2002年01月の日記

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1月1日(火)晴れ

 新しい年の始まりは深夜のカウントダウンで告げられたが、特に何が変わるでもない普通の夜だ。それでも相棒と儀式的に新年の挨拶を交わしてみる。深夜まで作業をしてから布団に潜り込んだ。昼前に目覚め、鶏肉で出汁を取り、人参とほうれん草と焼いた餅を具にした雑煮を食べると、何となく正月気分になる。

 灰色の車に二泊分の荷物を積み込むと国道を南に向かった。農村の中を走る国道はいつもと変わりなく車が流れている。ごく普通に2002年は始まっていた。磨きあげられた灰色の車は快調に走る。ショッピングモールで買い物を済ませ、海を埋め立てて作られた広大な土地の一角にある実家の駐車場に灰色の車を滑り込ませる頃にはもうすっかり暗くなっていた。

 これ以上食べられないと言う程満腹になるまで飲み食いして、ひと休みする。胃が落ち着いてからジェットバスに体を横たえ、ゆっくりと手足を伸ばすと良い気分だ。こんな元日も悪くない。

 

1月2日(水)晴れ後雪

 昼近くまでのんびりした後、灰色の車で実家の駐車場を後にする。事故渋滞の表示が出ている湾岸線を避けて、少し内陸を走る京葉線に入った。構造的に渋滞が避けられないジャンクションは、案の定今日も渋滞している。海岸に近いところを西に向かう高速道路は25kmの渋滞表示が出ていた。より内陸を通って富士山の麓に出られるルートを選ぶ。料金所の渋滞を抜けると車は流れ始めた。分岐点を越えて富士五湖に向かうルートに入る。峠を越すと雪が降り始めた。周りはうっすらと白く雪化粧された風景が広がっている。薄く雪の乗った針葉樹の林は、まるで水墨画のように夢幻的だ。フロントウィンドウ越しに薄暗く白い空から雪の粒が無数に降り注いでくる様子は、夢の中の光景のように無彩色で頼り無く、現実感を欠いている。終点に近いインターで高速を降り、渋滞した街を迂回するために国道を外れ細い道に入ると、路面に雪が残っていた。灰色の車は雪道用に履き替えてあるので問題ない。峠を越えると嘘のように快晴の青空が広がり、雪を頂いた富士山がくっきりと暮れかかる空に浮かんで見えた。日が暮れて闇に街の明かりが浮かぶ頃、灰色の車は今夜の宿の駐車場に滑り込む。

 

1月3日(木)晴れ

 温泉で暖まり早く眠りについた翌朝の目覚めは爽快だ。典型的な日本旅館の朝食をゆっくり取ると、この温泉地近くから復路スタートする駅伝大会の出発時間になった。のんびりとTVで観戦する。駅伝大会の一団が去った後にチェックアウトして、温泉街に立つ古く伝統のあるホテルに灰色の車を入れた。近くを散策する。豆腐屋の店先で水を切って固める前のまだ柔らかい豆腐を柄杓ですくった「汲み豆腐」を一杯買って食べた。豆乳の味がする。ホテルのパン屋に行くと開店したばかりの店内は人でごった返していた。名物のカレーパンやレーズンパン、食パンなどを買い込む。昔は外国人専用だったと言うホテルの中に入ると日本人の姿しか見えなかった。歴史を感じさせる重厚な調度品を眺め、座り心地の良いソファに身を沈めて寛ぐ。温泉街を出ると途中でまさかりの石像がある神社に寄り、遅い初もうでを済ませた。参道に停めた車の中で、ポットの熱い紅茶を飲みながら、カレーパンやレーズンパンを食べる。パンの華やかで香ばしい香りと紅茶の香りが車内を満たし、良い気分だ。日射しでヒーター無しでも暖かい。富士山の雄大な姿を充分楽しんでから渋滞の列に入り、灰色の街に戻った。

 

1月4日(金)晴れ

 灰色の車にラケットバッグを積み込み、途中で一人サークル仲間を拾うと国道を北に向かう。1時間程走ったところにあるテニスコートでサークル仲間達と今年の初打ちイベントだ。暖かな日射しの下で昼までひさしぶりのボールの感覚を楽しむ。朝の内は冷えきっていて弾まなかったボールも昼頃には弾み量も増え、また体も慣れて来て気持ちよくヒット出来るようになった。昼になるとサークルの世話役の家に向かい、皆で食事を食べ、酒を酌み交わし、新年を祝う。生ビールサーバーの旨い生ビールと新潟の旨い日本酒を飲むと、この上なく良い気分になった。夕方まで宴を楽しみ、酒を控えたサークル仲間の運転で家に戻る。

 

1月5日(土)雨後晴れ

 目覚めてカーテンを開けると信じられない景色が広がっていた。昨日の気持ちよい快晴からは想像できない灰色の雲が空を覆い、町並みはしっとりと濡れ光っている。すでに雨は上がっていた。近くのテニスコートに向かうと仲間はほとんど集まっている。気温は低いが、コートを着たままボールを打ち始めるとすぐに体は暖まった。さらにストロークでラリーを続けるとウォームアップジャケットも必要無くなり、スエットシャツで充分になる。2面で8名が集まりダブルスのゲームを時間一杯まで楽しんだ。

