いつもと変わらぬ朝、相変わらずアイドリング不調のエンジンを抱えたままのうに色のクルマで家を出た。ここ数日、カーラジオから流れるパーソナリティーの声が聞き慣れたものでない違和感を感じている。三市合併で巨大な都市となった街にある放送局から流れる電波を、隣の県で受信して聞いているが、その距離を越えて、もっと近くに感じていたことを悟った。定時に仕事を切り上げて駐車場に急ぐ。すでに黄昏時を迎えて渋滞の始まる道を下って川を渡った。大きな看板のあるラーメン屋の角を曲がって、車同士のすれ違いに、やや気を使う細い道を辿っていくと、一際背の高い広葉樹の大木が見えてくる。その下にテニスクラブがあった。準備体操しながら開始を待つと、時間きっかりにレッスンが始まる。ハードヒッターがいるので、速い球の練習になる。中級レベルのハードヒッターは、一度、二度返してやれば大抵ネットミスかオーバーミスが出るのだが、スピードに慣れていないと、その一度目で、自分からミスをしてしまう事が多かった。ボレーで上手く押さえ切れないと、ラケットが弾かれる。打ち込んでくる相手との勝負を楽しんだ。レッスン終了後は、さらにゲームをして遊ぶ。
珍しく相棒も目を覚ました。ラケットバッグを担いで、うに色のクルマに乗り込む。30分ほど走った場所にある公営のテニスコートを目指した。すでにサークルの仲間が集まり、練習を始めている。軽く準備体操をすると仲間に加わりアップを始めた。ボレー&ストローク、サービス&リターンと練習は進み、残り一時間をゲームに充てる。6ゲーム先取、ノーアドのゲームを2ゲームやったところで時間となった。約3時間はあっという間だ。そのまま、近くの定食屋に移動して一緒に昼食にした。海から遠い土地だが、魚屋が経営している定食屋だけあって、魚関係のメニューが安く、量が多く、しかも美味い。それだけでなく、カツ等の揚げ物も美味いと定評があった。迷わずネギトロ定食を頼む。薄いピンク色が美しいトロが大盛になって出てくる定食は、初めての人は少し驚くほどだ。刻みねぎとトロの細切れに軽く醤油をつけて口にほうり込む。甘い脂がとろけだし、ねぎの風味と醤油の香りと絡み合う。そこにご飯を一口ほうり込むと、たまらない美味さだ。満足して店を出るとうに色のクルマを南に走らせ、隣町のディーラーに向かう。サービスに車を預けると代車のワゴンに乗り換えた。
朝から雨が降っていた。一日中雨が続きそうだ。テニスは出来ない。仕方なく二度寝を楽しんだ。インターネットのアンケートに答えた結果、抽選に当たったらしく賞品の缶ビール一箱が届けられる。これで缶ビール一箱が当たるのは2度目だ。それぞれ違うメーカーから当たったのだが、前回の発泡酒に対して、今回はビールなので価値がやや高かった。憂鬱な雨の日曜日だが、少し気分が良くなる。朝食兼用の早めの昼食を食べると灰色の車に乗って近くの床屋に散髪に行った。カットだけなら1000円で済む。安さと早さが魅力だ。帰ってきてからは、うに色のクルマのオーナーズクラブのウェブサイトに手を入れて過ごした。これまでは情報を発信するだけだったが、掲示板を設け、双方向の情報交換が出来るように改造するのがメインだ。これを皮切りに、全体を一新したい欲求に駆られる。
夕方になって、気分転換の為、スポーツクラブに向かった。まだ小雨がぱらついている。ジャグジーバスにつかり、サウナで余分な水分をしぼり、マッサージチェアで肩や腰のコリをほぐしてやると、気分はすっかりリフレッシュされた。雨のせいでテニスが出来ず、のんびりと過ごした日曜は終わる。
