ThinkPad Power Series 850
2002/02/01 作成
2002/02/03 青嶋氏、白山氏から頂いた情報などを追加。
● 以前から探していた「ThinkPad Power Series 850」をオークションで入手することができた。
1995年6月にIBMから発売された、PowerPC搭載のThinkPadである。
当時IBMは、7xx/5xx/3xxといった奇数番台のThinkPadをx86搭載機、8xx/6xx/4xxといった偶数番台のThinkPadをPowerPC搭載機としてシリーズ化する計画であった。
(CNET Japan:日本IBM 中林氏のインタビュー記事)
その第一段として発表されたのがThinkPad Power Series 820および850である。PReP規格に準拠した機種であり、プリインストールされたOSはAIXであった(OS無しモデルもあり)。
フラッグシップモデルである800シリーズの価格は約80万円(820 OS無しモデル)から120万円(850 AIXモデル)と大変高価であり、とても一般ユーザーの手の届くものではなかった。
当時私はPReP/CHRP計画が順調に進んで安価で小型の600/400シリーズがリリースされることを期待していたが、残念ながら実現することはなかった。
(価格に関しては当時Pentium 75MHz搭載のThinkPad 755CXの価格が99万8000円だったので、PowerPC搭載機が特に高価だったわけではない)
ThinkPad Power Series 850は、PowerPC 603e/100MHzと今となっては非力なマシンだが、貴重なマシンであり、大事に使っていきたいと思う。

AIXが動作中のThinkPad Power Series 850
PowerPC搭載パソコンの歴史
● 1993年11月、IBMはさまざまなOSが動作するPowerPC搭載パソコンの標準仕様「PReP」(PowerPC Reference Platform)を発表した。
IBMやMotorola、FirePower Systems等から実際にPRePマシンが発売されたのは1995年頃であった。
(AppleもAIXが稼動するサーバーマシン、Network Server 500および
700を1996年3月に発売している。
ちなみに初代Power Macintosh 6100/7100/8100の発売は1994年3月であった。)
余談1
FirePower SystemsはCanonの子会社で、この後1996年8月にMotorolaに買収される。
同社はもともとNextがハードウェア事業から撤退した際にCanonに売却されたNextのハードウェア部門。
(PC Watch:1996年8月)
● PRePマシンで使用可能なOSには、Windows NT 3.51/4.0やAIX 4.1があった。
OS/2も動作したようだが店頭では販売されず、IBMから直接購入する必要があったらしい(未確認)。
また、SolarisもPowerPC版が開発されており、1995年10月付けの
Solaris 2.5 PowerPC版 ハードウエア互換性リスト(Beta Draft)にはThinkPad Power Series 820/850の名前も記載されている。
SunのSolaris 2 FAQや1996年6月のプレスリリースにも「Solaris2.5.1でPowerPC版をリリース」との記載があるが、実際に一般ユーザー向けに出荷されたのかどうかは不明である。
その他、商用OS以外ではPowerPC用Linuxが動作する。
追記
白山氏よりRT-Machが動作すると教えていただいた。
(慶應義塾大学SFC研究所のページ)
青嶋氏から以下について教えていただいた。
・リアルタイムOSのLynxOSが動作する。
・埜中氏によってNetBSDが移植されていた。
・日本電算機株式会社(JCC)がFirePower SystemのPReP機にFreeBSDを移植したBSD+というOSを搭載し販売していた。
(JCC 1995年12月のプレスリリース)
・PowerPC版OS/2はDeveloperReleaseKitに含まれていただけで、リリースはされていないと思われる。
・PowerPC版Solarisはほとんどαバージョンに近いもので、フロッピー配布で、インストールが出来ない事もままある、内輪向けの物だったらしい。
● 1994年11月、Apple/IBM/Motorolaの3社がPRePとPower Macintoshの仕様を統合した新しいプラットホームの基本仕様に合意した。
(アップル:プレスリリース)
これはCHRP(Common Hardware Reference Platform)と呼ばれ、1995年春に詳細な仕様を公開し、1996年には最初の製品がリリースされる予定であった。
余談2
Mac OSが動作しないこともあり、今ひとつ盛り上がりに欠けたPRePだったが、このころスイスのQuixという会社がPRePマシン上でMac OSを動作させるための
