ドキュメンタリー映画 「ナナイの涙」 について



●「ナナイの涙」予告編
     http://www.youtube.com/watch?v=th3C1tc8FdE


●はじめに
 
 映画のタイトルにある「ナナイ」とはタガログ語で
「お母さん」という意味です。つまり日本語のタイト
ルは「お母さんの涙」ということになります。なぜ
このようなタイトルを付けたかというと、お母さん
たちが流す涙の意味を考えて欲しかったからです
。子供がいることを知りながら支援してくれなかっ
た元恋人の米兵への怒りの涙。元夫の米兵との
悲しい記憶がよみがえり、あふれ出る涙。愛情を
上手く表現できず、虐待を繰り返した息子との
別れの涙。そこには涙の数だけ人生の
ストーリー
があるのです。
 

●米兵に置き去りにされた母子
 
 フィリピン・マニラの北西約80キロに位置する
オロンガポ市には、1991年に米軍が撤退する
までスービック海軍基地がありました。当時、街
の中心を走るマグサイサイ通りには、米兵相手
のクラブやバーが軒を連ねていました。そして、
ここで多くの男女が恋をして、多くの命が誕生し
ました。しかしその中で、米兵が父親としての
責任を果たし、家族が幸せに暮らしているケー
スがどれほどあるでしょう?子供が
いることを
知りながらもフィリピンでの任期が終わると
アメリカへ単身帰ってしまい、音信不通になる
米兵が後を絶ちませんでした。そして、その
責任は、父親としての責任を果たさない兵士
たちを内部に抱えながら何の行動も起こさない
アメリカ政府にもあるのです。
 

●レイプ事件
 
 オロンガポ市では、米軍基地が駐留していた
1991年以前、約3000件もの米兵によるレイプ
事件が起訴されています。映画に登場する
ジャリタさんは、ダンサーだった1967年、先輩
に酒を飲まされ、泥酔した所を米兵にレイプされ
ました。彼女は当時を振り返って、「私をレイプし
た米兵を訴えれば刑務所に入れられたのに・・・」
と悔しがります。しかし米比間には、不平等な
基地協定があったため、罪を犯した米兵がフィリ
ピンの法のもとで罰されたことは一度もありませ
ん。ジャリタさんに起こった悲劇は、闇に葬り去ら
れた米兵による犯罪のほんの一部なのです。

 
●命運を分けた異父兄弟
 
 アメリカから一時帰国していた米比混血児の
ジャックは幼い頃、母親から虐待されて家出を
した経験がありました。ところが今では、異父
兄弟のジェイソンが母親から虐待されて家出を
し、窃盗容疑で刑務所に入れられていました。
そして未成年であるのに一般の刑務所に入れ
られている弟を救うためにジャックはマニラへと
向かいます。どん底の幼少時代から這い上がり
、アメリカで成功を手にしたジャックと同じ境遇
に生まれながら刑務所でもがき苦しむジェイソ
ン。父親が血縁を認めればアメリカ国籍を取得
できる米比混血児たち。ジャックは兄弟全員を
アメリカへ連れて行きたいと言います。
刑務所で取り調べを受けるジェイソン(右端)
 
●悲しい記憶
 
 白人兵からレイプされて身ごもった子供を養子
に出したジャリタさんは、今度は黒人兵と出会って
結婚し、男の子を出産しました。しかし好きで結婚
した黒人兵は、妻を虐待する暴力的な人でした。
それでもジャリタさんは、経済的な理由から夫と
アメリカで暮らす道を選びます。ところが今度は、
夫の暴力に加えて、義理の母からの人種差別に
苦しみます。フィリピンにやって来た米兵も、はる
ばる訪れたアメリカも、ジャリタさんには悲しい記憶
でしかありませんでした。そして、心の奥底に封印
したはずのアメリカでしたが、あることがキッカケで
悲しい記憶がよみがえり、涙があふれるのでした。


ジャリタさんと息子のアンダーソン