雨雲が去り、綺麗に晴れあがった。しかし、天気を楽しむ為のうに色のクルマは、工場でオイル漏れとアイドリング不調の修理と、車検を待っている。うに色のクルマの定位置には、今は灰色の車が、まるで昔からそこに停まっていたように鎮座していた。薄暗い蛍光灯の光を跳ね返して鈍く光る灰色の車で家を出る。流れる景色はTVの中の画像の様に現実感が希薄だ。夜になってやっと職場から開放され、灰色の車で家路を辿る。うに色のクルマで走るのとは、まるで異なる退屈な時間だ。相棒が用意してくれた晩飯のおかずは、豚ばら肉と大根を薄味で煮込んだ煮物だった。鷹の爪でピリ辛の一ひねりを加えてあって、とろとろのばら肉の甘味や、半分透き通る程充分煮込まれた大根の甘味を引き締めている。美味い。
今夜も雨が降るらしい。天気予報のアナウンサーが折り畳み傘を持って微笑んでみせていた。上空にはまだ青空が見えるが、朝日は雲に遮られている。灰色の車の窓から見える世界は、無彩色のフィルターをかけたようで、まるで仮想空間だ。通勤の景色を、鮮明にカラフルなものに変えてくれる、うに色のクルマは、まだ帰ってこない。クルマを預けたディーラーからの連絡も無かった。仕事を早めに切り上げて駐車場を後にする。空腹を感じた。退屈な通勤路を辿り、自宅に戻る。部屋に入るとストーブをつけ、コートを脱いで廊下のクローゼットに掛けた。大鍋に水を張り、火にかける。ニンニクとお湯で戻した鷹の爪を細かく刻み、フライパンでオリーブオイルを熱した中に入れて、きつね色になるまで炒めた。パスタが茹であがるのを見計らって、フライパンに適当に切ったホウレン草を放り込む。ホウレン草に付いていた水分が弾け、大げさな音を立てた。ざっと火が通ったところで、ちょうどパスタが茹であがる。間髪を入れずフライパンに移し、さらに熱した。最後に卵とミルクを溶いたものを全体に絡めて出来あがりだ。熱々のパスタを頬張ると実に美味い。冷たいビールが良く合った。
未明まで静かに降り続けた雨のせいで、路面には水溜りが出来ていた。雲の断熱作用のお陰か、南から湿った風が吹いたからか、例年よりも気温が高い穏やかな朝になる。マグカップ一杯のホットミルクをすすり、小さなカップ入りのヨーグルトを一つスプーンですくって食べた。TVのニュースを眺めながらだ。ホットミルクをカップに少し残し、沸騰したてのお湯で入れた熱い紅茶を注いだ。薫り高いミルクティーを楽しむ。地下駐車場に降り、うに色のクルマの代わりに停めておいた灰色の車に乗り込み、家を出た。定時後に入った会議を手早く終わらせ、事務所を後にする。灰色の車で帰宅の車の列に入った。幹線道路から逸れて暗い田舎道を対向車とのすれ違いに気を使いながら走っていくと水銀灯の明るい照明が目に入る。テニスクラブの駐車場に車を停め、ラケットバッグを持ってクラブハウスに向かった。クラブハウスは丸太作りのロッジスタイルだ。時間になるとコーチが現れ、レッスンが始まった。動き始めると暑いぐらいだ。夢中でボールを追っていると1時間半はあっという間に過ぎていった。レッスン終了後、仲間と二人でボール一カゴ分のサービス練習を行う。気分は爽快だ。
うに色のクルマを工場に預けて5日が過ぎた。今日も灰色の車で家を出る。天 気が良くても悪くてもあまり違いを感じなかった。外の気候に関係なく快適に、しかし単調なドライブになる。通勤路の混雑も、遠くの山並も、どこか、少し離れた別の世界に感じられた。自分の事務所から車で5分程度のところにある会議室で、一日中缶詰めになりながら会議を続ける。一日の終りにはすり減ったような疲労感が体中に充満した。体を使った後のどこか充実した達成感は少ない。
家に戻ると空腹感も擦り切れたように失われていた。冷蔵庫からきんきんに冷やしたビールを一缶取り出し、プルトップを開けるとグラスに注いだ。しばらく細かな泡が透き通って見える琥珀色を楽しむと、一気に半分ぐらいを飲む。唇に当たる柔らかな泡の感触の下から口中に流れ込んでくる炭酸の刺激に満ちた冷たい液体がのどを驚かせながら落ちていくのを感じた。美味い。
