日本災害情報学会第2回研究発表大会 2000.11.30 於:大宮ソニックシティホール
はじめに
本報告では、
1.有珠山噴火災害と
2.伊豆諸島火山活動災害において新たな展開を見せているインターネットを利活用した情報支援活動の実態と
3.課題について、報告者の実践活動経験と調査研究に基づいて、明らかにする
1.有珠山噴火災害(2000年3月末発生)における情報支援活動の展開
○避難所へのパソコン・インターネットの配備
・4月上旬からインターネットが使用できるパソコンが長万部町から登別市にかけて約130kmにわたって散在する全避難所に北海道によって配備され、避難者がインターネットを通じて必要な情報を入手したり、発信したりすることができるようになった
・避難者の14.6%にあたるインターネットを使える人の中で94.1%がインターネットが情報収集・発信手段として役立ったと回答(東大社会情報研究所廣井研究室調査)
・インターネットが利用できない人にとっての重要な情報源としては、自衛隊や北海道開発局などが提供した被災現場の生放送や録画ビデオやNHKテレビがあった(同調査)
○現地自治体職員とボランティアによる避難所の情報通信インフラ整備
・避難所(2000年8月27日にすべて閉鎖)のパソコン及びインターネット回線は、室蘭市教育委員会情報教育センターの職員と現地のパソコン・サポート・ボランティアが保守・点検作業を定期的に行ってきた
(1)有珠山ネット(http://www.usuzan.net)の形成過程
※有珠山ネットは、メーリングリスト(:電子メール同時配付システム)とホームページ上に開設された掲示板とを媒介にして、以下のような個々人が自然発生的に始めた取り組みが集積されながら形成されていった。
1)伊達市内の被災者(のちに「有珠山ネット」代表となった冨田きよむ氏)自身によるホームページでの現地情報の発信(2000/3/28〜)
2)被災者や災害救援関係者に役立つ情報が掲載されているホームページ(地元自治体・政府機関・被災地情報ボランティア・交通機関・マスメディア等)の情報を集約して情報提供するためのリンク集(およびQ&A集)の作成とホームページへの掲載(3/29〜)
3)大容量回線の運用・管理が可能な人を募っての「ミラーリング(:特定のサイトにアクセスが集中して回線の使用が困難になるのを防ぐために、同じ内容の情報を複数のサイト(ミラー・サーバー)に置いてアクセスを分散する方法)」の実施(3/30〜)
4)「有珠山関係掲示板」(http://www.mash-net.co.jp/usu/bbs.cgi)による被災地内外の人びとの間の情報交換と共有(3/30〜)7月21日現在で、945件の書き込みがあった。
5)「有珠山災害対策メーリングリスト」(usuzan ML)による被災者や災害救援関係者に役立つ情報の交換と共有(3/30〜)(北海道室蘭市教育委員会教育研究所情報教育センターのサイトに開設、その後、東北大学のサイトに移設)、新しいメーリングリスト「有珠山ネットメーリングリスト」(main@usuzan.net)に移行することで運用停止になった6月16日の時点まで、やり取りされたメールが6665通であった。
6)有珠山周辺自治体(虻田町・伊達市・壮瞥町・豊浦町・長万部町・室蘭市・登別市)の避難所(28ケ所)へ配備されインターネットに接続されたパソコンの設定・維持・管理および避難者へのパソコン・インターネット利用支援(4/3〜)
(2)有珠山ネットの諸活動
※上記のような個々人が始めた活動が「有珠山ネット」という形で集約されて、次のような情報支援活動として展開されることになった
1)「有珠山ネット」ホームページ(http://www.usuzan.net/)を中心とする情報支援活動(現地情報の発信、リンク集、交通情報提供、掲示板運営、こどもコーナー運営等)
2)被災地内外の人たちの交流を促進し、被災地の子どもたち被災者を励ますイベント
・「うすこい」(http://www.usuzan.net/usukoi/)、
・「うすゆめ」(http://www.usuzan.net/usuyume/)
・「プロジェクト Boo」(http://www.usuzan.net/boo/index.html)
3)伊豆諸島(三宅島火山活動災害および神津島地震災害)に対する情報支援活動 (http://www.usuzan.net/miyakejima/index.html)および(http://www.usuzan.net/kouzushima/index.html)
2.伊豆諸島火山活動災害における情報支援活動の展開
(1)「島魂」と有珠山ネットによる情報支援活動
