「リングにかけるオヤジ・バトルな男たち」 まえがきから
  (略)
 ゴングが鳴った。いきなりパンチを繰り出し、激しく取っ組み合ってマットに横転し、息を荒らげて、バトルを展開する。リングサイドでは、妻や子供が熱烈応援し、会社の同僚たちが歓声をあげ、ヤジを飛ばす。会場は熱気と興奮がみなぎっている。

 男たちが青春に燃えたぎる瞬間沸騰時間三百六十秒。
 肉体と肉体がぶつかりあい、魂が衝突する。ほおを腫らし、関節を痛め、時に、額を割り、歯を折っても、なお闘う。
 闘い終え、今にも崩れ落ちそうにリングに立っているのに、そのまなこは輝き、満ち足りた表情である。涙を流している男もいる。リングから降り、家族と抱き合う光景も見られる。
 荒っぽく、とがった雰囲気がない。格闘技スポーツらしからぬほほえましさと温かみが会場を覆っている。
 一体、これは、どうしたというのだろう。

 格闘技ブームの余波なのか。K―1やPRIDEなどプロ格闘技が、軒並みテレビで高視聴率をあげ、大みそかの主役紅白歌合戦さえもおびやかすほどの国民的人気を博している。リングサイドに若い女性たちが群がり、熱い声援を送っている。
 街には、格闘技のジムや空手道場が増え続けている。(略)

 ボクシングのファイティング原田、輪島功一、具志堅用高、プロレスの力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木、そして武蔵…それぞれの時代に輝ける闘魂のヒーローがいた。少年時代、タイガーマスクや劇画「あしたのジョー」(ちばてつや作)に、その小さな胸を焦がした人も多い。
 彼らは、その幻影が忘れられず、自分がその化身となって闘おうとしているのか。いや、それだけではなさそうなのである。むしろ、リングに上がった男たちの動機を探ると、真摯で一途な思いを胸に、闘っているようにも思えるのだ。(略)

 実力が見合えば、どんな対戦も可能だ。ラーメン屋VSコンピュータープログラマー、農協職員VSメディア媒体広報課長、消防署員VSホテルマン…様々な対戦が実現した。
 組み合わせの妙味、それは、まさに「人生対決」である。(以下略)