恐竜 どんどん

よだ ひでと



 きょうは天満神社の縁日で、参道にはたくさんの露店が出ていた。
「さあさあいらっしゃい、これは恐竜の子どもだよ」
 いせいのいい声がした。
(なに? 恐竜の子どもだって)
 ふしぎに思いながらもぼくは、たくさんの人だかりがしている方へむかった。
「今から一億四千万年前の地そうから出てきた卵、これを人工ふかさせて生まれたのがこの恐竜でございます」
 露店のおじさんが見せたものは、十センチぐらいの生き物だった。
(え? これが恐竜なの?)
「おいおい、これはイモリじゃないか。イモリにちょっと色を塗っただけで」
 だれかが笑いながら言った。みんな、「そうだそうだ、こんなのインチキだ」と同調した。こげ茶色の長い体に長いしっぽ。四本の足で立っている。たしかに、すがたはイモリのように見える。
「ほかへ行こうぜ」と言いながら、すぐにだれもいなくなった。
 やっぱりインチキかと思い、ぼくもたちさろうとしたらおじさんに呼び止められた。
「坊やもこれがにせものだと思うかい?」
「えっ。まあ、なんとなく……」
「けど、これが恐竜であってほしいと思ってるだろ?」
「それならうれしいけど。でも、やっぱり信じられないな。大きくなるなんて思えないし」
「だいしょうぶ。これはぜったいに大きくなる。どうだ、五百円でいいぞ」
 と言うわけで、ぼくは五百円で恐竜の子どもを買った。おじさんは水そうもつけてくれた。
 おじさんによると、えさはなんでもかまわないらしい。つまり、わざわざ恐竜用のえさ(そんなものは売ってないけど)を買って来なくても、ぼくらの食べ物をちょっと分けてあげればいいとのことだ。

 家へ着いてかあちゃんに、「これ買ってきたよ」と水そうを見せた。すると、「きゃぁ〜 ちょっとアキラ、この変な生き物はなによ!」とかあちゃんがさけんだ。
「さっき縁日の露店で買ってきたんだよ。こいつは恐竜の子どもなんだってさ」
「恐竜の子ども? これのどこが? 気味がわるいから捨てなさい!」
 かあちゃんはおこっている。
「本当さ。それに、おこづかいをあげるから好きなものを買ってもいいって言ったのは、かあちゃんだよ」
 ぼくは、自信満々で答えた。
「まあ、そう言ったのは私だけど」
 ほら、困ってる。もうひとおしだ。
「ね、ぼくが自分で飼うから。かあちゃんにはめいわくかけないよ」
 しばらく考えてからかあちゃんが、「しょうがないわ。生き物は大切にしないとね。でも、水そうを玄関になんかおいちゃだめよ。さっさと部屋に持って行って」と言った。
 ぼくは水そうをかかえて、二階へ上がっていった。そして、恐竜の子どもに「どんどん」という名前をつけた。どんどん大きくなって、どこまで大きくなるんだろう? それをたしかめてみたかった。

 どんどんは、本当にどんどん大きくなった。
 食べたら食べただけ大きくなるし、寝て起きたら大きくなっている。散歩(と言っても部屋の中を歩くだけ)しても大きくなる。二週間のうちに、ぼくは水そうを三つも変えた。その次はたらいに入れた。それでも入らなくなったので、ふろ場で飼おうと思ったけど、さすがにこれはかあちゃんにおこられた。しかたがないから、先月亡くなったサリの犬小屋を使って、外で飼うことにした。そこもしだいにせまくなってきて、小屋の中には体半分くらいしか入らなくなってきた。

