8月1日(日)晴れ時々曇り目覚めると、朝食を取り、身支度を整えて家を出る。すぐ近くの運動公園に向かった。今日は市のテニス協会が開催する、年に一度のクラブ対抗テニスの初日になっている。コートに着いて軽くアップをしただけで汗が流れるほど暑い朝だった。コート脇には大きな木が葉を繁らせて日陰を作っていて、そこに居る分には、風が通って涼しい。
所属するサークルは、1回戦がなかったので、2回戦で対戦することになる相手の試合を観戦した。D1とSで1勝1敗となり、最後のD2に勝敗が掛かっている。D2は8ー8タイブレークにもつれ込む熱戦だった。9時に始まった一回戦が終わったのは11時近かい。最初の試合が始まったのは、11時を少し廻ったところだった。D1が絶妙のコンビネーションで1勝を上げるが、Sは老練な男に手も足も出せずに0ー8と屈辱的な敗北を喫する。最後のD2は、立ち上がりが少し危うかったが、徐々に調子をあげて勝利し、2ー1で2回戦を突破した。1時過ぎから3回戦に入る。D1が惜しくも敗れ、Sが相手を一蹴すると、1勝1敗で最後のD2が回って来た。大事な試合だったが、全く気持ちが入らず、淡白な試合で淡々とミスを重ね、敗北する。結局、今日はチームに何も貢献することが出来ずに終わった。苦い思いだけが残る。
夜はビアガーデンで飲み放題をして愛さを晴らすが、途中で家の鍵やクルマの鍵を付けた鍵束を落としたらしく、自宅近くまで帰ってきた所で鍵束がないのに気付いた。管理会社に連絡して、玄関のドアを開けてもらえたので、野宿はせずに家に入れる。全くついてない一日になった。
8月2日(月)晴れ後曇り
蒸し暑いせいか、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。寝ている間にじっとりと汗ばんだ体に水シャワーを浴びて、気持ちと体をリフレッシュさせる。昨夜の酒が少し残っていたが、シャワーの後にアミノ酸系スポーツドリンクをコップ一杯飲み干すと気分が良くなった。
昨夜、どこに落としたか判らないままだった鍵束は、結果的に帰りの電車の中で、ポケットから零れ落ちたらしい。電車の終点の駅に忘れ物として届いているとの知らせがあった。まだ空が明るい時間に仕事場を出ると、スポーツジムに向かう。時間が早いので、フロアは空いていた。いつも通りのルーティーンワークをこなす。自宅に戻る途中で、最寄の駅で忘れ物の受け取り手続きを済ませた。週末の疲れが少し残っている。早めに布団に入ることにした。
8月3日(火)晴れ
仕事場を出ると、灰色の車に乗って、スポーツジムに向かう。いつもより少し遅い時間になった。ロッカールームに入る入口に設置してある大型のプラズマTVでサッカーのアジアカップ戦を放映している。丁度後半が始まったばかりで、10番を付けた選手がコーナーキックを蹴るところだった。立ち止まって見ていると、コーナーから綺麗な軌跡を描いて飛んだボールは、ディフェンダーの選手の頭を経由してゴールに吸い込まれて行く。これで同点になった。
ロッカーで着替えると、ウォームアップの自転車漕ぎを省略して、筋トレを始める。2ー1でリードしているのをジム内のTVで確認してから、最後のランニングに入った。40分のランニングを終えてベルトから降りると、なんと延長戦に入っていて、4ー3という思いも掛けないスコアになっている。ストレッチをしながら見続けていると、延長後半はパスミスやクリアミスなどから攻められっぱなしだった。筋肉がほぐれるどころではない。手に汗を握りながら見ていると、やっとタイムアウトの笛が鳴らされた。安心して、ジムのフロアを後にする。
8月4日(水)曇り後晴れ
打合せを途中で抜け出して、壁打ちコートに向かう。ショートストロークから始めた。次はスマッシュに変えて、コートや壁に叩き込んでみる。その次は壁に近付いて立ち、ボレーを練習した。打点の確認と、グリップを緩めて打つことに注意して、ストロークを練習することも忘れない。仕上げは、サービスを打った。灰色の車で行き付けのガススタンドに向かう。45Lの容量があるタンクは36Lのレギュラーガスを飲み込んだ。コンビニでアミノ酸入りのスポーツドリンクを買ってから、テニスクラブに行く。
サンダルをシューズに履き換えてコートに入った。ショートストローク、ボレー&ボレー、ストロークラリーと全てをストレートで続ける。今夜のレッスン生は7名と多かった。更にストレートでボレー&ストロークを練習してから、サービスを打ちっ放す。最後はペアを作って時間制でゲームを楽しんだ。レッスンが終わった後は、仲間と二人でラリーをして、更に汗を流す。
自宅に戻ると、真っ先に浴室に飛び込んで水シャワーを浴びた。冷凍庫で冷したグラスで冷たいビールを飲むと、これは痺れるほど美味い。大鍋で茹でたスパゲティに辛子明太子とバターを絡め、オクラを小口切りにしたものと、海苔を細く切ったものをたっぷりとかけ、明太子スパゲティを作った。海苔とバターの香りが絶妙のハーモニーを奏で、明太子とバターの程好い塩気、明太子のすっきりとした辛さ、オクラのさくっ、とろっの歯触り、舌触りがあいまって実に美味い。デザートはグラスワインとカマンベールチーズと洒落込んでみた。
8月5日(木)晴れ後曇り後一時雨
明後日から夏休みに入る者が多く居て、仕事場には、連休前の気だるい雰囲気が漂っていた。適当な時間で仕事を放り出して、自宅に戻る。帰る途中で回り道をして、宅配便を営業所で引き取り、更にスーパーに寄った。豆腐、豆乳、納豆の大豆三兄弟に、肉、茄子、ピーマン、モヤシ、ヨーグルト、モズク酢、パン、缶ビールなど日々消費するものを買い込む。家に戻ると、ニンニクを刻み、フライパンで熱したオリーブオイルの中に投げ込み、炒め始めた。香ばしい香りがキッチンに立ち込める。茄子、人参、ピーマン、モヤシを牛肉と一緒に炒めてキムチで味を付けた。ビンチョウマグロのトロや、肉野菜炒めをつまみながら冷たいビールを飲むと、素晴らしく美味い。市販のモズク酢に中国の黒酢を足してやると、更にコクが増して美味いが、たまにむせそうになった。食事を終えると標準時刻電波を受信しなくなった電波腕時計を、メーカーに発送して修理させる為に、エアキャップで梱包して近くのコンビニに持っていく。電波を受信しないだけなら、ただのクォーツ時計として使えるが、内部に水滴が付いて文字盤が見えなくなるのは致命的だった。幾らアウトレットで購入したとは言え、現代の時計としてはレベルが低い。明かに外れくじを引いたようだった。
