「クィン氏の事件簿」/アガサ・クリスティ/一ノ瀬直二・訳/創元推理文庫
ハーリ・クィン氏が主人公の短編推理小説集。多分に怪奇的あるいは幻想的な雰囲気を持った、クリスティの作品のなかではやや異色と言えるシリーズです。
探偵役は、ひかえめで人生の機微に通じた老人、サタースウェイト氏が務める。クィン氏は謎の人物で、推理劇の演出家の役割をはたす。彼はまた、恋人達の味方で死者の代弁者でもある。
不思議な魅力をもったクィン氏に私が初めて出会ったのは、小学生か中学生の頃、「アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1」(偕成社文庫)ででしたが、先日、映画「アマデウス」を観てふとこの作品集のことを思い出しました。すぐれた芸術の理解者であり、人生の観察者でありながら、自分自身は人生の表舞台に立つことがなかったサタースウェイト氏が、サリエリにだぶって見えたので。
「人生はわたしを素通りして行きましたよ」と苦々しく言うサタースウェイト氏に、クィン氏は問う、「で、後悔してるのですか?」と。
読み返してみると、自殺、あるいは絶望をモチーフにした話が多い。私の命は私の自由にする権利がある、と決り文句を言う自殺志願者にうんざりしながらも、押し付けがましい説教や励ましをせず、静かに語りかけるサタースウェイト氏は、大人だなあと感心してしまう。
(03/03/13)
収録作品
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「クィン氏登場」 | The Coming of Mr Quin |
| 「窓にうつる影」 | The Shadow on the Glass |
| 「鈴と道化服亭」 | At the ‘Bells and Motley’ |
| 「空に描かれたしるし」 | The Sign in tne Sky |
| 「ある賭場係の心情」 | The Soul of the Croupier |
| 「海から来た男」 | The Man from the Sea |
| 「闇からの声」 | The Voice in the Dark |
| 「ヘレンの美貌」 | The Face of Helen |
| 「死せる道化役者」 | The Dead Harlequin |
| 「翼の折れた小鳥」 | The Bird with the Broken Wing |
| 「世界の果て」 | The World's end |
| 「ハーリクィンの小道」 | Harlequin's lane |
このほかにクィン氏ものは、「クリスチィ短編全集3」(創元推理文庫)に『恋愛を探偵する』(The Love Ditective)が収録されている。また、サタースウェイト氏は「三幕の悲劇 Three Act Tragedy」(創元推理文庫)にポアロのワトソン役として登場している。この話の、最後のポアロのセリフがすごく好き。
備考:他社文庫
「クリスティー短編集5−謎のクィン氏」(ハヤカワ文庫)
「クリスティー短編集9−愛の探偵たち」(ハヤカワ文庫)
『クィン氏のティー・セット』(The Harlequin Tea Set)/「マン島の黄金」(ハヤカワ文庫)
「三幕殺人事件」(新潮文庫)
「三幕の殺人」(ハヤカワ文庫)
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