2002.2

↓時間軸





 京極夏彦『今昔続百鬼――雲』(講談社ノベルス)読了。
 去年の11月刊行なのに読み落としていた。おいおい、京極さんを読み落としたまま本格ミステリ大賞に投票しちゃったよ(汗)。い、いやまあ4篇中3篇は『メフィスト』で読んでいましたけどね。
 京極堂シリーズをシリアスとすれば、この多々良先生シリーズはギャグというかコメディというか。つまり、京極さんの本来の十八番ですね。え? 何のことかって? 京極さんの豊穣なエクリチュールって、ほとんどそのままお笑いの文体じゃありませんか。京極堂シリーズはテーマも深刻だし事件も猟奇的だし関口巽みたいな鬱病患者が出てくるしで何やらシリアスに思われてますけど、文章は完全にお笑いのそれ。だからこそ、最もギャグ的なキャラ設定をされた榎木津が、本来の主役である京極堂より人気が出ちゃうわけです。京極さんが遠慮なくお笑いに走ったのが一つには『どすこい(仮)』(集英社)であり、そしてフランチャイズの講談社ノベルスでそれをやったのがこのシリーズでしょう。これで富美ちゃんがもっと活躍すれば、長篇だってじゅうぶんに可能でしょう。読んでみたいですね。
 ただ、前々から思ってることなんですが、京極さんって「紛うことなく」ってよく使いますよね。これは、誤った日本語です。「紛うかたなく」(=「紛う方なく、紛う方法もなく、まちがえようもないほどはっきりと」)が正しい。いえ、「紛うことなく」って表現もありえなくはないですが、たとえば「彼は紛うことなき(=絶対にまちがえることがない)名探偵だ」のような場合だけでしょう。まあたいしたことではないのですが、最近の講談社ノベルスの新人が京極さんから影響を受けるあまり「紛うことなく」と平気で使う例が多いとか、最近とうとう同ノベルスの編集者まで使いはじめた(高田崇史『QED 式の密室』のカヴァー表4を参照)とか、何しろ波及効果が大きいもので、つい(笑)。

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 講談社のA元さん(あるいはCさん)と用賀の喫茶店で会い、わざわざ運んできてくださった『人魚とミノタウロス』の見本10冊を受け取り。
『真っ暗な夜明け』『最後から二番めの真実』と同じ辰巳四郎さんのカヴァーデザインですが、印象がちょっと変わりましたね。カラフルというか有機的というか。でもクールでちょっとダークというのは一貫してます。気に入りました。
 そう言えば講談社ノベルス、カヴァーを取ってみると表紙のデザインが変わった、ということには多くの人が言及していますが、カヴァー表1の右下すみから犬が一匹いなくなったことには気づきませんでした。いえ、A元さん(ないしCさん)に教えてもらったんですけど。
 見本を受け取るときというのは打ち上げということで酒席に移行するケースが多いのですが、今回はA元さん(もしくはCさん)がかなりお忙しいそうですぐに散会。残念でした。

 で、帰宅してみるとほかの講談社ノベルス今月の新刊4点が届いていて、おお何と手際のいいことよ。
 注目の第23回メフィスト賞は、西尾維新『クビキリサイクル』(第24回はハードカヴァーでもうちょっとあとに刊行とか)。この作者名、ローマ字で表記したら(ヘボン式だとダメ)回文なんですね。おみごと。それにしても、思いきったカヴァーデザイン(イラストではなく、あくまでもデザインが。イラストは、すくなくともマンガとして見れば、手塚治虫→荒木比呂彦のラインを継ぐ正統派でしょう)。勝目梓『鎖の闇』と並べると、同じ媒体とはどうしても思えません。
 今月の「密室本」は、高里椎奈『それでも君が』。カヴァーに使われてる風景写真がすばらしくて、まさしく「ドルチェ・ヴィスタ(=甘い景色)」。
 最後に、浦賀和宏『学園祭の悪魔』。おお、安藤直樹シリーズ復活か。でも挟みこみの栞を見るかぎり、浦賀さんの「密室本」は「春刊行予定」って……ほ、ほんと?