8月6日(金)曇り後雨
上空の大気が不安定な状態で、雲行きも怪しい。だが、まだ雨は降り始めていなかった。明日から一部の人が夏休みに入る為、大掃除をして区切りをつける。すっかり休みモードに入った仕事場を出てテニスクラブに向かった。テニスクラブに近付いた所で無情にも雨が落ち始める。暗い空からポツリポツリと落ち始めた大粒の雨は、たちまち激しい夕立になった。稲妻が光り、雷鳴も轟く。ナイターレッスンは中止になった。テニスクラブを出てスポーツジムに向かう。途中で雨の区域から出て、乾いた路面を走った。ロッカールームで着替えてジムフロアに降りると、ウォームアップのエアロバイクを10分漕いでから、ストレッチで筋肉をほぐす。すでに汗が滲み出した。筋トレとランニングを終えるとTシャツをずぶ濡れになって体に貼り付く。風呂に入り、さっぱりすると自宅に帰った。
8月7日(土)曇り時々晴れ後一時雨
目覚ましのアラーム音で覚醒すると、シャワーを浴びて、ゆっくりと朝食を楽しむ。身支度を整えてから北のテニスコートに向かった。少し遅れてテニスコートに着くと、人が少ない。それでも6名集まって、何とか練習の形になった。ボレー&ストロークとサービス&リターンの練習に時間を掛けて汗を流して終わりにする。練習後は、いつもの蕎麦屋に寄って昼食にした。ネギトロ丼セットを注文する。ビンチョウマグロのトロがたっぷり乗ったネギトロ丼と、サラダと、みそ汁と、煮物の小鉢と、お新香と、これだけで充分定食一人前のボリュームがあった。更に、これまた充分一人前ある盛り蕎麦が付いて、千円でお釣りが来るのだから、止められない。しかも、蕎麦や、丼は勿論の事、煮物の小鉢やお新香に至るまで、しっかり気持ちを入れて作っていることが判る美味さだった。満腹になると少し眠くなる。満足して店を出た。
スポーツジムに寄って、ロッカールームのベンチで20分程昼寝をする。充分腹もこなれた所で、筋トレとランニングに汗を流した。ジムに入った頃から空が暗くなり、ランニングをしていると、前の窓からあちこちに稲妻が走るのが良く見える。まさに自然が織り成す天空の一大ショーだった。トレーニングを終えて風呂に入った頃、どうっと激しい雨音が天井から聞え始める。それに呼応する様に雷鳴が響き始めた。かなり近い。風呂から出て窓の外を眺めると暗い空のあちこちで稲妻が閃き、直後に腹に響く激しい衝撃音が轟いた。土砂降りの雨の中を走って自宅に戻る。TVでアジアカップの決勝戦を見て、スカッとしてから、心地良い眠りに落ちた。
8月8日(日)曇り後晴れ
目覚めると、水シャワーを浴びて頭と体をスッキリさせ、TVを眺めながらゆっくりと朝食を取った。身支度を整え、ラケットバッグとシューズを持って家を出る。今日も北の町のテニスコートに向かった。朝のうちは薄曇りで少し涼しかったが、やがて日が出ると真夏の暑さが戻ってくる。通気性が良く、すぐに乾くのが売りのドライメッシュのTシャツを着ていたが、汗の量が多過ぎて乾く間もなかった。練習とゲームを昼まで楽しむ。練習後は、昨日と同じ蕎麦屋に向かった。今日は混んでいて空き席がない。しばらく待たされてから、普段は使われていない奥の座敷に通された。豚の角煮丼セットを注文する。甘辛くトロトロに煮込んだ豚の角煮を卵でとじたものが飯の上にたっぷりと乗っていて、これがまた絶品だった。蕎麦も美味い。今日も大満足で店を出た。
午後からは、トレーニングには行かず、自宅の近くのテニスクラブを訪れる。このところ数週間来ていなかったので久し振りのクラブテニスになった。すぐ試合に入る。シーソーゲームで面白い展開だったが、サービスキープが出来ず4ー6で負けた。もう一試合もシーソーゲームの末、4ー6で負ける。コンタクトレンズの調子が悪くなって、右目が痛んで今一つ集中出来なかった。そのせいでサービス&ボレーが今一つ決まらず、サービスキープ率が50%ぐらいだったのが、敗因になる。コンタクトレンズを新調しないとならないようだった。クラブに来たのが遅かったので、2試合すると、夕暮れが近付いてくる。最後にしばらく壁打ちで打点を確認してからクラブを後にした。
スーパーに寄ると、ゴーヤが安かったので、晩飯はゴーヤチャンプルーを作ることにする。自宅に戻ると、先ずはシャワーを浴びて汗まみれの体をすっきりさせた。ゴーヤを刻んで塩揉みする。冷蔵庫にある有り合わせの野菜も入れることにした。茄子とピーマンとニンニクを刻む。フライパンに油を敷いて、ニンニクを炒めて香りを付けた。そこへ豚肉、ゴーヤ、豆腐、茄子、モヤシ、ピーマンの順に加えて、炒めていく。味付けは塩、胡椒、醤油で決めて、XO醤でコクと辛味を加えてみた。最後に卵を割り入れて全体にからめて出来上がる。冷たいビールと一緒に、熱々のチャンプルーを食べると、適当に作ったにしては実に美味かった。
8月9日(月)晴れ後曇り
首都では35日も真夏日が続いていると言う。北関東にある地方都市の朝も蒸し暑かった。扇風機の風を受けていないと、じっとりと汗が滲み出してくる。水シャワーで体に活を入れた。コップ一杯のスポーツドリンクを飲み干す。干しフルーツが入ったシリアルに無糖のヨーグルトをぶっ掛けたものと、マグカップ一杯の豆乳で朝食を済ませた。Tシャツと短パンにサンダル履きで家を出る。
夜に仕事場からジムに直行した。心なしか何時もの平日よりも空いているような気がする。ウォームアップから始めて、ストレッチで筋肉をほぐしてから筋トレに入った。少しづつウエイトを上げて試してみる。下半身や体幹はもう一段階の負荷アップに耐えられそうだった。上半身は、まだ今のままで良い。サウナで汗を流してさっぱりすると、空いた夜道を走って自宅に戻った。
TVを点けると、福井の原発で事故が起きたというニュースが目に飛び込んでくる。4名死亡、7名重傷と報道されているので、かなりの大きな事故だった。70年代に作られた原発は、そろそろ初期に設定された耐用年数の30年が近づいている。今後、こんな事故が続きそうな予感がした。その後は、先日のアジアカップで見られた反日的な中国と友好的な中国の両面を捉えた映像が流れる。確かにスタジアム周辺で騒動が起きたのは事実だろうが、片寄った報道の怖さが再認識された。
8月10日(火)晴れ後曇り所により一時雨
