝って話が弾む。時間を掛けて楽しんだ食事の後も宴は続き、最後は数名になった。消灯時間を過ぎ、布団に入ると瞬く間に眠りが訪れた。
目覚ましの力を借りず自然に起きた。すでに外は明るい。朝食の時間になり食堂に下りるとコーヒーの香りが迎えてくれた。ゆっくりと食後のコーヒーと紅茶を楽しむ。豊かな時が流れた。時間だ。支度を整え、宿を後にする。コートの駐車場では住み着いた黒い犬が気持ち良さそうに寝そべっていた。軽くアップをすると仲間を2チームに分けての紅白戦が始まる。第1試合、第2試合は味方が敗れた。第3試合でコートに入る。負けられない相手だ。ブレーク合戦で1−1、2−2、3−3と進んだところで一つキープして4−3と初めてリードをする。さらに5−3、5−4とブレークゲームが続き、最後のゲームもブレイクで取り、6−4の勝利。自らの1キープが勝利に結びついたのが良かった。隣の試合も勝って、対戦成績は2−2だ。第5試合で再びコートに入る。今度も負けられない相手だ。1−1、1−2、1−3とリードを奪われる。ここでキープすればまだ判らなかった所だが、1−4とされてしまう。さらに1−5とされ、万事休す。意地で1ゲーム返して2−5とするも、2−6の敗北。この負けが大きく、チームとしても2−4と敗北が決まった。
最後の大将戦が消化試合になるのでは面白くないと、大将戦はポイントを倍とし、味方が勝てば4−4の引き分け、相手が勝てば2−6の大敗という条件が皆に認められた。大将戦に勝負を託し、予約しておいた昼食の弁当を受け取りに出る。予約してあったにも関わらず、弁当屋で待たされ、コートに戻るとすでに勝負は終わっていた。味方の勝利で仲良く引き分けになったのは悪くない結果だ。冷えた缶のプルトップを開けると気持ちの良い音が響いた。喉を鳴らして炭酸の効いた液体を流し込む。美味い。弁当を食べ終わると、再び、適当にペアを組んでのゲームが続く。
日が傾き汗をかいた肌に風が冷たく感じる頃、心地よい疲労と満足感に包まれた。荷物をまとめ、車に積み込む。駐車場の空いたスペースに集まると、主催者の締めの挨拶が始まった。しばらく、二日間共に遊び、食べ、飲み、語った仲間たちと別れを惜しみつつ、立ちつくす。なんとはなしに立ち去り辛いまま、あいまいな時間が流れた。やがて、誰からとも無く別れの言葉を交わし、それぞれの車に乗りこむ。親切だった管理人にも皆が声をかけた。寂しさを振り切るように灰色の車を駐車場から出した。もう振り帰らない。
まだ暗くなるには時間があった。この辺りは有名な観光地になっている。近くの観光客向けの牧場に車をまわしてみた。閉園時間に近く、入場はかなわないが、入り口にある農作物の直売所で、美味しそうなサトイモとコシヒカリの新米を購入する。さらに高速のICに繋がるメインストリートにある東北で有名な菓匠に寄り、小腹が空いたのに任せて試食の饅頭やパイをつまむ。自由に飲めるお茶で口中を洗いながら様様な和菓子を試食し、お土産にするものを選んだ。最後に相棒と二人で、本当の抹茶と味の濃い小豆、また薫り高いイチゴの果肉がたっぷり入ったアイスキャンデーをそれぞれ購入し、その場で半分づつ食べて口直しする。
すっかり日が落ちた田舎道を走り、帰り道の途中にある小さな町の中華食堂に入った。沢山の具の旨みがしっかりと米に絡められた炒飯と、鉄鍋に入れて出される平打ち縮れ太麺のラーメンと、家庭的な味の餃子がお気に入りだ。今日は塩味スープのタンメンと餃子を、相棒は炒飯セットを頼む。炒飯セットには一人前の炒飯と、小さい醤油味のラーメンが付く。肉野菜炒めがたっぷり載せられボリュームのあるタンメンを啜り込んだ。スープの旨みが口中に広がる。