 うに色のクルマのサイドブレーキブーツを購入してあった皮革の端切れで作成する。革が厚かった為、小型の卓上ミシンでは上手く縫い付けることが出来なかった。誤魔化しながらなんとか形を整える。最後に艶出しスプレーで磨いて完成した。接着剤が乾くのを待って放置しておく。

 夕方、電車で街に出て、Macのソフトと新しいハードディスクを購入する。その後、午前中テニスをした仲間で集まって居酒屋に入り、新年会を始めた。生ビールをしこたま飲んで、終電を取り逃がし、しかし、気分良くタクシーで帰宅する。正月休みも後残り一日だ。風呂に入ってすぐに布団に潜り込んだ。

 

1月6日(日)晴れ

 地下駐車場に昨日作成した本皮製のサイドブレーキカバーとキヤノンの一眼レフカメラを持って降りる。薄暗い駐車場でうに色のクルマが鈍く光っていた。ドアを開けてサイドブレーキにカバーを嵌め込む。ミシンの性能の限界のため良く見ると縫い目が揃わず見栄えが悪いが、ぱっと見た目は悪くない。駐車場の空きスペースに置いたダンボール箱から、以前交換したエンジンマウント、タイミングベルト、テンショナ、電動アンテナ、ブレーキローターなどを取り出し、コンクリートの床に並べ、カメラに収めていく。24枚取りのフィルムを使い切った。

 灰色の車にラケットバッグと共に乗り込み、市内にあるスポーツクラブに向かう。正月休みの最終日で暇を持て余している人が多いのか、クラブの駐車場は一杯だ。1時間半のレッスンでたっぷりと汗をかく事が出来た。満足してコートを後にすると、クラブ内の大きなジャグジーバスに体を沈め、サウナでさらに汗を搾り出す。生まれ変わったような爽快な気分でクラブを出て家に戻った。夜は疲れた胃腸を休めるように、生蕎麦を硬めに茹で上げたものを啜りながら、おせち料理の残り物で簡単に食事を済ませる。たちまち眠気が襲ってきた。

 

1月7日(月)晴れ後雨

 地下駐車場で正月休みのほとんどを過ごした、うに色のクルマに乗り込み、ゆっくりと走り出した。久しぶりのドライブはいつもの通勤路だが、その方がタイヤやブレーキの変化が判って、面白い。タイヤは17インチの40扁平という薄いものから15インチの55扁平に変わったので、乗り心地が改善される事を予想していたが、17インチに履き替えた当初の感想は間違っておらず、バネ下がドタバタする乗り心地は変わらない。軽く落胆しながらも違うタイヤの感触を楽しみながらうに色のクルマを走らせた。走り始めは、やや頼りなく初期の空走感があったATEのブレーキローターとフェロードのブレーキパッドの組み合わせだが、表面が馴染んでいく為か、次第に制動力の立ち上がり、踏力に対する効き具合、共に良くなっていく。さらに距離を重ねれば、安心して踏めるブレーキになりそうだ。

 夕方早めに仕事を片付けるとうに色のクルマを飛ばして家に戻り、歩いて駅に向かった。電車で一駅の市街地に出かけ、同僚の送別会に顔を出す。瓶ビールを飲みながら、卓に並んだちゃんこ鍋、焼き鳥、刺身、串揚げなどをぱくついた。海のない土地にしては美味い刺身に満足して家に戻る。

 

1月8日(火)曇り後晴れ

 昨夜からの雨で路面は盛大に濡れていた。雨のお陰で気温が下がらず凍結していないのがせめてもの慰めだ。だが油断は出来ない。スタッドレスタイヤを装着した灰色の車を選んで乗り込み、家を出た。雲が切れて朝日が昇り始める。田んぼの中を走る農道に出ると、遥か遠くまで遮る物も無く見渡せた。遠くの山並みはすでに全身に雪をまとっている。そのくっきりと白い山並みが朝日を受けて幻想的な鴇色に輝いていた。雨上がりの素晴らしい朝だ。

 適当に仕事を切り上げ、逃げるように事務所を後にする。暗い駐車場で灰色の車に乗り込み、テニスクラブに向かった。レッスン開始時間の10分程前に入るとまばゆい照明に照らし出されたコートにはすでに数名の会員がアップを始めていた。念入りに準備体操をしながら開始時間を待つ。コーチが現れ今夜も球出しから練習が始まった。色々なショットを組み合わせて練習すると、まだ確率が低いショットが良く判る。反復練習しても満足がいく結果にはならなかった。冬に入り壁打ちが出来なくなった為の練習不足が否めない。基本が崩れているのを感じた。修正するのは骨だろう。レッスン後の乱打でもボールに思いが伝わらず、もどかしい。

 

1月9日(水)晴れ

 人の行き来にお構いなく時は過ぎていく。今日もポケットに退屈な日常を詰め込んだまま、うに色のクルマに乗り込んだ。カーステレオを少し離れたFM局の周波数に合わせると、BOSEのスピーカーからパーソナリティの暖かな艶のある声が流れてくる。自宅を出てから最初の信号まで走り、ヒーターのスイッチを入れた。吹き出し口から一瞬冷たい風が流れ出すが、すぐに温風に変わる。冷えた手を温めるように吹き出し口のルーバーを調整した。うに色のボンネットの向こう、フロントウインドウに切り取られた景色を、今日生まれたての太陽が地平線近くからオレンジ色の光を放ち、朱鷺色に染めている。田圃の中の一本道を駆け抜けていく、うに色のクルマも同じ太陽の光を受けて輝いている筈だ。