今日も灰色の車で家を出る。定時に仕事を切り上げてロッカールームを後にすると気分が少しづつ週末の色に切り替わっていった。3連休だ。たまっている仕事のことは頭から追いやる。空はまだ夕闇に移行する少し前の明るさを残していた。いつもの壁打ちコートに向かう。まだボールが見えた。30分に満たない時間だが、久しぶりに壁とボールを通じた対話を楽しむ。少しだけ精度の上がったショットが壁との対話をよりスムーズにさせている気がした。悪くない。照明の下でコーチを含めて5名でレッスンを楽しむ。ハードヒットを身上とする男のショットが、今日は特に冴えて、ほとんどふかすことなくコート内に突き刺さってきた。速さに目が慣れないとブロックすることもままならない。レッスンの後のゲームでも好調は続き、押し切られてしまう。
Macの調子が悪い。頻繁にフリーズするようになった。色々試してみるが、Macの御機嫌は直らない。HDDをフォーマットしてシステムを再インストールすることにする。作業を進めていく内に気がつくと深夜になっていた。TVでは冬期オリンピックの衛星中継を放映している。日本選手がこのオリンピック初のメダルを獲得するシーンを、期せずしてリアルタイムで目撃することになった。世界最高レベルの素晴らしいターン技術と、オリンピック直前にそれまで弱点と言われていたエアで新しく完成させた高難度の技を目の当たりにする。
再フォーマットとOSの新規インストールで良くなったMacの調子が、ソフトをインストールしていく過程で再びおかしくなる。インターネットのブラウザが起動しなくなったり、フリーズしたりする。怪しいプログラムの削除、再インストールなどをくり返すが、思わしくない。回復させる作業に没頭した。
Macが完全には回復しない。HDDをHFS+拡張フォーマットにすると良くないようだ。2世代前の古いOSの宿命なのだろうか。インストールし直そうにも、HFS+のHDDの容量を誤認識して空き容量が足りないという警告を出して導入出来ないソフトがあった。それがApple社直系とも言うべきクラリス社のソフトなのが不思議だ。ユーザーとしてHFSとHFS+の差は、大きなHDDを使う時に最小単位が変化することぐらいだ。簡単な例で言うとHFSではHDDを例えば100個の入れ物にしか分割出来ないとする。200MBのHDDなら、一つの入れ物は2MBになる。すると、10kBの小さなファイルを一個保存しても2MBを消費することになる。つまり、1.99MBは無駄になってしまい、10kBのファイルを100個、1MB分を保存しただけで200MBのHDDが一杯になってしまう。HFS+がその100倍、1万個の入れ物に分割できるとすると、200MBのHDDなら、入れ物のサイズは20kBになる。10kBのファイルを保存した時の無駄は10kBだ。これは大袈裟な例だが、小さく数多いファイルを保存する時には差が出てくる。
灰色の車で家を出た。布団を離れる時間が遅くなるのに引っ張られて出発の時間も冬に入る前よりも10分程度遅い。東に向かう区間では、冬の遅い日の出が低い位置からフロントガラス越しに直接飛び込んできた。少し目を細めて直射日光をやり過ごすと、すぐに車は北にターンして視界から太陽は見えなくなる。広大な砂利の駐車場の一角に滑り込んだ。気温はそれほど低くない。日付けが変わるまで2時間余りを残す時間に駐車場に向かっても、灰色の車のフロントガラスに霜付きは少なかった。真っ暗な夜のワインディングロードを下って行くと、右折待ちの渋滞が多いことで知られる大きな交差点から、こんな時間に1km程の渋滞の列が並んでいる。ほとんどみな同じ会社の車だ。この状況には違和感を禁じ得ない。