週末から引き続き、秋晴れの朝を迎えたが、今日待っているのはテニスコートと仲間ではない。日常の始まりだ。うに色のクルマの屋根を降ろし、田舎道を走る。同じように工業団地に向かう車達の列に、鮮やかなうに色のクルマを滑り込ませていった。見上げると空が高い。昼頃に一度建物の外に出ると空は雲に覆われていた。次に外に出ると、朝見た天気予報通りに雨が降っていた。暗い空から落ちてくる雨を見ていると、昨日までの晴天の空が懐かしくなるほど遠く思える。折りたたみの小さな傘に隠れるように駐車場まで歩く。うに色のボディ全体に雨粒をまとったクルマが視界に入った。近づいていくと、次から次へと落ちてくる雨粒が、常に形と場所をを変えていくにも関わらず、全体としてみると、常に一定の雨粒に覆われている様に見えていることが判る。ヘッドライトを点けて走り出した。通りに出て速度を上げると撥水剤で処理したウインドウを雨粒が転がって後ろへ流れていく。カーステレオの音楽のボリュームを上げると音楽だけが鳴る静かな世界を走っているようだ。
朝方雨は上がったようだ。カーテンを開けると朝の太陽が赤みがかった光で地表を染めていた。まだ盛大に濡れている道路をうに色のクルマで走り出す。前の車が巻き上げる水煙でフロントシールドが汚れた。雨が降っていないのに、時折ワイパーを使う。帰りが遅くなった。地下駐車場にクルマを収めると空腹が耐え難い程に胃を締めつける。部屋に入り荷物を降ろすと、大鍋に水をはり火にかけた。部屋着に着替えて冷蔵庫を物色する。ニンニクとレタスと万能ねぎと豆腐を選んだ。ニンニクを細かく刻み、レタスの大きい葉を4枚ほどむしって洗う。豆腐のパックを開封し、水を切った。大鍋のお湯が沸騰したところに塩を手掴みで放り込み、一人分のスパゲティをパラパラと投げ入れ、蓋をする。フライパンに油を敷き、刻んだニンニクと豆板醤を炒めた。香ばしい香りが出てくる。豆腐を一口大に刻んでフライパンに入れ、炒める。レタスの芯の部分も放り込んだ。さらにレタスの葉の部分も加え、しんなりしたところで、オイスターソースと酒とコショウで味を整える。茹ったパスタをフライパンに加え絡めると中華風のスパゲティが出来あがった。意外な取り合わせだが、美味い。
朝ラケットバッグを背負って家を出ると何となく気分が良い。うに色のクルマの幌を降ろして柔らかな秋の朝日の中に出た。アクセルを少し踏み込むと乾いた排気音を残して気持ち良く加速していく。風が優しく髪をなぶっていった。定時で事務所をでてロッカールームでテニスウエアに着替えると身も心も軽くなるようだ。傾きかけた夕日を追いかけて壁打ちコートに向かう。一人先客がいた。軽く手足をほぐして打ち始める。30分程で暗くなりボールが見え難くなった。ブロンドの女性が一人現れ、3名になる。やや窮屈だしボールも見えなくなった。一足先に壁打ちコートを離れる。
早めにクラブに行くと誰も来てなかった。社長と話しているとヘッドのiラジカルOSとバボラのピュアドライブチーム+の試打ラケットを貸してくれる。コートの照明をつけてもらい、サービス練習を始めた。サービスはバボラの方が切れが良い。仲間が来たので乱打を付き合わせた。ストロークではiラジカルの振り抜きが気持ち良く、スピンもスライスも良く掛かる。ボレーのし易さも通常の長さのiラジカルが上に感じた。結局、最後までiラジカルを使うが購入の決意までは至らない。
緑と土が少ない殺風景な工場のようにクリーム色の四角い建物が闇の中に並んでいる。窓から漏れる光の他に街灯もない暗く広い通路をロッカールームに向かって歩いた。食堂に近づくと窓から盛大に漏れる明かりで足元が良く見える。クリーム色の鉄の扉を開けて建物に入ると、カードリーダーにカードを通した。今日の拘束時間はこれで終了だ。そう思うと足取りも軽くなる。一人分の幅がひどく狭いロッカーに脱いだ作業着を突っ込み、洗いざらしのジーンズを履き、生成り色の麻で出来たパーカーを羽織り、紺色のドライビングシューズに履きかえると、重い鉄の扉を開けて外にでる。そこだけ綺麗な石張りで整えられ、大きな一枚ガラスの中にレーシングカーが飾られた受付の前を通り抜けた。様々な車の間を縫って広い客用の駐車場を突っ切ると、守衛の詰め所の横を通り抜け、門の外に出る。片側2車線の広い桜並木の道に掛かった歩道橋を上がると、半月が空で冷たい光を放っていた。足下を帰宅を急ぐ車達が通り過ぎる。暗い並木の下をさらに歩くと駐車場の明かりが見えてきた。この時間になると残された車は少ない。街灯の下でうに色のクルマが遠くから一目で判る異彩を放っていた。