 夕方自宅に戻るとうに色のクルマを駐車場に置き、駅まで歩いて電車に乗った。中心街に出る。少し歩くと、会社に入った当時から一緒に仕事をしていた同僚の送別会の会場であるイタリアンレストランが見えた。友の新しい生活の成功を祈って、スプマンテの乾杯から宴は始まる。久しぶりに集まった友と終電まで飲み、駅で同僚と別れた。

 

1月10日(木)晴れ

 早朝の電車に乗って南へ向かった。狭いボックス席で見知らぬ人と膝を突き合わせて居心地悪く座り、目を閉じる。気がつくと周りは通勤客で一杯に込み合っていた。電車を二回乗り換えて一駅過ぎると再び周りには田畑が目立ち始める。目的地の駅に着き、駅前のコンビニエンスストアで飲み物と昼食を買い込むと歩いてテニスコートに向かった。どぶ川より少しましな小川の土手を歩くと、川面には鴨の群れが休んでいる。30分程歩くとコートに着いた。

 顔見知りの主催者に参加費を払い、アップを済ませると、集まった面々で適当にダブルスを組んでのゲームが始まる。相変わらずボレーがまともに打てず、後ろからストロークで様子を見た。普段の練習とはまるで違う球足の遅いコートに、ストロークのタイミングが狂い、ミスを重ねる。足が動いておらず、ボールも見えていない為か、フレームショットの連発だ。それでも、半日過ぎる頃にはやっと慣れてくる。調子は散々だったが、辛うじて五分の星を得た。

 日が暮れてから近くのレストランに移動してジョッキでビールを飲む。疲れも吹き飛ぶ痛快な旨さだ。一日分の心地よい疲れと満足感が詰まった体を電車で2時間掛けて自宅まで運ぶ。

 

1月11日(金)晴れ

 定時に机を片付けて事務所を後にする。重い鉄の扉を開けて外に出ると冷たく新鮮な空気が顔を刺し、急速に体温を奪おうとした。ロッカールームでテニスウエアに着替えると携帯でメールを見ながら暗い歩道を歩く。駐車場でうに色のクルマに乗り込んだ。キーをひねると排気が乾いた低音を静かな駐車場に響かせる。ヘッドライトをつけて走り出した。

 テニスクラブに着くとまだ多少レッスン開始には時間があり、人は少ない。水銀灯の冷たい光の下で黙々と準備体操をこなした。コーチの球出しからレッスンが始まるとすぐに体が暖まり軽く汗ばんでくる。スマッシュで嫌な音がし、ストリングスが切れた。今はラケットの選択中で、同じラケットを2本持っていない。仕方なく途中でラケットを変えた。フェイス面積は一緒だが長さが0.6インチ違う為か、最初はやや当たりが悪いがすぐに慣れる。1時間半のレッスンはあっという間に終わった。

 メンバーが帰った後、コートに一人残り、20分程掛けてサービスをボール一カゴ分相手コートに打ち込む。やっと満足してコートを離れた。うに色のクルマに乗り込み、照明が落ちて闇に沈んだコートを後にする。国道の流れの中に滑り込んだ。

 

1月12日(土)晴れ

 ヘルメットやグローブを入れたバッグを持ち、家を出た。地下駐車場でうに色のクルマに乗り込み、まだ車の少ない朝の街道を南に向かう。1時間強のドライブで1周約1000mと、約2000mの二つのコースを持つサーキット場に着いた。集合場所に指定された駐車場にクルマを停める。次第に今日の走行会に参加する車両が集まり、駐車場は賑やかになっていった。以前からの仲間も数名参加している。他の車を見ながら仲間と語らっていると走行時間が近づいてきた。初めて走るコースへの期待が膨らむ。

 隊列を作ってコースインするとペースカーの後に付いてゆっくりと周回を重ねた。数周の完熟走行が終わるとペースカーがピットインし、フリー走行が始まる。少しづつ速度を上げながら数周したところで最終コーナーの路面に黒い染みを見つけた。ラインを外すが多少タイヤが乗ってしまった様で僅かに進路が乱される。誰かの車がオイルをぶちまけたのだ。30分間のフリー走行の1本目は、このアクシデントと後始末の作業で終わってしまう。別のグループが1本目を走り始めた。ピットの上の展望デッキから走行する車両を見る。車が本来持つ能力を発揮して走る姿に目を奪われる。

 1回目の走行は、初めてのコースに慣れる間もなくアクシデントで終わってしまった。2回目の走行も慣れることから始めなければならない。再びコースインして走り始めた。今度は最初からフリー走行だ。タイム別のグループではないため、各車の速度は著しく異なっている。後ろから迫る車をケアしつつ、前に立ちふさがる車をパスする必要があった。初めてのコースでは骨の折れる作業になる。通称ダンロップ下のS字の手前では2速では吹け切り、3速に入れるとすぐに2速に落とさないと出口が加速できない中途半端な走りになった。さらに、限界の掴めない最終コーナーでは遅いスピードで進入することになりストレートで全く加速できない。慣れ親しんだコースとは路面の摩擦抵抗が著しく異なるため、感覚よりも遥かに高いところに限界がある事は理解できていた。しかし、体に馴染んだ感覚を超えて速度を上げ、そのスピード感に慣れる事は30分の走行では出来ない。うに色のクルマが持つ性能を余さず使い尽くして得られる速度に対し、遥かに低い速度しか引き出せなかった。だが焦る事も急ぐ事も無い。自分のペースで徐々に詰めていけば良いのだ。満足してコースを後にする。