灰色の車に鞄を放り込むと、地下駐車場のスロープを上がって地上にでた。今日も青空が広がっている。青空と車室内は薄い鉄板で明確に区切られていた。部屋に入ったまま移動していく意識が強い。川を渡る長い橋に差し掛かると右斜め前方の地平線から太陽が差し込んできた。正面ではない。軽く目を細めてやり過ごし、川を渡り切った。回りは春を待ち干上がった水田が広がる。イタルボランテの極太のステアリングに力を加え、直角に左にターンして、田んぼの中を真直ぐに貫く農道に灰色の車を導いた。遠くの山々に雪が白い。定時で事務所を後にした。暗くなってボールが見えなくなるまでの30分程の間、壁打ちを楽しむ。テニスクラブへの道の途中でコンビニエンスストアの駐車場に灰色の車を入れた。肉まんを一個とスポーツドリンクを買い込み、車に戻って熱い肉まんにかぶりつく。食べ終わるとシートを倒して30分程仮眠してレッスンに備えた。
さ程の運動神経に恵まれていない体は、コーチの指摘を中々飲み込むことが出来ない。上達は遅々として進まなかった。だが構うことはない。レッスン終了後のゲームまで2時間きっちりと楽しんだ。
うに色の車を預けてからすでに12日になる。灰色の車の定位置に放置したワイン色の代車に乗り込んで家を出た。助手席には3泊分の着替を詰めたドラムバッグが放り込んである。着座位置が高く見晴しの良い運転席からの眺めを新鮮に感じながら細めのグリップのMOMOのステアリングを握って、大柄なワゴン型のボディを走らせていった。いつもの通勤路だが微妙に景色が違って感じられる。わずかな違いを楽しみながら駐車場までの道のりを走った。受付で臨時駐車許可証を受け取りルームミラーにぶら下げる。隣の県の山中にある試験場に3泊4日の日程でテストが実施される予定だ。そのテストに参加するためにミニバンの後部座席に乗り込んだ。大柄の重たいボディで走りは重たいが、乗り心地は悪くない。何度か仮眠をくり返す内に3時間強のドライブで山の中腹にあるテスト施設に着いた。近くの山にも雪がかぶっていて美しい景色だが、寒い。支給された防寒作業着を着込むと身体の動きがやや拘束されるが、寒さは防げた。遅れて到着したトラックからテスト機材を荷下ろしする。夕方作業を終え、旅館にチェックインし、熱い温泉に浸かると生き返った気がした。
快晴の青空が広がり、雪をかぶった連峰の向こうに遠く、この国の最高峰が見えていた。試験場から見る景色は見事なパノラマだ。冬の澄んだ空気の向こうにまるで距離が無いようにくっきりと山々が浮かび上がって見えた。しかし、気温は低い。日中でも日陰の温度は零下5度だ。地面も一日中凍ったまま緩むことは無かった。防寒着で守られた身体はなんとか寒さを凌げるが、手先、足先が冷えてくる。手袋を外さないとうまく行かない作業もあるので仕方が無かった。休みを取りながら焦らずに作業を進める。予想以上の寒さでやや作業が遅れた。日没を過ぎると野外での作業は困難だ。なんとか日没前に切りを付けて旅館に戻る。旅館の料理は山中料理と銘打つだけあって、山の素材を中心とした素朴なものだが、あっさりした味付けで美味い。特に煮物が良い出来だ。揚げ餅は初めての食べ方だが、外は香ばしく醤油の薫りがして、中は腰のある柔らかな餅の食感が楽しめる秀逸なものだ。ビールやぬる燗の日本酒で口中を洗いながら出される料理を次々に平らげていくと、満腹になった。しばらく休憩した後に温泉に浸かると一日の疲れと身体のこわばりがすべてほどけていくようだ。
気温が少し上がって、寒さがやや弛んだ。今日も快晴の空の下に、雪をかぶった山並が美しく映える。最終段階の準備に午前中を費やす。休憩所に戻ると強力な暖房で頭がボーっとする程だ。手足の先が暖まってくる。支給された弁当を腹に入れ、熱いお茶を飲むと再び力が湧いてくる。午後からいよいよ一回目の試験が始まった。最終チェックを済ませると、何時でも開始できる状態が整った。テストは一瞬で終わるが、準備にはかなりの時間と労力を費やしている。失敗すると準備が無駄になるだけでは無く、危険でもあった。慎重に段取りを再確認する。すべての準備が整った。後は開始ボタンを押すだけだ。制御装置のパソコンから指令を送ると全てが自動的に始まり、そして、一瞬の後に全てが終わる。緊張が高まる中、ボタンを押した。一瞬後、試験は終了した。一部始終は高速度カメラに収められている。肉眼では何が起きたのか判らなかった。まさに一瞬の出来事だ。期待を込めて高速度カメラの画像を再生する。成功だ。安堵の空気が広がった。