多くの人が夏休みに入り、やや閑散とした雰囲気が漂う仕事場を後にして、灰色の車に乗った。行き先はスポーツジムにする。ロッカールームで着替えてジムフロアに降りていった。ICキーを使ってチェックインを済ませると、ヘッドホンを付けてTVの音声を聞きながらバイクを漕ぐ。10分間のウォームアップの後、軽く全身のストレッチをしてから筋トレを始めた。少しづつ負荷を上げて様子を見る。下半身や体幹のトレーニングは負荷を上げても問題無かった。スタッフにプログラムの更新を依頼する時期が来たらしい。ランニングマシンが一杯だったので、最後はエアロバイクを30分漕いで終りにした。
外に出ようとすると何時の間にか路面が濡れていて雨がぱらりと落ちている。午後にも少しの時間雨が降っていたし、なんとも不安定な天候だった。しばらく走って河を渡ると、路面は乾いていて雨の痕跡がない。自宅に戻って窓を開け放つと、昼間の熱気の代りに夜気が流れ込んで来て、何とか過せる程度の室温まで下がった。冷凍庫で冷したカップに冷たいビールを注いで飲む。喉を通る刺激は変わらないが、味と香りが弱かった。もしかしたら人が少ない事務所で冷房が良く効く為に体が冷え過ぎて、体調が崩れ掛けているのかも知れない。軽い夕食を済ませると早めに布団に入ることにした。
8月11日(水)曇り後晴れ
仕事場を出ると、灰色の車で壁打ちコートに向かう。まだ太陽は西の空にあり、大分暑さにも慣れたとは言え30℃以上の熱気が体を蕩けさせた。Tシャツを脱いでフェンスに掛け、誰も居ないコートに立って、スライスのショートストロークから始める。15分程度でスマッシュに切換えた。10分程度続けていると、既に使い古したボールが割けたので、新しいボールに替えてボレーに移る。近い距離で壁に相対してのボレー&ボレーも、練習すると随分続くようになった。10分程度で、ストロークに切替える。リラックスしてフィニッシュの形を意識しながらフォア、バックともにトップスピンで打ち続けた。ストロークも10分程度で切り上げ、最後のサービスに移る。サービス&ボレーを意識しながら10分程度打ち続けた。満足してコートを離れる。
テニススクールはコーチの都合で休みだったので、予定通り、スポーツジムに向かった。夏休みに入った人が居るお陰か、平日の夜の割にはそれほど混んでいない。ウォーミングアップは、一時間の壁打ちで済んでいるので、筋トレから入った。少しづつ負荷を上げて試してみる。行けそうだという見込みがついたので休み明けに負荷設定を上げることにした。
自宅に戻ると、冷凍庫で冷した素焼きのカップで冷たいビールを飲む。思わず溜息が漏れるほどの美味さだった。ビールを飲みながら晩飯を作る。ニンニクと茄子とピーマンを刻み、フライパンにオリーブオイルとニンニクを放り込んだ。香りが立ち上るまで炒め、更に茄子を加えて油を馴染ませる。市販のトマトソースを加え、最後にピーマンを入れて煮込んだ。大鍋で固めに茹でたスパゲティをフライパンに加えてソースを絡めると、茄子とトマトのパスタが出来上がる。タバスコとパルメザンチーズをたっぷりと掛けて食べると最高の美味さだった。
8月12日(木)晴れ後曇り
明日から10日間の休みに入る。欧州で一般的な一ヶ月程続くバカンスと比べるとチンケなものだが、政府官僚が国民を搾取して貧しい暮らしを押し付ける後進国のこの国では、これでも望外のものと有り難く思わないといけなかった。実際、10日間の連休が取れるのは庶民としては贅沢らしい。しかし、この状況も、勤勉が美徳とされる道徳を持つこの国では休むよりも働く方が好きな人も多く特に問題とされていなかった。何はともあれ、もう後は野となれ、とばかりに仕事場を後にする。
帰り道でテニスクラブに直行した。今日は休み前の最後のレッスン日になる。休みに入る儀式として、思う存分ラケットを振り回しておく必要があった。金曜の同じクラスの仲間が来ていて、顔を見合わして、考える事は同じかと笑い合う。蒸し暑い夜の中で、一時間半の練習が終わると、Tシャツがずぶ濡れになっていた。満足して自宅に戻る。
直ぐに衣服の全部を脱ぎ捨てて風呂場に飛び込んでしまった。水シャワーを浴びて足にこびり着いた砂を落としていく。風呂上がりに飲むキンキンに冷やしたビールが堪らなく美味かった。長い休みが始まる。
8月13日(金)晴れ
朝起きて、朝の光の中で部屋の中を見渡す。暗い時には目立たないが、明るい陽射しの中では埃や汚れが目立った。掃除機を持ち出して部屋の中の掃除を始める。コードレスのサイクロン掃除機はハンドリングは良いのだが、吸い込み力には、まだ問題があった。だが、丁寧にかけてやればなんとか綺麗になる。
待っていた電話が掛かって来た。昔盗まれて、駅に放置されていたところを保護された自転車を返却する打ち合わせの電話に応対する。自転車の保管場所近くの交番で待ち合わせた。こんな時には非常に役立つ灰色の車で待ち合わせの場所に向かう。刑事課の私服警官が地味な大衆車でやって来た。後を付いて保管場所に向かう。国道が線路を跨ぐ陸橋の下の広い空間を放置自転車の一時保管場所として利用していた。下は土なの埃っぽいが、雨曝しにはならないで済んでいる。キャンディーレッドの車体に不粋な黒のスプレーでカモフラージュされた自転車は、永年の埃にまみれ、見るも無惨な姿を晒していた。灰色の車のリアシートを倒して広げた荷室に積み込む。
電車で街に出て、コンタクトレンズを新調した。コンタクトレンズにしてから6年振りだが、鹿児島弁丸出しの愉快な女医の診断によれば、「眼は綺麗」と、調子が良い。やはりハードレンズにしたのが正解だった。今回は、より酸素透過性が増した、大きめのレンズにする。街に出たついでに、久しぶりに駅ビルにある餃子屋で昼食にした。有名で行列が出来ているが大して美味くない餃子屋の奥にある店で、味噌汁餃子が美味い。ネギ味噌餃子と雷都水餃子を喰らうと懐かしい味がした。
近くのテニスクラブに向かう。日が暮れて暗くなるまでゲームを楽しみ、自宅に戻った。灰色の車のリアから帰って来た自転車を出し、洗車してやる。土埃を落とせば、黒いスプレーで適当に塗られて渋くなった車体が現れた。機械的な問題は無い。ヘッドライトも生きていた。タイヤも空気を入れるだけで生き返る。
8月14日(土)曇り時々晴れ
