トップページへ戻る田中幸太朗さんご出演の舞台
――『朗読劇 苦情の手紙』





 あらすじ・みどころ・ツッコミどころ


今回の劇場――シアターサンモールは客席数300未満の小さな舞台だけに、客席と舞台の距離が非常に近く、いかにも小劇場という雰囲気が期待を高めてくれました。
今回、私の席はFの1番、イコール下手(しもて:舞台向かって左側)のいちばん壁際だったので田中さんが前の人のアタマの隙間からちょびっとしか見えなかったらどうしよう〜と思っていたのですが、心配無用のキョリでホッとしました。ですが、最前列中央をみごとゲットなさったゆうたママさんや、同じくF列で中央をゲットしていた友人たちに比べるとやっぱり見劣りする席で、ちょっと羨ましかったです(^_^; 一人で申し込むとこういう「スキマ席」に放り込まれることがたまにあるんですよね、閑話休題。

少し暗めの舞台上には、等間隔に置かれた3つの黒い椅子と、背後についたてがあるだけで、動きを見せない「朗読劇」の雰囲気をかもし出していました。中央の椅子に田中さん、下手に津田健次郎さん、上手(かみて:舞台向かって右側)に宝積(ほうしゃく)有香さんという配置で3人が腰かけ、スポットライトが朗読者を照らす他は余計な演出もなく、淡々と進む感じでした。また、演じるお三方がみんな黒い服に身を包んでいたのも、舞台の影に溶け込むかのようで良かったです。

田中さんはチャコールグレーの少し柔らかなラインのシャツに黒のパンツ、黒革にシルバーのリングがついた靴といういでたちでした。靴は去年の織田学園でのトークショーで履いていたのと同じだったと思います。私物だったのでしょうか?

「朗読劇」なので、3人とも手に台本を持っていましたが、黒のハードケースに挟みこまれていて、表紙などは見えませんでした。ただ、同じ物語を進行させているのにページをめくるタイミングが3人とも微妙に違うのが面白いといいますか、田中さんだけが他の人より若干早くめくるのが興味をひきました。あと、べきらさんがご自身のブログで触れてましたが、田中さんだけ台本と顔の距離が近いのは、田中さんの視力のせいでしょう(^_^;

物語は、苦情の手紙とそれに対する返信、インターネットのメールのやりとりのみで進行するもので、全編が手紙文で構成されていました。余談ですが、こうした物語手法は、「厳正リアリズム」と呼ぶそうで、小説『月長石』が初めて取った手法といいます。ですが、この手法で書かれたものでもっとも有名なのは小説『ドラキュラ』でしょう。『ドラキュラ』も、セリフや地の文はいっさいなく、手紙文、日記、電報、新聞記事などのみで構成されています。
とはいえ、現代はインターネットの電子メール全盛。今回の台本も、メールのやりとりはごく自然でありましたが、手紙によるやりとりには、ちょっと違うかなと思うところもありました。短い会話文調のやりとりが多かったあたりがメールっぽく、紙に書く「手紙」の文体をあまり感じさせなかったところが時折あったのですが、まあ今は手紙を手書きで書くことも少なくなったせいでしょう。できたらこの手紙文に「前略」「草々」などの手紙用語?が入っていればメール文との違いが見せられたかもしれないなと思いました。

田中さんが演じるのは、ちょっと世間知らずというか、おっとりしすぎ?な若いサラリーマン、「たどころただし」。
彼がアパートの上階に住んでいるのですが、その階下に住んでいる女性が、たどころ君に次々と苦情の手紙を寄せてきて物語が進んでゆきます。

女性からの苦情は・・・
「夜に『早く人間になりた〜い!』と叫ぶのは辞めてください」
「スキップをするのは辞めてください」
「階段を上り下りするときはもっと静かにしてください」
と、はじめは普通の「苦情らしい苦情」といいますか、たどころ君ダメじゃん(^_^; と思える苦情なのですが、内容はそのうちどんどんエスカレートしていきます。

「夜中にカチャカチャという音がうるさいです。パソコンですか?」 「パソコンを打つときは布団にくるまって打ってください」
「トイレットペーパーのカラカラいう音がうるさいです」「というか、一度にあんなに使ってはもったいなくはないですか?」
「夜遅くに帰って来られると音がうるさいです。8時までには帰ってきて下さい」 「どうしても遅くなるという場合でも10時までには絶対に帰ってきて下さい」

苦情どころか、たどころ君の行動を指図する手紙がじゃんじゃん舞い込みます。果ては、
「おならがうるさいです」
「鼻をかむ音がうるさいです。あんなにかんで血が出ないんですか」
「昨夜の×時×分から×分まで、ずっとノックの音がしていました。うるさいので辞めさせてください。まさか居留守を使っていたのですか? ならすぐに辞めてください」
「パソコンの音があいかわらずうるさいです。今後は布団3枚にくるまって打ってください」
「昨日来たのはカノジョですか? 話し声がうるさいので今後は来ないよう、彼女に誓約書を書いてもらってください」

さすがにキレたたどころ君が強気を振りしぼって手紙を返します。一発ガツン、というヤツです。
が、彼女からの返信は、
「字が震えてますよ」
と、みごとに弱気を看破される始末。しかもその返信は新聞の活字を切り抜いて貼ったもので、たどころ君もたまらず
「脅迫文みたいでコワイのでやめてください」

