2004.10

↓時間軸





 歌野晶午『魔王城殺人事件』(講談社ミステリーランド)読了。
 わ。わ。これはうまい。うまいなあ。
 まず、ぼくはミステリーランドというシリーズについて、ほんとうにジュヴナイルなのかどうか疑っている部分があって(いえ、かならずしも全作読んでいるわけではありませんが)、でもこれはほんとうにジュヴナイルとしてよくできてると思える作品もあって、その点でこれは有栖川有栖『虹果て村の秘密』と双璧ではないでしょうか。
 主要人物の小学校5年生5人(全員、同じクラスの同じ班なんですが)の、キャラクターの配置が絶妙。かれら一人一人の顔が浮かんでくるようです。だからこそ、装画・挿絵は荒井良二さんの抽象度の高いイラストでなきゃいけなかったんでしょうね。
 物語が終始、小学生たちの日常生活をベースにして、それと「魔王城」(または「デオドロス城」)との対比というダイナミクスでえがかれるのがすばらしい。とんでもない事件が起きて、そこでドキドキハラハラワクワクして、でもいったん日常に帰ってきてみると――みたいな、そういう呼吸がぼくは好きなんだな、と痛感しました。ツボです。
 ミステリーとしても「幽霊」とか「物質転送装置」とか、ホラーもSFも視野におさめながらの(以下ネタバレ)これぞ「本格」ってなメイントリック(ここまで)がすばらしい。実によく考えられていると思います。
 もう一つ、(以下ネタバレ)犯人当てはもう一捻りしてほしかったな、自分だったらこう捻ったな、とは読みながら思ったんですが、でもよく考えるとこれでいいんですね。だって最後に彼女が窓越しに手を振ってくれなきゃ困るわけだし(意味不明?)。(ここまで)
 99ページの桂木さんのせりふや、111ページの1行めにも、ほんとうにほろりとしました。
 ……というわけで、ほんとうに子どもに読んでほしい本、その意味でおとなのミステリーファンにも読んでほしい本です。オススメ。

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 講談社ノベルスの新刊見本が届きました。いつもありがとうございます。
 西村京太郎『十津川警部「悪夢」通勤快速の罠』。JR中央線が舞台の模様。
 二階堂黎人『魔術王事件』。厚い……780ページなり、であります。世紀の大犯罪者vs美貌の名探偵、もちろん蘭子シリーズ。
 赤城毅『麝香姫の恋文』。こちらは、美貌の女怪盗vs一高教師!
 高里椎奈『左手をつないで』は、密室本以来の「ドルチェ・ヴィスタ」シリーズ完結篇。同シリーズ3作10話が最後につながり謎があきらかになる、とか。
 柳広司『聖フランシスコ・ザビエルの首』は、原書房からデビューし第12回朝日新人文学賞も受賞した作者の、講談社ノベルス初登場。
 天樹征丸『金田一少年の事件簿 幽霊客船殺人事件』は、8月の『電脳山荘殺人事件』に続いてマガジンノベルスから。

 サッカーのアジアユース、日本は韓国との準決勝で敗退(PK負け)。
 この大会に関しては、何よりもワールドユース出場権獲得(ベスト4入り)が最も重要だったので、それをなしとげられただけで評価します。
 ただ、その先に進めなかったのは、このチームの現状としては妥当なのでは。FW(平山、カレン、森本)はそれぞれに特徴があって今後が楽しみだけど、決め手になるMFがいない……韓国には、中盤を制圧されていました。
 あと、ずっとタッチライン際で指示を叫んでいる大熊監督、いいのかなああれで?
 いずれにせよワールドユースまでに、かなり本気で強化してほしいなあなんて思いました。

(追記)あ。3位決定戦があったのか(不覚)。シリアにPK戦で勝って3位になったようですね。

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 政府はまたイチロー(シアトル・マリナーズ)に国民栄誉賞授与を打診して断わられてたんですってえ?

 ま、最近の過熱報道を見れば人気取り(→支持率回復)に使いたいってのは当然でしょうけど、でもいくら何でもそれって、3年前に断わられたときの理由をまともに理解できる人が政府内にはまったくいないってこと? 信じられません。
「発展途上」、「自分の野球人生を終えた段階でいただけたら」って意味が、ほんとうにわからないのかな?