 

1月13日(日)晴れ

 テニスウエアを着込み、ラケットバッグを背負って家を出た。近くの駅まで歩いて南行きの電車に乗り込む。幾度か電車を乗り換え、合計2時間程度電車に揺られると地方都市に有り勝ちな特徴の無いターミナル駅に着いた。仲間に車で迎えに来てもらい近くのテニスコートに到着する。新興住宅地の調整池に作られたテニスコートは小春日和の穏やかな陽気に包まれていた。1時間程のアップの後に、コート3面を使って4ゲーム先取3−3タイブレークの交流ゲームが始まる。相手を変えながら25名程度の全ての参加者が4ゲーム以上楽しむと、少し長くなって来たとはいえ、まだ短い冬の日が暮れて、辺りには夜の気配が静かに近づいてきた。

 近くのレストランに車で移動してお茶を飲みながら参加した仲間たちと語らい、夜までの時間をつぶす。レストランから歩いて程近いところに、今夜の宴の会場である小料理屋はあった。入り口の引き戸を引いて中に入ると、卓上には刺身の大皿が並び、コンロの上の土鍋からは美味そうな湯気が立ち上っている。ビールの乾杯から新年を祝う陽気な宴が始まった。2時間たっぷり飲みかつ食べ、語り、笑い合うと、満足して再び電車に乗り家路を辿った。

 

1月14日(月)晴れ

 いつもの平日の朝のように、うに色の車に乗り込み地下駐車場を出た。しかし、街はいつもの月曜日の朝とは違っている。道を走る車の数が少ないせいだけではなく、どことなく、まだ目覚めていない寝惚けたような雰囲気が漂っていた。この国では、今日を今年20才を迎える者達を新成人として祝う日と定めている。つまり国民の祝日だ。しかし、そんな事は関係ない。いつもなら混雑しているため、避けて通る幹線道路も、今日は渋滞していなかった。うに色のクルマは速いペースを保ったまま走りきり、駐車場に滑り込む。一昨日のサーキット走行の疲れなど微塵も感じさせなかった。

 電車で長距離を移動する間にどこかでウィルスを貰ったのか、体調が思わしくない。仕事を早めに切り上げて帰途に着いた。自宅近くの信号で停車し、アイドリングに入ると急にエンジンが揺さぶられるようにハンチングを始めた。アイドル回転が不規則に上下し、排気音はたまに失火が起こっているようにばらけている。まるで、電子制御されていない昔の気難しいチューニングカーのようだ。少しアクセルを開けると調子が揃うところからアイドルコントロールバルブの不調だろう。思わず苦い笑いが浮かぶ。

 

1月15日(火)晴れ

 うに色のクルマのボンネットを開ける。スロットルボディとエアフロメータの間を接続しているゴムホースのホースバンドを緩めた。カー用品店で購入してきたキャブクリーナのスプレーノズルに付属の細いパイプを差し、緩めたゴムホースの隙間からスロットルに向けて大量にクリーナを噴霧する。エンジンをあおりながらだ。エンジンを停止して、しばらく放置した後再びエンジンを始動したが、案の定アイドリングは不調のままだ。アイドルコントロールバルブを外してみると中はスラッジとデポジットで汚れていた。そこにもクリーナを吹いてみるが、それだけでは綺麗になりそうもない。応急処置をあきらめる。

 その事件は突然起きた。うに色のクルマの前を白い小さい車が走っている。その車の前を走っていた自転車が突然道の左端から右折を始めた。車は自転車を避けるように右に寄ったが、自転車は右折を止めない。対抗車線まで逃げた白い車は、それでも避け切れず自転車と接触した後、右側の側溝に落ちた。運転席を下に横倒しになった車のドアを引き上げて下を覗き込むと運転手の老人はかすり傷程度で出てくる。自転車の老人もかすり傷だ。田んぼの中の見通しの良い一本道だった。

 

1月16日(水)雨

 先週の天気予報から今日は雨だと知らされていたが、天候の動きは予想を裏切らなかったらしい。今朝の天気予報も一日雨と告げていた。中止の可能性は高いが、念のためにレッスンに備えてラケットバッグを持って、灰色の車に乗り込む。駐車場までの退屈なドライブが待っていた。駐車場に着いて車を降りる頃には早くも細かい霧のような雨が感じられる。昨日でも明日でもない今日、雨が降ることに理不尽な怒りを覚えた。

 決して強く降る事は無かったが細かい雨は夕方になっても続いていた。毛糸の帽子を被り、撥水性のあるコートを着ていると傘の必要は無い。薄暗い空の下、駐車場まで歩き、灰色の車に乗り込んだ。ワイパーを間欠モードで動かしながら走り始める。ワイパーゴムが劣化していて拭き取りが悪く、フロントガラスに筋状に水が残った。帰り道の途中でホームセンターに寄り、交換用のワイパーゴムを購入する。リアワイパー用も忘れなかった。交換は次の機会にし、取り合えずリアシートに放り込んでおく。

 土鍋を出し、昆布と干し椎茸で出しを取り湯豆腐を作った。大吟醸の日本酒の封を切り冷で呑みながら湯豆腐をつつく。冬の夜には悪くない。思わず酒が進んだ。

 