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 うわわわ、ペインキラーさんがサイトで『人魚とミノタウロス』を絶讃してくださっているぅ! ありがとうございますありがとうございます。

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 西尾維新『クビキリサイクル』(講談社ノベルス)読了。第23回メフィスト賞受賞作。
 をを、このタイトルは秀逸。ふつうなら「クビキリ・サイクル」と読んで、「連続首切り殺人にどんなサイクル(=法則性)があるんだろう?」という話かと思ってしまいますが、実は(以下ネタバレ)「クビキリ・リサイクル(=「首切り死体の再利用)」(ネタバレここまで)ってことなんですね。だから「・」を打たないんすね。まあ世間ではもっとひどい「クビキ・リサイクル」だの「クビキ・リサイタル」だのって誤解もされてるようですが。やっぱ、タイトルにあの書体は読みにくいと思います。
 しかしどうしても、去年デビューした佐藤友哉(第21回受賞者)、あるいはすでに同ノベルスから7作も出している大先輩・浦賀和宏(第5回受賞者)と比較したくなってしまうのは否めません。それはもちろん20歳そこそこでの若年デビューという共通性からなんですけど(そのかぎりでは法月綸太郎や麻耶雄嵩が射程に入ってきても本来はおかしくない)、とにかくまず眼を惹くのが佐藤友哉との類似性。似ている。最近の20歳前後ってこんな感じなの? 何の根拠もなくそう疑ってしまいたくなるくらい、似ています。
 真っ先に感じたのは、コンピューターゲーム(それも、遠慮なく言えばいわゆる「ギャルゲー」)からの影響。佐藤さんはストーリー展開に、西尾さんはキャラ設定(「5人の天才女性をそろえました、誰を追っかけるかはお好みしだい」的なつくりが、もろに『ときメモ』や『同級生』っぽい)に、それを感じます。いえ、ことによると西尾さんご本人は「ゲームなんて、やったことないよ」とおっしゃるかもしれません。でもいずれにせよ、90年代にコンピューターゲームが作り出した文脈の影響を、間接的にせよ受けているのはまちがいないと思います。
 ところがいっぽうで、佐藤さんとの重要なちがいもある。佐藤作品はそうした「ギャルゲー」的世界観のもとに作品を統一している(テクストと距離を置くに敏な彼だからこそできることでしょう)のに対し、西尾作品はいわゆる「新本格」的なアイテムにも引きずられてしまっているような。その結果、「佐藤友哉は本格じゃないけど西尾維新は本格だ」みたいな評価もいっぽうでは可能になるんですが、それはへたをすると「本格としてはしょぼい」ってな話にもなりかねないんで。西尾さんは「本格」以外の部分で勝負するべきタイプのようにも思うんですが。
 でも、この人の才能には疑いを挟みません。えてして本筋と関係ないところで思索体質ゆえに挟まれるコメントが「どきっ!」とさせてくれたり、そういう部分は大好きですね。「見る者を選ぶようなものを、わたしは芸術とは呼ばない」とか、「お前の悩みごとに興味はない」とか、「きみは何のために生きているのかと訊かれたら、ぼくは念のためだと答えるだろう」とか。落ち着いて考えれば反論できそうなものではあるんだけど、「思考」するうえで独特の技術を持っている証拠。シオランみたいな箴言家をめざしたら、かなり大成するんじゃないのかな。

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 浦賀和宏『学園祭の悪魔』(講談社ノベルス)読了。
 ……やられましたね。そう、浦賀さんってもともと、ミステリーやSFの要素は確かにあるけど何よりも「小説」を書く作家なのでした。それが、『頭蓋骨の中の楽園』以降は安藤直樹のポジションが「名探偵」になり、『とらわれびと』のあざやかなラスト、『眠りの牢獄』の「悪仕掛け」、『彼女は存在しない』の叙述トリックと続くうちにいつのまにか、彼を「本格」の小説家と見てしまっていました。そういう人には衝撃の作品でしょう、今回は。ある面、『記憶の果て』や『時の鳥籠』のころの原点に返った気もする。
 でもだからこそ、殊能将之『黒い仏』と同じような意味で「本格」に対する一定の批評的意義を有しているとも言いうる。独自の「名探偵」論になってますからね。かなり破壊的なものですが。
 すなおな感想としては、ずいぶん読みやすくなったなあというのが第一印象で、そんな文章で女子高生の日常的な心象風景を淡々と語られるもんだから、いつのまにか身構えを解いてしまう。語り手のことをはじめは「うわ、ずいぶん性格悪い女だなあ」と思うのに、気がついたらすっかり彼女に感情移入していたりして、それがラストで強烈に効いてくる。びっくりしました。うまい。絶妙ですね。ひょっとして、若者の一人称を書かせたらいま最高の書き手なのでは。
 それと、読み終わってからあらためてカヴァー表1の辰巳デザインを見ると、リ、リアル……。