長い5日間に渡る平日の一塊がやっと終わった。机の上のノートPCを引き出しにしまうと外に出る。日が落ちてから1時間ほど経過して、辺りはかなり冷え込んでいた。ロッカールームでテニス用のウォームアップに着替え、ラケットバッグを背負って歩き出す。ロッカールームの前で同僚一人と合流して駐車場に向かった。少し寒いがうに色のクルマの幌を降ろして、二人で乗り込む。ヘッドライトの照らす景色の中を走り出した。暗く、細い田舎道を走っていく。すれ違う車も少ない。30分程のドライブで薄暗い街灯が一つだけ点く駐車場に着いた。コートに向かう階段を降りていくとナイター照明が迎えてくれた。気温は、呼気が薄く白くなるほどだが、ボールを打ち始めるとちょうど良い。ショートストローク、ボレーボレーからストロークのラリーに移るとウォームアップがいらなくなる。ペアでのボレーとストローク、ロブとスマッシュ、サービス&リターンと練習が進む。あっという間の2時間弱だ。
汗をかいた体が冷えるのを嫌って、幌を上げたまま田舎道を走る。40分ほどのドライブで同僚を新幹線の停まる駅に降ろすと、家路を辿った。風呂上りのビールで平日の疲れも飲み干す。
久しぶりに目覚ましの音を聞かずに目を醒ました。すでに日が出てから大分経っている。気分は爽快だ。カーテンを開けると日射しを受けて民家の屋根がくっきりと見えた。遠くの山々は薄く霞んでいる。パンとコーヒーの簡単な朝食をとって、昼前に家を出た。気温も上昇していて暖かい。日射しの下に停めてある灰色の車に乗り込むと車内は暑い程だ。窓を開けて風を取り込む。窓から流れ込む空気が車内の蒸された空気と入れ代わると心地よい温度になった。北に向かって走り出す。
河川敷に広がる公園に着いた。春にはポピーが一面に咲き乱れていた花畑が、今はコスモスで一杯になっている。見慣れたピンクや白のコスモスに混じって鮮やかな黄色のコスモスが目を引いた。栄養が行き届いているのか背高く育ち、咲き誇るコスモス畑の向こうにテニスコートが隠れている。ネットを張り集まって来た仲間達とボールを打ち始めた。秋の柔らかな日射しの中、ストリングスがボールを弾く音がコートの中を満たす。隣には知人が来ていた。3時間を練習に費やし、最後の1時間をゲームで仕上げる。時間一杯まで楽しみ、満足感とともにコートを後にした。秋の宵闇が早足で近付いて来る。
目覚めてカーテンを開けると天気予報通りの暗い曇天が見える範囲中を埋めていた。雨は避けられないだろう。しかし、予報を信じるならば昼までは持つはずだ。うに色のクルマにラケットバッグを放り込み、幌を降ろして家を出た。幹線道路を南に向かう。決められた開始時間の30分程前に会場となるテニスコートに着いた。まだ誰も来ていない。クルマを停めて幌を上げ、荷物を降ろしていると、ついに細かい雨が落ち始めた。その時ちょうど何名かが到着した。雨は降っては止み、また降っては止みをくり返す。構うことはない。降ったところでたいした雨ではなかった。ボールを取り出し、アップを始める。ほとんどの仲間が集まった。コートは濡れていたが十分出来そうだ。早速ゲームを始める。昼前後は雨も小康状態になりコートもほとんど乾いてしまった。試合に入っていない間は仲間の一人が持って来た大きなタープの下でお弁当やお菓子をつまみ、気のおけない仲間同士の語らいを楽しむ。誰かの持って来たCDプレーヤーからソウルフルな歌声が流れていた。午後になると再び雨が落ちて来た。しだいに雨足が強まる中、それでもゲームは続く。