のんびりと朝食を楽しんで、そろそろ出掛けるかと言う時になって携帯電話が鳴った。近くのコートでテニスをやっている友人から、来ないかと言う誘われる。身支度を整えてから車で10分ぐらいのところにある市営テニスコートに向かった。テニスコートに着くと、コートには5人しかいない。しばらく練習してから、ゲームに入った。6名で順番を決めて4ゲーム先取で回していくことにする。一人あたり3試合ほどやった所で昼になった。午後からも続けるという5名を残して自宅に戻る。
皆と別れると、冷たいシャワーで汗を流してから簡単な昼飯を作って食べた。午後からはテニスクラブに行く。午後からはテニスクラブの仲間とゲームをやって過ごした。流石にお盆で人が少ない。日が暮れるまでゲームをして、たっぷりと汗をかいた。仲間の一人が自宅で栽培した農産物を、皆に分けている。枝豆少しと、茄子とピーマン、そして香り高いバジルの葉をもらった。ポーツジムがお盆休みなので、しばらく壁打ちをして、更に体を絞る。テニスクラブを後にすると、途中でスーパーに寄って、少し買い物をしてから自宅に戻った。
冷たい水シャワーを浴びると気分爽快になる。しっかり汗を絞った後のビールは喩えようも無いほど美味かった。晩飯はもらって来た茄子とピーマンと枝豆にする。先ず枝豆を鍋で茹でた。茄子とピーマンの一部をオーブントースターで焼いてみる。残りは刻んでフライパンで炒めた。大蒜のスライスと豚肉をオリーブオイルで炒めた後、茄子、モヤシを加える。最後に、ピーマンを加えて炒めた。胡瓜とモズク酢で酢の物を作り、冷たいビールと共に楽しむ。盛夏の一日がセミの鳴き声と伴に暮れていった。夏はいつも最高だ。
8月15日(日)雨後曇り
久し振りに雨音の中で目覚めた。駅に着いた相棒を迎えに行く。パンとコーヒー、シリアルとヨーグルトなどの朝食を、TVを眺めながらゆっくりと二人で楽しむ。5泊分の旅行の支度を整え、スーツケースを持って家を出た。雨が降る中を、灰色の車で南に向かって走る。今夜は国際空港近くのホテルに宿を押さえてあった。しばらく走って南関東に入って行くと、雨が止んで気温が上がってくる。ホテル近くのショッピングモールで少し買い物をしてから、ファミレスで昼食のピラフを食べた。
午後に入ってからホテルにチェックインする。ロビーには中華航空のパイロットやフライトアテンダントがたむろしていた。部屋はビジネスホテルのようで、やや狭い。ホテルを出て街中で買い物をした後、カラオケで1時間唄った。サイゼリアでサラダやピザを食べてワインを飲んでから、ホテルに戻る。シャワーを浴びてベットに潜り込んだ。
8月16日(月)晴れ時々曇り
目覚めてビュッフェ形式の朝食を食べる。品揃えは思いの外悪くなかった。夏休みのせいか思いの外混んでいる。チェックアウトしてシャトルバスで空港に向かった。車は15日間まで無料でホテルに置いておける。空港の出発ロビーはうんざりするほど混んでいた。30分程並んで何とかチェックインを済ませ、免税店を冷やかしてからエアバスに乗り込む。離陸してしばらくすると食事が出た。チキンとうなぎという選択が珍しい。うなぎを肴にビールとワインを飲むと、ほろ酔い気分で眠りにつくことが出来た。
エアバスは順調に飛行し、夕方にインドネシアの島に着陸する。思っていたよりも涼しく過しやすかった。空港を出ると直に迎えのミニバンでホテルに向かう。町の景色は、数年前と大して変わらなかった。気持ち車の数が増えたぐらいだろう。町を外れると田園風景が広がった。次第に日が暮れて暗くなると辺りは真っ暗で灯りが見えない。小さな町を抜けて少し行った所で隠れ家のようなホテルに辿り着いた。
片言の日本語を話すボーイに連れられて部屋に向かう。部屋は一戸ずつ別棟の小さなコテージの様になっていた。歩道沿いには、油に灯心を浸しただけの明松火が静かに燃えていて雰囲気を出している。部屋には個別の小さなプール、東屋、天蓋付きのベッド、天然石を繰り抜いて作った浴槽が置いてある半露天風呂などが備わったスイーツだった。5日間を過す場所としては悪くない。荷物を解いて落ちつくと、レストランに向かった。
壁が無く、照明は蝋燭の炎だけの薄暗い店内には、ガムランの音楽が流れ、時折、虫や鳥の鳴き声が響く。メニューは英語なので問題無かった。地ビールとサラダとサティーを注文する。汗をかいたジョッキに、緑色のガラス瓶からビールを注いだ。この国に来て初めてのビールを喉に放り込む。軽いさっぱりした味だが、熱帯の国にお似合いだった。料理が運ばれて来ると、ホテルのレストランらしい上品な盛り付けで食欲をそそる。少し甘辛いピーナッツソースが最高に美味かった。デザートのケーキは米の粉で作ったういろうのような物に、揚げバナナとココナッツアイスが添えてあって、意外なほどに美味い。特にココナッツアイスと一緒に食べると最高だった。
南国らしい味とムードに満足して部屋に戻る。TVは無いがCDプレーヤーが置いてあった。虫の鳴き声以外は静か過ぎて寂しいので、低く音楽を掛ける。プール横の寝椅子に寝転がると、最近見たことも無い様な満天の星空が目前に広がった。天の川がくっきりと見える。シャワーを浴びてベッドに潜り込んだが、しばらくは目が冴えて眠れなかった。
8月17日(火)晴れ時々曇り
寝たのは遅かったが、目覚めの気分は悪くない。朝食を食べにレストランに向かった。朝の光の中で、それぞれのコテージがどれもシンプルな萱葺き屋根の木造建築であることが判る。レストランも同じ作りだった。壁が無いので極めて開放的で気持ちが良い。フルーツサラダのヨーグルト添え、トロピカルなシリアルの牛乳掛け、焼きたてペストリー、卵料理かパンケーキに焼きトマト、揚げポテト、ソーセージ添え、フレッシュフルーツジュース、コーヒーといったボリュームのある朝食が出て来た。パパイヤ、焼きたてのクロワッサンなど、どれも最高に美味い。朝から豊かな気分に浸れた。
無料のシャトルバスで、先ず近くの美術館に行く。ホテルの系列の美術館なので宿泊客は無料で見られる。もっとも入場料を払った所で100円ぐらいだった。1時間程掛けて色彩感が豊かで美しい絵を見て廻った後、シャトルバスで町に出てみる。今日は、この国の独立記念日の祭りで、観光客はもとより、地元住民や車やバイクなどで思った以上に賑わっていた。町のメインストリートを歩いて見て廻り、カフェのオープンテラスでランチにする。サラダと豆腐の炒めもの、蒸し鶏などを注文した。勿論、地ビールも忘れない。外の通りをバイクがけたたましい音を立てて通り過ぎるのが珠に傷だが、美味いビールと美味い料理を堪能した。アジアは食べ物が美味いのが良い。1度、ホテルに戻って、アフタヌーンティーと地元風のケーキを食した。流石に満腹になったので、少し休む。時間がゆったりと流れた。