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 女子モーグルで銅メダルを獲った里谷多英選手が凱旋帰国。フジテレビ系のスポーツニュースに出演しましたが、冒頭で「社内的にはわたしのほうが上」とかしょーもないことにこだわる三宅アナもどうかと思いながら、実は里谷さんはフジテレビの社員なんですから、カメラに向かって彼女を紹介する際に「選手」とか「さん」とか敬称をつけるのは変なんですね。「外部の人に向かって身内を話題にするときは呼び捨て」っていうのが日本の言語文化・敬語文化のルールですから。
 連想したのが、むかし草野進が書いてたこと。プロ野球のヒーローインタヴューでよくありますよね、たとえば完投勝利をあげたヤクルトのピッチャーが「古田さんのリードどおり投げただけです」。何だ? どうして「さん」なんだ? 同じチームで身内の古田のことを、インタヴュアーにせよ観客にせよTV視聴者にせよ、礼を尽くし敬語を用いるべき対象である「外部」に向かって「さん」だなんて、おかしくないか? とまあ、そんなギャグです。
 無粋を承知でコメントすると、そこにはサラリーマン社会の儀礼よりはるかに強く体育会的な掟(コンテクストにかかわらず、年上の人間には敬称をつけて絶対服従)が作用しているからだとも言えますが、それ以上に、プロスポーツのチームは「会社」ではなく、個々の選手は個人事業者なのだから、そのピッチャーにとって古田捕手はかならずしも「身内」ではないことを重視すべきでしょう(しかしそのわりに日本では、とくに契約更改の時期にチームや球団のことを「会社」と口走る選手がやけに多いですが)。
 ではフジテレビと里谷選手の関係は、はてさて?(ほんとうはよくわからないのであった)。

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 どわあ、市川尚吾さんがサイトで『人魚とミノタウロス』をとりあげてくださっていて、それもどうやら絶讃に近いぞ。「感動モノ」とか「今年のベスト候補」とか言ってくれてるんだから、これはまあ喜んでもいいような気がします。

 TVアニメ『サイボーグ009』(テレビ東京)ですが、きょう放送された「第18話・張々湖飯店奮闘記」はすばらしいできでした。日本で中華料理店を開き、009、003、007の協力を得てがんばる006の話を主軸に、故国に帰った002、004、005、008のそれぞれのエピソードが盛りこまれ、つまりは五つのドラマを組み立てるという30分枠では至難というほかない試みが成功していてびっくり。しかも、脇の話ではすべて、直面した難局を006に教わった料理で克服する、というモティーフが一貫しています(002のみ、ちゃんと教わればよかったと後悔する内容)。しかも、場面を切り換える際のつなぎに工夫が凝らされていて、高級感も抜群。
 たぶん原作にない内容なので、シナリオライターは殊勲賞ものですね。

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 何と西澤保彦さんまで、サイトの日記で拙作に言及してくださっている。それも、『人魚とミノタウロス』のみならず旧作3冊についてまで。ほんとうに、光栄のいたり。ありがとうございます。原書房ミステリー・リーグの『聯愁殺』、楽しみです>西澤さん(^^)。

