五ばんめのなみだ

牛丸 仁



 せかいじゅうの子どもたちがながしたなみだは、その日のゆうがた、空にあつまって雲になります。
 そして、いちばんかいすうのおおかった子のなみだが、どうして出たのかをお日さまにはなします。お日さまは、そのはなしをきいて、あしたのお天気をきめます。
 きょうは、一年生のナツミちゃんが四かいもなみだをながしたので、なみだのつぶが四つお日さまの下にならびました。
「ほほう、きょうは日本の子どものなみだか。一年生のくせに四かいもないたのか」
 お日さまが、あきれたというようにききました。
「いいえ、ぜんぶないたのではありません」 一ばんめのなみだがこたえました。
「では、どうして四かいも出たのだ」
「はい。ゆめの中でおさらをわったのです」
「ゆめの中でないたのか」
「いいえ、ゆめの中では出ません。そのゆめがほんとうになってあさごはんのとき、たまごやきのさいごのひときれを、おとうとととりあって、おさらをおとしてわってしまったのです。それでおかあさんにしかられて」
「あさからそんなあらそいはいかんな。ぜったいにいかん。あしたは雨だ。つぎは?」
 お日さまは、ふきげんにいいました。
 二ばんめのなみだがはなしはじめました。
「たいいくのじかんのことです。かけっこをしました。ゴールまであと五メートルくらいのところで、ふたりぬいて、せんとうになりました。ところが、もう一メートルというところでころんでしまいました。ひざこぞうをすりむいて、くやしいやらいたいやらでした」「ううん、このなみだのはんていはむずかしいぞ。がんばったことはみとめるが、そのくらいのことでなみだをながすとはな。まあ、くもりということか。おまけとして」
 お日さまは、むずかしいかおでいいました。「では、三ばんめになりますが、四ばんめとつながっています」
 三ばんめのなみだがいいだしました。
「つながっているだと。まためんどうだな」 「はい、めんどうです。だから、うまくはなせません」
 四ばんめのなみだがいいました。
「はなせないではこまるではないか」
 お日さまは、すこしきげんをわるくしました。
「でも、だいじょうぶです。わたしたちの中に、まだなにがおこったかうつっているはずです。ビデオテープみたいに」
 三ばんめのなみだにいわれて、お日さまはなみだの中をのぞきこみました。
「うん、うん。女の子がなにかしているのがみえる」
「でしょう? では、すこしせつめいをしますから、そのあとは、ゆっくりみてください」 三ばんめのなみだは、そういってせつめいをはじめました。
「学校からかえってすこしすると、おじいさんからでんわがきました。おばあさんがきゅうにぐあいがわるくなってねてしまったからきてくれというのです。おかあさんは、おとうととるすばんをするようにたのんで、車で二十ぷんくらいのところにあるおじいさんのいえへ、いそいででかけました。それから一じかんほどして、おかあさんからでんわがきました。おばあさんはしんぱいないけど、おじいさんたちのゆうごはんをつくっていくから、二じかんくらいかえれないというのです」
「それで、さびしくなってないたのか」
 お日さまが口をはさみました。
「いいえ、ないたのはおとうとです。おなかがすいたといって。とけいをみると、四じをすぎていました。おかあさんをまっているとおそくなります。ナツミさんは、どうしようかかんがえて、カレーをつくろうとおもいつきました。カレーは、おかあさんとなんどもつくっているからできそうです」
「なるほど、カレーならおとうともよろこぶだろう。だが、カレーとなみだのかんけいがわからんなあ」
 お日さまはくびをかしげました。
「そうでしょう。では、ここからはわたしたちの中をみてください」
 四ばんめのなみだがいいました。
 お日さまは、三ばんめのなみだの中をじっとみつめました。

ジャガイモ タマネギ かわむいて
  あかいニンジン いっしょにむいて
 なつみさんがうたいながら、やさいのかわをむいています。
おにくをきって ジャガイモきって
ニンジンきって タマルギこまかく
タマネギ タ マ ネ ギ 
タ マ  ネ   ギ
 うたがとぎれました。ナツミさんの目からなみだがぽろぽろこぼれだしています。

「あらら、これが三ばんめのなみだか。これはしかたがないな。タマネギをきれば、だれでもなみだが出るからね」
 お日さまは、じぶんの目にもタマネギがしみたように、目をぱちぱちさせました。
 そして、こんどは四ばんめのなみだの中をのぞきこみました。

 テーブルのまわりに、おとうさん、おかあさん、おとうと、それにナツミさんがすわっています。
 みんなのまえには、カレーをかけたごはんをもったおさらがならんでいます。
「ほほう、ナツミがひとりでつくったのか。これはうまいぞ、きっと」
「やさいのきりかたはちょっとそろっていないけど、あじにはかわりないよね」
 おとうさんとおかあさんが、にこにこしていっています。
「おなかぺこぺこだよ。はやくたべようよ」
 おとうとは、まちきれなくて、スプーンをまわしています。
「はい、はい。では、いただきまあす」
 おとうさんのあいずで、みんないっしょに「いただきます」をしました。そして、めいめいがスプーンを口にはこびました。
 でも、ナツミさんは、まだ口にはいれないで、みんなのかおをみまわしています。
 おとうとは、もくもくと、もう二さじも三さじもたべているのに、おとうさんとおかあさんは「うん?」というかおで、ナツミさんをみています。
 ナツミさんは、しんぱいそうなかおをしています。すこしして、
「うまい!」「おいしいわ!」
 おとうさんとおかあさんが、いっしょにいいました。
「おお、まろやか!」
 おとうとが、すこしおくれていいました。
 ナツミさんは、ほっとしたかおで、ようやく一さじ口にいれました。
 そのとたん、ナツミさんの目から、なみだが、するするっとながれました。

「うん、うん、かんげきだなあ。あしたは、まちがいなく日本ばれだ」
 そういっているお日さまの目にも、なみだがあふれています。それがこぼれてきらりとひかりました。
 そのひかりをうけて日本じゅうの雲が、ゆうやけにそまりました。
 五ばんめのなみだは、なんと、お日さまがながしたのです。

(おわり)



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