「やったあ!」
たくは「かとう模型店」のベイブレード大会で、とうとう優勝した。
店の横の駐車場は、夏休みの小学生でいっぱいだった。
ちょうど、建物で半分は日かげができている。みんな、日かげにはいって、戦いを見ていた。
「すげえ。」
たくの赤いベイは、よしきの青いベイも、さとしの黄色いベイもスタジアムからぶっとばした。たくのベイはまだまだ、まるいスタジアムをまわっていた。
何回もちょうせんしたミニ四駆大会でさえ、優勝したことはなかった。それが、はじめてのベイブレード大会で勝つなんて。
きっと、いちばん進化したベイをおじいちゃんが買ってくれたからだ。
ありがとう、おじいちゃん。たくは、心の中でさけんだ。
「近ごろのコマは、こんなふうにできてるのか。」
おじいちゃんも子どものころ、ベイブレードではないけれど、コマを戦わせてあそんだという。
おじいちゃんは、嬬恋村というところで、レタスやキャベツを作っている。ときどき、上田のたくのうちにくる。
「かとう模型店」のおじちゃんが、店の中から細長い五十センチぐらいの箱をもってきた。
「おめでとう。優勝の賞品はこれだよ。」
「何が入っているの?」
準優勝のよしきがのぞきこむ。
「あけてごらん。」
おじちゃんがそういってくれたので、たくはきれいにつつんであった包装紙を少しずつていねいにはがした。
「わあっ!」
箱をあけると、たくはおもわずさけんだ。
「すげえなあ。これ、もしかしてカルゴスG5?」
よしきが、おじちゃんにたずねる。
「ああ、そうだよ。うちの店で八千円はするよ。」
カルゴスG5は、おもちゃのマシンガンだ。もちろん、玉はプラスチックのBB弾だ。
持ち手のところは茶色で全体が黒く光っている。
たくはカルゴスG5をそっととりだして、かまえてみた。
「かっこいいぜ! たくちゃん。」
よしきがいった。
準優勝のよしきには、小型のピストルだった。
たくのもよしきのも、BB弾がついている。
「うーっ、暑くなってきたなあ。さあ、日ざしが強くなってきたから、大会はおしまい。また、来月やるからな。」
おじちゃんがいうと、ひとりふたりと帰り始めた。
たくは、思いがけない賞品をゲットして、最高の気分だった。
家にかえって、箱からカルゴスG5をとりだして、にやにやしてしまった。
「あら、たく。何それ? だれの?」
おかあさんは、うたがっている。
「ぼく、ベイブレード大会で優勝したんだ。これ、その賞品。ショウシンショウメイ、神様仏様にちかって、ぼくのだよ。」
「へえ……。よけいなもの、くれたわね。」
たくはそのひとことで用心した。おかあさんは、じゃまそうで大きなおもちゃをようしゃなくすてる。この前なんて、ミニ四駆のレースコースをすてられてしまった。
たくは、自分の机の下にカルゴスG5を、箱にいれたままでおいた。
夜、枕もとにカルゴスG5をおいてねた。
夏休みも半分がすぎようとしていた。宿題も半分やった。まだ、自由研究が残っている。
これがいちばんやっかいだ。「自由研究」なら、やらなくてもいい自由もあったらいいのに。これじゃあ、「不自由研究」だ。
たくがねころがってそんなこと考えていたら、ピンポーンとチャイムがなった。おかあさんがでていくと、高い声でいった。
「はーい、あら、よっちゃん。たく? いるいる、ひましてる。」
よしきは、デイバックをしょってやってきた。
「たくちゃん、あそぼ。」
「もしかしてもってきた?」
「うん。」
いつものやつ……テレビゲームのコントローラーとソフトだ。
よしきは、たくがもっていないソフトをいっぱいもっている。ときどき、デイバックにそれをいれてもってくる。
ふたりは、テレビの前にじんどって、ゲームをはじめた。
「007、ゴールドフィンガー。最高だぜ。」
たくは、ジェームスボンドになったつもりで、敵をマシンガンで撃ちまくった。
敵はばたばた倒れていく。
「やったあ、よっちゃんをおいこしたぞ。」
「まけるもんかあ。わーっ。」
コントローラをもつ手に力がはいる。
よしきも、つぎつぎと敵を撃ちまくった。
やがて、テレビ画面のなかのボンドは、ひとり残らず敵を撃ちおえた。
「ふーっ、おもしろかった。すっきりしたぜ。」
