東京温泉紀行

1.麻布十番(港区)

 東京都港区麻布、というと普通は何を思い浮かべるでしょう?営団南北線の「麻布十番駅」が出来るまで、最寄りの駅は「六本木駅」。場所柄、外人さんがよく見かけられるのですが、大抵お金持ってそうな白人系だったりして、同じ東京都内でも新大久保や上野などとは雰囲気を異にしています。麻布十番「商店街」と名乗っている割に元祖だとか本舗だとか老舗の風格漂うお店がごろごろしていて、全体的に洗練した感じ。芸能人お忍びの料理屋さんなんかも有ったりして、一口で言って落ち着いたお洒落な街といったところですか。しかし思い出して欲しいのですが、日本は何と言っても火山の国。地下水脈掘り当てれば、大抵それは温泉だったりするんですよ。もちろんそれは東京のど真ん中であっても変わりません。

 というわけで麻布にも温泉は有るんですね。しかもこの時代にそぐわない、とても年代物の貴重な雰囲気漂う温泉場が。東京の穴場のようなこの温泉、これから紹介していきましょう。

 麻布十番商店街の中程に、何の変哲もない、ちょっと古ぼけたビルが建っています。煙突が立っているわけでも無いこのビルですが、側面をよく見てみると看板が掛かっている。「麻布十番温泉」。実は一階が普通の銭湯、2階が吹き抜けのため(銭湯だし(笑))無くて3階が温泉になっているんですよ。なんでこんな二段構えの営業になったかというと、経営者であるダンナさんが温泉を掘った時、保健所で申請が取れずにしばらく銭湯で営業していたらしいんです。で、数年後に見事申請が取れたときに、銭湯をそのまま残して3階に温泉部門を持ってきたらしいんですね。確かにこの辺りに他の銭湯屋さんは見あたらないので、これは周りの住民にとって良い選択だったんじゃないでしょうか。

 ちなみにこの写真、夜の風景になってますが、ちゃんと理由が有るんです。こちらの入場料金ですが、午前11時から1,260円。午後6時からは940円と、夜は安くなるんです。定休日は毎週火曜日。やっぱり行くなら夜ですよね。(^^)\

 さて、いつまでもビルの前で立っていないないでそろそろ中に入りましょう。エレベーターなんかもちろん無いので階段で上がります。玄関入って横向くと、まず見える光景がこれ。いいでしょ〜。味出てるでしょ〜。

 下足箱に靴を入れ、木札を入場料と共に渡すと、鍵を渡してくれます。正面に見える引き戸はお手洗い。左手に宴会場があって、なんだか場末の温泉場といった感じ。ここ、本当に麻布なの?という疑問がわいてきます。

 薄暗い照明の中、宴会横の通路を通って脱衣場にたどり行くと、ほらほら見て!ドライヤーがこれですよ!いや、横にもちゃんと普通のドライヤーが写っているんですが、でもこっちのインパクトの方が強いですよね。

 肝心のお湯質なんですが、これがむっちゃくちゃ濃い。東京の温泉って、もともと何万年前の古代東京湾の水が地下に埋まっていて出来たものらしいんです。だから都内の温泉はどれもみんな茶色で他の色は無いらしいんですが、ここの色は凄いです。他の温泉が薄い水出しパックの麦茶色だとすると、ここのは炭火焼珈琲色。で、色だけじゃなくて、お湯に入ったときのじんわり感がやっぱりなんか違うんですよね。

 施設なんですけど、ま、写真で見るとおりのこんなところです。お風呂場も狭いですし、あと他に付いているものといったら、全身くまなく当たるように出来ている水シャワーのブースが一つと、三人入ったら超満員のサウナ室だけ。でもこのサウナ、入るのにコツがいるんですよ。

 先ず体を簡単に流し余分な汚れを落としたら、温泉に浸かります。これで体を温めたあと、もしのぼせるようなら全身水シャワー。そしていよいよサウナ室へ。このサウナ室、規模が小さいくせにやたら威力が強くて、ものすごい蒸気が渦巻いています。なので入るときは必ずドアに石鹸箱の蓋等をかませ、密閉しない。そして空の桶と水の張った桶(もちろん黄色いケロヨン桶なのは、お約束。)の二つと手ぬぐいを持って入ります。空の桶はひっくり返してイス代わりに使います。ベンチに直になんて熱くて座れません。桶だけだとお尻が痛くなってしまうので、ここにクッション代わりに手ぬぐいを敷きましょう。そして水の張った桶に両足を入れて、準備完了。こうしてガマの脂取りのごとくひたすら汗を流し、ふらふらになったところで全身水シャワー。さっぱりしたら温泉に入って一からやり直し。 

「これを最低3回はやらなきゃね。」

 とは、この方法を伝授してくれた近所のおばちゃんらしき人の弁。番台ならぬ受付のおばちゃんもそうなんですが、お客さんもみんな気さくな感じで、全然気取ったところがないんですよ。

 ・・・な〜んてね、ちょっと他人のように今まで麻布十番を語っていましたが、実は実家の近所だったりするんです。歩いて30分の隣の町。ここの温泉も、銭湯の方は母が若かりし頃にずいぶんと通ったそうです。ということで、この泥臭い雰囲気とか下町っぽい感覚って、私にはとっても馴染み深い原点のようなもの。思うんですが、お洒落とか都会ってのは、それに憧れる人たちが作っていくものなんではないでしょうか。昔から居る人は、ごくごく普通に暮らしているだけ。田舎も都会も関係ないんですよね。けど、やはり他の人からはこんな都会にこんな処がと、ずいぶん意外に見えるようで。
 しかし、さすがにこの温泉のレトロな雰囲気は凄いと私も素直に思います。今時、どんなへんぴな場所探してもここまでお湯勝負な温泉って、あんまり無いんじゃないでしょうか。でも、決して嫌じゃないんですよ。なんか、血が騒ぐというか、妙にほっとするというか・・・。(笑)

 ついつい長居してしまう麻布十番温泉、ぜひぜひみなさんも体験してみて下さい。