3時頃になってコートに水たまりが出来始め、ついにそれ以上新しいゲームを始める者は居なくなった。濡れた荷物をクルマに詰め込むとコートを後にする。雨足はさらに強まり始めていた。コートに程近い街道沿いのファミリーレストランまで移動し、そこで濡れた体を乾かし、暖かいお茶を飲む。今日一緒にゲームを楽しんだ仲間のほとんどが再び集まった。何杯もコーヒーや紅茶をお代りしながら、いろいろな話題を楽しむ。とても短く感じられる2時間が過ぎ、雨はほぼあがっていた。駐車場で解散して、皆、自分の住処に戻っていく。近い人、遠い人、それぞれがそれぞれの道を辿って家路についた。うに色のクルマを北へ向かって走らせる。道は暗いが雨が止んだので思ったより楽な行程だ。帰り道の途中で最近オープンしたカジュアルベーシックウエアの店で、うに色のフリースを買い込む。これからの季節に重宝しそうだ。
自宅に戻り、熱い風呂に入ると、わずかに残っていた強張りがほどけ、気持ちが良い。雨には降られたが、こんな週末も悪くない。風呂上がりにグラスに注いだ冷たいビールを飲み干すと、体中に満足感が広がった。
目を醒まし、薄暗さに太陽を諦めながらカーテンを開けると、上空の曇り空よりも先に、眼下の霧に包まれた街が目に入った。濃い霧が見渡す限りスープの様に広がっていて民家の屋根がところどころスープの具の様に顔を出している。地下駐車場からうに色のクルマを連れ出して表通りに出ると、霧の薄いベールの中に飛び込んだ。この北関東の地方都市の郊外を南北に流れる大きな川に架けられた橋を渡り始めると、川の流れと広い河原は霧の帳の向こうに消え、近くの欄干だけが前方に伸び、そしてその先は、やはり霧の中に消えていた。夢の中の景色の様に儚く、頼り無い視界の中を走っていく。対向車は霧の中から時折現れ、再びバックミラーに映る霧の中へと吸い込まれるように溶け込んでいった。川を渡り終わると両側に立ち木の一部がぼんやりと現れる。川沿いを離れ、少し上り高台に出ると霧の魔法は解けていつもと変わらぬ風景に帰った。
どことなく体調がすぐれない。事務所の中にいることに体と精神が悲鳴を上げているような気がした。定時を過ぎるのを待って外に出た。普段着に着変えても気分は晴れない。駐車場に停めてある、うに色のクルマに戻り幌を降ろして走りはじめると、やっと気持ちが明るくなってくる。帰り道で本屋に寄り、軽く立ち読みし、自宅に戻る。まず、米を計ってざるに入れ、流水の下で軽く研いだ。そのまま水切りする。味噌汁の具はもやしに決めた。相棒の帰宅時間に合わせて、米とほぼ同量の水を鍋に入れて火にかける。御飯が炊ける間に、タマネギを薄くスライスした。御飯が炊ける。蒸らしに入った。ウナギのたれを酒でのばした物をベースに汁を作り、タマネギを入れて煮る。煮立ったところで、一串だけ余っていたウナギの蒲焼きを小さく刻んでパラパラと加えた。再び煮立ったところで火を弱め、割って溶いた卵を加え半熟状態まで煮るとウナギの玉子とじが出来た。つくり置きの煮物を暖めて共に食卓に出す。濃いめに味付けたうな玉を汁とともに炊きたて御飯に乗せて頬張るとたまらなく旨い。赤ワインが進んだ。
朝から気持ち良く晴れていたにもかかわらず、気分爽快とはいかなかった。いつも通りに布団を抜け出し、ホットミルクと紅茶とヨーグルトとパンの簡単な朝食をとる。不思議と家を出る気が起きなかった。こんな日もある。構うことは無い、休んでしまおう。そう決めると風邪薬を飲み再び布団に潜り込んだ。二度寝を楽しむ。次に目が覚めると気分は回復に向かっていた。平日で無いと出来ない仕事を片付けに銀行に行き、帰ってきて布団を干す。晴れた日中に家にいるのは珍しいことだ。ゆったりとした時間が流れる。昼食には、キャベツとモヤシとニラを具にしたインスタントラーメンを作った。生卵と、海苔を乗せ、たっぷりと黒コショウを振る。何度も鼻をかみながら食べ終えると、再び風邪薬を飲み、ソファーの上で毛布に包まり横になった。ビデオを見たり雑誌を眺めたりして過す。頃合を見計らって陽光を一杯に浴びてふかふかになった布団を取り込んだ。日向の温かく柔らかい匂いがする。夜、家を出た。ナイターのテニススクールに行く。意外に暖かい。たっぷりと汗をかくと体が軽くなり気分も良くなった。家に戻り、シャワーを浴びて汗を流し、冷えたビールを飲む。生き返った。