夕方に再び町に出る。町の中心にあるサッカー場にはステージが組まれ、夜店が出て、大勢の人で賑わっていた。相棒が銀細工のアクセサリー店で動かなくなる。散々迷った挙句にピアス3個、ペンダント2個ほど買い込むが、日本円で6千円にもならなかった。買い物に疲れ、料理やケーキが美味いと評判のカフェに入り、晩飯にする。座敷で靴を脱いでリラックス出来て、良い雰囲気だった。例によって照明は蝋燭の灯りだけで薄暗い。地ビールと料理を味わって店を出た。シャトルバスでホテルに戻ると、今夜は、ヤモリの意外に大きな鳴き声も気にならず、直に眠りに落ちた。
8月18日(水)晴れ時々曇り
目覚めてシャワーを浴びてから朝食を食べにレストランに向かった。木のテーブルや椅子が柔らかく朝の光を受け止めている。テーブルの上に飾られた花がふんわりと輝いて見えた。昨日と同様なたっぷりとした朝食をとる。マンゴジュースが美味かった。朝食後は、しばらく部屋でゆっくりと過す。
迎えのミニバスに乗り込み、ラフティングのスタート地点に向かった。思ったより観光客で賑わっている。中国人の3人と同乗することになった。ヘルメットとライフベストを装着し、パドルを一本渡されてゴムボートに乗り込む。ガイドを含めて6人を乗せたボートは、ゆっくりと河を下り始めた。ガイドの掛け声に合わせて漕ぐと良い運動になる。流れはそれほど速くないが、所々で段差があったり、流れが急になるところもあって意外に面白い。他のボートと水の掛け合いをしたり、滝に入ったり、段差を落ちて水飛沫を浴びたりするので全身がびしょ濡れになった。何キロかの行程を2時間近く掛けて楽しむ。途中の休憩スポットには物売りのおばさんがいたり、写真撮影ポイントが有ったりした。ゴール近くは澱みになっていて、最後はボートから川に飛び込み、泳いで岸に上がった。渡されたタオルで体を拭く。
川岸にはインドネシア料理のビュッフェスタイルの昼食が用意されていた。バナナの葉を敷いた皿の上に、長細い白米を取り、豚のカレーやローストチキンやサティなどをトッピングして食べる。アジアのこうした地元食で裏切られたことはないが、ここの料理もさりげなく美味かった。地ビールの大瓶を一本買って飲む。アジアの味わい深い食文化に感謝の念が湧いた。最後にシャワーを浴び、着替えて送りのバスに乗る。
ホテルに戻ると部屋のプールサイドのデッキチェアに寝そべり、のんびり本を読んで過ごした。午後にはアフタヌーンティーと地元のお菓子が運ばれる。濃い味のコーヒーと不思議な味のお菓子は、普段食べ慣れない味だが妙に美味かった。至福の時が過ぎていく。
シャトルバスで町に出た。祭りの喧騒はなくなって町は、いつもの穏やかな表情を取り戻している。いくつかの店を冷やかして歩いた。相棒はガムランのCDを一枚購入する。日本円で600円ぐらいした。この国では、かなり高価なものの部類だろう。外国人観光客が多くいるカフェに入った。店の奥に庭が有り、広い池に蓮の花が咲いている。池の側のテーブルは一杯なので少し離れた席に座った。アヒルのローストとサティと地ビールの大瓶を注文する。蝋燭のムーディーな灯りの中で、客の話し声がさざめきの様に漂っていた。地ビールを飲み、香ばしくローストされたアヒルに舌鼓を打つ。アヒルは高級食材の様で少し高いが、納得できる美味さだった。ホテルに戻ると、石の浴槽にバスジェルを投入して湯を張り、泡風呂を愉しむ。蛙や名も知れぬ虫の鳴き声がBGMだった。風呂から上がると冷蔵庫の缶ビールを飲み、部屋に備え付けのCDプレーヤーでガムランを掛け、穏やかな音のうねりの中で眠りにつく。
8月19日(木)晴れ時々曇り
ゆったりとしたガムランの調べをBGMにたっぷりした朝食を取る。色々な具材が入ったオムレツがお気に入りになった。腹を満たすと部屋のプールサイドのデッキチェアに寝そべり、甲羅干しとしゃれ込む。iPodで音楽を聴きながら、本を読み、豊かな時間を過ごした。日差しが強く肌が火照ると、すぐ傍プールに飛び込んで体を冷やす。さらに冷たいビールを飲むと、最高の気分だった。
腹が減ると再びホテルのレストランを訪れる。サラダと汁そばを注文した。勿論、地ビールの大瓶も忘れない。運ばれてきた料理は町のレストランとは一味違う上品な盛り付けで見た目も美しかった。素材も良いのだろうが、特にサラダに添えられるピーナッツソースがちょっと信じられないほど美味い。この奥深い甘辛さのソースだけでビールの肴になりそうだった。汁そばはココナッツミルクが効いたピリッと辛いスープに細めうどんのような麺が泳いでた。麺の食感も含めて、舌と口の両方が歓喜する美味さだった。
午後も引き続きプールサイドで過ごす。本を読んだり転寝をしたり、幸せな時間が過ぎていった。アフタヌーンティーには、プールサイドの東屋でコーヒーとお菓子を愉しむ。今日のお菓子は米粉を使って作ったと思われる餅菓子ような物だった。ほのかに甘く、もっちりとした食感が楽しい。 シャトルバスで町に出る。今日はスパでマッサージを受けることにしていた。予約していたスパに入ると、緩やかなシンセサイザーのヒーリング音楽が流れている。シャワーを浴びてから、先ず施術台にうつぶせになると足から背中、肩、腕と入念なマッサージを受けた。マッサージ師は華奢な女性だが、意外に力が有り、良く効く。次に仰向けになり、主に手足を入念にマッサージされた。1時間たっぷり心地良く揉み解されて、日本円で900円程度は価値が有る。もう1時間のヘアトリートメントは、それなりに気持ち良かったが蛇足のような物だった。相棒はマッサージとフェイシャルエステを受けたらしい。2時間経ってスパを出ると辺りはもう真っ暗だった。