HAL(Hardware Abstraction Layer:ハードウェアの差異を吸収するソフトウェア層)を開発し、話題を集めた。
しかし、Appleは「PRePはサポートしない。CHRPに注力してほしい」との理由でQuixへMac OSのライセンスを行わなかったため、Quixの技術が製品化されることはなかった。
なお、Quixはかつて「Daydream」というNeXT上でMac OSを動作させるためのハードウェアを開発・販売していた会社である。
参考記事
MacWeek(英文):1995年8月
MacWorld(英文):1995年12月
MacWorld(英文):1996年1月
● 当初の予定より半年ほど遅れたものの、1995年11月にCHRPの最終的な仕様が「PowerPC Platform」(正式名称:PowerPC Microprocessor Common Hardware Reference Platform)という新しい名称で発表された。実際の製品は1996年後半に出荷される予定であった。
(アップル:プレスリリース)
(CHRP SPEC (IBM FTPサイト))
余談3
「PowerPC Platform」を「PPCP」と略した表記を時折見かけるが、私の知る範囲ではこの略語は公式な資料には使用されていない。
正式発表前の「CHRP」という略語が広く使われていたため理由を後付けした感もあるが、「PowerPC Platform」の正式名称は
「PowerPC Microprocessor Common Hardware Reference Platform」であり、以前と同じ「CHRP」という略語が使われていたようだ。
(参考:IEEE 1275 Open Firmware Home Page)
また、一時期Appleは「Hardware Reference Platform」(HRP)という名称を提案しており、この名称を使用した資料も存在する。
余談4
1995年秋、BeがBeOSとBeBoxを発表した。BeBoxは独自ハードウェアだがその構造はPReP機に近く、将来的にはBeOSもCHRPに対応する予定であった。
また、1996年10月にはIBMからPowerPC 603e/166MHz搭載のRS/6000 Notebook 860が発売されている。この機種は基本的にThinkPad 820/850の後継機だが、ThinkPad(パソコン)ではなくRS/6000(ワークステーション)として発売された。
なお、IBMはこの年の5月にAppleからMac OSのライセンスを受けている。
(アップル プレスリリース)
その後1997年5月には日本IBMの設計によるPowerBook 2400cが登場する。
● CHRPマシンの発売が遅れる中、1996年12月にAppleはNextを買収し、その技術を次期OSの基盤とすることを発表した。
NextからAppleに復帰したSteve Jobs氏が1997年7月に暫定CEOとなると、Appleはそれまでの互換機戦略から一転し、Mac OSの他社へライセンス供与を停止した。
これによりCHRP構想は事実上崩壊した。
● 数年後、IBMは、主にLinux/PPC用として、PowerPCマザーボードデザインを無料で提供することを発表した。
(1999年8月:MacWire)
最近、Mai Logicがこの仕様(POP:PowerPC Open Platform)に準拠したマザーボードを発表している。
参考
The OpenPPC Project
penguinppc.org
● さて、ここで気になるのはPOPマシンでのMac OS(9/X/Darwin)動作の可能性だが、
Quixの前例もあるように、こうした他社製マザーボードでのMac OSの動作をAppleが公式にサポートすることはないだろう。
しかし、Mac OS Xの基盤部分であるDarwinはソースコードが公開されており、
誰かが動かしてしまうということはあるかもしれない。
または、Linux/PPC上でMac OSを動かすMac-on-Linuxのようなエミュレーション技術で動作させることも可能だろう。
Appleには期待できない小型のノート製品も、POPなら可能かもしれない。
PowerPCを搭載したいろいろな製品が、安価に入手可能になることに期待したい。
余談5
青嶋氏からも教えていただいたが、海外でRS/6000(CHRP機)でMac OS Xを動かしたという話があるらしい。
確実な情報が得られなかったため、真偽も含めて詳細は不明である。
参考文献
All About ThinkPad(ソフトバンク刊)
←TOPページに戻る
「Macintoshは米国アップルコンピュータ社の商標です」
「その他、記載の商品名などは、一般に各社の登録商標または商標です」
Copyright (C) Toshimitsu Tanaka 2002.