 ところで、ぼくの町には月にいちど「ペットの日」がある。
 《動物とのふれあいを通してゆたかな人間性の向上を!》というスローガンがあって、「ペットの日」は、町中の道路が歩行者天国ならぬ動物天国になる。車は走っていない。ペットを飼っている人は、仕事に行くのも、買い物に行くのも、もちろん学校へ行くのもペット連れだ。
 そして今月のペットの日が来た。
「本当に、これを連れて行くの?」
 かあちゃんの言葉など気にせず、ぼくは「いってきまーす」と言って、どんどんを連れて学校へむかった。
 どんどんは四つ足で、のっしのっしと歩く。今はもう、とうちゃんよりもずっと大きい。犬を連れている人、ネコを連れている人、アヒルを連れている人、いろんな人や動物に会った。みんなぼくらを見てびっくりしていた。
「これは、どういう生き物ですか?」とたずねた人にぼくは、「恐竜です」とこたえた。
 学校まではぼくの足で三十分かかる。どんどんにとっては、これだけ長い距離を歩くのははじめてだ。学校が近づくにつれ、道路がせまくなったような気がしたけど、それはどんどんが大きくなったからだとぼくは気づいた。
 学校へ着いたとき、どんどんの体は、家を出たときの四倍くらいになっていた。ペットの日には、教室の中へペットを入れてもいいことになっている。けれど、どんどんは昇降口から入ることができない。戸をこわしてしまいそうだ。
「ちょっと待って、どんどん」
 ぼくは両手を広げてどんどんの前に立った。
「ここから先は入っちゃいけない。放課後まで、外で待ってるんだ」
 ぼくはどんどんを校庭のすみに連れて行った。そこにあるポプラの木に、どんどんをつないだ。「静かにしてるんだよ」
 教室へ入ったら、「アキラくんのペット、すごいね」と、クラスのみんなが寄ってきて言った。
「ねえねえ、どこで買ったの?」
「これ以上大きくなったらどうなるの? どこで飼うの?」
 いろいろ聞かれたけどぼくは、「えっと…」とこたえるだけだった。それよりも、そばをはなれるとき、悲しそうにぼくを見たどんどんの顔が気になっていた。
 二時間目の休み時間に、窓からどんどんを見た。どんどんは横になって静かにしていた。
 安心して三時間目の授業を受けていたら、外でバリバリという音がした。クラスのみんなが窓の所へかけよった。外を見ると、どんどんがポプラの木を引きずって歩いている。
「お、おいアキラ、お前のペットだろう。何とかしなさい」
 先生がそう言ったけど、ぼくだってどうしていいかわからない。
「おーい、こっちへ来ちゃいけないぞ〜」
 先生が大声でさけんだ。
 その声がわかったのか、どんどんはくるりとむきを変えると、学校の外へ歩き始めた。
 ぼくは教室を飛び出して、どんどんを追いかけた。
「おーい、待ってくれよー」
 どんどんはふりかえらない。歩けば歩くほど、どんどんは大きくなる。
 街路樹や電柱ををなぎたおし、道路に大きな足あとを残しながら、山の方へむかっている。ぼくもどんどんを追いかけて走った。

 山の上に着いた。どんどんはそこで歩みを止めた。そして、大きな声で「うぉ〜ん」とさけんだ。頭の上には、いくつものヘリコプターが舞っていた。あそこから、どんどんを攻撃するつもりだろうか。
 ぼくは空に向かって手を振りながら「おーい、待ってよ」とさけんだ。
「そいつのそばをはなれなさい。そいつは町をこわしました。これ以上生かしておけません」
 スピーカーが大きな声でどなっている。
「どんどんは何もしてないよ。ただ、歩いていただけだよ。おとなしいんだから」
 ぼくは空にむかって言った。そして、どんどんのそばへ近寄った。
 どんどんはぼくにとって大事な生き物だ。でもこれ以上大きくなると、ぼくの家はおろか、どこでもどんどんを飼うことができない。
「このままじゃ殺されちゃうよ。ねえ、ぼくはどうすればいいんだろう」
 ぼくは泣きながらどんどんに聞いた。
 するとどんどんが「わかった」というように、小さくうなずいた。そしてぼくに言った。
「キョウリュウハ ホロビテイマセン。キョウリュウハ チイサナ イキモノニ スガタヲ カエタダケデス」
 やっぱりどんどんは恐竜だったんだ!
「ソロソロ デテキテモイイカナト オモイマシタ。デモ マダ コノカラダデ イッショニ クラスノハ ムリナヨウデス。モウシバラク チイサナ イキモノノ ナカニ カクレテイマス」
「そんなことないよ。どこかにきっと、君がのびのび暮らせる場所があるよ」
 どんどんは、ゆっくりと首を振った。
「アリガトウ アキラクン。キミガ オオキクナッタラ マタ アイマショウ」
 また会いましょうーーたしかに、どんどんはそう言った。
 そしてどんどんは小さくなって、やがて草むらの中へ消えた。
 ヘリコプターの音だけが、いつまでもひびいていた。

(おわり)



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