暗い通りを歩いて、一昨日の晩に行って雰囲気が気に入ったカフェに入る。キャンドルの灯りだけのほの暗い店内は、ほとんど野外と同じで壁と言うものが少なく、所々で蚊取り線香の煙が緩やかに漂っていた。座敷に上がるとサンダルを脱いで座蒲団に座る。チキンのローストと、ナシゴレンと、地ビールの大瓶を注文した。どれも300円しないぐらいだが、ボリュームも有って、とにかく美味い。アジアのカフェは幸福度が非常に高かった。 食後にはデザートのケーキを注文する。この店はケーキも有名らしかった。相棒が店のお勧めでバナナの入ったチョコレートケーキを注文したが、これがまた信じられないぐらいの美味さで驚く。べったりとした甘さは無く、口の中でしっとり溶け、まったりと舌に絡み、快楽神経を直撃して痺れさすような甘い味さだった。これだけ愉しんでも二人で1500円も掛からない。幸福感に浸って店を出た。
シャトルバスでホテルに戻ると、薄暗い電球の灯りの下で石風呂に浸かる。すぐ横の小さな池から蛙や虫の鳴き声が聞こえていた。石風呂に背中をつけると最初はひんやりと冷たいが次第にじんわりと暖まって気持ちが良い。風呂上りのビールを飲んで、一息ついた。天蓋から蚊帳のように降ろされた透ける生成りの布をめくってベッドに上がるとすぐに眠りに落ちて行く。ヤモリの鳴き声が遠くに聞こえた。
8月20日(金)曇り時々晴れ
この国に来て初めて曇りの朝だった。この旅での最後の朝食を愉しむ。ジュースはマンゴジュース、パンはペストリー、卵料理はオムレツと、色々食べてみた中でのお気に入りをチョイスして注文した。朝から豊かな気分になれる。しばらくプールサイドのデッキチェアでくつろいでから、荷造りを始めた。ポーターを呼んでスーツケースを運ばせるとロビーに行ってチェックアウトを済ませる。シャトルバスで町に出た。 町の中心に近い別の店で、肩と首を中心とした30分のマッサージを受ける。施術台に、うつぶせの時に顔を落とし込む穴が無かったので、首を捻じ曲げた無理な姿勢にされ、昨日のスパより幸福度は落ちた。中庭でジンジャーティーを飲み、フルーツを食べてしばらく休息する。
木彫りの像や、籐細工の籠や、バティック染めの布や、様々な香辛料などのお土産屋が並ぶ市場を歩いて、いくつかの買い物をした。最初に売り子が口にする金額の半分以下、酷い時は1/4程度がラストプライスらしい。相棒は切りの商談を愉しみながら、いくつかの香辛料を仕入れた。
買い物を済ませると、手近なカフェに行き、魚のカレーとナシゴレンと地ビールの大瓶を注文する。色々な香辛料とココナッツミルクで煮込まれた魚のカレーは実に美味かった。ナシゴレンも店毎に特徴があって、どこでも安定して美味い。少しハエが多くて追い払うのが煩わしかったが、満足して店を出た。最後に、昨夜、美味いケーキを堪能したカフェに行ってデザートを食べることにする。入り口のショーケースに並ぶケーキの中から、ココナッツクリームケーキとチョコレートケーキを選んで注文した。飲み物は勿論地ビールの大瓶にする。相棒はコーヒーにした。ケーキを愉しんで店を出ると、シャトルバスでホテルに戻る。
心地良い風が吹き抜けるホテルの図書室でしばらく休んでいると、迎えのミニバスが到着した。名残惜しいが、スーツケースを積み込み、ホテルを後にする。空港への道は、まるで四日前に到着した時のビデオを逆回ししているように感じられた。このまま時も巻き戻して、四日前の到着時に戻れたらどんなに良いだろう。空港でチェックインを済ませると、搭乗時間まで免税店をぶらつき、最後にカフェでビールを飲んだ。エアバスの狭い座席に入り込むと夢のような南国の島は眼下に遠のいていく。出された夕食でビールとワインを飲むと眠りに落ちた。
8月21日(土)曇り時々晴れ
目を覚まして、出された朝食を食べると、しばらくして無事に成田空港に着陸した。税関を出るとホテルのシャトルバスで灰色の車を停めたホテルに向かう。しばらくぶりに帰ってくると猛暑が去って、涼しい風が吹いていた。灰色の車に乗り込んで北に向かう。途中でハンバーガーとコーヒーの昼食を済ました。自宅に戻るとスーツケースを解き、洗濯物を取り出して洗濯機に放り込む。お土産を広げてみたり、デジカメで撮った画像を見たりして、しばらく旅行の残り香を愉しんだ。
冷麦と豆腐サラダの晩飯を食べると、相棒を車で駅まで送って行く。独りで部屋に戻ると、冷たいビールを飲んで一息ついた。南の島で過ごした短いバカンスは終わり、幸せな時の余韻も薄れ、現実が近づいてくる。TVでオリンピックの中継を眺めながら眠りについた。秋の始まりのような気候が物悲しい気分に追い討ちを掛ける。
8月22日(日)曇り
久し振りにラケットを握ると、鮮やかな緑の人工芝に彩られたコートに立った。9日間の夏休みの最終日は、サークル仲間とのテニス練習で始まる。久しぶりに会った仲間達と打ち合うと、少し滅入った気分が晴れた。練習でたっぷり汗をかいた後は、近くのタイ料理の店に行き、タイ風の汁そばとカレーのランチを楽しむ。数日間、数百円の食事が続いただけなのに、1000円弱のランチメニューが妙に高く感じられた。
午後からはテニスクラブに行って、夕方日が傾くまでゲームをして過ごす。こんな日常の生活も悪くない、と思えるようになってきた。自宅に戻り、シャワーを浴びると、何時ものように独りで晩飯を作って食べる。テニスクラブでもらった自家栽培の茄子は、見栄えは悪いが焼くと締まった歯ごたえと濃厚な味が愉しめた。冷たいビールとも良く合って、実に美味い。焼酎のグラスを傾けると、夏休み最後の夜は静かに更けていった。
8月23日(月)曇り後雨
目覚めて、トースト、シリアルとヨーグルト、豆乳の朝食を食べる。さしもの猛暑も峠を越えており、朝から暑さにうだることは無かった。身支度を整えて家を出る。灰色の車で通勤路を走った。以前と少しも変わらない日常が始まる。違うのは、記憶の中に短いとは言え、楽園での生活が息づいていることだった。
仕事を放り出すとスポーツジムに向かう。見慣れたようなメンバーがフロアを埋め尽くしていた。ウォームアップからトレーニングを始める。ブランクがあった分、苦しいかと思ったが、疲労が消えたせいか、むしろ体が軽いような気がした。ランニングまで終えると、風呂で汗を流してジムを後にする。自宅に戻って、納豆、モズク、ワカメ、豆腐といった食材で晩飯を作った。何もかも元通りの生活が始まる。これも考え様によっては、それほど悪くなかった。
8月24日(火)晴れ時々曇り
仕事場を出て、暗い道を駐車場まで歩いた。灰色の車を駐車場から出すと、ジムに向かう。ウォーミングアップを省略して、筋トレから始めるが、ランニングマシンの空き時間まで間があったので、エアロバイクを漕いで時間を潰した。オリンピックの野球中継でちょうど、日本が負けるシーンが放映されている。隣のおっさんの「何やってんだよ」という声が空しく響いた。