1月17日(木)雨後曇り

 昨夜から細かい雨が降り続けていたのか、朝起きて外を見ると視界全体が暗く濡れそぼっていた。傘も要らないような細かくてまばらな雨が舞うように漂っている。雨のお陰で灰色の車の窓は凍結していなかった。車に乗り込み、エンジンを掛けるとすぐに発進する。国道を走っていくと雨よりも前の車が跳ね上げる水飛沫の方が多い。ワイパーをこまめに動かしながら灰色の空の下を走っていった。灰色の車の窓から見える景色は、雲を通して微かに地上に届く光で全てがモノトーンの様に色を失っている。車を広い駐車場の一角に滑り込ませると歩いてロッカールームに向かった。傘は要らない。

 まだ宵の口といっても差し支えない時間に駐車場に停めた灰色の車の元に戻ると、すでに冷凍庫に入れられたように全体がうっすらと白いものに覆われていた。上空に寒気が入ってくるという予報通り、気温が下がったのだ。車の上に残った水滴が凍るほどに。エンジンに火を入れてからデフロスタ位置にレバーをセットして風量を最大にした。まだ頑固に凍りつくところまでいっていなかったフロントガラスの氷はワイパーを何度か往復させている内に少しずつ無くなっていく。夜の中に走り出した。

 

1月18日(金)晴れ

 地下駐車場に停めたうに色のクルマに乗り込むと、キーをひねりエンジンを始動させる。始動の点火、燃調共に問題無さそうだ。冷間始動のアイドルアップも働いているようなので、水温センサも異常無しだ。残るはスロットルセンサかラムダセンサかアイドルコントロールバルブだろう。ゆっくりとスロープを上がり早朝の街の中にクルマを走らせた。水温計の針が少し動き、アイドルが1500rpmから徐々に落ちて来る。1000rpmをわずかに切る辺りに落ち着く筈だ。その時、突然エンジン音が不規則にばらけ始める。タコメータの針が1000rpm前後で細かく震えて、エンジンが不機嫌そうに身震いした。思わず苦笑いが浮かぶ。次第に回転が上がり始めた。アイドリングが1500rpm程度まで上がる。水温計を見ると正しそうな値を示していた。冷間補正の異常ではない。何度かアクセルを空ぶかししてみるとアイドル回転に戻ったり、また徐々に上がっていったりした。構わずクルマを走らせ駐車場に滑り込む。

 一週間の終わり、街に出るとテニス仲間と生ビールのジョッキをぶつけて乾杯する。落花生の殻をそのまま床に捨てるようなアメリカンスタイルの店だ。痛飲した。

 

1月19日(土)晴れ

目覚めはすっきりとはいかなかった。マグカップ一杯のホットミルクを飲み干す。カーテンの隙間から日ざしが漏れていた。外は気持ち良い快晴だ。のろのろと支度を整えラケットバッグを担いでドアを開ける。渋る体に外の冷気が活を入れた。うに色のクルマに乗り込み、冷たく透き通る冬の大気の中を走り出す。テニスコート脇にクルマを乗り入れるとすでに数名のメンバーが来ている。軽い準備体操で体をほぐすとアップの中に加わった。次第にメンバーが集まってくる。最終的には2面のコートに8名ちょうどになった。ボレー&ストローク、サーブ&ボレーをみっちりと練習し、最後はゲームで仕上げる。6ゲーム・ノーアドでちょうど時間一杯になった。

昼飯を食べ終わると、工具を持って駐車場に降りる。うに色のクルマのフロントをジャッキアップしてウマを掛けた。下に潜り込んでボルトとナットを外し、バンパーを取り去る。ヘッドライトユニットを取り付けているボルトを4本外すとユニットごと取り去る。暗くて頼り無いヘッドライトを明るいHIDに交換する為だ。部屋に戻るとADSLのモデムが届いている。早速接続するとすぐにブロードバンドが導入された。

 

1月20日(日)曇り

 朝起きるとTVを眺めながらスリランカの紅茶で香り高いミルクティーを作ってゆっくりと飲む。頭がハッキリとしたところで、早速ヘッドライトユニットの改造を始めた。LOWビーム用のH1型のハロゲンバルブの代わりにキセノン放電管をセットして配線を引き出すために、ヘッドランプカバーに穴を開ける。電動ドリルで小さい穴を開けてから、リーマーで望む径まで穴を広げた。カッターで穴の周囲のバリを整えると加工は完成だ。左右のカバーを同様に加工した。ショップの店員から聞き出したコツに従って、バルブ挿入穴の周りをやすりで削って少し広げておくのも忘れない。繊細な放電管に少しでも負担を掛けないためだ。

 加工が済んだユニットを持ってうに色のクルマに戻る。取り外しと逆の工程で取り付けし、配線を終え、余った線を結束バンドで適当な位置に固定した。いよいよ点灯だ。エンジンを停めたままイグニションをオンにし、ライトスイッチをひねった。微かな高周波の発振音が聞こえ、ランプは一瞬の間を置いて点灯した。すぐにまばゆい白い光に変わる。薄暗い地下駐車場が昼間のような白い光で明るく照らし出された。改造は成功だ。満足してクルマを離れた。

 

1月21日(月)雨

 昨夜から雨の音が微かに聞こえていたような気がした。夢現で確証はない。しかし、目覚めてカーテンを開けると、空はどんよりと曇っていたが、まだ雨は降り出していなかった。TVの天気予報では夕方からまとまった雨になると告げていた。仕方なく灰色の車で家を出る。