そんな苦情と陳謝が行き交います。

時折、女性の方のスポットライトが消えると、今度はもう一人の男性が「メール」をよこしてきます。

「女性との出会いを求めてませんか? 当『ラヴィアン・ロ〜ズ』では女性会員様が多数いらっしゃり、男性会員様が足りません。ぜひアクセスしてください。エイチティーティーピー コロン スラッシュスラッシュ ドット・・・」「なお、このようなメールがご不要の場合は恐れ入りますが件名に『配信不要』と書いて返信してください」
ネット初心者とおぼしきたどころ君は、言われるままに『配信不要』と送ってしまいます。もちろんそんなことをすれば、「このメールアドレスはネット初心者が使ってます」とバレてブラックリストに載ってしまうわけで、その後ますます迷惑メールが送られてくることに。
「3×歳 人妻です。主人と離婚しました。子どもも主人が引き取ったので、今とっても寂スィーんですぅ。もしよかったら・・・」
「私は大学の研究で男性の分泌物の空気中における状態変化の研究を行なってます。んがッ!本などの資料だけではどゥお〜しても!研究が進みません。そこでゼヒ!あなたの分泌液を・・・」

以下、延々と続く怪しいメールを、津田さんが人妻や女子大生や女子高生の声色でくるくると演じ分け、場内爆笑に。原則は動きのないはずの朗読劇なのですが、どうしてもアクションが出てしまって上体が動きまくる津田さんが、どんどんヒートアップしてアヤシくなっていきます。
そして、
「有料サイトの利用料が支払われていません。5万円振り込んでください」「いまだに振込みが確認できてません。延滞料含め10万5千円を今すぐ振り込んでください。さもないと裁判所に訴えて給料の差し押さえを行ないます」
とお決まりの架空請求が。

これまたうっかりなたどころ君が本名と住所を返信してしまうのですが、ここで相手が意外な返事をよこします。
なんと一連の「送信」は、たどころ君の元同僚のやまぐちという男のしわざだったのです。
突然、なれなれしい文面になったものの、たどころ君に一応は謝ったやまぐち君。
そして、「今まで気づきませんでしたが、メールの相手がたどころさんだったことで、ネットの向こうに『人』がいるんだということを知りました」「こんな詐欺商売はもう辞めます」と、しおらしいことを言ってきます。
が、そんな彼からやってきた新しい仕事に関してのメールというのが・・・
「洗剤を買いませんか? 本当にいい品物なので一度使ってくれればその良さが分かるはずです。ぜひ一度、説明だけでも聞いてくれませんか?」
思いきりア○ウェイ商法です(^_^;

そしてまた、女性から苦情の手紙がやってきます。
「昨日は友人が来ていたのでしょうか。夜中まで話し声がしてたいへん迷惑でした」
たどころ君の返事は「すみません。お詫びに洗剤を置いておきます」
結局買わされていることが判明します。
その後も、
「すみません。お詫びに水素水を置いておきます。体にいいそうです」
さらには、
「すみません。お詫びに羽毛ふとんを置いておきます」
どんどん高額商品にエスカレートしています。
しかも女性からは
「これ本当に羽毛ふとんですか? 羽毛5%、ナイロン90%と表示されています。しかも足しても95。残りの5%はどうなってるのでしょうか。怖くて使えないのでお返しします」
と、追い討ちがかかる始末。

はたまた、
「昨日は深夜に帰宅されたようで、階段を上がる音がたいへんうるさく迷惑でした。門限を守ってくださいと言ったはずですが、なぜあんな時間に帰宅されたのですか?」
返信によると、たどころ君は出会い系サイトにひっかかって美人局(つつもたせ)にボコられ有り金を巻き上げられたため、電車賃もなくなって仕方なく歩いて返ってきたことが判明します。

かように不幸続きのところに苦情の手紙が追い討ちをかけるのですが、しかし「変化」が訪れます。
「このところ静かで不気味です。生きているのですか?」 「手紙は読んでいただけているのでしょうか?まさか死んでいるのではないでしょうね」 「腐らないで下さい。これ以上返事がない場合、大家さんに通告しますよ」

たどころ君は「ちょっと旅に出ていました」というのが真実だったのですが、時遅し。女性は「(たどころ君が)死体を運び込んでいるのを見た」ととんでもない通告をしてしまっており、たどころ君は警察に御用となってしまいます。

その後、またガサゴソとうるさい音が響く、と苦情を出してきた女性に、たどころ君が返した事情は、
「引越しするので荷造りしています」というものでした。
「しばらくうるさいかもしれませんがすみません」

一転、女性の苦情の手紙が「変化」していきます。
「荷作りの音がうるさいです。音を立てずにできないのなら、即刻引越しを辞めてください」
「今すぐ引越し作業を辞めてください」
「引っ越すことは許しませんッ」

・・・それでもたどころ君は引っ越してしまいます。

最後の手紙は
「次に来る人は静かだといいですね。さようなら」

いったん暗くなってから、おもむろに女性だけにスポットライトが当たります。なにやら晴れ晴れとした表情の女性。
「今度となりに引っ越してきました、さかぐちと申します――」

――ライトが消えて幕切れとなりました。



 アフタートークへつづきます。


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