 つまりは「たかがスポーツ」って蔑視していることになるわけで、もう、心底ぶざまだし恥ずかしい話ですね。こんな政府しか持てないのが、すなわち日本人の水準なのです(泣)。

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 えええ、ジャック・デリダが亡くなったんですってえ?
 これはショックです。ええ、ショックですとも。ぼくの思考法にあきらかに何かをもたらしてくれた、そんな哲学者であったのは確かです。この人なしに、いったいぼくは何を考えることができたというのでしょう……「二項対立にとらわれるな」とか「メタに逃げろ」とか(非常に不正確な物言いですけど)、多くを教えてくれたことはまちがいありません。
 心からお悔やみ申しあげます。

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 西武ライオンズ優勝。おめでとうございます……でも、すなおには祝福できないんですよね。これは、パ・リーグがプレーオフなんぞという制度を決めたときから実は予測がついていたことですが。ぼくは、リーグ1位がそのまま優勝した場合を除いて、今年のパ・リーグ優勝チームを祝福するつもりにはどうしてもなれませんでした。
 だって、半年もかけて135試合もやってやっとこさ決まった順位を、短期決戦なんてものでどうしてそうやって踏みにじられるのかな? 誰が見たって今年いちばん強かったのは福岡ダイエーでしょう? ええ、マスコミが「プレーオフは盛りあがったんだからOKじゃん?」みたいに言うのはよくわかりますよ。
 でも、それでいいってことじゃ結局、日本人はプロ野球を「スポーツ」じゃなく「イヴェント」としか見ていない、ってことになりませんか? フェアネスも論理性もない、それがいまのプロ野球なんですね。だから「日本シリーズがなくなったら困るから、2リーグ制で」なんて話になるわけで。そんなんじゃ、どこまでも競技水準は下がるばかりだと思いますけど(ああっ、野球の話はしないことにしていたのにーっ)。

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 サッカーW杯アジア一次予選、オマーン−日本
 いやーよかった。最終予選進出、ほんとうにおめでとうございます。ふつうにやれば勝てるだろう、と理性的には思っていたけど。もしかして……ってどうしても考えてしまいますからね。とにかくほっとしました。いやーよかった。
 小野→中村→鈴木とわたってのゴールはビューティフルでしたね。で、中村のフェイントとクロス、鈴木のヘディングをほめる声が多いようですが、ぼくは実はその前の、中村の動き出しと小野のパス(FK)のシンクロが印象的でした。得点シーンに限らずこの試合の中村は凄かったと思いますけど、小野がいてこそなんですよね。二人の連携に何度もうなりました。
 それからディフェンスの安定ぶりは、やっぱりアジアカップの経験が効いてるんでしょう。中澤はヘッドでほとんど負けないし。あと無人のゴールを、身を投げ出して守った田中誠も感動的でした。

 とはいえ、喜んでばかりもいられない。さて最終予選。 韓国(まだ進出を決めてませんが)と日本は、シードされて別グループに入るとか。となると怖いのはやっぱりイラン(まだ進出を決めてませんが)。それからアジアカップで大苦戦した相手、伸びざかりのバーレーンもいやだなあ。この二つが同グループに来たら、どきどきですね。

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 今月の新刊、乾くるみ『リピート』(文藝春秋)と黒田研二『霧の迷宮から君を救い出すために』(実業之日本社ジョイ・ノベルス)をそれぞれ、お送りいただきました。まことにありがとうございます。
 それにしても乾さんは今年は『イニシエーション・ラブ』(原書房ミステリーリーグ)もあったのに、これまでとは見ちがえるような……黒田さんも先月に『幻影のペルセポネ』(文藝春秋)を出したばかりであいかわらずの多作ぶり。しかもこれらの前作、いずれもぼくはたいへん高く評価しているので、今回も読まないわけにゆきませんね。
 うーん、でも『螢』も『生首に聞いてみろ』もこれからだし、『夏の名残りの薔薇』も、ああっ『龍臥亭幻想』に『水の迷宮』も、どひゃあ鮎川哲也賞2作まで……ぐふう、『本格ミステリ・ベスト10』(原書房)のアンケート〆切までに読めるかなあ。
 ――原稿も書かなきゃいけないのに。

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 麻耶雄嵩『螢』(幻冬舎)読了。
 う〜ん、ちょっと独自の評価にはなるんですが……傑作。年間ベスト級。

 非常にコメントしづらい作品ではあるのですが、とりあえず言えるのは――舞台は山中の館、大雨で橋が水没して(ついでに電話もダメになって)孤立、登場人物は大学のサークル仲間、とみごとなまでに「新本格」のお約束を踏襲しているということ。あ、ほんの思いつきで言えば(この作品が執筆された時期を知りませんからまったくの邪推である可能性は高いんですが)、ひょっとしたら綾辻行人『暗黒館の殺人』と同年に刊行されるということを知ったうえで、あえてぶつけたという気がしないこともなかったりして。
 いや、この「お約束」な設定こそが罠なんですから、そこで立ち止まってはなりませぬ。ぜひ読んでみてください。なぜなら……