2回目の試験の下準備をしてから旅館に戻る。旅館の入り口の歓迎の名札の多さで、今日が土曜日の夜であることを思い出した。
朝から薄い雲が空を覆い尽くしていた。目覚めると朝風呂に浸かり、頭を覚醒させる。旅館の典型的な朝食をたっぷりと採って、野外作業に備えた。外に出ると気温は氷点近いが氷点以下には下がらない。地面の凍結が緩み、泥が靴を汚した。2個目の検体を試験場にセットして準備を始める。2回目なので、準備はスムーズに進んだ。午前中に全ての準備が終わる。昼食を採り、じっくり身体を休めた。午後、再び慎重に段取りを追って試験を開始させる。昨日よりさらに激しい結果となった。予想通りだ。早速片づけに入る。野外の作業場や仮設の制御室を撤収し、全てをトラックに積み込み終わると夕暮れが迫ってきていた。2台の車に7名のテスト要員を便乗させて、帰路を辿る。ミニバンの快適な後部座席に座ると、すぐに睡魔が襲ってきた。抵抗する気も無く身を委ねる。途中のファミリーレストランで食事を採り、出発地の事務所に戻ると日付けが変わる1時間余り前だ。荷物をおろし、門を出ると仲間の車で所外の駐車場まで送ってもらう。ワイン色のワゴンが暗い駐車場にポツンと停まっていた。荷物を助手席に放り込み自宅に戻る。シャワーを浴びビールを飲むと寝床に潜り込んだ。
早朝、目覚ましのアラーム音で目を覚ます。相棒が出勤していくのを確認してから、もう一度布団に潜り込み2度寝を楽しんだ。まだ昼まで数時間ある比較的早い午前中に、再び目を覚ます。軽く朝食を取り、スリランカの茶葉で熱いミルクティーを入れ、ゆっくりと飲んだ。TVでオリンピックの放映を眺めながらだ。Macのキーボードを押して目覚めさせる。メールチェックやWeb巡りにしばらく時間をかけた。テープドライブメカが故障したビデオデッキを大き目のバッグに入れて持ち、ラケットバッグを背負って家を出る。服装はテニスウエアの上に軽いベンチコートを羽織った。灰色の車で街に向かう。最初にメーカーのサービスセンターを訪れ、ビデオデッキを預けた。次にさらに街の中心に近いスポーツショップに向かう。ストリングスを張り替えてもらい、新しいボールの缶を4本購入した。その足で、いつもの壁打ちコートに行き、張り上げたばかりのストリングスの感触を楽しむ。ソフトな打球感のものを選択したが、予想通りボールを包み込むようなホールド感が得られた。
早朝、いつもより一時間早い時間に目覚めた。カーテンの外はまだ夜の暗さを保っている。珍しく寒い朝だった。身支度を整え、灰色の車に乗り込む。2車線の国道バイパスを南に向かった。朝日が美しい。サーキットに入ると早速受講生の受付を手伝い始めた。今日は参加者ではなくスタッフの視点から、物を見ることになる。準備不足から多少不手際があったが、なんとか受け付けが終わった。欠席が二人と遅刻が一人だ。座学はスムーズに流れた。外に出ると風が酷い。天気予報は大荒れの天気を告げていたが、実際にその通りだ。春一番を思わせる強風が吹き荒れ、砂塵が舞う。その中で先ず午前中のメニュー、定常円旋回が始まった。次々にスタートしていく参加車両を一台一台じっくり観察する。不安定な挙動を示すもの、安定した挙動を示すもの、単純に楕円のコースを回るだけなのだが、加速、減速、旋回と車の動かし方の全てが含まれていた。
午後はミニコースを使い、一つのヘアピンカーブの走り方を何度も反復練習する。ブレーキ、ターンイン、クリップ、エグジットと4点をパイロンで指示するのだが、正確にトレースできる人は少なかった。その後は、全周を使って周回走行する。