 一日窓のない事務所にいるとハッキリとした天気の変化は判らない。しかし、夕方になると遠くから雨の音と、一層微かな雷の音が聞こえてくる。鉄の扉を開けて外を伺うと雨がやや強く降っていた。暗いアスファルトに出来た水たまりの波紋を映す瞳は深く、暗い。

 夜になって小降りになった。ワイパーを間欠モードで動かしながら自宅への道を辿る。表通りから自宅のある裏通りへ一本入ると、水しぶきの音よりもワイパーのフロントガラスを拭う音が大きく聞こえた。自宅のある最上階を見上げると暖かみのある電球の明かりが窓から漏れていた。カギを開けて家に入ると珍しく早く帰っていた相棒が晩飯を用意して待っている。南からの低気圧がもたらした少し温い雨の夜だった。

 

1月22日(火)曇り

 目を覚まし、カーテンを開けてみる。雨はすでに上がっていた。しかし、路面は雨の名残りを残してしっとりと濡れている。少し考えた後、地下駐車場に降りて、うに色のクルマに乗り込み、家を出た。カーラジオをいつも聞くFM局に合わせると、BOSEのスピーカーを通して耳慣れたパーソナリティーの声が流れ出して小さなキャビンを満たした。先週発生したアイドリング不調の症状は変化して、今はアイドリングが1500rpmで安定する状態だ。どうやら水温センサの異常で、水温が上がっているにも関わらず、低水温の判断となり、アイドルアップが行われている。信号で停車しているとエンジン音と排気音が普段より大きい為、違和感があり、やや耳障りだ。

 仕事が早く終わった。テニスクラブに電話してレッスンの空きを確認する。急いでうに色のクルマに向かった。ヘッドライトをアップグレードしてから初めてのナイトドライブだ。ライトスイッチをオンにすると初めやや青みがかった暗い光が放出される。少し間を置いて白い強烈な光に変わった。明るい。思わず笑みがこぼれた。暗い田舎道を安心して走れる。いつもと違う色の景色の中、テニスコートを目指して走った。

 

1月23日(水)晴れ

 目覚めが悪く、頭に薄い膜がかかったようにスッキリしない。渋る体を無理矢理布団から引きずり出すと、TVのリモコンを操作して、いつものニュース番組にセットした。電子レンジで暖めたホットミルクをすすり、次第に膜が剥がれていくのを待つ。天気予報は今日一日晴れると告げていた。迷わず地下駐車場からうに色のクルマを出し、冬の弱々しい夜明け後の朝日の下へ走り出す。いつもより遅い時間に家を出たので、幹線道路は既に増え出した車で渋滞が始まっていた。焦らず流れにうに色のクルマを乗せて走る。相変わらずアイドリングは1500回転と高過ぎ、燃費に悪影響が出ているが、それ以外は大きな問題はない。加速も良い感じだ。容易く流れに乗ってクルマを走らせる。

 定時で事務所を後にした。鉄の扉の外に出ると、美しい夕焼け空が広がり身も心も解放された気分になる。ロッカーでテニスウエアに着替えると、うに色のクルマに乗り込み、昨夜と同じテニスクラブに向かう。二日続けてのレッスンは久しぶりだ。気温が低いとは言え、例年に比べると暖かい日が多く、以前よりは過ごしやすい。ボールを追い始めるとすぐに体が暖まり、良い気分だ。最後は乱打を楽しむ。

 

1月24日(木)晴れ

 冷え込みが戻ってきた冬の朝だった。遠くまで儚く透き通るように空気が冴え渡り、雪を頂いた山並みがくっきりと空に稜線を描く。地平線近くから昇り始めたばかりの朝日が雪を薔薇色に染めていた。最上階にある自宅のドアを開け、一歩外に出た瞬間に毛穴が引き締まるような冷たい空気と共に目に飛び込んできた光景に、しばし息を呑んで見入ってしまう。

 エレベーターで地下駐車場に降りるとうに色の車に乗り込み、ゆっくりと走らせた。太くまろやかな排気音をBGMにし、カーラジオから流れるお気に入りのパーソナリティーの艶のある声が狭いキャビンを満たす。通りに出てから最初の信号で停まり、水温計の針が動き出したのを確認してからヒーターブロアのスイッチを入れた。すぐに目の前にある丸い吹き出し口から温風が流れ出て、冷たいステアリングで凍えた指先をほのかに暖めてくれる。

 川に掛かる大きな橋を渡ると、街道をそれて狭い農道に入った。春までの眠りをむさぼる休耕田の中を真っ直ぐに突っ切る道を遠い山並みに向かって走る。少し窓を開けると風きり音が耳元をかすめていった。ステアリングに添えた手に僅かに力を加えると、クルマはゆっくりと弧を描き始める。

 

1月25日(金)晴れ

 週末の天気予報があまり良くない。土曜の夜は雪、日曜の午前中は雨の予想だ。日曜日に組まれたテニスの予定が気になる。だが天候のことだ。悩んでみても仕方がない。地下駐車場のうに色のクルマに乗って家を出た。

 定時に仕事を切り上げて外に出る。まだ明るさの残る空に、少しづつ日が延びているのを実感した。暮れてゆく空を追い掛けるように西に向かって走る。空から太陽の光の名残りが消えてゆくにつれて、うに色のクルマのヘッドライトが放つ白い光が暗闇に打ち勝って視界を白く照らし出していった。