 以下、反転部分は激ネタバレですので、未読のかたは絶対にご遠慮ください。
 この作品にはおよそ三つの仕掛けがありますが、その第一のもの(諫早が視点人物の三人称と見せかけて、実は長崎の一人称)については、ぼくはたまたま序盤で勘づいてしまいました。というのも、このトリックは、ほとんど異常なまでに主語を省略するという独特の文体(主語の省略は日本語の一つの特徴ではあるんですが、それにしたってこの作品は異常)に依存しており、そういうことを気にして読む人にはわりあいすぐねらいがわかってしまいかねないからです。いや読者によっては、仕掛けを見破れないというより、ひょっとすると自分がだまされたことにすら気づかないかもしれない。ところがにもかかわらず、作者が要求されたきわめて高度なテクニックといったら……すばらしい。大好きです。
 でもそれ以上に感心するのは、それを見抜けた読者ほど、第二の仕掛け(ある種の「アクロイド」パターン)にやすやすとはまりこんでしまう、という不可避的な仕掛けが連動していること。ぼくは、これにやられました。脱帽。
 さらに第三の仕掛けとして、すでにネットでは多く指摘されているようですが、「男と思わせておいて女」という性別誤認トリック(一時期、みんながみんな使いまくっていた)が、完全に逆転されたかたちで巧みに利用されていること。さらに、それが犯人特定の論理にも直結している点、
ほとほとため息をつかざるをえません。
 納得。さすが麻耶雄嵩。

 うわあ、原書房の I 毛さんからとうとう届いちゃったよ、『本格ミステリ・ベスト10』のアンケート用紙。〆切は来月5日。いったい、あと何冊読めるんだろう……

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 カッパ・ノベルスの新刊をお送りいただきました。
 まずは何と言っても、島田荘司『龍臥亭幻想』(上・下)。だって「御手洗潔と吉敷竹史の推理が、いま初めてクロスする!」でっせ? わくわく。
 それから石持浅海『水の迷宮』。過去2作からして、期待しないわけにはゆかない新作です。今回は水族館が舞台の模様。
 森博嗣『ZOKU』は、1年前にハードカヴァーで発売されたもののノベルス化。
 あとは、日本推理作家協会・編『名探偵を追いかけろ』。収録作家は(敬称略)、赤川次郎、芦辺拓、有栖川有栖、逢坂剛、大倉崇裕、霞流一、加納朋子、倉知淳、高橋克彦、柄刀一、宮部みゆき、森博嗣、山田正紀。

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 法月綸太郎『生首に聞いてみろ』(角川書店)読了。
 有栖川さんの「お帰り、法月綸太郎! 名探偵の代名詞よ。この事件は、あなたにしか解けない」って帯の惹句が最高にそそりますよね。「本格」ファンが待ちに待った作品です。
 ところがそれにしても、法月さんってクイーン以上に徹底的にロスマクなんだなあ、と思い知った1冊でした。とにかく「親子」というモティーフが全篇を支配しているのが、いかにもだなんて思ったり。ええ、とてもおもしろかったですよ。でも、この作品における法月綸太郎は、どうやらエラリー・クイーンには思えない。ついでながら言うと、法月パパもリチャード・クイーンには思えないのです。ま、そんなの、わがままな読者の勝手な要求なのかもしれませんけどね(笑)。
 とにかく、ハードボイルドなストーリーテリングがとても楽しめました。ただ、純粋に「本格」として言うならば、首切りの理由はたぶん前例のないものだし非常にみごとなんだけど、プロットのひねりは意外にシンプルでしたよね。
 でも好きです、この作品。ああ、早く『三の悲劇』を読みたいな。

 森博嗣『STAR EGG 星の玉子さま』(文藝春秋)をご恵贈いただきました。どうもありがとうございます。
 同封されていた手紙によると、あれだけ多くの著作を持つ森さんが「できるだけ多くの人に読んでもらいたい」と「初めて」考えた作品だそうで、そのために印税をゼロにして定価を下げ、なおかつ千冊を買いあげて各所に配ることにしたそうな。森さんが思いついた著名人、およびホームページで「誰に送ったらいいか」を募集してメールで推薦された相手に配ることにしたそうです。
 何にせよ、そのなかに「氷川透」の名前があったということになりますから、こんなにうれしいことはありません。光栄の至りです。

 ……なんて書いたあとではもしかして説得力がないかもしれませんけど、『STAR EGG 星の玉子さま』は、とてもすてきな絵本です。絵も文も森博嗣、というのが最大の売りではないでしょうか。たとえばクリスマス・プレゼントに最適な本かもしれませんよ、と心からオススメしておきます。





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