○三宅島の火山噴火災害では、三宅村商工会職員の村上康さんが7月3日から全島避難指示による島外避難最終期限日の9月4日まで毎日、「今日の三宅島」というタイトルで現地の状況を有珠山ネットの「三宅島災害対策メーリングリスト」(miyakejima@usuzan.net)にメールで報告し、それを有珠山ネットのメンバーが三宅島関連のホームページに掲載してきた。
・8月24日から、三宅島在住の6人が、情報支援グループ「島魂 三宅島ネット」(http://www.miyakejima.net/)を結成
・現地からの情報や被災地住民としての意見や主張を臨場感あふれる画像を併用してホームページで発信し
・島内外の人たちの情報交換のために「島魂」掲示板(http://www.miyakejima.net/bbs/petit.cgi)をホームページ上に設置・運営してきた
○マスメディアの情報源としての「島魂」
・島魂のメンバーが発信した情報は、マスメディアを通じて全国の人たちの目にふれることになった
・例えば、村上康さんの「今日の三宅島」は、朝日新聞東京本社版の夕刊にそのままの形で掲載されたり(http://www.asahi.com/paper/special/miyake/072401.html)、
飯沼さんがデジタルカメラで撮った低温火砕流の写真が朝日新聞東京本社版朝刊の第1面に掲載された(http://www.asahi.com/paper/special/miyake/083001.html)。
・「三宅島災害対策メーリングリスト」を流れたメールの内容をもとにして、三宅島の人たちの生活状況や心情などが朝日新聞の「天声人語」にしばしば掲載されている(http://www.asahi.com/paper/column.html#column_1)
※今やインターネット上の情報は、マスメディアの重要な情報源となっている
○行政と有珠山ネットとの連携
・神津島の群発地震災害では、神津島役場の職員が、現地の状況をデジタルカメラで撮った画像を定期的に有珠山ネットにメールで送り、有珠山ネットの神津島関連のホームページ上に現地報告入りで掲載してもらっていた(http://vill.kouzushima.tokyo.jp/jisin/yakuba/)
・三宅村役場と東京都三宅支庁の共同ホームページ(http://www.miyakejima.org/)は、「三宅村役場・東京都三宅支庁共同制作/協力・有珠山ネット」と記載があるように(http://www.miyakejima.org/index_back.html)、当初、有珠山ネットの協力によって制作されていた
・その後、三宅村役場と東京都三宅支庁が独自に制作するホームページ(http://www.islands-net.metro.tokyo.jp/miyakejima/)へと移行した
※伊豆諸島火山活動災害では、ホームページによる情報発信という側面で、「有珠山ネット」という有珠山噴火災害を契機に個々人の情報支援活動が集積して形成された情報支援ネットワークと自治体との連携が行われていた
○インターネットを媒介にした民・官・学・産・マスメディア間の情報流通面での連携
・「島魂」掲示板と「三宅島災害対策メーリングリスト」を中心にして、大学関係者や専門家、自営業者や企業関係者、各種団体関係者の間で三宅島の避難者支援をめぐって情報交換や意見交換、議論が活発に行われた
(2)「三宅島と多摩をむすぶ会」の情報支援活動
東京都の多摩ニュータウン地区(八王子市、稲城市、町田市、多摩市、日野市)で支援活動を展開し、特に三宅島の避難者向けの情報支援活動で成果をあげているのが「三宅島と多摩をむすぶ会」の活動である
○「三宅島と多摩をむすぶ会」の結成と活動
・「三宅島と多摩をむすぶ会」(以下、「むすぶ会」)(http://xsvr.center.metro-u.ac.jp/tokyo/miyake.html)は、2000年9月4日の三宅島からの住民の島外避難が終了した直後の同月6日に発足
・「むすぶ会」は、多摩ニュータウン地区でインターネットを活用して地域づくりと産業振興をはかることを目的として結成された「多摩・未来」(http://xsvr.center.metro-u.ac.jp/tokyo/tama.html)のメンバー間で利用されているメーリングリストtama-mirai(tama-mirai@ml.metro-u.ac.jp)を通じて三宅島からの避難者に対する支援策についての情報や意見の交換、議論などを行っている
・「むすぶ会」全体の活動方針などの重要課題を決める場合は、都立大学その他の場所に集まって世話人会を開催し話し合いをおこなっている
○「顔の見える信頼関係」で結ばれたtama-miraメーリングリスト
・tama-miraメーリングリストは、メンバーが新規メンバーを紹介して登録する方式をとっているので、「顔の見える信頼関係」が保て、メーリングリストに参加している多数の行政関係者も安心して公表前の施策についても議論することができる