たくは立ち上がると、あのマシンガンをもってきてよしきに向けた。
「ぼくももってきたよ。」
よしきは、デイバックのそこから、準優勝のピストルをとりだした。たくのマシンガンにはかなわないけど、スマートでかっこいい。
ふたりは、テレビゲームをかたづけもしないで、ガンをもって外にでた。
パンパンと音をたててBB弾がとびだしていく。
「いやねえ、そのBB弾、ひろってポケットにいれないでよ。洗濯機の排水の穴につまってこまるんだから。」
ベランダで洗濯ものを干していたおかあさんがいった。
「わかってるよ。」
たくは、きんもくせいの木の枝に止まっているスズメにねらいを定めた。
「パン!」
かるい音とともに、スズメをBB弾がかすった。
スズメはおどろいて、バタバタとはばたいて空へ消えていった。
「おれもやろっと。」
たくとよしきは、木や電線にとまっているスズメをみつけては撃った。
たくのマシンガンのほうが遠くにいるスズメをしとめることができた。
「とどかねえよ。」
よしきは、だんだんふきげんになっていった。
「たく。」
ふりかえると、おじいちゃんが立っていた。
「あっ、おじいちゃん。きてたの。今、レタスの出荷で忙しいっておかあさんがいってたけど。」
「出荷は一段落した。それより、たく、そんな遊びはやめろよ。」
その言い方がさびしげで、おこられているのではなかったけれど、たくはハッとして、かまえたままだったマシンガンをおろした。
「それは,人殺しの道具じゃないか。いくらおもちゃだからって、人殺しのまねをすることはない。」
「ぼくたち、スズメをねらっていたんだよ。」
よしきがいった。
「スズメだって、人間だっておなじだ。それは、生き物を殺す道具じゃないか。」
おじいちゃんはそれだけいうと、家にはいった。
「なんだかしらけちゃったな。おれ、かえろっと。」
よっちゃんは、デイバックにゲームのコントローラーやソフト、それに、ピストルをいれてかえってしまった。
たくもなんだか、遊ぶ気がしなくってテレビの前にねころがった。
「たく、ゲームのかたづけしなさいよ。」
おかあさんは掃除機をかかえて、たくの頭の上を歩いていった。
「おい、もってきた野菜はどこにおく?」
おじいちゃんは、カゴいっぱい入れたレタスやとうもろこしになす、真っ赤なトマトなどを軽トラックからおろしている。
「とりあえず、台所へおいて。どうしよう、こんなにたくさん……。」
おかあさんは、カゴから野菜を出している。
「このトマト、うまいぞ、たく。」
おじいちゃんは、カルゴスG5のことはもうおこっていないらしい。ちょっと、安心した。
「うん。あとで食べる。」
カルゴスG5は、机の上においたままになっていた。おじいちちゃんはそれを見ていった。
「たく、おじいちゃんはな。戦争中、沖縄で部隊と部隊のあいだの連絡をする仕事をしていたんだ。今みたいに携帯電話なんてないからな。いつも、鉄砲をもって歩いていた。」
「なんだ、おじいちゃんももっていたんじゃないか。」
「ああ、自分を守るためにもっていたんだ。ある日、草むらを歩いていたら、アメリカ兵にでくわしたんだ。思わず、鉄砲を撃ってしまった……。」
たくは、起きあがってひざをかかえた。
「そのときの、アメリカ兵の顔は、忘れられない。むこうも、撃ってきた。命は助かったがな、これがそのときの傷あとだ。」
おじいちゃんは、ズボンをたくしあげて、太ももにある傷をたくに見せた。
「そのアメリカ兵はどうなったの?」
「わからない。」
おじいちゃんはそれだけいうと、また、軽トラックのところへもどっていった。
おじいちゃんはそれからカルゴスG5のことは何もいわなかった。その日は、お昼ごはんを食べると帰っていった。
たくはカルゴスG5を箱に入れ、そのまま机の下にしまった。何日かすると、たくはカルゴスG5のことを忘れていた。
ある日、テレビのニュースで、アフガニスタンの地上戦を見た。
たくが生きているこの地球の上で、この同じとき、ああして戦っている人たちがいる。
テレビに映った男たちがかかえていたのは、カルゴスG5にそっくりなマシンガンだった。
(おわり)
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