 すっかり日が落ちた頃、テニスクラブの駐車場に着く。今週はこれで3度目だ。今夜のレッスンはコーチを入れても4名だけしかいない。1時間半休みなく打ち続けた。良い感じでボールを捕らえる感触が少しづつ積み重なっていく。以前よりボレーの良い感じが増えてきた。少しづつ感触を取り戻しているのが明らかに判る。だが、まだまだだ。時間になり、ラケットを納めると、三たびうに色のクルマに乗り込んで家路を辿った。

 晩飯はホウレン草とトマトのパスタにする。冷たいランブルスコの赤ワインと一緒に胃に送り込んでやった。甘い発泡性のワインが合って、美味い。

 

1月26日(土)曇り

 低気圧が連れてきた雲が冬の弱々しい日差しを遮って、空一面がぼんやりと薄明るい。雲の膜を通して散乱し切った後の寒々しい光を浴びて、街は灰色に沈んでいた。気の滅入りそうな光景だが、ラケットバッグを背負ってうに色のクルマで家を出る。15分程度走ると、市営のテニスコートに着いた。人数はちょうど4名だ。アップをしてからゲームに入る。後から参加した二人を含め、午前中一杯をゲームで楽しんだ。

 一度家に戻ると相棒を連れ出して、灰色の車に乗り込む。5分程度走らせたところにある小さなイタリアンレストランに入った。ランチが安くて美味いと評判だ。前菜とパスタを何種類か選ぶことの出来るランチコースにする。前菜にはスペアリブをデミグラスソースで煮込んだものと、牛肉のたたきに土佐酢風のドレッシングを掛けたものを選んだ。パスタは魚介を使ったトマトソースのものと、卵とクリームを絡めたオーソドックスなものを選ぶ。スペアリブはそれとパンだけで軽い昼食になりそうなボリュームだ。どれも美味い。熱々のパンにはクリームバターが合って、思わずお代りを頼んだ程だ。赤ワインで口をすすぎながら全てを平らげた。コーヒーをゆっくりと楽しむ。

 

1月27日(日)雨

 冬の冷たい雨に、車で1時間半ほどの街でテニスをする予定が潰された。昼近くまでゆったりと過ごす。雨は一向に降りやまないどころか、むしろ強さを増している。うに色のクルマを天然のシャワーの下に連れ出した。30分ほどバイパス道を走らせると、郊外のカー用品店の駐車場に着く。休日はいつも混雑する店だが、雨のせいで客足は少なかった。サーキット走行で酷使したブレーキフルードとミッションオイルの交換を依頼する。作業を待つ間店内をぶらついて時間を潰した。雨はまだ降りやまない。整備が終わってから店を出て、雨の中を走るとAピラーと幌と窓ガラスが接している三角地帯から水滴が車室内に侵入してきた。窓ガラスをトリムに押し当てているだけで窓枠が無い幌車の弱点だ。自宅の地下駐車場に戻ると、窓ガラスの位置調整を始める。ドアの内張りをはがすとパワーウインドウの機構に触れるようになった。取り付けボルトを緩めて機構全体を少しづつ動かし窓ガラスとドアトリムとの位置関係を最適に合わせ込む。しばらくの試行錯誤の末、調整代の範囲内で妥協できる点を探し当てた。ボルトを締め直す。内張りを元に戻して艶出しで磨いた。雨は上がっている。

 

1月28日(月)曇り後晴れ

 風の音が聞こえる。雨は上がったが、北に停滞している低気圧の影響で風が残っていた。うに色のクルマに乗って風の中を走り出す。相変わらずアイドリング回転数は高いままだが、フルードを交換してエア抜きしてもらったブレーキは少し踏み応えのあるフィーリングに戻っていた。ミッションも当たりがなめらかになり、シフト時にたまに発生していたギヤ鳴りも減ったようだ。悪くない。いつもの通勤路を楽しむ余裕が生まれた。

 夜の闇をヘッドライトの白い光芒で引き裂いて走る。快調に流れていたバイパス道路が急に渋滞する。夜間工事だ。トラックや乗用車が数珠つなぎになる幹線道路を離れて側道に逃れ、街灯もなく暗い農道を一気に加速して走る。キセノン灯に換えて強力になった光が前方の暗闇を追い払い、明るく照らし出していた。不安はない。カーオーディオのボリュームをあげた。歪んだギターが刻むリズムにパワフルなヴォーカルが弾ける。

 

1月29日(火)晴れ

 いつもと同じような朝だが、目覚めの気分は違っていた。相棒がいつも乗る電車に相棒と共に乗って、都心を目指す。終点までほとんどの時間をヒーターが効いて暖かいシートでうとうと寝て過ごした。さらに電車を乗り継いで、アメリカ生まれのテーマパークが新旧2種類併設されている駅に降りた。すでにテーマパークに向かう若者や家族連れで、駅は混雑している。専用のモノレールに乗って新しく出来た方に入った。

 ゲートをくぐると大きな地球儀を中心に置いた噴水が目に飛び込んでくる。その先にはつくり物のヨーロッパ調の町並みが続いていた。書割のように奥行きが無く薄っぺらな風景だ。現実感の薄い景色の中を大勢の人々がアトラクションを目指して歩いている姿だけがリアルに感じられた。敷地の中心には火山を模した岩山がある。スロープになった道を歩き、岩山に向かった。洞窟の中に入っていき、今日最初のアトラクションを体験する。車に乗って地底探検する趣向だ。現実にはありえない奇妙な光景の中を車が走っていく。最後は暗闇の中を一気に加速し、一瞬空中に放り出されたかのように外の景色を見た後、再び暗闇の中に落下して終わった。想像よりスリルがある。