・多摩ニュータウン地区で福祉・環境・産業振興など諸活動に携わっている人々が参加しており、地域づくりと密接に結びついた「地域に根付いた」ものとなっている
・「むすぶ会」は、三宅島噴火災害を契機にして、多摩ニュータウン地区で諸活動に携わってきた人たちと、阪神・淡路大震災以来の国内各地の大災害において被災者支援活動を行って来た人とが、tama-miraiメーリングリストを通して「顔の見える信頼関係」でつながり、多摩ニュータウン地区での三宅島避難者に対する支援活動という「地域に根付いた」活動を展開している
○三宅島民向け情報紙「アカコッコ−三宅・多摩だより−」
※報告者は、「むすぶ会」の副代表として多摩ニュータウン地区で避難生活を送る三宅島の住民向けの情報紙「アカコッコ−三宅・多摩だより−」(以下、「アカコッコ」)の編集者として情報支援活動に携わってきた
・「アカコッコ」の名称−−伊豆諸島と鹿児島県のトカラ列島でしか繁殖していないツグミの仲間の三宅島を代表する鳥の名前に由来しており、三宅島の人たちにとって馴染み深いものである(三宅島自然ふれあいセンターアカコッコ館:http://www1.tokyoinfo.or.jp/~akakokko/bird.htm#1)
・情報紙「アカコッコ」の目的:三宅島の避難者にとって必要な情報がインターネット上に大量に流通しているのに、それが、インターネットを使えない大多数の三宅島の避難者のところまで届いていないという情報過疎状態をなくすこと
・三宅島民の参加−−三宅島の人たちの情報ニーズに即したものとするために、各号の発行のために開催される編集会議に三宅島の有志の人たちに参加してもらい、編集方針や掲載内容などについて話し合いを行っている
・院生・学生編集スタッフ−−編集会議での決定に基づいて、都立大学や大妻女子大学の院生・学生ボランティアが編集スタッフとしてインターネットや電話で情報収集や取材を行い記事を作成
・三宅島民や「むすぶ会」のメンバーからの記事の投稿
・それらの記事を掲載記事リストにしたがってパソコンのワープロソフトMS-Wordを使って紙面を作成
・「むすぶ会」のメンバーによって戸別配布と郵送にを通じて多摩ニュータウン地区で避難生活をおくる三宅島の人たちに届けられる
○「アカコッコ」紙面づくりにおけるインターネットの活用
※「アカコッコ」の従来の避難者向けの情報紙やミニコミ紙にない特徴としてあげられるのは、インターネットとパソコンが全面的に活用されていることである
・主な情報源が「島魂」のホームページや「三宅島災害対策メーリングリスト」、東京都の災害対策本部のホームページなどインターネット上で掲載および流通しているもの
・パソコンを利用して記事の原稿作成が行われ、その原稿の依頼と完成原稿の編集者への送付はメーリングリストが用いられていること
・作成された各号の紙面は、MS-WordやPDF、html各形式のファイルでホームページ上に掲載されており(http://www.miyakejima.net/tama-tayori/およびhttp://miyakejima.injapan.net/)、
どこにいても誰でも、ホームページから紙面のファイルをダウンロードし、プリントアウトとして利用することができる
・実際に「アカコッコ」は、創刊以来、多摩ニュータウン地区以外の地域でも多くの三宅島民たちの重要な情報源として活用されている
※このように、阪神・淡路大震災以来、情報ボランティアによる情報支援活動は進化し、地域における被災者支援活動と緊密に結びつくことで災害支援デジタル・ネットワーキング(インターネットなどのデジタル・メディアを利活用した災害支援対策の立案・提示・実践のための連帯的行動)が、着実に成果を上げるようになってきている
3.災害支援デジタル・ネットワーキングの課題
※現在進行中の三宅島の避難者に対する情報支援活動から見えてくる災害支援デジタル・ネットワーキングの課題としては、次の5点((1)〜(4))があげられる
(1)相互不信を生み出す発言の問題
○「島魂」掲示板や「三宅島災害対策メーリングリスト」の現状
・不特定多数の互いに面識のない人たちが参加可能な「島魂」掲示板や「三宅島災害対策メーリングリスト」では、
・しばしば、支援活動に直接関与しない人たちの間の議論のための議論、誹謗中傷を目的とした行政およびマスメディア批判、避難者の感情を逆なでする自己満足的発言などが繰り返される傾向がある
・こうした発言は、避難者・支援者・行政関係者・専門家・企業関係者・マスメディア関係者の間に相互不信を生み出し、
・それらの間の信頼に基づく連帯形成を困難にし、避難者に対するタイムリーかつ迅速な支援活動を妨げてしまう
○オープンな場とクローズドな場との使い分けの必要性
・掲示板は不特定多数が書き込めるようにして様々な立場の人たちが自由に情報・意見交換や議論ができるようにしておき、