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 ひき逃げされて死んだ人物A。タイヤ跡から、どうも殺人らしい。彼をひいたトラックは人物Bの所有だった。ところがAの息子Cが警察に出頭して言うには、数日前Aと二人で大きな荷物を山中に投棄した。あれはBの死体だったかもしれない、というのだ。さらにはC自身まで転落死してしまう。どうやら自殺らしいが……って、小説も真っ青の錯綜したプロットですね>大阪で起こっている事件。

 HMCから郵便が届きました。第2回本格ミステリ大賞候補作の正式通知と、選考の経過説明です。予選委員は50音順に、我孫子武丸さん、末國善己さん、千街晶之さん、野間美由紀さん、法月綸太郎さん。執行会議代表の立会人&司会が二階堂黎人さんだったそうです。
 各予選委員のコメントを見ると、会議にかかった時間が「思ったより長かった=こんなに手間取ると思わなかった」(末國さん)、「思ったとおり短かった」(我孫子さん)、「思ったより短かった=もっと時間をかけるものだと思っていた」(野間さん)と感想が分かれているのが興味深いですが、おおむね「会員アンケートをほぼ反映した順当な結果」ということで一致しています。だったら、アンケート結果を「1票でも入った作品名の羅列」ではなく、それぞれの得票数まで公表すればいいのに。さらには、「こうした本格認識の多様性が、現代本格を支えている面もあるので、この議論は実に興味深いものだった」(末國さん)、「それぞれミステリ観、本格観の異なる(もちろん、重なっている部分もあるのだが)メンバーが集まったため、さまざまな意見が聞けて参考になった。その意味で、極めて有意義な場に参加させていただいたと思う」(千街さん)なんて言われると、ぜひ詳細な議事録を読みたくなるし、公表したら「興味深くて有意義」だと思うんですが。
 あと選考経過については、芦辺拓さんの『時の密室』と『グラン・ギニョール城』をあらかじめどちらかに絞ってから議論しようというのがおかしいと思います。去年も垣間見られたことですが、いつのまにか「作品」ではなく「作家」を表彰しようとしている。この賞の主旨は「その年のベストの作品」を選ぶことですから、べつに候補作に芦辺作品が二つ入ったっていっこうにかまわないと思うのですが。

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 全国のムネオさんたち(宗夫も宗雄も宗生も宗郎も)、いい迷惑だろうなあ。もしかして「ムネオハウス」は流行語大賞とっちゃうんじゃ。

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 mauさんが、サイトで『人魚とミノタウロス』をとりあげてくださってます。思わずびくっとしてしまうようなところを突いてきますね(笑)。ほめていただいて、ありがとうございます(^^)。

 確定申告も大詰め。すでに、計算するべきところはしつくしたという感じかな(笑)。ま、収入の総額も去年より下がったし(本をたったの1冊しか出さなかったのだからあたりまえ)、そのわりに必要経費は減ってないし、とりあえず計算してみたら20万円くらい還付金が出そうです。

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 予定より二日遅れてしまいましたが、確定申告書を玉川税務署に提出。はじめて、2月中の申告を達成したぞ。来年の目標は、受付初日の申告か? ……って、還付申告の場合はどうやら2月の前半でも受け付けてくれるらしいんですが。
 そのあとスーパーで食糧を買いこんで帰宅したのですが、その途上で眼にしたもの。とある2階建てアパートに、真っ黒のロングコートに身を包んだ男が二人。一人は階段下を固め、もう一人が階段をのぼって2階の廊下を歩いている。どの部屋かの玄関に向かっているんでしょうが、どうやら携帯電話で誰かと話しているようす……追いこみをかける借金取りか、と反射的に思ってしまいましたがあまりに陳腐な想像力でしょうか? でも、聞きこみにまわってる刑事と思うよりはましですよね。

 サッカー日本代表は静岡で合宿最終日。何と、「今後のメンバーを絞りこむ」ための紅白戦を有料で公開して、1万人以上を集めたとか。これを緊急特別番組として生中継できなかったすべてのTV局に、「最低!」と吐き捨ててやりましょう。ある意味では国際Aマッチよりエキサイティングなイヴェントではないですか。これを中継できないなんて、ジャーナリズムとしてセンスが悪すぎますね。まあ、センスが悪いことを気にしないというのもジャーナリズムの特徴かもしれませんが。


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