自宅に戻ると、タイの海老を発酵させて作ったペースト状の調味料で炒め物を作ることにする。茄子とピーマンとモヤシがあったので、ニンニクと海老ペーストで味を付けてみた。少し多めに入れてみたら塩味もちょうど良くなる。ニョクマム(魚醤)のような香りもして、エスニックな雰囲気が漂う一皿になった。冷たいビールと共に食べると、これは美味い。思わず2缶目のプルトップに指が掛かった。
8月25日(水)晴れ後曇り一時雷雨
昼過ぎになって、遠くから雷鳴が聞こえた。すぐに雷鳴が近づいて激しい土砂降りの雨が降り出す。滝のような雨とはまさにこのことだった。みるみる路上に水が溜まる。2時間ほど空き放題水を落とした挙句、気まぐれな雷雲は去っていった。数時間過ぎて外に出てみると、大量に降り注いだ水は魔法の様にどこかに消えて、路面はすでにほとんど乾いている。
壁打ちコートが水溜りで使えないので、スポーツジムに行った。ウォームアップと筋トレとランニングを何時も通りにこなす。最後は、シャワーでざっと汗を流すだけにして、着替えると、テニスクラブに向かった。ナイターレッスンは予定通りに開始される。今夜は集まりが悪くレッスン生は3名だけだった。秋を感じさせる涼しい気候だが、走り回るとそれなりに汗が流れる。ダブルスのゲーム形式を中心にした練習を繰り返した。最後は誰も居なくなったコートで独りサービス練習をする。トスの位置が安定しない欠点の修正は依然として難しかった。
自宅に戻り、シャワーを浴びる。部屋の中も扇風機が要らないほど涼しくなった。今夜も茄子とピーマンとモヤシの炒め物を作る。豚肉も入れてボリュームを出した。海老ペーストを少し加減して、香り付けの醤油を加えると、昨夜よりさらに洗練された味になる。冷たいビールに良く合う一品になった。
8月26日(木)曇り時々晴れ後雨
スウェーデンのタラコペーストを塗ったトーストと、プレーンヨーグルトを乗せたフルーツシリアルと、豆乳で朝食にした。タラコペーストは少し塩辛いので酒の肴にした方が良いかもしれない。ラケットバッグに着替えを入れて背負い、クーラーバッグにアミノ酸系スポーツ飲料を入れて持つと、家を出た。近くの駅まで歩いて行く。通学する高校生の姿が目立つ朝の空いた上り電車に乗り込んだ。椅子に座って目を閉じるとすぐに眠りに落ちる。目を覚ますと回りは何時の間にか満員の乗客で身動きも取れないほどの混雑になっていた。
駅から歩いてテニスクラブを目指す。スーパーに寄って菓子パンと惣菜パンを買った。のんびり歩きながらメロンパンを齧る。30分ほどで畑に囲まれたテニスクラブに到着した。クラブハウスで缶ビール一本を飲み、惣菜パンを食べて腹ごしらえを終えると、コートに出る。集まってきたゲスト達の中に、8年前にパソコン通信のテニスフォーラムを通じて開催されたオフ会で知り合ったテニス仲間を見つけて、一緒にアップを始めた。アップをしている間にも久振りに出会う懐かしい顔が集まってくる。今日一日目一杯愉しめそうな予感がした。
プレイの方は相変わらず波があって、特にファーストサービスが入らないと極端にポイント率が下がってサービスキープ出来ない。ボレーも浅くなって逆襲されることが多かった。課題は課題として、くさっていても仕方が無いので、今日のところはゲームを愉しむことに頭を切り替える。サービスゲームは、とにかくしっかりサービスを打って前に出てファーストボレーを長く打つことを心掛け、リターンゲームは、クロス、ショートクロス、ストレートロブ、ストレートと、色々なリターンを試してみた。
昼過ぎになり、クラブハウスに入ると、コンビニ弁当で昼食にする。最近パン職人になった仲間からホームメイドの食パンと、デザートのゼリーをもらった。ゼリーの心地良い甘酸っぱさが疲労を和らげ、口中をさっぱりさせる。気分もリフレッシュされる美味さだった。食パンはその場で齧りつきたかったが、週末に戻ってくる相棒と食べることにしてクーラーバッグに仕舞う。昼食を終えると再びコートに戻ってゲームを始めた。一日ハードコートで試合を続けると足腰に疲労が溜まるが、まだやり足りない。しかし、時間は無情に過ぎて、終る時が来た。懐かしい顔ぶれと再会を約して別れる。
帰る前に仲間の二人と風呂と晩飯を共にすることにした。大振りのRV車に便乗して近くのスーパー銭湯に向かう。サウナで汗を流し、露天風呂の椅子に座ると気持良く、数分意識を失った。風呂を出ると、去年の夏に同じように集まった時に3人で行った多国籍レストランに、また行く事にする。地図でおおよその場所の見当を付けてから行くと、すぐに記憶通りの場所にレストランが見つかった。焼き餃子やサラダや揚げ物などを注文する。車で来た他の二人を尻目に一人でビールを注文して飲んだ。風呂上りの冷えたビールは実に美味い。会話も楽しく、つい食事も進んで、瞬く間に過ぎた数時間の間に、勘定が飲み会並になるほどだった。久しぶりに心温まる夜を愉しんだ代償として全く惜しくない。北欧のセダンで近くの駅まで送ってもらい、仲間と別れた。たまには、こんな日が有っても良い。幸せな気分は帰りの電車の中でも続いた。
駅に着くと、雨が降っている。傘は無かった。大した雨ではない。細かく軽い雨粒が落ちる中を歩き出した。携帯のFMラジオで音楽を聴きながら、自宅までの10分程度を歩く。部屋に上がり、冷たい缶ビールを飲んで、充実した1日に句読点をつけた。暖かく豊かな気分はまだ続いている。TVでニュースを見てから眠りに落ちた。
8月27日(金)曇り後雨
まだ空に明るさが残る時間に仕事場を出ると、自宅に戻った。軽食で腹ごしらえをしてから近くのテニスクラブに向かう。ナイター照明の下で練習を始めた。コーチが一人にレッスン生は4名いる。主にダブルスの練習をした。相変わらずファーストボレーが全く上手く行かない。サービスで前に出て行ってボレーミスと言う負けパターンが連続した。なんとか脱出しようともがくが、無駄な努力に終わる。
テニスクラブを出ると、今度は、スポーツジムに向かった。筋トレとエアロバイクで汗を流す。シャワーを浴びて外に出ると細かい雨が降り始めていた。自宅に戻り、納豆やモズク酢などで軽い晩飯にした。夜遅くなって出張から相棒が帰ってくる。オリンピックの中継を深夜まで見てから眠りについた。
8月28日(土)曇り