 この火山を中心にエリアは放射状に6つ程度に分けられていた。全てを巡ると、ジャングルの中の古代遺跡を探検し、嵐を体験し、アラビアンナイトの世界を旅し、人魚姫と出会い、古き良き時代のアメリカを訪ね、ヨーロッパの街を散策することになる。過去と未来を行き来し、世界中を巡り、水中と地底を探検することになる為か、また、その設計が巧みな為か広い空間に感じられるが、実際に歩いてみると簡単に一周で出来てしまう程の広さでしかなかった。そして、全てが、現実感の希薄なつくり物の世界だ。

 歩き疲れ、空腹を感じる。通り掛かりのメキシカンフードの店でタコスをかじり、生ビールを飲んだ。これは悪くない。しかし、安っぽい紙皿とプラスチックカップには閉口した。

 地底と魔宮の探検は2度体験する。少し感心したのは、魔宮では登場人物のセリフが何種類か用意されているようで、少なくとも2回はそれぞれ違っていた。また地底探検で一瞬外に放り出される時、昼間と夜とでは全く感覚が異なり、そこだけ違う感動が得られる。後者は自然が作り出す偶然の産物だ。自然はこのつくり物の世界に、あるマジックをかける。それは日が傾き、黄昏時になると、始まった。

 海底の探検から生還し、スロープを登って周りを岩山に切り取られた入り江の上に出てくると、目に入る自然の風景は空だけだ。海底に向かう前には澄んだ青空が広がっていたのに、今は雲に覆われている。少しの間に長い時間が経ったような浦島効果に驚いた。やがて雲は去り、再び青空が広がる。アメリカ風のカフェでコーヒーを飲み、客船を眺めながらヨットが係留された入り江を歩く。そして冬の早い落日を迎えた。

 次第に暗くなる中、存在感が希薄な建造物は闇に沈んでいき、代わりに電灯の明かりが浮かび上がる。夕暮れの魔法のスタートだ。途端に書割に過ぎなかった景色が息づいてくる。太陽の光の下では平板な素顔をさらけ出していた構造物が、影をまとい奥行きを得ていった。うそ臭い仮想の世界が、リアルな現実の仮面をかぶり変貌していく様を興味深く見守る。2度目の魔宮の探検から戻ると、夜の闇の中に奇妙な異国の町が実在し、そこに迷い込んだ気分だ。ゲート付近の広い入り江でショーが始まっている。クライマックスの花火が水面近くに花開き、岩山の縁から見下ろす人々の顔を赤や青に染めた。一日の宴は終わる。ゲートを通り抜けると魔法は解けて現実が戻ってきた。

 

1月30日(水)

 相変わらずアイドリングが不調なうに色のクルマをドライブして地下駐車場を出た。冷却水温センサの疑いはやや薄れ、アイドルコントロールバルブとスロットル開度センサの疑いがやや比重を増している。時間とツールがあれば自分で解析できそうだが、どちらも不足していた。この週末から車検を取るついでに修理してもらうように手はずを整えてある。上手く原因をつかんでくれるかは判らなかった。

 定時に仕事場を離れ、うに色のクルマに戻って走り出す。だいぶ日が延びてきているのを感じた。壁打ちコートに向かい、久しぶりの壁の感触を楽しむ。ほんの10分程度でボールが見えなくなってきた。だが気分は良い。これからは時間が延びて行くばかりだ。テニスクラブに着いて、軽く準備運動をするとすぐにレッスン開始の時間になる。ストロークはそう悪くないがボレーのレベルが明らかに低かった。ボレーの改善が急務だ。レッスン終了後、9時の終了時間までボール一篭分サービス練習を繰り返す。

 うに色のクルマで自宅に戻ると、大鍋でパスタを茹でる。トッピングは豆腐とモヤシとホウレン草を塩・コショウ・豆板醤・オイスターソースなどの合わせ調味料で炒めたものにした。

 

1月31日(木)晴れ

 昨夜遅くに少しだけ雨が降ったらしい。路面の凍結が予想された。リスクを避けるために雪道用のタイヤに付け替えた灰色の車で出かけることにする。外に出てみると水溜りには氷が張っていた。野外の駐車場に停められた車の屋根やボンネット、ウインドウなどもびっしりと氷に覆われている。灰色の車に乗り込み、先ずアクセルを深く踏み込み、オートチョークを働かせた。イグニッションキーをひねるとすぐにエンジンが目覚める。旧式のキャブレター車にしては優秀だ。空調レバーをデフロスターの位置にして最大風量にする。もちろん温度調節ダイヤルは最高温度だ。ヒーティッドドアミラーと、リアの熱線のスイッチを入れる。ドアポケットに入れてあるプラスチック製のスクレイパーを持って、車を降りるとウインドウに貼りついた氷の結晶をかき落とし始めた。かなり気温が下がったようで固い氷にてこずる。数分かけて何とか走り出せるようになった。再び車に乗り込み、サイドミラーを確認してからヒーターのスイッチを切る。リアのデフォッガーはまだ通電が必要だ。ギアをドライブに入れてアクセルを踏むと灰色の車は走り始めた。ウインドウの霜落としは、冬の朝の儀式だ。

 


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