・メーリングリストは、支援活動に直接関わる相互に面識のある人たちだけを登録する紹介方式で運用して、「顔の見える信頼関係」を保ちながら、支援活動に直接結びついた情報・意見交換や議論ができるようにしておくことが望ましい
・状況に応じてプロジェクトごとにメーリングリストを設置・運用して、プロジェクトメンバー間の緊密な連絡体制をつくり出すことも必要になる
(2)マスメディアのインターネット利用の問題
○マスメディアのインターネット利用の現状
※今や災害時において、インターネットを流れる様々な情報はマスメディアの重要な情報源となりつつある
・インターネットの便利さゆえに地道な取材活動をおろそかにして、インターネット経由の情報を安易にマスメディアに載せてしまっているような傾向が一部のマスメディア関係者に見られる
・この傾向を放置しておくと、インターネットで活発に発言する避難者や支援者が頻繁にマスメディアに登場し、
・彼らの発言が避難者や支援者を代表する意見であるかのような様相を帯びることになり、
・結果的に、このような形でマスメディアに登場する避難者や支援者は、他の大多数の避難者や支援者から反発を招くようになる危険性がある
○マスメディアによるインターネット情報の慎重な取扱いの必要
・マスメディア関係者は、避難者や支援者でインターネットが利用できる人たちは、一部にしか過ぎず、彼らの発言が必ずしも避難者や支援者一般の意見を代表していないことを十分に認識し、
・インターネットを使えない大多数の避難者や支援者やキーパーソンに対して丹念に取材を行い、避難者や支援者の最大公約数的な意見を把握しておいて、インターネット上での発言を慎重に取り扱うことが必要である
(3)避難者へのパソコン・インターネット利用促進の問題
○「三宅島民情報ネットワーク」プロジェクト
※東京都災害対策本部の対応等について(第200報)によれば(http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/SAITAI/HISAI/MIYAK300.HTM)、三宅島の避難者の情報入手と発信を支援するために、三宅村、東京都、民間企業団体、大学(都立大学・早稲田大学)などが協力して、パソコンとインターネットを活用した「三宅島民情報ネットワーク」を構築していくことになっている
・これが有効に機能するためには、避難者がパソコンとインターネットを利用できるようにするサポート体制の確立が不可欠
(参考資料)
(11月10日現在、三宅村集計)
○災害ネットワークプロジェクトの先行事例:「兵庫県震災ネット」と洲本市「ボランティア情報団」
・「兵庫県震災ネット」の構築−−阪神・淡路大震災当時、兵庫県と郵政省と通産省が共同して情報関連企業に呼びかけてパソコンとパソコン通信のアカウントを約200台分調達し、避難所などに配備した
・しかし、情報ボランティアの支援により実際に稼動したのは約60台に過ぎなかった
・洲本市「ボランティア情報団」の現状−−震災後、通産省のモデル事業「災害対応総合情報ネットワークシステム」の一環として、住民有志と町内会にパソコンを配付し災害時にパソコン通信システムを利用して地域の被害情報を災害対策本部に収集する目的で結成された
・しかし、町内会に配付されたパソコンの稼働率が低い
○「三宅島民情報ネットワーク」プロジェクト実施の留意点
・こうした前例を踏まえ、三宅村と東京都は、パソコンとインターネットの利用を希望する避難者に対して、避難先地域の支援者のノウハウや労力、大学の機器やネットワークリソースの提供を得ながら講習会を行い、
・かつ、避難者がパソコンとインターネットを利用する際のトラブルに対して迅速に対応できるような体制を確立する必要がある
(4)地域住民の支援を得るためのアピールの問題
○分散避難の問題点
・三宅島の全島避難の場合のように、避難先地域の大多数の住民にとっては各団地に分散して入居している避難者の存在は希薄であると思われ、
・また、大多数の住民は避難者の存在は知っていても避難者がどのような生活状況にあるかについてほとんど知らないのが現状である
・地域住民に物資提供やその他の支援を求めても、支援が得られないか、また、的外れな支援活動が行われ、かえって避難者を困らせてしまうということも起こりかねない
○ローカルメディアと連携した一般市民向けの情報発信の必要性
・ミニコミ紙、コミュニティFM、CATVなどの地域に根付いたメディアの協力を得ながら、
・地域住民と避難者が接点をもつことができるイベントの開催など、避難先の地域の住民に避難者の状況を正しく伝える広報活動が必要となる
[参考文献]
・干川剛史2000「公共圏・情報・NPO−災害救援デジタル・ネットワーキングの実態と課題−」大妻女子大学人間関係学部研究紀要『人間関係学研究』創刊号