目を覚まして、朝食の準備をする。と言っても薬缶で湯を沸かし、シリアルにヨーグルトをかけ、パンをオーブントースターに入れただけだった。パンは2日前にテニス仲間からもらった自家製の食パンを、冷凍庫から出して四枚に切ったものを使う。食卓にコーヒーとシリアルを並べた。最初の2枚が焼き上がると、トースターから出してすぐに齧り付いてみる。甘い香りとさっくりとした歯応えが楽しく、次にしっかりとした味わいが口中に広がった。相棒と二人で、つまみ食いでそのまま1枚食べてしまう。残りの3枚には薄くバターを塗った。バターの香りがプラスされて益々香ばしくなる。2枚目はバターを塗っただけで胃袋に消えて行った。3枚目、4枚目はマーマレードや木苺のジャムなどをトッピングしてみる。土台の味がしっかりしているのでジャムの味も引立った。これは美味い。
朝食を終えると北の町のテニスコートに向かい、サークル仲間の練習に加わった。練習とゲームに興じるが、相変わらず簡単なミスが多く、ポイントが取れない。ゲームも、サービスキープが出来ず、3ー6で落とした。練習を終えると、仲間5名ほどで蕎麦屋に入り、昼食にする。何時もながらの細くて腰が強く美味い蕎麦と定番の舌の上でとろとろ蕩ける角煮丼に舌鼓を打った。
昼食の後は相棒と共に温泉に入る。丘の上にある小さな温泉は、循環式だがこじんまりとしていて雰囲気は悪くなかった。サウナの壁が張り替えられていて、ヒノキの香りが強い。サウナで汗を流してから露天に出ると爽やかな秋風が気持良かった。これから露天風呂が良い季節になる。それは夏の終りを意味する寂しさと隣り合わせの小さな幸せだった。
自宅に戻ると、晩飯の準備を始める。冷麦と、オクラの梅肉合え、サンマの塩焼きなどを作った。デザートに杏仁豆腐とプリンを食べ、更に梨を剥くと流石に腹一杯になる。晩飯後は夏の旅行の写真やビデオを見ながらくつろいだ。相棒を駅まで送って行くと、また独りになる。赤ワインのグラスを傾けながらTVの映画を見た。早めに布団に入ると瞬く間に眠りの世界に捕われる。
8月29日(日)曇り後雨
目覚めて外を見ると、どんよりとした冴えない空が重たくのしかかっていた。ゆっくり朝食を食べていると、雨が降り始める。昨夜の天気予報では、午後は回復傾向の筈だった。先にジムに行くことにして家を出る。
雨の日曜のジムは空いていた。ウォームアップ、筋トレ、ランニングとメニュー通りにこなす。風呂を早めに切り上げて自宅に戻ってくるが、雨は降り止まなかった。テニスを諦めて、読む時間が取れないまま積んでおいた本を読むことにする。性同一性障害をテーマにしたミステリーを読み終えると、2冊目に取りかかった。今度のミステリー小説は小児誘拐と臓器売買をテーマにしている。途中で腹が減って来たので晩飯を作り始めた。トムヤムクンの缶詰めを開け、茄子とピーマンと豆腐とミョウガと鷹の爪を適当に刻んで具として加えて煮込む。辛くて深い味の具沢山アジアンスープが完成した。冷たい麦酒と良く合って非常に美味い。晩飯を挟んでハードカバーのミステリーを2冊読むとすっかり夜が更けた。布団に横になってF1のTV放送を眺めていると、何時の間にか意識が遠のき、深い眠りに落ちて行く。
8月30日(月)曇り時々雨
目覚めて、シリアルとヨーグルト、豆乳で簡単な朝食を済ませた。まだ8月だが、あの猛暑が嘘の様に扇風機も要らない日々が続いている。朝のシャワーの習慣も必要無くなった。コンタクトレンズを入れ、長く伸びた髪をワックスで整え、音波歯ブラシで歯を磨くと、家を出る。灰色の車でいつもの通勤路を走った。夏の想い出は、次第に日常の中に埋没して行く。しかし、記憶の中に住みついた楽園での生活は、将来の夢となった。
仕事を放り出して逃げる様に仕事場を出るとスポーツジムに向かう。ウォームアップのエアロバイクからトレーニングを始めた。体が慣れて来て、疲労は感じない。その分、筋トレの負荷を上げてみた。最後のランニングを終えると、サウナで汗をもう一絞りしてから、ジムを後にする。
自宅に戻って、納豆、モズク、ワカメ、豆腐といった食材で晩飯にした。生姜を卸して、モズク酢と冷奴に載せる。冷奴には、更に葱と茗荷の微塵切りも載せ、冷麦のツユの残りを掛けた。冷たいビールと行きたいところだが、今夜はアルコール抜きのルールになっている。アミノ酸系スポーツドリンクや豆乳で口を湿らせながら晩飯を済ませた。食卓を片付けると鎌ヶ谷の梨を1個剥いて食べる。甘くて瑞々しくて歯触りが気持良くて、実に美味い梨だった。
メールチェックを済ませると、オリンピックの無い夜を満喫すべく、早めに布団に入る。台風が近づいている影響で激しい雨と風の音が聞こえ始めたが、すぐに嵐は遠ざかっていって、代わりに静かな眠りの王国が近づいてきた。
8月31日(火)雨後曇り後晴れ
北陸沖の日本海を通って北海道に向かった大型の台風の影響で、朝はまだ強い風が吹いていた。雨は上がっている。灰色の車で早朝の道を仕事場に向かうと、道端に並木の枝が折れて転がっていたり、所々に台風の爪跡が残されていた。並木がまるで生き物の様に大きく風に揺れている。TVニュースで、九州、四国、東北、北海道の被害の様子が映し出されていた。今年は特に異常気象が続く気がする。
仕事場を出て、ジムに向かった。少し遅くなったので、ウォーミングアップを省略して、筋トレから始める。30分ほどの筋トレの後、iPodで音楽を聴きながら、ランニングマシンのベルト上を走った。回りでは、黙々と動かない景色を見ながら走っている人がいる。良く退屈しないものだと感心した。稀に走りながら本を読んでいる人もいて、それも逆に感心させられる。サウナで汗を流してジムを後にした。
自宅に戻ると、納豆と豆腐とモズク酢という、いつもの晩飯にする。冷たいビールを飲みながら、葱を刻み、生姜を摩り下ろし、茗荷を微塵切りにした。葱は、納豆と豆腐の上に、生姜はモズク酢と豆腐の上に、茗荷は豆腐の上に、とそれぞれ薬味を効かせる。冷麦のツユの残りを掛けた冷奴を肴に冷えたビールを飲み干すと、久しぶりに夏の蒸し暑さが戻ってきたことも、むしろ嬉しく感じた。今夜も梨を1個剥いて食べる。歯を立てると小気味良い音と共に冷たく甘い果汁が口一杯に広がり、実に美味かった。夏の残り香を、いとおしく抱き締めながら、8月最後の夜が更けて行く。布団に転がるとたちまち眠りに落ちた。不眠とは全く縁が無い。