ホットミルクとヨーグルトと紅茶という軽い朝食をTVニュースを眺めながらとる。テニスウエアを着た上に軽めのベンチコートを羽織るとラケットバッグを背負って家を出た。地下駐車場に停められた灰色の車にバッグを突っ込み、走り出す。定時に仕事を切り上げ、事務所を後にした。ロッカールームで作業着から再びテニスウエアに着替える。駐車場に停めた灰色の車に乗り込み、帰宅の車の列に並んだ。まだ僅かに残った太陽の残滓を頼りに壁打ちコートで30分ほど遊ぶ。初めて試してみたナチュラルガットはテンションを上げて張るべきだったようで、やや飛びすぎる感があった。その分、ボレーの弾きは気持ち良い。満足して灰色の車に乗り込んだ。少し走ると、丸太作り風のクラブハウスに着く。テニスクラブのクラブハウスだ。時間になるとコーチが現れ、レッスンが始まった。ボレー&ボレーで動き始めると汗が出て来る。しかし、左手の指は冷たい。大気は冷え込んでいた。夢中でボールを追って1時間半を過ごした。気分は爽快だ。
自宅に戻ると大鍋でパスタを茹で上げ、作ってあったひき肉のカレーをたっぷりかけて食べた。スパイシーなカレーパスタに冷たいビールが美味い。
灰色の車で家を出た。うに色のクルマを工場に預けてから3週間近い。地下駐車場にある、うに色のクルマの定位置に灰色の車が納まるようになってから二十日経過した。ちょっとした部品の交換待ちだが、その部品が入荷しない。イタリアが母国の、このクルマの支社が日本にもあるのだが、消耗品と目される部品の在庫すらない体たらくだ。全く信用がおけないと言わざるを得ない。クルマに罪はないが体制が悪すぎる。ちょっとした整備の為に部品待ちで1ヶ月では、購入する人はもの好き以外にいないのは当然だ。仕事に一段落をつけ、自宅に戻ったのは日付けの変わる1時間余り前だ。部屋に入るとまず、灯油ストーブのスイッチを入れる。大鍋に水を張って火にかけてから手を洗った。冷蔵庫からニンニクとホウレン草とエノキを取り出す。ニンニクの皮を剥き薄くスライスした。ホウレン草は流水で洗ってから5cm程度に切る。フライパンに少し多めにオリーブオイルを熱し、まずニンニクを炒めた。沸騰したお湯にはスパゲティを放り込む。ホウレン草の軸を加えて炒め、トマト缶を加えた。最後に葉とエノキを加えたソースに茹だったパスタを加える。熱々のパスタは旨かった。
ラケットバッグを背負って自宅のドアを開けた。すでに太陽が上り始めていて眼下に広がる町並みには朝の若々しい陽射しが満ち溢れんばかりにきらめいている。エレベータで地下駐車場に降りると停めておいた灰色の車で家を出た。冷却効率が良すぎて、冬はかえってヒーターの効き始めが遅い程だが、家を出てから最初の信号を通り過ぎた後にヒーターのスイッチを入れると少し暖かい風が吹き出してくる。
忙しい一日を経て、定時を一時間ばかり過ぎたところで、やっと会議が終わった。急いで机を片付けてロッカールームに走る。駐車場で待つ灰色の車に乗り込むとすぐに走り出した。途中のコンビニエンスストアで肉マンを一個食べて腹を落ち着かせると、いつものテニスクラブの駐車場に車を滑り込む。
最初はコーチをマンツーマンで乱打して体をほぐす。やがて、一人、二人とメンバーが到着するが、それ以上は増えなかった。コーチを入れて4名だけのレッスンを楽しむ。
平日よりも2時間遅くに目覚ましの音が鳴り響いた。覚醒までしばらく時間がかかったが、目覚める。一杯のホットミルクと熱い紅茶で意識をはっきりさせた。テニスウエアに着替えてラケットバッグを背負って家を出る。近くのテニスコートに向かった。今日は7名が集まった。1面のコートでアップを済ませた後、ゲームを楽しむ。春の陽気を思わせる暖かな陽射しの下で昼までの3時間弱を仲間達とボールを追って過ごした。少し足をのばして家電メーカーのサービスセンターに行き、修理を頼んでいたビデオを受け取る。家までの帰り道でスーパーマーケットにより、1週間分の買い物を済ませた。ラケットバッグやスーパーの手提げ袋を抱えて自宅に戻る。軽い昼食を済ませた。
再び灰色の車に乗り込むと近所のテニスクラブに向かった。ハードコートが7面ある。高床式になったクラブハウスからは全てのコートの様子が見渡せて、なかなか居心地が良い雰囲気だ。夕方までテニスを楽しむ。日が暮れてからは灰色の車で街の中心に程近いスポーツクラブに向かった。インドアで快適なテニススクールを受け、ジャグジーバスやサウナで一週間の疲れを洗い流す。素晴しい休日だ。
ゆっくりと目覚めてから朝食の準備をする。ミルクを半分ぐらい割った熱いコーヒーで意識をはっきりさせた。トーストを焼き、ツナ入りのスクランブルエッグとヨーグルトを食卓に並べる。窓からは穏やかな春のような陽射しがレースのカーテン越しに居間の中まで入り込んできて、暖かな日溜まりを作った。テニスウエアに着替えてラケットバッグを背負って灰色の車に乗り込む。車で15分程のテニスクラブに向かった。仲間の会員達と夫婦ペアばかりのミックステニスを楽しむ。対抗戦とは言ってもレベル的には同程度。いつも勝ったり負けたりをくり返している相手同士だから気楽なものだ。夕方まで五試合程度を楽しむ。今日も一日テニスで日が暮れた。クラブハウスでゆっくりとコーヒーを飲みながら段々黄昏れていく町並みを眺める。すっかり日が沈んだ頃、クラブハウスを後にした。
ボタンを押しても5分毎に繰り返し鳴り出す目覚ましのアラーム音の4回目でやっと起き上がる。リモコンでTVの電源を入れて、天気予報を眺めた。冷蔵庫から1Lの牛乳パックを取りだし、マグカップにたっぷりと注ぐ。一口冷たい牛乳を飲んでから、カップを電子レンジに入れてスイッチを押した。かすかなうなり音を立てて電子レンジが稼動し始める。小さなカップ入りのヨーグルトを冷蔵庫から取り出し、スプーンですくって口に運んだ。電子音と共に暖め終わったカップを取り出し、熱いミルクをすする。暖めることで僅かに甘味が増したように感じた。カップの底に温かいミルクを一口分残したところで、スリランカ紅茶のティーバッグを入れ、保温ポットからお湯を注ぐ。しばらく抽出を待つ間に着替えを済ませた。熱いミルクティーが出来あがっている。薫り高い熱い液体をすすると気分が落ち着いた。黒いショルダーバッグを持って家を出る。地下駐車場に降りていくと、そこにいるはずのうに色のクルマはおらず、今朝も灰色の車に乗り込んだ。
仕事を切り上げて事務所を出ると、日付が変わるまで後3時間もなかった。作業着を着替えてロッカールームを出ると、少しは開放された気分になる。駐車場にうに色のクルマの姿は無かった。まだ点検修理から戻って来ない。灰色の車に乗り込む。必要充分な仕事を忠実にこなす車だが、仕事前後の気持ちの切り替えには役立たなかった。いつもの通勤路を走っていく。退屈なドライブになった。
ホットミルクとヨーグルトとミルクティーの朝食をとる。下着の上にテニス用のウオームアップの上下を着込むと、それで充分に暖かく感じられた。グレーのウールの帽子をかぶる。コートは羽織らずにラケットバッグを背負って家を出た。寒さが緩んだ穏やかな曇りの朝だ。定時に机を片付けて、事務所を後にした。ロッカールームでテニスウエアに着替える。灰色の車に乗り込み、帰宅を急ぐ車の流れに入り込んでいった。ぼんやりと曇った空はまだ僅かに明るい。いつもの壁打ちコートで30分ほど遊ぶ。ナチュラルガットの歯切れの良い打球音が壁に反響した。少し走って、帰り道の途中にあるテニスクラブに入る。時間通りに、レッスンが始まった。サービスのスイングを内転を意識したものに変えてみる。ボールが弾け、バウンドしてから伸びていく感覚を掴んだ気がした。練習後、一人残ってその感覚を確かめるようにサービスを打ち続ける。
自宅に戻ると大鍋でパスタを茹で上げ、ニンニクと鷹の爪とホウレン草を炒めてミルクと卵で軽くとじたソースを絡めた。クリーミーなパスタに冷たいビールが美味い。
灰色の車に乗って田舎道を走る。変化のない平板な一日になった。うに色のクルマはまだ帰らないまま2月が終わってしまう。